ーなのはsideー
「ん・・・・う、ん・・・・」
「あ、なのはちゃん、目が覚めた?」
「シャマル、さん・・・・私、一体・・・・」
ツナとなのはの戦いから数時間後の医務室、ベッドの上で眠っていたなのはが目を覚まし、そんな彼女の顔をシャマルが覗き込む。
「っ・・・・! わ、私・・・・! 私・・・・!!」
上体を起こしたなのはは、自分のやらかした事が次々と甦った。
ティアナが自分の『教導の意味』を理解していなかった事に頭にきて、撃墜しそうになった事。
八年前のツナに、まるで手も足も出ず完敗した事。
自分が間違っている事実を受け入れられず、盛大に暴走し、訓練場を滅茶苦茶にしてしまった事。
自分を責め苛み、羞恥と忸怩、そしてかつて無い挫折感と敗北感に討ちひしがれそうになるなのはの脳裏に、ティアナとスバルの事が頭に浮かんだ。
「っ、そうだ! スバルは!? ティアナは!?」
「シーっ、スバルちゃんとティアナちゃんなら、横のベッドで眠ってるわよ」
そう言ってシャマルはなのはのベッドの横で眠る、ティアナとスバルを指差す。ティアナは姿勢正しく眠っているが、スバルは寝相が悪く、毛布が下に落ちそうになったのをシャマルが直した。
「あ、ごめんなさい・・・・二人の容態は?」
「大丈夫よ。隼人くんも手加減してくれたみたいだから、二人とも軽傷で済んでいるわ。・・・・正直、なのはちゃんの方が重体に思えるわ。録に休んでいなかったんでしょう。身体に結構な疲労が貯まっていたわよ」
「うぅ・・・・」
シャマルが半眼でそう言うと、なのははばつの悪い顔で視線を反らした。シャマルはため息混じりに声を発する。
「リボーンさんから伝言よ。【なのは。お前、“八年前からまるで成長していないな”】」
「っ!」
「【あの事故は、なのはの自己管理不足と、フェイト達がなのはに頼りっきりになっていた事が最たる要因だ。頑張るのは良いが、自分の事もちゃんと大事にしやがれ】ーーーーですって」
頭を鈍器で殴られたかのような衝撃があるリボーンの伝言に、なのはは目を見開く。
「・・・・そう、ですね。私、何にも、成長していなかった・・・・」
目を潤わせ、涙を流しそうになるなのはに、シャマルは「嫌な役を押し付けられたなぁ」って気持ちになりながら続ける。
「・・・・あの後大変だったのよ。氷付けになったなのはちゃんをどうしようかと思っていたら、10代目達が死ぬ気の炎であっという間に溶かして、それからなのはちゃんは熟睡。もう二日も経ったんだから」
「二日も、ですか・・・・」
「その間、フェイトちゃんが10代目に果たし合いまでして」
「フェイトちゃんが!?」
親友のなのはが彼処までボロボロに叩きのめされ、更には氷付けにされたのだ。直情型のフェイトが大人しくしている筈がない。
「ええ。でも、エンマくんが代わりにフェイトちゃんの相手をする事になったのよ。リボーンさんの口八丁でね。意外だったのは、なのはちゃんが氷付けにされたのに、ヴィータちゃんが凄く落ち着いてて、しかもエンマくんに、【フェイトの奴も、結構天狗になって図に乗ってるから、下手な情けかけないで圧倒してやれ】って言い出しちゃって」
「ヴィータちゃんが? そ、それで・・・・フェイトちゃんとエンマさんの勝負は・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「シャマルさん?」
なのはの問いに、シャマルは言いづらそうに渋面を作るが、観念したよくに口を開く。
「開始0.7秒、空中で『大地の重力』を受けたフェイトちゃんが地面に一瞬で叩き落とされ、そのまま気絶。異例の惨敗だったわ」
「れ、0.7秒・・・・」
あまりにも刹那的な敗北になのはは頬をひきつらせた。
「リボーンさんがさらに追い討ちをかけるように、【流石は時空管理局最速の魔導師。敗北するのも最速だな♪】、ですって」
「うっわ~・・・・」
また強烈な皮肉になのははさらに頬をひきつらせる。
「そこまで言われて、当初の目的を忘れたフェイトちゃんがエンマくんに再戦を挑んだの。今度は空中ではなく地上でね。ーーーーでも、結局『大地の重力』でその場に倒れさせられ、魔力弾も重力の影響で撃っても地面に落ちるだけになって、さらに重力を強くして地面にめり込んでフェイトちゃんが気絶したの」
「・・・・・・・・・・・・」
「涙目になったフェイトちゃんが、エンマくんに頭を下げて『大地の重力』無しで再戦を頼んでね・・・・」
