東方鬼灯伝   作:Agies

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 約二年ぶりですかね……。お待たせしました。


第十二話 鬼

 淡い色をした道端に咲く花々。

 緑萌ゆる山々。

 俺はそんな景色を楽しみながら山道を歩いていた。

 そう、つまり俺は旅に出ていた。別に八雲紫に解雇された訳でも、ケンカ別れした訳でもない。紫の、手伝ってね、というお願いはまだ継続中である。

 では、何のために旅に出ているかといえば、その手伝ってね、と言った本人、八雲紫に頼まれたからである。なんでも、幻想郷の中の準備は二人で進められるから、俺は移住者を探す必要があるらしい。

 人間を拉致っていいかと聞いたら、わりとマジで冷たい目をされたのは記憶に新しい。

 そんなわけで、移住者探しだ。

 出来れば温厚な妖怪がいいな。

 幻想郷に移住してきたやつらが、血の気の多い、すぐ喧嘩を始めるようなやつらだったら、やってられない。

 と言っても、妖怪のほとんどは血の気の多い連中なので、おとなしいやつなんて、そうそういないものである。

 そんなことを考えていたら、俺の鼻を酒の匂いがくすぐった。

 はて、ここは人里離れた山奥。いくら鼻のいい俺と言えど、人里の酒の匂いをここで感じられるほど、優れた鼻は持っちゃいない。

 ということは、つまり。

 

「誰かいる」

 

 この辺りで酒を飲んでるやつらがいるということで。

 

「妖怪なんだろうな」

 

 この辺りで酒を飲むようなやつは十中八九妖怪だ。これで人間でした、とかだったらそいつは中々にぶっ飛んだやつだ。そんなやつがいたら喜んで幻想郷へ招待しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言うと。

 

「ギャハハハハ!飲め飲めぇ!」

「ヒャッフゥゥゥゥ!」

 

 山奥で酒盛りをするような面白い人間などいなかった。

 代わりに、いたのは鬼である。

 鬼、と言えば。

 そう、泣く子も黙るあの恐ろしい鬼である。時に人を困らせ退治され、時に人と仲良くしようとして泣いてみたり、の鬼である。ツノに虎のパンツ、の鬼である。

 そんな鬼たちがこんな山奥で酒盛りをしているのだ。しかもなぜだか天狗と河童を巻き込んで。

 おっかない。とりあえず俺は近づかず、遠巻きに様子を見ているだけにとどめた。

 確か東方の原作に鬼や天狗がいたはずなので、住人としては絶好の的なのだが。

 なのだが。

 怖くて近づけません。

 引きこもりなめんなよ?人見知りなめんなよ?

 和気藹々としているところに、堂々と入っていけるほどのコミュ力は持ち合わせていない。

 

「……」

 

 息を殺して鬼たちを観察していたら、鬼の一人と目があってしまった。

 やべ。

 すかさず俺はその場から逃げ出した。

 脱兎の如く。

 疾きこと風の如し。

 鬼たちに背を向けてから数秒ほどだろうか。突然体が動かなくなる。胸から下の辺りに発生している、霧のようなものが体をつつんでいる。どうやら、それのせいで身動きが取れなくなっているらしい。

 

「どうしたんだい?お嬢ちゃん。こんな山奥で」

 

 体にまとわりついていた霧が、だんだんと人の形を成していき、一匹の鬼がそこに姿を現した。

 

「おやおや?お嬢ちゃん、人間じゃないなぁ?」

 

 瓢箪に入った酒を煽り、そう言う小さな鬼。こちらまで酒の匂いが漂ってくる。

 一目見て俺を人間じゃないと判断する実力と、何より霧になるこの能力。心当たりがある。東方projectに出てくる、小さな百鬼夜行。伊吹萃香だ。

 

「はは、ど、どうも、こんにちは。宴会ですか。楽しそうですね」

 

 俺は内心ビクビクしていた。ただ、表情だけはなんとか取り繕い笑顔を張り付ける。

 

「あんた一体何者だい?この辺じゃ見ない顔だね」

 

 そりゃまぁ遠く離れた異国の地出身ですから。

 

「まあ、いいか。おいで。一緒に飲もうじゃないか」

「はは、遠慮しときま……ぐぇ」

 

 そう言って、俺の首根っこをふんずと掴み、ずるずると引きずっていく鬼の少女。尋常じゃない力だ。抵抗してもびくともしない。

 ぷるぷる、ボクわるいきゅうけつきじゃないよ。

 

