ースカリエッティsideー
ここは機動六課が追っている次元犯罪者、『ジェイル・スカリエッティ』が作った洞窟のラボにある研究室では、ソファに座ったスカリエッティが空中に表示された大型モニターで、ガジェットから送られてくるホテル・アグスタの様子を見ていた。
と、ソコで研究室に入ってくる黒衣の男。
「新型ガジェットも投入するのかい?」
「ええ。前回は『霧の炎』によるステルス機能のテストでしたが、今回は『他の炎』を加えた機体を使っての実験です」
「その相手になるモルモットちゃんは?」
「八神はやての守護騎士達ですね」
「ふぅん。シグナムちゃんとヴィータちゃんはボケてるけど、ザフィーラくんは結構やるようになってるよ」
「それも想定通りですよ。ーーーーさて、“8年も『温室』の中でヌクヌクしていた者達に、現実を見せてあげましょう”」
スカリエッティは凄絶な笑みを浮かべた。
ーティアナsideー
その頃、外回りをしているスバルとティアナは別々の場所を警備しながら念話で会話していた。
《それにしても、今日は八神部隊長の守護騎士団、全員集合か~》
《そうね・・・・アンタは結構詳しいわよね? 八神部隊長とか副隊長たちのこと》
《うん。『父さん』や『ギン姉』から聞いた事くらいだけど、八神部隊長の使ってるデバイスが魔導書型で、それの名前が『夜天の書』っていう事。副隊長達と、シャマル先生、ザフィーラは八神部隊長個人が保有してる特別戦力だって事。で、それにアインス曹長とリィン曹長を合わせて7人揃えば無敵の戦力って事》
スバルはちょうど近くで魔法陣を展開して警戒しているリィンを見ながらティアナに自分の知っていることを伝える。
《ま、八神部隊長達の詳しい出自とか能力の詳細は特秘事項だから、私も詳しくは知らないけど・・・・》
《・・・・レアスキル持ちの人はみんなそうよね・・・・》
《ティア、何か気になるの?》
ティアナの言葉にスバルは首を傾げる。
《別に・・・・》
《そう? じゃあまた後でね》
そう言ってスバルは念話を切った。途端に、ティアナは表情を少し険しくさせた。
「(六課の戦力は、無敵を通り越して明らかに異常だ。八神部隊長がどんな裏技を使ったのか知らないけど、隊長格全員が『オーバーSランク』・・・・副隊長でも『ニアSランク』・・・・他の隊員達だって前線から管制官まで未来のエリート達ばっかり。あの歳でもう『Bランク』を取ってるエリオと、レアで強力な『竜召喚士』のキャロは2人ともフェイトさんの秘蔵っ子。危なっかしくはあっても潜在能力と可能性の塊で優しい家族のバックアップもあるスバル。そしてーーーー謎の炎を使うツナ達・・・・)」
ティアナは、訓練で見せたツナ達の実力に焦燥感が生まれる。
「(まるでガジェット達の動きを予測しているような動きと、フェイト隊長クラスのスピードを出すツナ。そのツナと互角の戦闘力とスピードだけでなく、重力を自在に操るエンマ。趣味は悪いけど、あらゆる銃弾を戦況に応じて使い分ける獄寺。シグナム副隊長と互角の剣技を使う山本。スバル以上のタフネスと突進力を持った笹川。それに、ヴィータ副隊長曰く、ペットであるナッツ達も、強力な能力を隠しているって言っていた。それに、他にも三人の守護者がいて、中にはシグナム副隊長とヴィータ副隊長の二人を同時に相手をして互角以上に戦える人もいるって。・・・・どう見ても、私がこの部隊で一番の凡人だ・・・・)」
ティアナの心の中に劣等感が、まるで染み汚れように生まれ、徐々に広がる。
「(だけど、そんなの関係ない! 私は、立ち止まるわけにはいかないんだ!)」
ティアナは雑念を払うように頭を振ると、警備に戻った。
ー???sideー
少し時は遡り、ホテル・アグスタから数十キロも離れた森の中に、フード付きのコートを着た壮年の男性とエリオやキャロくらいの年齢の幼い少女の二人が手を握り、静かに立っていた。
「・・・・あそこか。お前の探し物はここにないのだろ? 何か気になるのか?」
「・・・・うん」
男の問いに少女は頷いた。
