【完結】パワー系ハリー・ポッター   作:ようぐそうとほうとふ

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「僕もっと魔法使いみたいに戦いたい」

 

「グリンゴッツに行くよ、ロン」

ハリーが朗らかに言った。ロンはめまいを覚えながら情報を処理する。

「えーっと、ごめん。理由と作戦を一応教えて?」

「分霊箱がそこにあるからさ」

「作戦は…?」

貝殻の家で暖かくロン達を迎えたビルとフラーだが、内心ハリーたちを不気味がっているのはわかっていた。

早く出て行くのが兄のため。しかし…

「作戦もなしにグリンゴッツって、正気かい?」

「えっ?」

ハリーはまるでわからないようだった。

ここのところロンは筋肉に支配されたハリーたちに気遣いする余裕がなかった。しかし奥歯に物が挟まったような言い方をしたって彼らには全く伝わらないことが最近わかってきた。

というかむしろストレートに言わないと絶対にわかってくれない。筋肉は心にもまとうことができるらしい。

「君たちは強いよ。でもグリンゴッツの警備っていうのは強くて、多いんだ。レストレンジ家の金庫なんて相当古いだろうし、そりゃもうものすごいセキュリティがかされてるんだよ」

「全部突破すればいいんじゃないの…?」

ハーマイオニーが思慮深げに何も考えてないことを言ってくる。ロンはきっぱりと言い返す。

「君たちまるでわかってない。僕らの目的は例のあの人を倒すことだよね?そりゃグリンゴッツで半年くらい暴れ続ければ例のあの人以外だーれもいなくなるさ。でも君、半年もあの人を野放しにするの?」

「なるほど!」

「隠密こそスピードの要だよ。ハーマイオニーはスピード好きだからわかるよね?」

「わかるわ!ロン、あなた冴えてるわ」

「うん…」

それでも頑なに変身術を拒むハーマイオニーとハリーに、ロンは渋々妥協してポリジュース薬で手を打ってもらうことにした。

グリンゴッツの検問を突破してしまえばあとはトロッコで目的地までGOだ。

そのためにはグリップフックの協力は不可避だった。

グリフィンドールの剣を要求するグリップフックにロンは反感が募るばかりだったが、ハリーは剣なんてなくても素手で破壊可能なので快諾した。

「案内は可能ですし、金庫のドアを開けることも協力します。ですが行方不明の私が突然帰ってきても銀行にははいれません。とにかく中に入ってください」

ロンは頭を捻り、ハーマイオニーが殴り抜ける時にごっそり抜けてからまったベラトリックスの髪を使って受付を騙すことにした。

「うまくいくとは思えないわ。ハリーはどうするの」

「ハリーはこっち…僕の服についてた人攫いの毛で変身してくれ。僕がマントに入るから」

「本人確認はどうやってやるのかしら?」

「顔と杖ですね」

「どうしましょう。ベラトリックスの杖がないわ…」

「君の皮膚に突き刺さってた欠片ならあるよ。これでなんとかごまかすしか無い」

「いざとなったらロンの魔法だけが頼りだね」

ハリーの真剣な言葉にロンは頷く。2人が杖を捨ててからはもう慣れっこだった。

「それじゃあ…いこう」

ハーマイオニーのバックをもって、ロンは決心した。後ろにいるのはガラの悪い大男と顔が綺麗なままのベラトリックス。

体が普通のサイズの人間と歩くのはずいぶん久々な気がした。

 

堅牢な城壁も叩き続ければ壊れる。

筋肉だっていつか壊れるんじゃないかと思うとロンはハリーたちを放って置けなかった。

しかし、燃えるように熱い魔法で増えた偽のカップにまみれながら本物をがっしりつかんで「ちょっとここ暑いね」と言われた日には決して破られない城壁があると信じるに足ると思うのも無理ないことだった。

