ストライク・ザ・ブラッド the Garden of sinners 作:蒼穹の命(ミコト)
ショッピングモールの入り口近くにあったゲームセンターに入った織と古城は、周りに怪しまれないように近くにあった巨人と怪獣のカードでプレイするアーケードゲームの二人プレイモードで共に遊ぶことにした。織は胸にZと付いた巨人と、その師匠で良い声をしてる青と赤の巨人、古城は赤と紫の巨人と、胸にXが付いたメカニカルな容姿をしている巨人の組み合わせとなった。(なお、使っているカードは織が持参したものである)
バトル相手はとある機体をベースにした、様々な怪獣の一部を体のあちこちに生やしている、歪かつ禍々しい姿をした怪獣を相手にしながら、チラリと横目で自分たちを尾行している少女の様子を伺った。店内に入って遊び始めてからずっと、彼女は未だに入り口付近でうろついていた。
「まだいるみたいだな……踏み込んでくるかと思ったんだが……」
「てかなんであの子、ここまで俺たちを尾けてくるんだよ」
「正確に言うなら、俺たちじゃなくて古城先輩を尾けて来てるんだよ」
「はあ⁉︎」
織の言葉に驚いた古城は、目にも止まらぬ速さで首を動かし、織の方へ顔を向けて大声をあげた。
「先輩大声出しすぎ、あと余所見しないで手元のボタン早く連打しろ! ガード成功しなきゃ死ぬ死ぬ!?」
「やっべ、うおおおお間に合えええええ!!」
話に気を取られて手元がお留守になったことでボタン押しが遅れたが、真祖になった影響で身体能力の飛躍的な向上していたため、尋常じゃない速さでボタンが連打されたことによってギリギリでガードは成功し、怪獣の攻撃を耐えれた。ガードが間に合ったことでホッと息をつきながら、改めて古城は織に話しかける。
「それにしても、なんで俺の後つけてくるんだよ?」
「ただの人間から真祖になるなんて前代未聞な事が起こった先輩に、周りが手を出さず放っておくと思うか?」
「そ、それは……」
ストレートに事実を後輩に叩きつけられた古城は再び少女の方へと視線を向ける。最初は、自分たちの姿を見失うのは避けたいが、店内に入ったらばったり顔を合わせてしまう可能性もあるのでどうすればいいのか迷っているように見えたが、それ以外にゲームセンターそのものをよくわからない得体の知れないものとして警戒しているようにも見えた。途方に暮れて立ち尽くす少女を観察していた古城は、まるで自分たちが彼女にひどいことをしているような罪悪感に襲われ、いたたまれない気持ちになった。
「なあ、織……」
「みなまで言うな先輩。連中が送り込んできた監視役にしては甘いというか……念のため、人通りの多い場所の近くまで移動してすぐに逃げれるようにすればいいだろ。さすがに人目がつく場所で手を下して大事にしたくはないだろうしな……なんにせよ、今はこの一戦を終わらせようぜ先輩」
「そうだな。ん? なんか急に戦闘BGMから変わってなんかの曲流れてきたぞ」
この後の方針を決めている時、アーケード台から流れてくるBGMからなにかの歌に代わっていたのに気づいた古城は、この曲がなんなのか織に尋ねた。
「この曲は俺が操作してる胸にZってついてる奴の主題歌なんだよ。この曲何度聞いてもいいな……本編も一話から最終回まで見どころ満載で最高だったし、30分とは思えないくらい出来が良かったからな。文句なしでおススメできる作品だから先輩もよかったら見てみたらどうだ? 今なら動画サイトで全話配信されてるし、コメントも面白いのたくさんあるぞ。なんだったらこれ以外の作品も良いやつたくさんあるから紹介しよ……」
「わかった、わかったから! 今度見てみるから一旦落ち着け!!」
主題歌について説明し始めたと思ったら、彼の中でスイッチが入ってしまったのか段々早口になり、自身の身内のマシンガントークのようになっていた。しかもそれでいてボタン押しのタイミングは正確であるのもまた気味が悪かったので古城は落ち着かせようとした。そのおかげか、織もハッ! と我に返った。
「あー、すまん先輩、つい語っちまってたな……」
「いやいや、別にいいって。にしてもお前特撮もの好きだったんだな。結構前から見てたのか?」
「まあな……」
