レベルを上げて物理で挑むことにしたハリー・ポッターたちは次々と分霊箱をぶっ壊し、魔法戦争とか関係ない次元の戦いをしてきたが、長き空白を経てようやく決着がつく予定ゾ
上半身の美しい三角形こそハリーの誇りでありプライドであった。
黄金比。
プロテインとたゆまない鍛錬が創り出すハーモニー。
かつての哲学者は純粋なものそのものは現実には存在しないと考えたらしい。つまり、存在している時点でそれは純粋なそのものでなくそのものの形をした純粋だ、と。
ハリーはよく、わからない。何故なら…純粋な力は筋肉で証明できると思っていたからだ。
そう、力とはこの三角筋。上腕が、胸筋が、轟々と血管を流れる血液の迸る音をハリーの鼓膜へ届ける。毛細血管がぱっくり開いて神経が研ぎ澄まされる。
心臓が、生きたエンジンみたいだ。
魔法使い風に言えば…なんだろう。
結局僕は、最後までマグル生まれの魔法使いだ。
けどそれでいい。
僕の筋肉はそんな所を超えて、遥か彼方概念の向こうにある。
夜の闇にオーロラのようなヴェールがかかっていた。
防護呪文はヴォルデモートの一撃により敗れ去り、それは焼け落ちた薄衣のように端を焦がしながら闇をかすかに照らしていた。
雪のように降る魔法の残骸。その橋の向こうから形容し難い地獄の音が聞こえる。
古の魔法使いが踏みしめてきた橋は主にハーマイオニーの打撃で倒壊する直前だ。そんな年寄りの肋並みに弱い石橋を、崩さんとばかりに踏みしめて彼は現れた。
ヴォルデモート。
その姿は以前と変わらない。
しかし背負ったオーラがハリーに一抹の不安を呼び起こした。
分霊箱はナギニ以外すべて破壊した。
もうヤツに残された魂は自身とちっぽけな蛇だけだ。
それなのに…
なんなのだ、この威圧感。
あろうことか筋肉の鎧がかえって重く感じる。
冷や汗が一筋額に流れた。
燃えるような身体に、その冷たさは妙に染みる。
ヴォルデモートは漆黒の衣を闇に溶け込ませて存在した。
「ハリー…ポッター…」
「トム…リドル」
ヴォルデモートの後ろにはスネイプと、顔に包帯を巻いたルシウスをはじめとする死喰い人たちがいる。
ハリーの後ろにはロンとハーマイオニー。そして愛すべき仲間たちがいる。
しかしそんな連帯とか仲間とかを置き去りにした領域で、二人は対峙していた。
恐ろしく圧縮された永い時代狭間で、ハリーはヴォルデモートの強さを目にした。
「…まさか……」
「そのまさかだ」
ヴォルデモートの体を包んでいる黒い衣が風で舞い上がった。
闇を透かすような布の下にあったのは、戦車のような下半身。
ハリーの上半身の美しさと真っ向に対峙した、恐ろしささえ感じる見事な三角形。プレス機よりも遥かに重く、力強い、黒鉄の筋肉。
「最終決戦といこう。ハリー・ポッター」