あらゆる魔法を落とす盗人落としの滝でポリジュース薬の効果は消えた。しかしそこからがハリーたちの本番で、無残にレールからはじかれるトロッコから放り出されようが、たどり着いた先で双子の呪文にかかったカップに揉まれようがもう何もその筋肉には通用しない。

「ば、化け物だぁあ!」

悲鳴をあげてちゃっかりグリフィンドールの剣を持ち逃げしたグリップフックも意に介さない。

「どうしようか?登るには時間がかかるな」

「跳ぶにしても限度があるわよね」

わんわんと警報が鳴り響く中で平然と、霞むほど小さくみえる地上の明かりを見て二人は言いのけた。

続々とやってくる警備員の呪文を浴びても2人はけろっとしている。

 

まるで小蝿を払う人間じゃないか。僕らは虫けらなのか?

 

ロンはなぜか警備員の気持ちになっていた。

魔法が効かないとなると、次出てくるのはドラゴンだった。盲の年老いたドラゴンは条件付けにより侵入者を見分け、排除する。

ロンは普段全ての魔法攻撃を2人が弾いてしまうせいで警戒を怠っていた。

あっと気づいた時にはドラゴンの口から真っ赤に燃える炎が吐き出されていた。

灼けるー!

死を覚悟したが、ロンの体を包んだのは灼熱の地獄ではなく、人肌よりちょっと熱い、燃えんばかりの筋肉だった。

「とんだ歓迎よね」

ハーマイオニーの悪戯っぽい笑みに、ロンは笑みを返せなかった。ついにドラゴンにまで防御力において勝ったのか、と人知を超えたパワーに愕然とした。

「乗り物だ。ちょうどいい」

ハリーがそういうが早いか、ドラゴンをつなぐ鎖は砕かれ、ドラゴンは遥か上の出口を見上げた。

「飛べ!自由は己の手で掴め!」

ハーマイオニーがロンをつまんでさっと飛び乗ると、ハリーがドラゴンの尻尾をひっぱたく。

ドラゴンが筋肉に励まされたように雄叫びをあげ、ボロボロの翼をめいいっぱい羽ばたかせた。

物凄い風が筒状の地下に渦巻き、やっと息ができるようになったらもうそこは空だった。

しばらく誰も口をきかなかった。大きな湖に差し掛かったところでやっと三人はドラゴンから飛び降りた。

寒空に水だ。

ガタガタ震えながら着替えるロンと対照的ににケロっとしているふたりを見て、ロンは叫んだ。

「もおぉぉぉおおやだあぁああ!」

「ろ、ロン?!」

「僕もっと魔法使いみたいに戦いたいよ!なんでドラゴンの炎をうけて髪の毛すら焦げてないんだい?!」

「お、落ち着いてロン。髪の毛っていうのは元はというもの皮膚が変化したもので…」

「そういう話をしてるんじゃないよ!こんなの絶対おかしいよ!筋肉、筋肉、筋肉!!僕だってそりゃ、筋肉に頼らない視点で君たちをサポートしようとしたさ!でも要る?僕いらなくない?!」

「必要よ!私たち、あなたがとっても大事だわ」

「ああ、ハーマイオニー。グリンゴッツに行く前だったらそれで思いとどまってたよ。でももう君たちには死の呪文すら効かない気がしてきた」

「そんなことないわ!さすがに死ぬわよ!ねえハリー?」

「いや…心臓は筋肉の塊だから…あるいは…」

「ハリー!」

ハーマイオニーが責めるように言うがもう遅かった。ロンはもう見切りをつけてがむしゃらに走り出した。

「待って、待ってよロン!」

「止めないでくれ!もう行かせてくれ!」

バシッと筋肉のぶつかり合う音がしてハーマイオニーは固まった。ロンの決意はそれほど硬かった。

ハーマイオニーの虚をついて、ロンは姿くらましした。

ハリーとハーマイオニーはただ黙ってロンのいなくなった湖畔に立ち向くした。


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