ストライク・ザ・ブラッド the Garden of sinners 作:蒼穹の命
と、私情はここまでにして後は小説執筆と期末テスト勉強にFGOのジャンヌリリィの回収に専念しなくては……‼︎
南方300km離れた太平洋上に浮かぶ、鉄と魔術によって作られた
別名「魔族特区」と呼ばれており、絶滅に瀕した魔族を保護するとともに、彼らの研究を行っている。
だが、それと同時に魔族達による犯罪も少なからず発生していた。
時刻は深夜零時。多くの人々は眠りにつき、月や星々の輝きが照らす夜の中を、1人の男が駆け抜けていた。
その男はとある過激派グループに所属しているテロリストで、近々この島で行われる計画の前準備の為に先発隊として、多くの仲間と共に訪れて潜伏していたが、巧妙に隠していた潜伏場所が
現在はバラバラに散りながら逃げている仲間たちと合流する為に、事前に決めていた合流ポイントに向かっていた。
そこに着けば後は島の裏手にある脱出艇までそう遠くはない。僅かな希望を頼りに男は路地裏を走っていたが、それは
暗闇の中から吹っ飛んできた仲間によって打ち砕かれることになる。
男は飛んできた仲間に駆け寄る。
「おい、どうした⁉︎ここで一体何があった‼︎」
「既に……の場所は……バレて……いた。 他……者は……魔女の……にやられ……お前は……早く……逃げ……」
途切れ途切れに男へ忠告しながら仲間は意識を堕とした。そして……
カラン コロン カラン コロン
とこちらに向かってくる足音が辺りに響くように聞こえてきた。
男は咄嗟に身構えて、いつでもこの場から離脱できるようにする。
乾いた木が地面を軽く叩いている様な足音が近づいてくるにつれて、冷や汗がダラダラと大量に流れていく。
だが、暗闇の中から現れたのはアイランドガードでも空隙の魔女でもなかった。
出てきた人間は魔女よりも背丈は高いがアイランドガード達よりは低い。
顔立ちは男性なのか女性なのか判別し難い中性的な雰囲気を纏い、短くととのった黒い髪に夜の帳の様な眼差しをしている。
右手には刃渡り6寸もののナイフを持ち、服装は藍色の着物に赤い革のジャンパー。そして履き物は下駄という街中を歩けば瞬く間に注目されてしまいそうな和洋折衷のスタイルをしていた。
「何だ、まだ残ってる奴がいたのか。 てっきり今ので最後かと思ったんだが……まあいいか」
そう呟きながら人間が近づいてくる。
理由は分からないが、男だろうが女だろうが関係なくこの人間は危険だと男の本能が警告してきた。ならば早くこの場を切り抜けて自分だけでもこの先にある脱出艇に……
「一応言っとくが、この先にあるあんた達が用意した脱出艇は使えないぜ。 ここにくる前にエンジンを「殺して」動かないようにしたからな。 本当はバラバラに解体しようかと思ってたんだが、それだと海に沈んで
「なっ⁉︎」
人間はあっさりと男の希望を言葉で両断した。
このままだと不味いと感じた男は持っていたスモークグレネードを投げつけ、その場から離脱した。
「ゲホッゲホッ……ちっ」
この程度の煙幕なら自分の眼で男を捕捉して捕まえるのは容易いと踏んでいたが、運悪く煙を吸ってしまい咳き込んでいるうちに男に離脱されてしまった。
「くっそ……油断した、まさか煙吸っちまうなんて。 こんな所、那月義姉に見られてたら一晩ベランダ干しの刑確定だぞ……」
とはいえ、この程度ならまだ男を確保できる。
「絶対に逃がすかよ……」
少年──南宮織は逃げた男を追跡する。
男が逃げた先は、ビルを建設している工事現場だった。
うまく撒いたと思った男は息を整えて、これからどうするかと思索しようとしたがそれは叶わなかった。何故なら……
視界に、撒いたと思っていた織を見てしまったから。
そして、織の口がゆっくりと開いた。
見 つ け た ぜ
背筋に寒気が走る。
男はビルの壁際にある、作業する際に造られた仮設の足場へと向かい、同じく造られた階段を登ってビルの上へ向かう。
後に続いて織も足場へ向かい、上へ逃げた男を追う。
カン! カン! カン! カン! と鋼鉄を蹴る様に走る足音が耳に入る。
このままでは追いつかれる。男は近くに放置してあった資材を階段に放り込んで追って来る織を妨害する。
ガラン! ガラン! ガラン!
跳ねる様に上から資材の大群が落ちてくる。織は左側にかかっていたブルーシートをナイフで切り裂き、外へ飛んだ。
曲がることが出来ない資材は地上へと落下していく。それに対して自ら飛んだ織は魔法陣を展開し、飛び出てきた鎖を、足場を支えている鉄棒に絡みつかせて固定すると、ナイフを持っていない左手で鎖を掴んで落下を免れる。 地面に墜落した資材を尻目に、ブランコの要領で体を前後に動かし、その勢いを利用して再び飛んで足場に着地する。
体勢を立て直した織は上へ逃げた男を追う。
鉄骨やらクレーンやら色々と鎮座している工事現場が男が辿り着いた終点だった。
あれから一体どれくらい走ったのだろうか。もはや時間の感覚が麻痺してしまってよく分からない。思わず後ろを振り返って見ると追いかけてきた人間はおらず、辺りには暗闇しか広がっていなかった。
もしかしたら先程の資材のなだれに巻き込まれて落ちていったのではないかと予想したが、
「遅かったな。鬼ごっこはもうお開きか?」
又もや希望は打ち砕かれた。
声がした方向を見ると、クレーンが吊るしている鉄骨の上に、月の光を浴びながら座る織がいた。
「貴様いつからここに⁉︎」
「あんたがここに着く前から。登るのがめんどくさくなったから空間転移で一気にここまで来たんだよ」
そう言って織は立ち上がり、鉄骨の上から飛び降りて地面に着地した。
「なぁあんた、ここで大人しくお縄についてくれないか?
