静かな昼下がり。店の裏にある水車が回る音が響く。今はお客さんもいないし休憩中でお昼ご飯を食べている。自分でいうのもなんだけど私の店はなかなかに繁盛していると思う。
カランッ。店のドアが開く音が鳴った。お客さんが来たのかな
「リーズーー!」
どうやらお客さんじゃなかったみたいだ。彼女は私の親友の一人で攻略組では舞姫と呼ばれている。
「ああユカ。いらっしゃい。今日はどうしたのよ?」
「聞いてよリズ!」
どうやらただおしゃべりしに来ただけのようだ。
「どうしたのよ。どうせまたしょーもないことなんでしょう。」
「しょーもないとは失礼な。実はアスナがね・・・」
どうやらユカの話によるとアスナとキリトというプレイヤーがいい感じらしいのだ。それもどちらかというとアスナのほうが好意を寄せているのではないかとユカは思っているらしい。
「それ確かな話なの?」
「わからないけど、私の勘がそう言ってる。」
「にしてもアスナがねえ...。あの子に言い寄られたらほとんどの男はいちころじゃない?あとアスナから聞いたけどキリトってあんたの双子のお兄さんなんでしょう?」
「うん。ていうかアスナ、私たちが双子ってどれだけの人に言ってるの?」
「あんたとしてはどんな心境なの?」
自分の兄と親友がくっつくって複雑なんだろうな。
「...とても悔しい。」
「はい!?悔しい!?」
「私のアスナをとられてとても悔しい!!!」
・・・そういえばこの子なんだかんだ言って残念な子だったわね。見てくれはものすごくいいのに。胸はべつとして。
ギャリンッ!
私の顔の横を刀が通り過ぎ壁にぶち当たった。アンチクリミナルコードがあるため壁に傷はないけど。
「リズ。今なんか変なこと考えてなかった?」
「イエ、ナニモシツレイナコトハカンガエテイナイデス。」
「本当に?」
「ウンホントウ。」
「そッ。ならよかった。」
そういうとユカは刀を鞘に納めた。アスナが閃光のほかに鬼姫という二つ名があるのは有名だが、ユカにもいくつか呼ばれ方がある。舞姫、七色の剣士、白刃。そのうちの1つに夜叉という二つ名がある。
以前ユカは街中で男性プレイヤーにしつこく求婚されたことがあったらしい。ユカは何度断っても求婚してくる男にうんざりし、強く断ったらしいのだ。するとその男はユカのことを貧乳、まな板などと罵った。それが地雷だった。ユカは男を切り上げ空中に吹き飛ばした。それからユカは剣舞のスキルと白雪の性能を惜しみなく使い、地面を、建物の壁を蹴り、驚異の立体機動で男を斬りまくった。男は空中に飛ばされてからユカが動きを止めるまで地面に降りることはなく、空中で踊らされ続けた。
それ以来攻略組では舞姫の前では胸の話をするべからずという暗黙のルールが出来上がったほどだ。
「で、あんたは二人にどうなってほしいわけ。」
「う~ん・・・お互いがいいなら別にいいんだけど、取り合えずキリトは斬る。」
会ったことないけど、キリト、ご愁傷様。
この後ユカは私とお昼ご飯を一緒に食べて攻略しに行った。
翌日。
「リズ~。」
「アスナ~久しぶり~。今日はどうしたの?」
アスナが来た。それも結構早い時間に。
「実はメンテナンスをお願いしたくて。」
「いいわよ~。」
私はアスナの剣・ランベントライトのメンテナンスを開始した。でもメンテナンスが必要なほどでもないんだけどな~。
「どうしたのよアスナ。まだそんなにへたってないじゃない。」
「えへへ~、ピカピカにしときたくて。」
そういうとアスナは顔をほころばせた。よくよく見るとピアスを付け、服も靴もきれいにしてある。
「むふふーーん。そういうことか。」
「な、何よ?」
「いやいや、アスナもがんばっているな~って。」
「もうそんなんじゃないわよ。」
そういうとアスナはランベントライトを受け取り店から出ていった。この後待ち合わせがあるそうだ。これは・・・クロね。
翌日。依頼のあった武器のメンテナンスをしていると店のドアが開く音が鳴った。私は軽く身なりを整えた。接客も仕事のうちだからね。
「リズベット武具店へようこそ!」
店の中には黒髪に黒のロングコートに黒のズボン、黒の靴に黒の剣、インナーまでもが黒という全身真っ黒の男性プレイヤーがいた。
「オーダーメイドを頼みたいんだけど。」
オーダーメイドってかなりお金がかかるんだけどわかってるのかな~。あんまり強そうでもないし、どこかのギルドに入っているわけでもなさそうだし。
「今、金属の相場が上がっておりまして。」
「お金のことは気にしなくていいから。今打てる最高の剣を作ってほしいんだ。」
「・・・と言われましても具体的な性能値を示していただかないと。」
「それならこの剣と同等以上ってことで頼む。」
そういうと男は背中から剣を抜き私に渡してきた。おもっ!!私は思わず剣を受け取った瞬間よろけてしまった。
この剣の名前はエリュシデータ。間違いなく魔剣クラス。その中でも化け物だ。あの件ならいけるかな?