すると、少女の指に虫のような機械が止まり、何かを伝えようたしているかのように身体を動かすと、少女はそれを理解したのようで、男に伝える。
「ドクターの古いオモチャと『新作のオモチャ』が・・・・近付いて来てる、って」
ーシャマルsideー
そして、ホテルの屋上で警備をするシャマルの指に嵌められた指輪型デバイス『クラールヴィント』が光を発する。
「っ! クラールヴィントのセンサーに反応。シャーリー!」
《はい!・・・・来た来た・・・・来ましたよ!》
《ガジェットドローン陸戦Ⅰ型。機影30・・・・35
・・・・》
《陸戦Ⅲ型・・・・2、3、4・・・・》
徐々に、敵であるガジェットの数が増えていき、ロングアーチ達の声に緊迫感が現れる。
ーシグナムsideー
その連絡を受けたシグナムは一緒に居たエリオとキャロに指示を出す。
「エリオ、キャロ、お前達は上へあがれ。ランスターの指示で、ホテル前の防衛ラインを設置する」
「「はい!」」
「ザフィーラは私と迎撃に出るぞ」
「心得た」
ザフィーラがいきなり声を発した事に二人は驚く。
「ザフィーラって、喋れたの?」
「びっくり・・・・」
「守りの要はお前たちだ。頼むぞ・・・・」
「う、うん!」
「がんばる!」
ザフィーラにそう言われ、二人は緊張気味に答えた。
「シグナム。山本と笹川を呼ばんのか?」
「あの二人が来るまでもない。ガジェット程度なら我らで対処できる」
「・・・・しかし油断するな。前回高町とテスタロッサを襲った新型のガジェットも現れるかも知れん」
「分かっているさ」
そう話をして、二人はガジェットへと向かった。
ーティアナsideー
《前線各員へ。状況は広域防御戦です。ロングアーチ1の総合回線と合わせて私、シャマルが現場指揮を行います!》
「スターズ3、了解!」
「ライトニングF、了解!」
「スターズ3、了解!」
各々が外へと向かっていく中、ティアナは魔力によるアンカーを使いシャマルの近くまで行って、前線のモニターを貰い戦闘に備える。
「シャマル先生! 私も状況を見たいんです! 前線のモニター、貰えませんか?」
《了解。クロスミラージュに直結するわ。クラールヴィント、お願いね》
[ヤー]
クラールヴィントにキスをすると、シャマルはバリアジャケットを展開し、シグナムとヴィータに念話を送る。
《シグナム。ヴィータちゃん。出撃よ》
《おう、スターズ2とライトニング2・・・・出るぞ!!》
シグナムとヴィータはバリアジャケットを展開し、ガジェットの迎撃へと向かった。
その様子を、スバルとティアナは空間モニターで見ていた。
ヴィータの鉄球が正確にガジェットを貫き、ザフィーラの堅い守りと鋭い攻撃で敵の行く手を阻み、シグナムの力強い一閃で斬り伏せていく。
「副隊長たちとザフィーラ、すごーい!」
スバルは素直に感心するが、ティアナだけが浮かない表情をしていた。
「これで、能力リミッター付き・・・・!」
副隊長達と自分との力の差を見せ付けられたティアナは拳を強く握った。
ー???sideー
その頃、戦場から離れた場所でシグナム達の戦いを静観してる壮年の男性と幼い少女の二人組の前に、空間モニターが出現すると、ジェイル・スカリエッティの姿が映し出された。
《ごきげんよう。『騎士ゼスト』、『ルーテシア』》
「・・・・ごきげんよう」
『・・・・何の用だ?』
少女、『ルーテシア・アルピーノ』は無表情で、壮年の男性、『ゼスト・グランガイツ』はあからさまに嫌な顔をしている。
《冷たいね。近くで状況を見ているんだろ? あのホテルに『レリック』はなさそうだったが、実験材料として興味深い骨董があるんだ。少し協力をしてはくれないかね? 君達なら、実に造作も無いはずなんだが・・・・》
「断る。『レリック』が絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ」
ゼストはきっぱりと断るが、スカリエッティは交渉相手をルーテシアに変える。
《・・・・ルーテシアはどうだい? 頼まれてくれないかな?』
「・・・・いいよ」
《優しいなぁ、ありがとう。今度ぜひお茶とお菓子を奢らせてくれ。君のデバイス『アスクレピオス』に私が欲しい物のデータを送るよ》
