「反応が薄くてつまらんな。」
妖精王オベイロンこと須郷伸之は今日もアスナを捕えている檻で、どうにかアスナの心を折ろうと揺さぶりをかけているが効果が薄いことをつまらなく感じていた。
研究がうまくいけば人を操ることができるだろうが、極力アスナの脳をいじりたくないのが本音だ。
ある程度人を操るのは今の研究で可能になるだろうが、人の感情を完全に制御するとなると話は別だ。それが可能になるのはまだまだ先だろう。今の段階でアスナの脳をいじれば、僕の指示に従うようになるが、感情は死んでしまうかもしれない。これではNPCと変わらない。
「どうしたものかねぇ~・・・そうだ、彼を使ってみるか。」
意識が戻った。俺は生きていたようだ。茅場に刺された後、夕日の中でアスナと、
そうだ。アスナはどうなったんだ。こうして俺の意識が戻った以上、アスナも生きているはず。
だが、ここはどこだ。真っ暗で何も見えない。それに体も動かない。拘束されている。
「目が覚めたかい、キリト君。」
誰かの言葉とともに、瞳に光が差し込んでくる。
「だ、誰だ?それにここは?」
「まあ、落ち着いてくれ。ここは仮想世界だ。現実ではない。」
「仮想世界?」
ここはSAOの中なのか?だが、目の前の男はプレイヤーではないだろう。何よりも耳が長い。NPCのエルフと似ているが、彼はここが仮想現実だと言った。プレイヤーでもNPCでもないとすると、ユイのようなプログラムだろうか?
「まずは自己紹介からだ。僕は妖精王オベイロン。そして、この世界は・・・」
どうやら俺は違う世界に捕らわれているみたいだ。目の前の男によって。そして、この男がしようとしていることも理解した。
「今の君の状況は理解できたかな?何か質問はあるかい?」
「・・・アスナは、どうなったんだ?」
「・・・今の僕の話を、研究目標を聞いて、先にアスナ君の心配か。全く妬けてしまうよ。」
妬ける?
「アスナ君もこの世界にいる。」
生きてる。アスナも生きてる。
「ククッ。そうか、まだ言ってなかったね。僕はアスナ君の婚約者だ。来月、現実で眠る彼女と結婚する予定だよ。」
「なっ、なんだと。」
「君の記憶も見してもらったよ。SAOでのアスナ君との関係をね。ほんと、何度君の脳を破壊してやろうと思ったことか・・・」
そういうと、オベイロンは左手を動かした。
「キリト君。ペイン・アブソーバって知ってるかい?」
「・・・たしか、仮想世界において痛覚を遮断する機能だったはず。」
「ほぉ、よく知っているね。ただ、正確に言うと痛覚のレベルをコントロールする機能だ。通常ではペイン・アブソーバはレベル10に設定されていて、痛覚を感じることはない。このレベルを下げると痛みを感じる。レベル3以下では現実に戻ってからも影響があるらしいが・・・、とりあえずレベル7くらいにしておくか。」
「俺に何をする気だ。」
「君の返答次第では何もしないよ。・・・アスナ君と別れてくれないかい?」
「ふ、ふざけるな!!!」
「僕は君のためを思って言ってるんだよ?やろうと思えば、君が死ぬまで現実で目を覚まさないようにすることもできるし、君のアスナ君に関する記憶を消すこともできるんだよ?