遂にハンデまで要求したようだ。
「それでも重力操作で魔力弾を無力化させられて距離を空けようとしても、引力で引き寄せられ、拳を叩き込まれて敗北したの。フェイトちゃん、攻撃力とスピード重視だから防御力が弱いからね」
「・・・・・・・・・・・・」
「最後はフェイトちゃん、もう半泣き状態で【重力操作も抜きでお願いします・・・・!】って、エンマくんに土下座までしてまた再戦して貰ってね・・・・」
ソコまでハンデを懇願するとは、最早プライドの欠片も粉砕されてしまったフェイトに、なのはは憐憫の気持ちになる。
「それで漸く善戦できるようになったけど、結局三分後には敗北。しかもエンマくんはほぼ無傷でね。リミッター付きなんてまるで言い訳にもならない位に清々しい程だったわ」
「・・・・・・・・」
ついでに、最後の一戦でエンマがフェイトのスピードをすぐに見切ってしまい、何故こうも簡単に見切られたのか腑に落ちないフェイトがエンマに問うと。
【正直、ツナくんの方が速いから】
【ぐはっ!!!】
と言われ、唯でさえなのはとの戦いで気にしていたのもあり、フェイトはまるで、その豊満な胸にバルディッシュ・クレッセントフォームが深く突き刺さったような衝撃に身悶えた。
「・・・・さっきまで医務室の隅で体育座りで落ち込んでいたし。あ、一時間くらい前に出ていったけど」
「フェイトちゃん・・・・」
「唯一の救いは、エリオくんとキャロちゃんが見ていなかったって所ね。あの二人の前でそんな姿を晒していたら、きっとフェイトちゃん立ち直れなかったでしょう」
「・・・・それで、ツナさんは?」
自分と戦ったツナの身を案じるなのはに、シャマルは苦笑しながら答える。
「大丈夫よ。六課内で納められる問題だから。でも、なのはちゃんは訓練場を滅茶苦茶にした責任として、五日間の謹慎処分になっちゃったけどね」
「“五日の謹慎”・・・・」
酷く優しい処分だ。あんなに派手にやらかしたのだから本来ならばもっと重い罰則を課せられていても可笑しくないだろう。
「ヴィータちゃんが色々とフォローしてくれたのよ」
「ヴィータちゃん、が・・・・?」
あの短気なヴィータがそんな事をするだなんて、なのはは以外そうに目を見開いた。
「ええ。何かヴィータちゃん、ホテル・アグスタの一件から、妙に顔つきと言うか雰囲気が、何て言うかーーーー『大人』になったって感じがするわね・・・・」
と、その時、医務室の扉が開くと、リボーンが入ってきた。
「ちゃおっす。起きたようだな、なのは」
「っ、リ、リボーンくん・・・・」
先ほど伝言で手痛い説教を浴びた手前、気まずいなのは。リボーンはそんななのはの心情に構わず、なのはのベッドの側にあった椅子に腰かける。
「シャマル。悪いが、席を外してくれ。ザフィーラもな」
「ええ」
「うむ」
「っ・・・・!」
なのはは内心、行かないで! と叫ぶが、二人はご愁傷様と会釈して、部屋から去っていった。
二人が退室すると、リボーンが口を開く。
「さてなのは・・・・まさかと思うがオメエ、教導官をーーーーいや、『管理局を辞める』だなんて言うつもりじゃねえだろうな?」
「っっ!!」
なのははギクッ! と言わんはがりに身体を震わせた。リボーンはそれを見て、盛大にため息を吐いてから話を繋げる。
「全く、オメエは悪い所は父親である士郎譲りだな」
「えっ? お父さん?」
「ああ。不器用な所が特にな。ーーーー八年前、オメエが撃墜しちまって、士郎の奴、【なのはを管理局に入れるんじゃなかった・・・・】って、腑抜けた事を抜かしやがったからな。一発殴ってやったんだ」
「えっ!? 殴ったの!?」
「ああ。昔のアイツなら片手で余裕で止められる程度のパンチをな。あの腑抜けめ、間抜けヅラを晒して受けちまってな、地面をゴロゴロと転がって、それはもう情けない姿だったぞ。ーーーー犯罪者と戦う以上、管理局が安全な組織である筈がねえ。すっかり平和ボケしちまいやがってって、ラル・ミルチもコロネロも呆れ果てていやがったな」
「・・・・・・・・」
なのはは何とも言えない顔になる。
「士郎は昔、仕事で大怪我を負って、それが原因でお前に寂しい思いをさせちまった負い目から、お前の言う事は何でも聞くようにしていたな?」
「う、うん・・・・」
なのははその時、視界の端に『魔法と出会う前の幼い自分』の幻影が見えた。
