「リ~~ズ~~~。」
私は今リズの店に来ている。今日は朝からレベル上げをしていて、今は19時。武器のメンテナンスに来ている。リズと知り合って以来、私はこの店の常連になっていた。そして今ではすっかりリズとは仲良くなっている。
「なによ~? うなだれちゃって。この頃元気ないわねぇ。」
「...この頃アスナが構ってくれない。もう二週間以上まともに話してない。」
この頃アスナと会う時間がないのだ。アスナはヒースクリフのスカウトで血盟騎士団に入った。そしてアスナのカリスマ性や状況判断能力、指揮力の高さから血盟騎士団副団長の座に就いた。そしてヒースクリフがフィールド攻略を基本的にアスナに一任しているのだ。そのためアスナは団員を率いて最前線で活動している。それもものすごい速さで。ボス攻略でアスナと顔を合わすこともあるが、鬼気迫るような姿は少し怖い。
「アスナは今忙しい時期なんでしょう。副団長になってまだそんなに時間もたってないわけだし。」
「そぉーだけどさー。」
わかっていても今までずっとコンビ組んでいたせいかちょっと寂しい。
「そういやアンタ。明日どうするの?」
「明日?」
「そうよ。明日のクリスマスイブどうするの?」
「あーー。今のところ特に予定はないかな~。」
「へぇー。そうなんだ。てっきりクリスマスイベントに参加すると思ってたのに。」
クリスマスイベントというのは、NPCの証言をもとに開催されるであろうとされているイベントだ。クリスマスの夜モミの木の下に背教者ニコラスというイベンドボスが現れるらしい。そして背教者ニコラスはプレイヤーを生き返らせる蘇生アイテムをドロップするという噂がある。
「たしかにレアアイテムは魅力的だけど、私はソロだしねぇ。ボス相手じゃきついし。それにどこに現れるかわからないし。」
「そうよね~。さすがの舞姫さんも一人でボスを相手にするのはきびしいか~。」
舞姫というのは私の別称だ。私の戦い方が踊り、舞っている様からそう名付けられた。でも舞姫って言われるのはちょっと恥ずかしい。
「じゃあ、あんた明日はどうするの?」
「う~ん...レベル上げ?」
「一人で?」
「...うん。」
「...さすがに寂しすぎない。」
リズがかわいそうなものを見る目で見てくる。私だって好きでクリスマスぼっちなわけじゃないのに。
「だって、攻略組の人たちはクリスマスイベントに参加するって言ってるし。血盟騎士団は参加しないみたいだけど攻略を進めるって言ってたし。私攻略組以外にほとんど知り合いいないし。彼氏とかもいないし...」
「...言ってて悲しくならない?」
「そ、そういうリズはなんか予定あるの?」
「私は鍛冶屋とか生産職の人たちとクリスマスパーティーすることになってるけど。」
「グサッ。」
リズは私の心に大きな傷を残した。
「まあ、うん。レベル上げ頑張んなさい。ほら、メンテナンス終わったわよ。」
「...うん。ありがと。」
私はリズの手からメンテナンスの終わった武器を受け取り店を出た。
「はあぁぁぁーーーーー。疲れたぁ。」
本当にクリスマスイブを一人でレベル上げをして過ごしてしまった。まあ、フィールドはすいてたし、一心不乱に剣を振りまくった結果2レベル上がりましたけど。こんなことなら何人かのお誘いの一つに乗るべきだったかな。全員たいして親しくもない人たちだったから断ったけど。
はあー。この後どうしよう。もうため息しか出ないよ。今日夜遅くてもいいからアスナに会えないかな。
ピコンッ
この後どうしようかと考えているときメッセージが届いた。
「アルゴさんから?何だろう?また厄介ごとかな?」
情報屋のアルゴさん。通称・鼠。特徴的な髭のボディーペイントからそう呼ばれている。その情報の速さと正確さ、お金に対するがめつさからアインクラッドで一番有名な情報屋だ。いつもお世話になっているが、手のひらの上で転がされることも多いので少し苦手だ。
(キー坊が一人でイベントボスを倒しに行った。キー坊が強いといってもいくら何でも無茶だ。助けに行ってやってくれないか。場所は35層の迷いの森の大きなモミの木の下だ。)
あのバカは何をやってるんだ!
もうすぐイベントの始まる時間だ急がないと。私は転移結晶を取り出した35層の主街区の名前はたしか...
