夜が更けて、目を覚ます。朝が来たら、床につく。大蒜を毛嫌いし、太陽から逃げ、十字架を拒み、生きる。私は吸血鬼だ。誇り高きスカーレット家の次女、レミリア・スカーレット。
そんな私には姉がいる。
いや、
ある日、いつも通り起きて、ふと机を見ると手紙が置いてあった。何だろうと思い手を伸ばし、寝ぼけ眼でその手紙を読むと――
『おはよう、レミリア。
お姉様は少しの間旅に出ます。その間、フランを頼みましたよ。
いつの日か、大きく成長したレミリアに会えることを楽しみに。
ホウズキ・スカーレット』
――と書かれていた。
お姉様が旅に出た。つまりは、この館にはもういない。
見捨てられた。そんな考えが一瞬頭をよぎった。
けれど、お姉様はそんなことはしない。きっと、私には想像の及ばない、なにかをするために、旅に出たのだ。
そう信じて私はお姉様の帰りを待つ。
待って、待って、待って。
何ヵ月過ぎただろう。何年経っただろう。何十年も過ぎたかもしれない。
最初は数ヶ月、長くても数年で戻ってくるだろうと思っていた。
待って、待って、待って。
結局、お姉様は戻って来なかった。
もしかしたら、やっぱり見捨てられたのかもしれない。
だが、私の能力には、ハッキリと見える。
お姉様と私とフランの三人で楽しく、過ごす日々が。喧嘩もするけれど、仲のいい三人が手を取り合って過ごす
今は、フランも狂気に蝕まれて、自由に外に出れないし、お姉様も居ないけれど、そうなることを切に願って。
お姉様がいち早く戻って来ることを祈って―――
◇
お姉様が居なくなってから、何人か屋敷の住人が増えた。
親友の、屋敷の図書館で引きこもって、ずっと魔法の研究をしている根暗な魔女。
腕っぷしだけの、居眠りばっかりしている門番。
お姉様が居なくなってから、私の周りは随分と賑やかになった。
この賑やかな輪の中に、お姉様が入ってきたら、どうなるのだろうか。想像するだけで楽しみだ。ついつい口元が緩む。
「どうしたの?レミィ。そんなアホみたいな顔して」
本を読むため、下げていた視線をこちらに向け、なんだか失礼なことを言う親友。
「なによパチェ。このカリスマ溢れる私が、アホみたいな顔ですって?冗談もほどほどにしなさい」
「自分でカリスマ溢れる、だなんて言うんじゃないわよ。聞いているこっちが恥ずかしいわ。それに、冗談なんかじゃなくて、本当にアホみたいな顔してたわよ。スカーレット家の当主が聞いて呆れるわね」
「ふんっ、言えばいいわ!カリスマ溢れる私は罵詈雑言にも動じないのよ!」
「寝言は寝て言いなさい。それとも、お子ちゃまなれみりあさまは、もうおねむなのかしら?」
「うるさいわね!万年日陰根暗魔女!」
目には目を、歯には歯を。言の葉には言の葉を。見た目幼女な吸血鬼と、引きこもり体質の魔女の言い合いは続く。
「言ったわね!紅茶も熱いと涙目になって、飲めないくせに!」
「なにおう!引きこもり!」
「ちび!」
「き、貴様ぁあ、い、言ってはならないことを……!」
「あら、気にしてたかしら、ごめんなさーい。おちびちゃん?」
おどけた調子で幼女を煽る魔女。
「うがぁぁぁあああ!!!」
激昂する幼女。
最早恒例行事と化した、いつもの言い合いは、続く。
こうして幼女な吸血鬼と、引きこもり体質の魔女の日々は過ぎて行く。たった一人の少女の帰りを待って。