「だがな、それはただお前と向き合う事から、“逃げていただけだ”」
「えっ・・・・?」
「本当にお前の事を思っているなら、ハイハイ言う事を聞くんじゃなくて、本気で向き合わなければならねえ。アイツはそれをしないでずっと逃げていたんだ。今のお前がやろうとしている事も同じだぞ」
「うっ」
リボーンの言葉に、なのはは息を詰まらせた。
「大方、『あんな事をした自分に教導官の資格なんてない~』。だの、『自分の初心を忘れて教え子を痛め付けようとした責任を取る~』。だの、それらを言い訳にして、逃げようとしているだけだろう?」
「ち、違っ・・・・・・・・うん。多分、そうなの」
否定しようとするが、リボーンの目に見据えられ、観念したように口を開いた。
「なのは。お前の悪い所は、自分で自分を勝手に評価する所だ。それがお前の一番の傲慢な所だ。資格がないだの、責任を取るだの、そんなカッコつけた言い訳して逃げようなんてするんじゃねえ。例え逃げたとしても、お前のそれからの人生は、ずっと後悔と罪悪感と自己嫌悪に苛まれる道だ」
「え・・・・」
「失敗して、敗北して、挫折した人間が逃げる事はある。だが、そうなったらもう二度と這い上がれねぇ。ソレらを受け入れて、這い上がっていけば、今よりも強くなれる筈だぞ。ーーーーなのは、逃げるな。這い上がれ。そしてFW陣の奴等をちゃんと教導してやれ。それが、『責任』を取るって事だ。自分の『失敗』と本気で向き合え。『敗北』を素直に受け入れろ。そこから『一歩』を踏み出して、『前』に進め!」
「・・・・でも・・・・」
向き合う勇気。受け入れる勇気。そして一歩を踏み出す勇気。それらが持てないなのはは、顔を俯かせた。
ーーーーその時、脳裏にツナの姿が浮かんだ。
「・・・・ツナさんに・・・・」
「ん?」
「ツナさんに、会いたい・・・・」
八年前、あの時も、うちひしがれそうになった自分を、ツナは暖かく抱き締めてくれた。あんな大喧嘩をした後にこんな事を言うのは都合が良すぎるのも十分に分かっている。
だが、それでも、頬に一筋の涙を流すなのはは、ツナに会いたいと言った。
リボーンはそんななのはに、小さく笑みを浮かべると。
「隊舎の屋上にいるぞ」
「えっ?」
「行ってこい」
「・・・・・・・・うん!」
なのははベッドから降りると、二日も寝ていて少し身体がふらつくが、それでも歩き出した。
ーリボーンsideー
なのはが部屋を出ていくと、次にシャマルとザフィーラが部屋に入ってきた。
「少し、厳しいんじゃないですか?」
「守護騎士<オメエら>やリンディやクロノ、八年間も周りが甘やかし過ぎたんだぞ。なのはだけでなく、フェイトやはやてもな」
「それを言われると・・・・」
渋面を作り、言い返せなくなったシャマルとザフィーラを尻目に、リボーンはティアナとスバルが寝ているベッドの間に行くと。
「さて、オメエらもーーーーいつまで狸寝入りしてやがる!」
ーーーースパン! スパン!
リボーンがレオンをハリセンに変えると、ティアナとスバルの頭を叩いた。
「きゃっ!」
「あうっ!」
叩かれた二人は飛び起きて、オデコを擦った。
「あいたたたた・・・・」
「あははは、バレてた?」
「途中から寝息が聞こえなかったからな。ーーーー何処から聞いてた?」
「・・・・なのはさんが教導官を、管理局を止めるって話が出た時に、ね」
「・・・・スバルが飛び起きそうになったのを、念話で止めたわ」
「ファインプレーだな、ティアナ。さて、お前も“話をしなくちゃいけないヤツ”がいるだろ?」
「・・・・ええ」
ティアナがリボーンの言葉に頷くと、倦怠感のある身体を動かして、『ソイツ』のいる場所へと向かおうとする。
「アイツは隊舎の庭だぞ」
「(コクン)」
そしてティアナは、ゆっくりと歩いていった。
「青春だな」
「青春ですねぇ」
リボーンとスバルが微笑ましく笑みを浮かべ、シャマルとザフィーラも笑みを浮かべていた。
「良いわね、若いって」
「シャマル先生、おばさん臭いですよ?」
「(グサッ!)うっ!」
スバルの悪意の無い言葉の刃が、シャマルの豊満な胸に突き刺さり、シャマルは膝を付けて呻いた。
しかし、考えて見てほしい。10年前にはやてによってこの世界現れたシャマルは二十代前半、あれから10年経っているので、シャマルの年齢は・・・・。
「(ギロリっ)それ以上言わないで・・・・!」
シャマルが、何処かに凄まじい圧力の視線を向けるのであった。