【完結】パワー系ハリー・ポッター   作:ようぐそうとほうとふ

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「中身は決して折れたりしない」

「お出ましね」

ハーマイオニーは花火のように爆発が起きている空を見上げた。死喰い人の放つ呪文が防護呪文に弾かれて色とりどりの花を咲かせているのだ。

その美しい光景を眺め続けるわけにはいかない。

破られぬ守りなど存在し得ぬことをハーマイオニーは知っていた。

「だからこそ全力の出し甲斐ってものがあるわけ」

誰に語りかけるでもなくそう呟くと、軽く準備運動をはじめる。

「ハーマイオニー!貴方はどこを守るの?」

ジニーが尋ねるとハーマイオニーは笑顔で答える。

「全部よ」

えっと疑問符を浮かべるジニーは次の瞬間我が目を疑った。

ぶうん…と空気を震わす音とともにハーマイオニーが増えたのだ。1人、2人、そして10人。

どういうことだが全く分からなかった。杖は持っていないから魔法ではない。

「マックスで10人…ね。意外と少ないわ」

「は、ハーマイオニー…これは?」

「ちょっと考えればわかるわ。分身よ」

「分身…」

「高速で動くと人の目には分身に見えるってだけだけどね」

「高速で動く…」

ジニーは兄の苦労を一瞬で思い知った。逃げてきたのを責めるつもりはないが、むしろ逃げてと言ってあげたくなる。

 

魔法を使わないでこれ?意味がわからない

 

「…ちょうどきたわね」

ハーマイオニーの分身は散らばり、全員が臨戦態勢になった。

ヴォルデモートの発射した呪文の特大の火花が守りの呪文を貫き、ヴェールを焦がすように膜を焼いた。

 

「最終決戦よ」

 

 

 

「クソ…なんなんだこの威力は!」

ハリーは呪文を受け、狼狽しつつもクラップ、ゴイルの攻撃をしっかり受け切って2人を追い詰めていた。しかし反面、ロンから無理やり遠ざけられているのにも気づいていた。

 

クラップとゴイルが極めて短期間でハリーにダメージを与えうる力を手に入れたのは単なるゴリ押しによるものだけではない。

マルフォイはクラップとゴイルがハリーたちに勝っている特性を見抜いたのだ。

 

すなわち、食欲

 

彼らは食うことによって得たカロリーを魔法で溜め込むことで爆発的エネルギーをその体内に宿し、筋力と魔力へ昇華させることに成功したのだ。

食えば食うほど高まる力!

しかしこの決戦前に2人が摂取したカロリーは一人当たり10万Kcal。それは生物が1日に摂取するカロリーとしては異常な数値。

しかし、彼らは食べた。

そしてそのカロリー全てを仮初めの筋肉、仮初めの魔力へと投げ打ってハリーを窮地に陥れた。

まさに捨て身!

ハリーの筋肉に対抗せしめるのは己全てを投げ打つ覚悟とエネルギーだった。

マルフォイ達の努力が、ハリーの筋肉を上回った。

しかしカロリーというのは燃焼するものだ。そして、筋肉の消費エネルギーは洒落にならないほど多い。

つまり、早期決戦がカギだった。

 

「まずは邪魔者を消す」

 

マルフォイは杖をロンに向けた。

ロンも慌てて杖を握るが、躊躇しないマルフォイに完全に遅れをとる。

「セクタムセンプラ」

見えない刃がロンの薄い皮膚を切り裂いた。鮮血が炎に彩られ闇を塗りつぶす。クラップ、ゴイルの魔法を食らいながら拳を振るうハリーが悲鳴をあげる。

しかしマルフォイは攻撃の手を緩めない。

「インカーセラス」

血飛沫をあげるロンをロープが縛り上げ、ロンはほとんど宙づりになる。

杖を握っていても、振ることができなかった。

 

「無様だなウィーズリー…!」

 

自身の慢心と無力でロンの頭が憎悪とか悔しさとか、そういった感情で焼け切れそうになる。

マルフォイは笑ってるような怒ってるような、ぐちゃぐちゃな感情に身を割かれてるような表情でロンを見上げた。

「そのままここでポッターがやられるのを見ていろ。父上と同じ目に合わせてやる」

「やめろ…」

マルフォイはロンなんてもう無視して、苦戦し始めたクラップとゴイルの方へ駆け寄っていく。

ロンは、負けたと思った。

ドラコは筋肉に策略と魔法で勝負した。クラップとゴイルはハリーだけでなんとか倒せたかもしれないが、マルフォイは相当魔法の腕が上がってる。

いかなる魔法をも跳ね返すハリーだがクラップ、ゴイルの筋肉と魔法が合わさればもしかしたらその厚い筋肉を破ってハリーを傷つけるかもしれない。

 

マルフォイを止めるのは自分の役目じゃないか…!

 

血がぽたりと床に落ちた。

 

マルフォイなんかに負けてられるか

僕だって、僕だって逃げたりしたけどハリーたちとずっと鍛えてきたんだ

たかだか10週間でつけた力に、負けてられるか…!