もう零時過ぎちまったし、眠くてたまらないんだ」
眠たそうな顔をしながら織は言い、それを聞いた男は
「悪いが、俺はまだここで捕まるわけにはいかない」
先程からずっと続いている本能の警告は全く止まらない……だが、それがどうした! 路頭に迷っていた自分を受け入れてくれたあの方から頼まれた仕事を投げ出せる訳がない! 逃げるのはやめだ。 相手が何処の誰であろうと関係ない。 男がそう決意した瞬間、彼の体が上半身の服を破りながら風船のように膨れ上がり、全身が毛で覆われ爪が鋭くなり、顔つきは最早人ではなく野生の獣のようになった。
人間から獣人へと変化する特殊能力と、それに伴う高い身体能力・再生能力を持つ種族──獣人。 正に目の前にいる男がそうだった。
変身した男が構えをとった瞬間、ぼけぼけしていた織の意識は覚醒する。 例えるなら、オフになっていたスイッチが瞬時にオンへと切り替わったかのように。
「そうこなくっちゃなぁ!」
織もナイフを構える。
いつの間にか月は雲に覆われており、2人の周囲は静寂につつまれた暗闇と化していた。
お互い構えてから数分。覆っていた雲が移動し月が顔を出して暗闇を照らした瞬間──
2人は同時に動き出し、ナイフと爪を振るった。
まるで踊っているかの様に火花を散らしながら曲線を描くナイフと爪。 男が爪を振り上げれば、織はナイフで受け流してそのままカウンターの一閃を放ち、男のもう片方の爪が一閃を止める。
月光を帯びた異なる銀色の軌跡が幾度となく放たれ、受け流され、返され、止められる。 殆どがそれの繰り返しであった。 両者互角の様に見えるが、実際は男が押されていた。
男はさまざまな方向から攻撃しているが、織は最初の踏み込み以降その場から離れる事なく、左足を軸にして体を動かしながら男の攻撃を受け流して反撃をしていた。
「くっ!」
男は無理やり織のナイフを弾き、距離をとってもう一度織にむかってグレネードを投げつける。1つ違うのは投げたのは煙幕では無く爆発する物だという事。だが……
「同じネタは笑いも戦いでもそう何度も通用しねえぞ」
織は閉じていた眼のスイッチを入れた。 織の瞳は青緑に輝き、彼の眼に映る世界は自身を中心に白い「線」と「点」で埋め尽くされていく。それは男が投げたグレネードも例外では無い。
投げられたグレネードはスローモーションのように遅く、「点」を視るのは容易い事だった。
織は持っていたナイフを躊躇いなく投擲する。その切っ先は見事にグレネードの「点」を穿ち、そのままナイフと共に飛んで、爆発する事なく鉄骨の柱に突き刺さる。飛翔したナイフに穿たれたグレネードはサラサラと風に飛ばされる砂のように消えて無くなった。 残ったのは鉄骨に突き刺さっているナイフだけだった。
その光景に男は唖然とし、その一瞬の隙が勝敗を決した。
織は至近距離まで一気に近づくと、掌底で男の顎を打ち据えて脳を揺らし、そのまま回し蹴りを放って男を吹っ飛ばした。
織に蹴り飛ばされ、宙を飛んでいる男はある話を思い出した。
死神織。
空隙の魔女が拾った出自不明、記憶喪失の浮浪児。 現在は南宮の姓を名乗り、この島に住んでいる少年。 彼の黒き瞳が青緑色に光り輝けば、それは終わりが迫っている予兆だと。 そして、相手が不死身の吸血鬼だろうと何だろうと生きているなら一振りのナイフであらゆるモノを死へ至らめるとの事。
男は漸く本能が発していた警告を理解した。
この少年は不味いどころではなく、出会ってはいけないモノだと。
そんな事を脳裏に浮かべながら飛んでいた男は、鉄骨の柱に激しい音を立てて激突した。 男は白目を剥きながら意識を失い、人間の姿に戻った。
織は男に近づき意識を失っているのを確認すると、革ジャンのポケットからスマホを取り出してある人物に連絡を入れる。
『私だ』
「今逃げてた連中の最後の1人を確保した。俺が合流ポイントでやった構成員と脱出艇はどうしたんだ?」
『お前が捕らえた奴以外は全員連行したよ。脱出艇は今奴らの手がかりがないか調査中だ』
「………………」
『どうした織?』
「……っと悪い那月義姉。ちょっと月を見てぼーっとしてた」
『月?』
「ああ、あの草原で那月義姉と出会った時もこんな月だったなぁって思ってさ」
『あの日からもう9年か…………』
途端に会話が途切れた。もしかしたら向こうも自分と同じ様に月を眺めているのかと思い、少し静かに待った。暫くして今度は向こうから話しかけてきた。
『これ以上起きてたら明日に支障がでる。さっさとそいつをアイランドガードに引き渡して帰るぞ、織』
「りょーかい。すぐに行く」
織は通話を切って気絶した男を担ぎ、鉄骨に刺さったナイフを回収した。
この場から離れる前に、織は魔眼を開きながらもう一度空を見上げた。
地上はこんなにも死が満ちているのに雲ひとつない星空と月は、この世界に落ちてからもずっと、あいも変わらず輝き続けているなと思いながら織は眼を閉じて、暗闇の中へと戻って行った。