私は最高傑作の片手剣を持ってきた。
「これなんかどう?私が鍛え上げた最高傑作よ。」
男は何度か剣を確かめるように素振りした。
「う~ん。少し軽いかな。」
「使ったのがスピード系の金属だからね。」
「少し試してみてもいいかな?耐久力を。」
そういうと男は私の最高傑作をエリュシデータにソードスキルを発動させあてた。すると私の最高傑作はぽっきり逝ってしまった。
「ああああーーー!」
私は男の手から剣を取り上げ剣の状態を確認した。
「修復、不可能。」
剣はポリゴンとなり消えてしまった。...この野郎。
「何てことしてくれるのよ!」
私は男の胸倉をつかみあげた。
「わ、悪い。まさか当てたほうが折れるとは思わなくて。」
イラッときたわ。
「それは私の剣が思ったよりよわっちかったって意味!?」
「ああ、まあ、そうだ。」
こいつ肯定しやがった。
「言っておきますけど金属さえあればあんたの剣なんかポッキポキ折れるような剣、いくらでも作れるんですからね。」
「ほお~。それはぜひお願いしたいな。これがポキポキ折れるやつを。」
「そ、そこまで言うからには金属取るとこから付き合ってもらいますから。」
「じゃあ、剣ができるまでよろしく頼むよ。俺の名前はキリトだ。」
「えっ!あんたがキリト!?」
「俺のこと知ってるのか。」
「アスナとユカからね。二人はお得意様よ。私はリズベットよ。リズでいいわ。よろしくキリト。」
「ああよろしくな、リズベット。」
本気でイラっときたわ。
「このぉ!
また今度アスナ(鬼姫)とユカ(夜叉)にあんたのことしばいてもらうよう頼んでおくわ。」
キリトは、それは見事な土下座を披露した。
エリュシデータ並みの剣を作るためにキリトと一緒に金属を取りに行った。ドラゴンに吹き飛ばされて穴に落ち、そこで夜を過ごしたりといろいろあった。お目当ての金属も見つかったし。最初の印象は最悪だったけど、まあキリトも悪い奴じゃなかったし。アスナが惚れるのもわからなくはないかな~、なんて思っちゃったりして。
「じゃあ、今から剣を作るわ。片手用直剣でよかったのよね?」
「ああ、よろしく頼む。」
私は炉で焼いたインゴットをハンマーでたたき始めた。カンッ、カンッとリズムよくたたいていき、もう数えるのが面倒になってきたあたりでインゴットは強く輝きだし、形を変えていった。真っ白な刃に少し青みを帯びた柄、装飾は最低限で機能美を追求したようなシンプルだが美しい剣が出来上がった。
「名前はダークリパルサー。どうぞ、試してみて。」
キリトは何度か確かめるように剣を振った。
「重いな。いい剣だ。」
「当たり前でしょ。誰が作ったと思ってんのよ。」
バンッと工房のドアが勢いよく開いた。
「リズ!!!」
「あ、アスナ!」
「メッセージは届かないし、マップ追跡はできないし、昨日は一体どこにいたのよ。心配したのよ。」
アスナは飛び込んでくるなり私に抱き着いてきた。
「ご、ごめん。昨日はちょっとダンジョンで足止め食らっちゃって。」
「リズが一人でダンジョン!?」
「ううん。そっちのキリトと。」
「キ、キリト君!!」
「よ、ようアスナ。久しぶり・・・でもないか二日ぶり。」
「びっくりした、さっそく来たんだ。言ってくれれば私も一緒したのに。」
そういうとアスナは顔を少し赤くし、髪をいじり始めた。うん。これはもう疑いようがないわ。
「そういやキリト。新しい剣を試しにアスナとパーティー組んでどっか行ってきなさいよ。」
「ちょ、ちょっとリズ。」
「まあまあ、いいよねキリト?」
「いや、まあ、俺はいいけど。アスナはいいのか?」
「アスナもいいでしょ?」
「う、うん。じゃあ、お願いします。」
「じゃ、決定ね。気を付けていった来なさいよ。」
キリトとアスナはフィールドにモンスターを狩りに行った。それにしてもアスナめちゃくちゃわかりやすいな。キリトの奴は気づいてないのかな?
私はたまっていた依頼を片付けるためにハンマーを振り下ろしていた。そしてキリトとアスナが出て行ってから二時間くらいするとまた工房のドアが開いた。
「リーズーー!」
ユカがやってきた。
「ああユカ。どうしたの?メンテナンス?」
「うん。メンテナンスよろしく。ちょっとフィールドボスと戦ったから結構消耗しちゃって。」
「ええー気をつけなさいよ。あんた。」
私はユカの白雪を受け取りメンテナンスを手早く終わらした。
「そういえばさっきまでキリトとアスナがいたわよ。」
「えっ!二人が一緒に来たの?」
「違う違う。キリトが先に来ていてアスナが後から来たの。」
「ああ、そういうこと。」
「それにしても、あの二人。あんたの言っていた通りっぽかったわ。」
「やっぱり~。ま、アスナはわかりやすいからね。」
「確かにね。」
「あ!」
「どうしたの?」
「キリトからメッセージがきた。なんだろう?」
『たすけ』