筋肉は力の象徴だ。
如何なる城壁にも勝る力そのものが味方として目の前に現れた時、人はその筋肉に流れる血の巡りと筋を立てて己の秘める力を解放せんと盛り上がる力こぶを見て熱狂する。
ハリーの筋肉は敵の恐怖を煽り、味方の戦意を向上させた。
魅せる力
それがハリーの鍛え上げられた肉体に宿った筋肉の副産物であった。
逆三角形の全身に宿る淀みなき力と、失踪期間何があったのか黙っていても理解させられる禍々しいオーラが見るものの心を否が応でも奮い立たせるのだ。
美しい
攻めて来た死喰い人の先遣隊をハリーが薙ぎ倒した時にロンはそう思った。
「ここから先一歩でも入ったら」
生き残りの一人の首を掴み上げ、ハリーは後ろで尻餅をついている残党に言った。
「容赦しない」
ハリーの一撃は結果的に敵陣営にとって効果的なデモンストレーションとなった。
即ち、見せしめとしての暴力。
それはヴォルデモートの力に酔いしれ配下に降ったものにとってはその忠誠を揺らがずほどの衝撃だ。
程なくして闇の陣営はホグワーツを遠巻きにして集まるが仕掛けてくる気配はない。
「さて、分霊箱を破壊しに行かないとね」
ちょっとした準備運動を終えただけのように楽々ハリーは言った。
中庭ではマクゴナガルをはじめ多くの魔法使いが結界をはっている。
「私はこっちに残るわ」
ハーマイオニーはコキコキと肩の関節を慣らしていった。
「私たちの姿が見えた方が、敵も攻めにくいわ。ハリーのダミーも作ってもらいましょう」
「ハーマイオニー、君知力が戻ってきたんだね!」
「最終決戦よ。犠牲は少ない方がいいわ。それよりあなた達は早く分霊箱を破壊して」
「僕も残るよ」
ロンが進言するが、ハリーがそれを許さなかった。
「ハーマイオニーだけで十分だよ。それに…君には交渉役をして欲しいんだ」
ハリーが見つけ出したのはレイブンクロー寮のゴースト、灰色のレディだった。
彼女はルーナの友達で、本人に言うと嫌がるがレイブンクローの娘でもある、とハリーは道中説明した。
分霊箱のうちレイブンクローに関わる品、髪飾りは《永遠に失われた》と語り継がれる。
しかしハリーは例のあの人なら見つけ出したに違いないと確信していたし、事実それは的中していた。
と確認しに来たハリーを見て灰色のレディははじめひどく恐れて逃げようとしたが、ロンの説得によりなんとかその場に止まってくれた。
「壊してもいいですよね」
ヴォルデモートに対する誤った信頼と後悔をなんとか彼女から聞き出してから、ハリーがバキバキの筋肉を唸らせて尋ねるとレディは二つ返事でOKをくれた。
確認すら取らなかった。
ただヒントを言って灰色のレディは煙のように逃げ出した。
「…全てが隠されてる場所…知る人しか入れない…秘密の部屋?」
「違うよ、必要の部屋に決まってるだろ!」
ハリーとロンは大急ぎで必要の部屋に向かい、前で必死に唱えた。
全てが隠された場所ー
忘れ去られたものの集積場
山のように積まれたガラクタの中を、二人はかすかに見える光を追うように進んだ。
ハリーははじめから見当がついていたように真っ直ぐ進んでいく。
「やっぱり、ジニーとキスした時に見たと思ったんだ」
「まさかお膝元にあるとは思わなかったな」
ハリーがレイブンクローの髪飾りをつまんで、力を入れる。
あーあ、やはり楽勝だった。
ロンが油断した時
「ロン、避けろ!」
背中にどんっと衝撃が走って、ロンはガラクタの山に突っ込んだ。
たくさんの壊れた道具が上に降り注いでくる。
「なんだよ!」
怒りながら足の折れた椅子を押し退けてみると、ハリーが苦渋の表情を浮かべて両手を広げていた。
「そんな、ハリーッ!」
「逃げろ…ロン!」
ハリーの背中を業火が焼く。
その日の向こうには強張った笑みを浮かべたマルフォイと杖を構えたクラップとゴイルだった。
その杖からは全てを焼き尽くさんと燃える炎が噴射され、ハリーの背中を焦がしている。
ドラゴンの炎すら耐えるハリーがなぜ…?
ロンは熱気に揺らめく二人のシルエットを捉えるのに時間がかかった。だがマルフォイとくらべて巨大すぎるその体にようやく焦点が合い、悟る、
鍛えたんだ…!この10週間あまりで、無理やり…!
クラップとゴイルは元からガタイがいいのに、今は大型のトロールすら凌ぐ大きさになっていた。
一人一人を見れば筋肉の量はハリーに劣る。しかし二人合わせれば話は別だ。
その強制的筋肉に加え、魔法。
おそらくこの炎は闇の魔術の類だろう。
筋力と魔力の融合した地獄の業火は鍛え上げたハリーに届き得たんだ!
「あの二人は…僕がやる!」
ハリーが動いた。炎がその動きの後ろに発生した風で掻き消えた。
ほとんど同時にクラップが後ろのガラクタの山をなぎ倒し後方へ吹き飛ぶ。
しかし、飛び方が甘い。
「なんてタンキーなんだ!」
ハリーはフルタンクでアタックダメージを主として戦う。
しかしこの二人は相手に与える物理ダメージを捨てて、全ての筋肉を我が身を守る鎧へと鍛え上げたのだ。
物理で殴られるならー物理で守ればいい
単純かつもっともな意見だが、マルフォイの読みは当たっていた。
マルフォイは二人の盾を携えて今ハリーとロンへ刃を向けたのだ。
10週間前となんら変わらない姿形で、マルフォイは杖を持ち上げた。
「魔法の力を、思い知れ…!」