「おーい、お前たち!お客さんだ!」

 

 鬼の少女が大音声をあげる。

 その声に反応した鬼や天狗たちがワラワラとこちらに集まってくる。こわい。

 

「そーいや名乗ってなかったね。あたしは伊吹萃香。見てわかるだろうけど鬼さ」

 

 この鬼は人の話を聞かない。

 誰も一緒に飲むなんて言ってないのに。まったく。

 まあでも、幻想郷に連れてくる妖怪を探す旅だったのだ。ここで鬼たちと仲良くなって困ることはないだろう。

 

「ほらほら飲みなー。ぐいっと。一気に」

 

 知っているか伊吹萃香よ、イッキ飲みの強要は、500年後の日本だと犯罪なんだぞ。ぱわはらだ。

 と考えつつも一気に飲み干す。

 なかなかに度の強い酒でビックリしたが、辛口でうまい。

 

「で、あんた何者なんだい?酒の肴に聞かせてくれよ」

 

 俺の隣に陣どった萃香は酔った顔を近づけて、そう聞いてくる。うわ、酒臭い。

 

「私は吸血鬼です」

 

「きゅうけつき?んー?聞いたことあるなぁ。あ、吸血鬼!はっはっは、なんだあんたも鬼なんじゃないか。仲間だね!」

 

 いやまあ、確かに吸血()とは言うが……。

 根本はかなり違うのではないだろうか。

 大雑把と言うか、なんと言うか。

 

「それで、なんでこんなとこほっつき歩いてんだい」

「あー、それはですね、色々訳ありと言うか」

「なんだい、なんだい。言ってごらん」

 

 辺りを見渡してみる。

 鬼と天狗。合わせてざっと200前後はいる。

 

「実はですね、とある土地への移住者を募集中でして」

「いじゅうしゃ?」

「ええ、移住者です」

 

 そう言いながら渡された杯を傾ける。やっぱり酒気はかなり強い。

 

「八雲紫という妖怪はご存知ですかね」

「ああ……?んー、聞いたことあるような、ないような」

「まあ、ソイツの作る理想郷への移住者を募ってるわけです」

 

 萃香は手に持つ瓢箪を傾ける。さっきから随分と飲んでいるが、瓢箪の中身は減らないらしい。呑兵衛にピッタリな瓢箪だな。

 

「ふーん……。どんなとこなんだい?その理想郷とやらは」

「簡単に言ってしまえば、人間と妖怪が共生する場所、ですかね」

「ほう……。思い出したよ!八雲紫!そうだそうだ!はっはっは!」

 

 突然、萃香は大きな声で笑いだした。

 

「そいつに会ったよ!この間!舐めた態度だったから、話も聞かずに追い払ったけどねぇ」

 

 どうやら紫を知っていたみたいだ。

 

「あんたは礼儀正しいし、いいだろう。その話乗った!」

 

 そう言えば、藍との会話で萃香がどうのって言ってたような。

 

「面白そうじゃないか!よしきた!任せときな!直接話してこようじゃないか」

 

 そう言って萃香は霧散した。どうやら紫のところへと向かうらしい。なんとも自由な鬼だ。

 まあでも、とりあえず移住者はゲットだ。

 

「うちの萃香が絡んじまって、すまないねぇ」

 

 突然後ろから声をかけられた。振り替えれば、グラマラスな和服お姉さん。額には大きなツノが生えている。

 

「話は聞いてたよ。あたしは星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ)。よろしくね」

 

 そう言って、一本角の鬼――もとい、星熊勇儀は大きな盃を傾けた。この鬼も知っている。東方projectの登場人物だ。たしか能力は、怪力乱神を操る程度の能力だったか。

 

「ホウズキ・スカーレット、吸血鬼です」

「ほう、吸血鬼なんだね!あんたも鬼じゃないか!」

 

 やはりその結論に至るのか。大雑把だな、鬼。

 

「きっと、あいつ(萃香)はしばらく帰ってこないだろうから、あたしたちは飲んでようか。ほら、ホウズキ、飲みな飲みな」

「は、はあ……」

 

 だから、鬼よ。お酒の強要は500年後の日本じゃタブーなんだぞ。まあ、飲みに行くのも気軽に誘えなくなるってのも、どうかとは思うけど。

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