彼女の両手に嵌められている紫の宝玉が付いたグローブ型デバイス、『アスクレピオス』を一瞥して、再びスカリエッティに眼を合わせる。
《あぁそれと、現在機動六課の協力者達のデータも見せるよ》
スカリエッティの画面の横には、ツナ達の顔写真が表示された。
「このような少年達が、機動六課の協力者だと?」
「・・・・この子達に会ったら、どうすればいい?」
《逃げてくれ》
「「っ!」」
普段の人を食ったような態度のスカリエッティとは真逆の、神妙かつ真剣な眼と声に、二人は息を詰まらせた。
《彼らと遭遇したら、戦おうとせず逃げる事のみに専念してくれ》
「そんなに脅威となるような少年達には見えないが・・・・」
《・・・・もしそう見えるならば、騎士ゼスト。貴方の目は節穴か、耄碌していると言わざる得ないな》
「・・・・何だと?」
スカリエッティの言葉に、ゼストは怒気を含ませるが、スカリエッティはまるで臆せず断言するように言葉を続ける。
《彼らは強い。機動六課の高ランク魔導師処か、管理局の魔導師共などまるで足元にも及んでいない。君達は大切な協力者だ。彼らと戦って失う訳にはいかない。だから忠告をしているのだよ。分かったかね?》
「・・・・うん、分かった。じゃぁ、ごきげんよう、ドクター」
《あぁ、ごきげんよう。吉報を待っているよ》
空中モニターが消えて通信が終わると、ルーテシアはローブを脱いでゼストに渡すと、準備を始めた。
「いいのか?」
それを受け取りながらゼストは尋ねる。
「うん。ゼストや『アギト』はドクターを嫌うけど、私はドクターの事そんなに嫌いじゃないから」
「そうか・・・・」
会話が終ると、ルーテシアは魔法を行使し始める。デバイスの宝玉が輝き、足元には魔法陣が展開してーーーー。
「我は・・・・乞う」
詠唱を始めた。
ーティアナsideー
「遠隔召喚、来ます!」
キャロが何かに気付き声を上げた瞬間、浮かび上がった4つの魔法陣から数体のガジェットが出現した。
「あ、あれって召喚魔法陣!?」
「召喚魔法ってこんな事も出来るの!?」
「優れた召喚士は転送魔法のエキスパートでもあるんです!」
スバルとエリオが驚き、キャロが詳しく説明した。
「何でもいいわ。迎撃行くわよ!」
「「「おう!」」」
ティアナの指示に三人が頷くと、ガジェットと交戦を始める。スバルが拳でガジェットを破壊し、キャロがフリードの炎で攻撃する。
そんな中、特に活躍しているのが、意外にもエリオだった。
「はぁあああああっ!!」
一体のガジェットを破壊したらすぐに他のガジェットに向かう、持ち前のスピードを生かしたヒット&ウェイ戦法を繰り広げた。
「エリオくんスゴい!」
「絶好調じゃん!」
「(まだだ! ツナ兄ぃ達はもっと速く! もっと鋭い!)」
スバルとキャロが驚嘆するが、エリオの脳裏には、ツナ達の訓練姿が思い上がり、まだソコに到達していない事とエリオは痛感していた。
少しでも兄貴分達のいる場所に届くように、動きに更なるキレを生み出していった。
「(何よ・・・・エリオのヤツが一番活躍しているじゃない・・・・!)」
ティアナは劣等感を感じ、クロスミラージュを強く握る。
「(今までと同じだ・・・・証明すればいい。自分の能力と勇気を証明する・・・・アタシはそれでいつだってやってきた!)」
心の中でそう決意したティアナは再びクロスミラージュを構えるのであった。
ー???sideー
その頃、ホテル・アグスタの地下駐車場にて。
「うぐっ・・・・!」
一つの『黒い影』が警備員を気絶させ、トラックの積荷の一つを持ち去ろうとしていた。
するとーーーー。
「おっと待った」
「極限に誰だ?」
『っ!?』
突如声が響いて『黒い影』がそちらを見ると、そこには、山本と了平が立っていた。
「リボーンの読み通りだったな」
「【敵が正面からやって来たならば、裏側の方を最も警戒しておけ】、ってな!」
『晴れグローブ』を叩き合わせたり、『時雨金時』を正眼に構えた。
次回、原作ではティアナが暴発してしまいますが、その他に、再び脅威が迫りくる。