確かに好きではあるが、きっかけになった経緯を考えると織は内心複雑な気持ちになった。かつて■■織であった頃、病室に備えられていたテレビでアニメと一緒によく見ていた、数少ない心の支えであった名残である。覚えているのが、見るのが好きだったという事実だけで、どの作品のなにが好きだったのかはもう思い出せなくなっていた。あくまで今ここにいるのは南宮織であって、もう自分は■■織ではない。だが、■■織の残骸を元に生まれたと思うと無性に胸の内がかき乱されてしまう。この世界に墜ちてから変わらぬこの思いと考えは、時が立てば受け入れてられると思っていたが、むしろ時がたつたびに強くなってきている。思考がまずい方向に行きかけていた織は古城に悟られないように話題を替えた。
「誰にだって好きなもんはいくらでもあるだろ? 先輩だとバスケだろ?」
「前はな。今の俺じゃもうバスケどころか運動系は気軽にはできねえよ……」
「なら俺が相手するさ。それなら別に問題ないだろ。あとは逆月のおっさんたちとかも大丈夫じゃねえかな。まあ今はユキノのおつかいで出払ってるから現状二人だけになっちまうがな」
「……まあ、気が向いたらな」
「よし言ったな、忘れんなよ先輩」
雑談をしながら、二人はラストアタックで必殺技ゲージをためるために再び超高速でボタンを連打して、四体の巨人の光線で怪獣を見事撃破した。ちなみに余談だが、ボタン入力の正確さと高速連打による影響でバトルの結果はぶっちぎりで全国一位のスコアをたたき出して一時期ネットで騒がれることとなった。
そうして、先ほど決めた方針で動くために店から出た矢先だった。
「
件の少女が突き出した手で派手に染められた長髪にミスマッチなホスト風の黒スーツを着た20代前後の男を吹き飛ばして壁に叩きつけ、それを見て呆気に取られていた吹っ飛ばれた男の相方と古城が視界に入ってきた。
アーケードで使ったカードをポケットにしまい、ブーツの紐が少し緩んでいたので結びなおしている僅かな間でなんでこんなことになっているのかわからず、眼を酷使していないのに織の頭が酷く痛くなった。だが問題はそれだけではなく、二人の男が手首には金属製の腕輪──魔族登録証を付けられていることで登録魔族であることがわかってしまった。基本、腕輪を付けている魔族は人間に危害は加えない。理由は単純、そんなことをしてしまえば特区警備隊の攻魔官たちが駆けつけて来るからである。だが、
「てめえ、攻魔師だったのか!!」
我に返ったもう一人のホスト風の男は逆上により、そのことは頭からすっ飛んでいた。魔族特区であるこの絃神市では攻魔師の活動は厳重な制限を設けているため、少し声をかけただけで手を出されるとは思いもよらなかったが故に、おのが内に秘めていた本性が恐怖と怒りと共に表に現れた。口から牙を出し、真紅に染まった瞳と敵意を少女に向けて。
「D種──!」
本能と共に変化した魔族の男の身体的特徴を見て少女は顔を険しくしながらうめいた。欧州にて多く見られる、忘却の戦王を真祖とする血族。様々な血族に分かれた吸血鬼の中でも世間一般に浸透している吸血鬼のイメージに最も近い。常人を遥かに超える身体能力と魔力耐性、無限の負の生命力による高い再生能力をもつ。これだけでも厄介なのに、吸血鬼はさらにもう一つ、魔族の王として恐れられる所以の、強い切り札を持ち合わせていた。
「──
魔族の男の絶叫と共に左脚から何かが吹き出した。それは鮮血に酷似していたが血ではない。陽炎の如く揺らめきながら燃え盛る黒炎であった。
その炎はさらに燃え盛りながら形を作り出し、やがて炎の妖馬が生まれた。その瞬間、男が左腕にはめていた登録証が、攻撃的な魔力を感知して辺りにけたたましい警告音を響かした。それにより、ショッピングモールやゲームセンターから来場客の避難を促すためのサイレンも鳴り響いた。
眷獣。これこそが吸血鬼が魔族の王として君臨している理由である、自身の血の中に従えし魔の獣。
姿や能力は様々あるが、力が弱かったとしても最新鋭の戦闘ヘリや戦車は凌駕できるスペックを持っている。旧き世代であるならば、小さな村を丸ごと消し飛ばせると言われている。
若い世代であるこの男の眷獣にはそこまでの力は持ち合わせてはいない。だが、この灼熱の妖馬が辺りを軽く走り回るだけでもショッピングモールは壊滅させる被害は出せるであろう。しかし、宿主である男自身は眷獣を出すのに慣れていないせいか顔色が悪くしていた。
「こんな街中で眷獣を使うなんて──!