「転移。ミーシェ。」
私の体は光に包まれた。
光が収まると私はミーシェの転移門の前にいた。ミーシェはクリスマスムード一色だ。恋人たちがツリーの前でにぎわっている。だが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。私は迷いの森に急いだ。
以前迷いの森に来たときは秋だったので寂しい印象の森だったが、今は雪が積もっていた。一面銀世界だ。風も強く降りつける雪のせいで視界も悪い。まずいもうイベントが始まっている。
モミの木の下に急いでいると索敵スキルに反応があった。プレイヤーだ。その数は五人。モンスターの反応はないあんなところで何をしているんだろう。
「おい!ここから先は立ち入り禁止だ。」
いきなり話しかけられた。聖竜連合の奴らだ。レアアイテムのためなら犯罪行為も行う奴らだ。大方イベントボスのドロップアイテムを狙ってのことだろう。ほんとにもう、こんな時に。
「おい。こいつ舞姫じゃないか。」
「舞姫さんもレアアイテムを取りに来たんだろう。だがまあ、一人じゃ無理だ。俺たちもいることだしな。今日はおとなしく帰りな。」
どうやらこの先は通してくれないようだ。
「そこをどいて。」
「なんだぁ?五対一で勝てると思ってんのか?」
「勝てないとでも?」
聖竜連合の奴らはわかりやすく怒りの表情を浮かべた。
「お前ら、やってやれ。オレンジになってもクエストにはつきやってやる。」
グリーンプレイヤーに攻撃するとカーソルがオレンジになり街に入れなくなる。だがカルマ洗浄クエストを行うことでグリーンプレイヤーに戻ることができるのだ。しかしそのクエストはとてもめんどくさいため誰も簡単にオレンジになることはしない。
五人のうち三人が襲い掛かってきた。先頭のプレイヤーがソードスキルソニックリープを発動。ユカはその攻撃を見切り、腕にかすらせた。このプレイヤーはオレンジになった。二人目、三人目の攻撃も見切り、攻撃をかすらせオレンジにした。これでこの三人に攻撃しても私はオレンジにはならない。受けたダメージもバトルヒーリングスキルで二十秒もあれば回復するだろう。
「馬鹿野郎。同時に攻撃するんだよ。仮にも相手は舞姫のユカだぞ。」
リーダー格の男が叫ぶとリーダー格の男ともう一人が加わり五人同時に攻撃してきた。
そこで私はオレンジのうちの一人に突っ込んだ。そのプレイヤーの攻撃をかわし、その手首を切り落とした。
振り向くと二人目が襲い掛かってきた。その攻撃をかわし、三人目の攻撃を剣ではじき返し三人目を四人目にぶつけ、五人目が振るった大剣の腹に後ろ回し蹴りを当て剣の軌道をずらした。
ぶつかってたたらを踏んでいたオレンジの三人目のプレイヤーの手首を切り落とす。切り落とした後、ぶつかっていた四人目のプレイヤーが攻撃してきたのでわざとかすらせオレンジにした。
「...ありえねぇ。」
「私は今急いでるの。邪魔しないで。まだ邪魔するっていうなら私はあなたたちの両手両足を切り落としてでもここは通さしてもらうよ。」
「ふざけんなよこのガキ!」
手首を切り落とされていない三人のうちオレンジのプレイヤーが逆上して襲い掛かってきた。私は振るわれた剣に私の剣を添えるように静かに当て、いなした。私は後の先を取り相手の両足を切り、体勢を崩した相手を蹴り飛ばし、転がっているところで両手を切り落とした。
ユカが舞姫と呼ばれている所以は相手の攻撃をかわし変幻自在の攻撃を繰り出すことである。これはユカの見切り・空間把握能力の高さ・運動神経の高さがこの動きを可能にしているが、ユカの一番の強みはこれらではない。ユカの一番の強みは相手の攻撃をいなし、さばく上手さである。いくら見切りや空間把握能力が高ろうが避けられない攻撃はあるし、運動神経が良かろうがどうにもならないこともある。そんな時に相手の攻撃をいなすことができるためユカは舞姫の名をつけられたのだ。
「こいつ容赦ねぇ...」
「もう三人やられたか。はっきり言ってもう勝ち目はねえな。」
「何だよあきらめるのかよ。」
「もうこれ以上やっても無駄だろう。それにそろそろ終わるころじゃないか?」
私は二人の会話を無視して先に進んだ。もう邪魔はしてこないみたいだ。
少し進むとまた十数人の反応があった。まだモミの木までは少し距離があるはずなのに。
「クラインっ!」
「ユカちゃん!」
その場所ではクラインと聖竜連合の奴らと戦っていた。人数と戦力的に見て五分五分といったところだ。
「ユカちゃん。この先にキリトがいる。あの野郎一人でボスと戦ってやがる。早く助けに行ってやってくれ。ここは俺たちに任せろ。」
「...わかった。ありがとうクライン。」
私は先を急いだ。本当にありがとうクライン。
少し進むと開けた場所に出た。そこに一人のプレイヤーが立っていた。モンスターの反応はない。そのプレイヤーはレッドゾーンにまでHPを減らしていた。
「ヒール。」
私はそのプレイヤーの近くによりヒールクリスタルを使用した。HPは全快した。
「キリト。何やってるの?ボスに一人で挑むなんて。」
キリトはこちらに背を向け黙っていた。
「なんでこんな無茶をするの。」
キリトは黙っていた。風の音しかせず雪が吹き荒れる。
「カズ!黙ってちゃわからないよ。」
「お前には関係ねぇよ。」
キリトはこちらに振り返り低く冷たい声で答えた。
ひどく沈んだ顔をしている。
「...何があったの?」
「だからお前には関係ないっ。」
「関係ないって何よ。こんな戦い方してたらいつか死んじゃうよ。」
「そうかもな。まあ、それならそれでいい。」
キリトは自分が死んでもいいといった。その目はひどく暗い。
「...なに言ってるの?」
「俺がいつ死のうが俺の勝手だって言うことだ。」
そんなの嫌だ。そんなの...なんでそんな
「カズまで、私をおいていっちゃうの...」
「...」
キリトは一瞬目を見開いたが、すぐにまた目を暗くした。そして転移結晶を取り出した。
「転移...」
キリトの声は風の音でかき消された。キリトの体が光に包まれ消えていった。
光が収まるとそこでは雪が風に吹かれ、悲しい音を鳴らしていた。