僕は、半年以上筋肉の檻にいたんだ

いまさらこんなロープに

 

「縛られてたまるかああーーッ!」

「なんだと?!」

 

魔法出てきた頑強な縄を引きちぎり、ロンは跳んでいた。マルフォイはすんでの所でロンの飛び蹴りをかわし、体勢を崩して倒れてしまう。

「なんで…!普通ならその縄は切れないはず!」

「普通なら、ね」

ロンはまだ血を流す己の皮膚を見て吐き捨てるように言った。

「確かに僕の外見はまだひょろひょろで、ハリーたちから比べたら月とすっぽんさ。でもね…」

ロンは己の中に満ちる力を確信し、力拳をマルフォイへ向けた。

 

「僕は君より半年も前から無理やり筋トレさせられてたんだ!僕のインナーマッスルはハリーの筋肉と同じくらいに硬いッ!」

 

ロンの肉体は内側から光ってるようだった。事実、裂けた皮膚からそのエネルギーが流出してるがごとくわずかに露出した筋肉は素人目から見ても美しいものだった。

「僕の中身は決して折れたりしない」

「ぬ、ぬかせ!」

マルフォイとて、この10週間クラップとゴイルを鍛えただけではない。

 

ところで、スリザリン寮には純血しか選ばれない、という誤解が多く広まっているが本来サラザール・スリザリンはその血の正当性、というよりも魔力の濃さについて言及していた。

しかしグリフィンドールの筋肉に敗れ去ったことで彼の考えは広く誤解されて後世に広まった。

本来ならば、スリザリンは魔力の強さは血の濃さに大きく左右されると考えていたにすぎない。

それは八割がた事実であり、極少数の例外を除いて血の濃い、魔力の多いものがスリザリンに選ばれる。

だが本来の決め手は魔力なのだ。

そして、代々スリザリンに選ばれるマルフォイ家は魔力の濃さを誇る一族になる。

それは歴史に忘れ去られた遠い記憶だった。

しかし、ドラコの代でついにそれが花開くのだった。

「ステュービファイ!」

マルフォイの杖から閃光が迸りロンの体を切り裂いた。しかし麻痺呪文はロンのインナーマッスルに阻まれ、彼の動きを少々止めるにとどまる。

 

ならば何度でも打つまで!

 

マルフォイはとかくその魔力を振り絞りぶつけた。

しかし、倒れない。

いくら呪文をかけてもロンの皮膚がただれていくだけで倒れない!

 

「君はよくやったよ」

ロンが口を開いた刹那、瞬きの間より短い時間でマルフォイは自分が呪文をかけられて宙づりになってることに気づいた。

ロンを見ると、彼はいつの間にか杖を持ってこちらに向けている。

なぜ、気付けなかった?

マルフォイははっと周りを取り囲む火に視線をやった。

炎の揺らめき、光のちらつきでまるで時がねじ曲がったかのようにロンの動きが不規則なのだ。

不気味な緩急。

不自然な継足。

自然に反した動きがマルフォイの時間をゆがめていたのだ。

それは本来たゆまない努力と鍛錬により習得する"技"だった。しかしロンのインナーマッスルはロンの直感の赴くまま、彼の不自然な動きを可能にしたのだー!

「体幹を鍛えることにも意味があったのさ…」

ロンは大量に失血しながらも、二つの足でしっかり立っていた。

「クソ…結局、結局筋肉なのか…?」

「そんなことないよ。君が僕と同じ時期から魔力を鍛えてればわからなかった。日々鍛錬って…僕は苦手だけどね」

ロンはマルフォイを気絶させ、打撃音と爆発音の聞こえる方へ走った。

 

 

スリザリン寮に入る条件が恵まれた魔力の量だと言うのなら、グリフィンドール寮に入る条件が"勇気"ではないことはすぐにわかるだろう。

 

すなわち、筋力

 

グリフィンドール寮に入れられた生徒は皆絶対的筋肉を手に入れる可能性を持った者たちなのだ。

そして、代々グリフィンドール寮生であるウィーズリー家の遺伝子はまさに筋肉の申し子であった。可能性の化け物。それがロナルド・ウィーズリーが外見だけでなくまずインナーマッスルから手に入れた理由。

彼はまだ、外殻を手に入れる余地がある。

それほどまでの優れた筋肉の容量を持っているのだった。

マルフォイの敗因はハリーとロンを同時に相手にしたからに他ならないが、それと同時に一対一でロンと当たったことも彼の敗北に大きく関わる。

マルフォイの魔力をあげる戦略がチョキなら、鋼のインナーマッスルを持つロンは強固なグー。

もしかりにクラップ、ゴイルの2人で物量的にロンを攻撃すれば単純な手数の不利でロンは負けていただろう。

しかし、マルフォイにハリーが止められるわけでもない。

つまり結末は変わらないのだ。

筋肉をより多く持つものが勝つ。

 

人はそれを絶対という。


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