東方鬼灯伝   作:Agies

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 今回のお話はグロテスクな表現を含みます。お気を付けて。


第三話 決壊

 俺にとって二人目の妹、フランドール・スカーレットが生まれた。

 

 

 一番上の姉である俺と二十歳差、二番目の姉、レミリアと五歳差。スカーレット家の第三女は、並みならぬ狂気と、成熟した吸血鬼に勝るとも劣らぬ、膨大な量の魔力を持って生まれてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近の魔法の研究はどうなの?ホウズキ」

 

 フランを抱いたお母様が俺に問いかけてくる。

 

「順調ですよ。レミリアも頑張ってます。あ、この紅茶美味しい」

 

「レミリアか、茶会をすっぽかして、まだ魔法の研究をしているのか?」

 

 今度はお父様が俺に問いかけてくる。

 

「ええ、みたいですね」

 

「はぁ、まったく困ったものだな。せっかく家族全員で茶会ができると思ったのだが」

 

「まぁまぁ、何かに打つ込めるなんて素敵なことじゃないですか」

 

 そう言ってお母様は、フランを抱いたまま立ち上り、メイドの十六夜さんの方へ寄りケーキを持ってくるよう頼む。

 ちなみに十六夜さんの作るケーキは、物凄くうまい。それに十六夜のいれた紅茶が合わさると、それはもう最強の組み合わせになる。後でレミリアに持っていってやろう。

 

「うむ、やはりうまいな)

 

「流石ですね」

 

 お父様とお母様がそれぞれケーキの感想を呟く。それを聞いて、十六夜さんは嬉しそうだ。

 

「十六夜さん、十六夜さん。ケーキもう一つ頂けますか?」

 

「おかわり、ですか?お嬢様」

 

「いえ、レミリアに持っていく分ですよ」

 

「それならば私が後でレミリアお嬢様に持っていきますが?」

 

「大丈夫ですよ。私も丁度レミリアに用事がありましたし」

 

 そう言って俺は十六夜さんからケーキを受け取る。

 

「ありがとうございます」

 

「今作ったやつじゃ、持っていく時には悪くなっているんじゃないか?」

 

 お父様が問いかけてくる。確かに。一時間後には魔法の研究も一段落つくだろうと思って、その時に持っていってあげようと考えていたが、大丈夫だろうか。まぁ、一時間程度じゃ悪くなるなんてことはないだろうし、吸血鬼の体は頑丈だから、大丈夫だとは思うが、念には念を。と言うし、腐らないようにする魔法でもかけておくか。

 

「ほいっと」

 

「今、何をしたんだ?」

 

 ケーキに防腐魔法を施す。お父様が魔法に興味持ったようで不思議そうにケーキを覗きこむ。 お母様は時々、研究に顔を出していたし魔法に興味があることは知っていたが、お父様がこうも興味を持つとは思わなかった。

 

「防腐魔法ですよ。ケーキの時間を止めて腐らないようにしたんです」

 

「ほう、なるほど。 なぁ、ホウズキよ私のケーキにもその魔法をかけてはくれぬか」

 

 そう言ってお父様は、テーブルに置かれたもう一つのケーキを指差す。

 

「お館様?そのケーキをどうするのですか?まさか、部屋に持って帰って、寝る前に食べるだなんて仰いませんよね?」

 

 綺麗な笑顔を張り付けて十六夜さんがお父様を射抜く。怖ぇ。オーラが怖い。なんか黒いものが十六夜さんから溢れてる気がする。

 

「べ、べ、別にそんなことはないぞ? 部屋で食べようなんて、そ、そんな。 は、ハハハ、ハハハハハ」

 

 嘘下手くそだな。 お父様のケーキに、しなやかで綺麗な指が近づき、ケーキを奪って行く。

 

「ケーキは没収です。寝る前に食べられてしまうとお体を壊す原因となるので」

 

 キッパリと十六夜さんが一刀両断する。 我が家の完璧で瀟洒なメイドさんは容赦がないのである。

 

「では、私は部屋に戻りますね~」

 

 俺が自室に戻ろうと、扉を開けようとしたとき、突然フランが泣き出した。

 

 その小さな身に、物凄い勢いで魔力が集まっていく。そして―――

 

「! まずい………!  うぐぁああ!?」

 

 ―――そうお父様が呟くと同時に、魔力が弾けるようにして、フランドールを中心として拡がり、お父様の右腕の付け根が吹き飛ばされる。

 

 

 宙をくるくると腕が舞い、放物線を描く。ぼとりと絨毯に落ちた腕から出る血が、緋い絨毯をドス黒く染めていく。

 

 

 吸血鬼は頭さえ失わなければ、どんな状態でも回復する回復力を持っている。その回復力でお父様はすぐに失った右腕を再生させるが、その顔には苦悶の表情が見てとれる。おそらく再生させる為に魔力を使ってしまったからだろう。

 

 

「お父様!! 大丈夫ですか!?」

 

「ああ、なんとかな―――」

 

 

 お父様は、フランのほうを見やる。と、同時に再びフランを中心に、膨大な量の魔力が集まっていく。

 魔力が弾け、煌めき、爆ぜ、触れるだけで狂ってしまいそうなくらいの、猛烈な魔力の奔流が、俺の身を襲う。

 そして、その魔力の奔流が収まり、眼を開けると―――

 

 

 

「――――ぁ  うぇ?   」

 

 

 

 ―――それは正しく地獄絵図だった。元々赤だった壁を、上塗りするかのようにベットリと付着した血糊、緋い絨毯を黒く染め上げる内臓、椅子にぶち撒けられた肉片。 それらが何であるか、脳が理解するまでにほんの数秒。 理解した。いや、理解したと言えるのだろうか。脳は理解している。が、俺の感情は理解したがっていない。

 

 

 

 おとうさまとおかあさまがしんだ。

 

 

「嘘だろ?」

 

 お父様だったものが転がっている。

 お母様だったものがぶち撒けられている。

 十六夜さんだったと思われるものがある。

 私は? 俺は? まだ生きているのか? もう死んでいるのだろうか。

 

「フラン?」

 

 部屋の中央で赤子が泣いている。

 

「お前がやったのか」

 

 問いかけても返事は返ってこない。

 

「レミリアは?」

 

 無事だろうか。

 

「ふふ、はは、あハハハは、ひひひ、くふ、はひ あはは」

 

 

 

 

 

 大事なものを、守ると決めた家族を失ってしまった。

 

 

 

 この日、俺は壊れてしまった。




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