ただ、それではあまりにも君がかわいそうだからこうして提案しているんじゃないか。」
「俺は、嘘でもアスナと別れるなんて言わない。」
「そうか。残念だよ。」
そういうとオベイロンはいやらしい笑みを浮かべ、手を動かした。
その瞬間、キリトを拘束している手首と手足の装置から電流が流れる
「ぐわああああああああああああああああああああああ」
ここからどうやって脱出するか。そればかり考えている。
私が閉じ込められてる檻はシステム的に壊せない。この檻を開けるには、カードキーが必要だ。そのカードキーは須郷さんが持っている。カードキーを奪う以外に脱出する方法はない。かといって、カードキーを奪ったとしても逃げ切れない。
どれだけ考えても、脱出できると思えない。助けを待つしかない。
「やあ、ティターニア。気分はどうだい?」
・・・また来たのか。
「おやおや、だんまりかい?まあいい、今日は君に見せたいものがあってね。」
そういうと須郷さんは手を動かしメニューを操作する。すると空中にスクリーンが現れ、その映像にはベットに手足を拘束された人が映っていた。
「え・・・キ、キリト君?」
「そう。キリト君だ。」
「あなた、キリト君に何をしたの!?」
須郷がもう一度手を動かす。
『ぐわあああああああああああああああああああああああ』
すると、映像の中でキリトが絶叫を上げる。
「やめて!今すぐやめさせて!」
キリトの絶叫は一旦止んだ。
「キリト君に何をしたの?」
「ペイン・アブソーバのレベルを下げて電流を流してるんだよ。今はレベル7、レベル3以下では現実でも影響が残るとされているが、この世界ではレベル7でも相当な痛みのようだね。このままレベルを下げ続けたらどうなるんだろうか?」
「どうして、どうしてこんなことを!?」
「僕は彼にお願いしたんだよ。アスナ君と別れてくれってね。ククッ。そうしたら彼なんて言ったと思う?俺は、嘘でもアスナと別れるなんて言わない、だってさ。泣かせるじゃないか。」
そういうと須郷はまた手を動かす。
『あああああああああああああああああああああ』
「やめて、今すぐやめなさい。」
「うーん、それは僕が聞きたい言葉じゃないなぁ。」
「・・・あなたの言うとおりにするから、今すぐやめてください。」
「ん~、じゃあ、彼のことは忘れておとなしく僕と結婚するかい?」
「・・・」
「どうやら、まだ足りないようだね。」
「・・・あなたと結婚します。」
「ハハハハハハハッ。その言葉忘れないでくれよ。」
そういうと、須郷は上機嫌で檻から出ていった。
あの人の性格は知っている。これでやめるわけがない。この先もキリト君は・・・
「気分はどうかなキリト君。」
俺を拘束し、電流を流す張本人が俺のいる部屋に再び入ってきた。
「ああ、そうそう。さっきアスナ君と話してきたんだけど、彼女君と別れて僕と結婚すると言ってくれたよ。」
アスナがそんなこと言うわけがない。おそらく俺に電流を流していることをアスナに話したな。
「無反応かい。つまらないな。」
オベイロンは手を動かす。
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああ」
「ククッ、またねキリト君。」
そういうとオベイロンは部屋から出ていった。
(くそっ。考えろこの状況で何ができる。両手首と手足が縛られてるこの状況で。手は動く?これならいけるか?)
キリトは一縷の望みをかけ、指を動かす。するとメニューが開いた。
(よし!なにか、役に立つアイテムはないか?)
アイテム欄を見るが、ほとんど文字化けしており、何のアイテムかわからない。だがその中に一つみつけた。
(MHCP001。これはユイ!)
キリトはメニューをタップすると、ユイが現れた。
「パパ・・・」
「ユイ・・・」
再び会うことのできたユイを抱きしめてやりたいがそれは叶わない。
「ユイ、再会できたとこ悪いんだが、」
「わかってます、パパ。パパがこの世界で目を覚ました時から、私も話を聞いていました。」
「そうか、なら話は早い。これを外せるか?」
「少し待ってください・・・ごめんなさいパパ。これは私では外せそうにないです。」
「なら、アスナもどこかにいるはずなんだ。アスナの方はどうだ?」
「・・・ママも近くにいるみたいです。でも、多分・・・」
「・・・まあ、アスナも捕らえられてるだろうな。ユイ他に誰かこの世界にいないか?」
「・・・近くには誰も・・・あっ!」
「どうした!?」
「このプレイヤーIDは・・・ユカお姉ちゃん!」
「ユカがいるのか!」
「はい。だいぶ遠くにですけど。」
「ユイ、何とかユカのとこまで行ってこの場所を伝えることはできるか?」
「はい。おそらくできます。」
そういうと、ユイは小さな妖精の姿になった。
「この姿なら飛べるのでユカお姉ちゃんのとこまで行けると思います。そして今の私はアイテム扱いなので、途中で死んでしまってもパパのとこに戻ってきます。でも、このままじゃ、パパは、・・・」
「パパは大丈夫だ。ユイ、ユカにこの場所を知らせてくれ。」
「・・・はい!」
ユイはこの部屋を飛び出していった。
「頼んだぞ、ユイ。