背負っていたギターケースから、少女はそれを抜き放った。
それは楽器ではなく一振りの銀の槍。瞬く間に槍の柄はスライドして長く伸び、内部に格納されていた主刃が穂先から展開され、続いて穂先の左右にも副刃が展開されて、槍は完全な形を成した。
素人の古城でも、よくできた武器であるのは見てわかるが、超高密度の魔力の塊である眷獣を止めるには通常はそれ以上の魔力をぶつける以外は方法はない。だからこそ古城から見れば槍一本で立ち向かうのは無謀にしか見えなかった。
さすがにこの状況はまずいとわかってはいるが、どう止めればいいのかわからず途方に暮れていた古城の肩にポンッと手を置かれた。後ろを振り返ればいつの間にか自分の後輩がすぐ後ろに立っていた。
「おい先輩、これ一体どういう状況だ?」
「あー、あの二人組があの女の子にちょっかいかけてナンパしてたらやりすぎたのか、あの子が切れて一人吹っ飛ばしたって感じ、だな……」
「おいおい、いくらなんでも攻魔師から手を出すかよ……あの機関の連中、人選どうなってんだよ……」
尾行の下手さに加えてこの有様では、とても第四真祖の監視役とは思えない。が、今はそれよりもこの事態を収めるのが先決だ。
「この場は俺が収めるから、先輩はじっとしててくれ。俺はともかく先輩は下手に動いちゃいけない。今はまだ特区警備隊はまだ来てないから大丈夫だけど、万が一の事もある」
「……わかった。すまねえがまかせたぜ織」
「ああ、まかされた」
そうして織は古城の前に出て、一触即発の両者を止めるために前に向かって一歩踏み出した。
槍一本で自身に立ち向かう少女を見て、魔族の男は嘲笑した。得体の知れない力を使った攻撃で仲間を吹き飛ばした時は恐怖が湧いてしまったが、眷獣相手に太刀打ちできるような得物には見えなかったため、安堵しながら自分が勝つのを確信していた。
迫って来てる一人の存在に気付かずに。
襲い掛かってくる妖馬に突き立てようと槍を構えた少女の頭上を一つの影が過ぎる。
影──織はそのまま眷獣へと向かい、
「寝てろ」
眷獣の頭部を片手で掴み、地面に叩きつけて押さえつけた。
「なっ!?」
「お、俺の眷獣を素手で!?」
槍を携えた少女と吸血鬼の男は目の前で起きた出来事に唖然とした。素手で眷獣を押さえつけられている光景を見てしまえばそうなるのは無理もない。
「攻魔師だ。おとなしくしてもらおうか」
織は、眷獣を押さえつけたまま魔族の男に攻魔師の証であるCカードを見せながらそう告げた。織の発言とカードを見て、男は急激に頭が冷えて冷静になって必死に言い訳をし始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? 先に手を出してきたのはそこのガキだぞ!! 取り締まるんならそいつからだろ!!」
「えっ!?」
指を差しながら、自分に罪を擦り付けてきた男に、言われた少女は言い返そうとしたが、先ほどのことを思い返しみた。経緯はどうであれ先に攻撃を仕掛けたのが自分なのは確かな事実のため、顔を曇らせた。
「だとしても、街中で眷獣を使うのは違反だぞ。それに加えて攻魔師であるとはいえ、女子学生に向けていいモンじゃねえだろうが」
「そ、それは……」
「とにかくまずはこの眷獣しまえ。いいな?」
「あ、ああ……戻れ、灼蹄」
そうして織に押さえつけられていた妖馬は主の命令に従って還っていった。それを見届けた織は、次に少女の方へと振り向いた。
「お前もその槍さっさとしまえ。こんなことのために使う物じゃねえだろうが」
「は、はい……すいません」
織の言葉を聞き、少女の方も頭が冷えて冷静になったのか、申し訳なさそうに謝罪した。
「まったく……まあ先輩から話聞いた限りだと殴られる原因作ったのこの二人みたいだしな。これに懲りたならもうやるんじゃねえぞ。今回はまだ穏便な方だが、次やったら……どうなるかわかってるよなぁ?」
「は、はい!! 以後このようなことが起きないようにします!!!」
「よろしい」
再び男の方に向きながらスイッチを入れた眼で圧をかけながら釘をさし、魔族の男はそれに当てられて冷や汗をだらだら流しながら反省の意を示した。
それを見ていた古城は自身の担任教師であり、織の義姉の那月が何故か頭に過ぎった。
「俺はこの二人を警備隊に引き渡しに行くから、先輩はその子と一緒に待ってろ。終わったらそいつを逆月に連れていく。そこなら誰かに話聞かれる心配ないからな。おまえも、ここまでやらかしたんだから、俺の言うこと聞いてくれるよな?」
「は、はい! 本当に申し訳ありませんでした……」
「謝罪は一度だけで十分だ。じゃ、ちょっと待ってろよ」
織は男二人を連れて(気絶していた男は担いだ)一旦この場を立ち去った。
織が戻ってくるまでの間、静寂が漂い、気まずい空気になっているのをどうにかしたいと、古城は先ほどの件についてフォローしようとして少女が手を出した原因を見てしまったことについて口を滑らせてしまい、少女が激昂して再び槍を出そうとして軽いひと悶着あったのは余談である。
前半まるっきり趣味全開やし、久々の投稿だからビクビクしてるマン。
次話もなるべく早くあげたい……