【完結】パワー系ハリー・ポッター   作:ようぐそうとほうとふ

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それは、スピードである

ロンは疲れ果てていた。

体脂肪率を極限まで絞り栄養を全て筋肉に当てている二人のトレーニングに付き合うのはもはや死にに行くに等しい。

もちろんハーマイオニーもそれをわかっていてロンにはまだ人間がこなせる並みのトレーニングしかさせなかった。しかしあくまでそれは筋肉の化け物が考える人並みだった。

ロンはトレーニングの後疲れ果てて寝てしまうのが常であった。

ハリーとハーマイオニーは以前にも増して筋トレに勤しんでいる。

見た目はクリスマスの頃となんら変わらないが毎日見ているロンにはわかった。

 

以前にも増して疾くなっている…!

 

食料調達のためハーマイオニーと二人で川に行った時、ロンの気づかないうちにハーマイオニーの釣り上げた魚がどんどん増えていくのだ。

竿を持っていないにもかかわらず。

そう、ハーマイオニーは常人の視力を超えたスピードで川の中の魚を素手で生け捕りにしていたのだ。

「あっ!やだ。袖がちょっぴり濡れてるわ」

というハーマイオニーの一言でやっと気づいた。

ハリーもハーマイオニー程ではないが格段に速くなっていた。しかしハーマイオニーと違って速さをパワーに換えることに専念している。

巨人は巨大さと凶暴さゆえに危険とされている。しかし最恐と呼ばれるほどに恐れられてはいない。自然界に於いてもっと危険とされる生物はごまんといる。

それは巨人より体が大きかったり凶暴だったり、単に炎を吐いたりなど理由は様々だ。しかし巨人が最恐格にされない理由は明白だ。

それは、スピードである。

 

巨人の動きは鈍い。

 

もちろん巨大であるという点で回避は困難で、受けきることも難しい。それでも魔法の達人であればのろさゆえにその動きは見切られる。

 

今のハリーの大きさは小型のトロールを凌ぐ。

巨大なハリーが目に見えない速さで全力でぶつかってきたらどうだろうか?

マグルなら粉微塵になる。

重さと速さは即ち力である。

ハリーはその両方を鍛えているのだった。

ロンははっと目を覚ました。辺りは暗い。

もう真夜中だろう。ハリーとハーマイオニーは最近森の中で座禅を組んで休息しているためテントはひんやりして静かだった。

そっと外に出ると、二人が森と一体になったかのように静かに座っていた。

その巨体にもかかわらずそこらへんにある岩のように自然に溶け込んで気配を微塵も感じない。

ロンはこの二人がいればもうヴォルデモートなんてパンチ一発で勝てるだろうと思った。

しかし最近は二人が分霊箱のことを忘れがちで己の肉体を鍛錬しだすので、ロンが尻を叩かなければいけなかった。

そういう意味でロンはなくてはならない存在になってしまったのだ。

 

もうどうしょうこの化け物…。

いっそ逃げちゃいたいよ。

 

ロンがそう思った刹那、いつの間にかハリーが立ち上がっていた。

小さな悲鳴をあげると、ハリーは人差し指に指を当てて優しく振り向いた。

「守護霊だ…」

ハリーがそう言ってすぐ、木陰から雌鹿の形をした守護霊が出てきた。

ハリーの姿を確認した雌鹿は一瞬躊躇した。

当然だ。

しかしハリーをハリーと認識できたらしい。じっと目を合わせた後まるで後をついてくるのを待つかのようにこちらを向き、きた方向とは違う茂みへ入っていった。

「罠かもしれないよ…」

ロンは一応忠告した。

「それなら好都合さ」

どう好都合なのか、ロンは聞けなかった。

ついて行きたくなかったが、ハーマイオニーが微動だにしないしまさかテントに戻ることもできないのでロンは渋々ハリーについていった。

ロンはここ数週間で、もはや一緒にいれば敵にやられることは無いと確信していた。ハリーたちの筋肉の巻き添えで死ぬことはあっても…。

ちょっとハリーと距離を置いて後を追うと、大きな湖に着いた。

雌鹿は氷の上でふっと消えた。

その場所に目を凝らすと、氷の中にグリフィンドールの剣があった。

月の光を受けてルビーが怪しく光っている。

「ふんっ!」

ロンが何か言おうとする前に、ハリーは拳を湖面に叩きつけた。分厚い氷がバキバキと音を立てて割れ、ハリーを中心に放射線状に細かい水滴が霧のように立ち上った。

そしてハリーは氷塊の隙間にするりと消えた。

零度を下回る外気。水温だって同じくらいだ。

正気の沙汰とは思えなかったが、筋肉がそれを可能にした。

ハリーはあっという間に湖の底に眠っていたグリフィンドールの剣を片手に岸へ戻ってきた。

ハリーが持つと、まるで食器だ。

「分霊箱を壊す用なんだろうね。…どうしよう、これ要らないよね」

ハリーが信じられないことを言う。

そりゃあ素手で分霊箱を破壊する筋肉があるんだ。剣はいらないかもしれない。

「けれども持っておくに越したことはないだろ…?」

「そうかな…自分の肉体以外は持ち歩きたくないな」

ハリーは変わってしまった。ロンはめまいがするのを抑えながら必死に言った。

「あー、じゃあ僕が持ってるよ。ほら、君たちほど筋肉がないから」

「そう?助かるよ」

ハリーは震え一つ見せずにっこり微笑んだ。極寒の冬に似つかわしくない半裸で。

ロンはむしろそんなハリーに寒気を覚える。

「あのさ…分霊箱は早いとこ全部壊しちゃおうよ…」

これ以上親友が筋肉に支配されていくのをロンは見たくなかった。というか、自分がこんな風になるのが一番嫌だった。

「そうだね。そろそろかな」

ハリーの緑色の瞳はこんな明るい夜にもかかわらず、深く暗く冷たく澄んでいた。

 

 

「えっ」

ヴォルデモートはナギニの報告を聞いて我が耳を疑った。ようやくニワトコの杖の持ち主だったとされるグリンデンバルドについて突き止めたという時に信じられないことが起きていた。

「風圧で、だと」

ナギニの横っ腹をめちゃくちゃに破壊し尽くしたのはあのハリー・ポッターの拳だという。しかも当たったわけではなく、風圧。

ゴドリックの谷から命からがら帰ってきたナギニは相当混乱しているが、どうやら言っていることは確からしい。

「あのハリー・ポッターが筋肉モリモリマッチョマン…?信じられん」

振り上げられた腕は、噛み付いたその腕はナギニより太かったという。

そしてその筋力に無残にも牙を砕かれた。

ナギニの牙はちょっとやそこらじゃ折れないような硬さだ。それを粉々にするなんてダンブルドアほどの魔力でも困難。

それを、筋肉で砕いたと?

にわかには信じられなかった。そしてそれが真実だとしたら、ニワトコの杖を一刻も早く手に入れないといけない。

筋肉により自分に対抗してきた者は見たことがなかった。それどころか、魔力という圧倒的力を手にしてなお筋肉を鍛える人間なんてそうそう見なかった。

ましてや、それを戦闘に使う魔法使いなんて…。

ヴォルデモートはナギニを魔法で作った球体に入れた。

分霊箱を兼ねたナギニを今後うっかりで死なせてしまっては困る。

ハリー・ポッターの筋肉が今どれほどなのか、人並みの筋肉しか持たないヴォルデモートにはわからなかった。

それが命取りになるとも知らずに。


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