星がこぼれる音を聞いたから   作:おかぴ1129

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5. おみやげ

「うぇーいていとくー……」

「やれやれ……」

 

 晩餐会が終わって2時間ほど経った頃。俺達はラーメン屋を出て家路についたわけだが……その頃には隼鷹はすっかりアルコールが回っているみたいで、前後不覚で歩くのもままならない状況に陥っていた。

 

「……たく、淑女じゃないのかお前は……」

「ダハハハハ……隼鷹さんはあんたに似合う淑女だよー……なんせ必ず帰ってくるからねー……」

「はいはい……」

 

 仕方がないので肩を貸して歩くことにする。近づくとなんだかいい匂いがする気がするが、できるだけ考えないようにする……考えないようにするだけだ……。

 

「……ほら、肩貸してやるから」

「やらー! ていとくのえっちー!!」

「だったらべろべろになるまで酔っ払うなよ……」

 

 口では『いやだ』といいながらも、意外と素直に俺に身体を預けてきやがった。隼鷹の左手を俺の首にかけ、右手で隼鷹の腰を支えて歩いた。

 

「……」

「……」

 

 一歩一歩歩くごとに、俺の耳に届くキラキラとした音。

 

「……」

「……手ぐらい握ってよ」

 

 俺の首にかけている隼鷹の左手が、それを掴んで支えている俺の左手を掴んできた。お互いの薬指にある指輪同士がカチカチと当たる。

 

「握ってたら隼鷹を支えられないだろ?」

「あたしには無理矢理手を繋がせたのに……」

 

 それは仕方ない。なんせ社交界のマナーを守らなきゃいけないという使命があったわけだから。しかし人ひとりを担いで歩くなんてけっこう大変だろうと思ったのだが……。

 

「……」

「……」

 

 思った以上に楽だ。隼鷹って意外と小さいんだなぁ……

 

「……おんぶしてよ」

「バカ言うなよ……ドレスのお前をおんぶなんかできないって……」

「お姫様だっこしてよ」

「それこそ鎮守府までだっこできる自信がない」

「ひどっ……」

 

 しかたないだろう。俺はデスクワークと頭脳労働が専門で体力に自信ないんだから……出来るならやってる。

 

 不意に身体にかかる負担が大きくなった。突然のことで身体が反応できず、ついふらふらとしてしまうが、隼鷹を支えている手前、倒れてしまうのはなんとかこらえる。

 

「うおっ……」

 

 どうやら隼鷹が完全に俺に身体を預けてきたみたいだ。ここまで来たら仕方ない……ロングスカートならなんとかなるかもしれん。俺は隼鷹をおんぶしてやることに決めた。

 

「隼鷹」

「んー?」

「ほら。分かったから。おんぶしてやるから」

「んー」

 

 俺の言葉が理解できているのかどうかいまいち疑わしい声で隼鷹は返事し、俺から一度離れて背中にしがみついてきた。

 

 しがみついた隼鷹の両足を取る。スカートは思ったよりも幅広く作られていたようで、なんとかスカートの生地越しに隼鷹の足をつかむことが出来た。これなら中が見えるということはないだろう。

 

「誰も見てないって」

「そういう問題じゃない。俺が嫌なの」

「なんで?」

 

――星がこぼれる音をだれにも聞かれたくないから

 

「気分的にヤだろ」

「ふーん……」

 

 思った以上に軽い隼鷹に驚きつつ、鎮守府を目指して歩いた。肩を貸して歩いている時よりも足取りが軽い。やっぱりこっちのほうが歩きやすいってことか……。

 

「ねー……ていとくー……」

「んー?」

「このまんまさ。どっか行こうよ」

 

 俺にしがみついている隼鷹の手に、少しだけ力が入った。指輪をつけた左手が、俺の右肩をギュッと掴んだのが分かった。

 

「どこへ?」

「どっか」

「……もうどこも開いてないよ。お前ももう眠いだろ?」

「うん」

「飛鷹も待ってる。帰らなきゃ」

「……うん」

 

 俺の顔のすぐ横にある隼鷹の顔を見た。酒のせいなのか……それとも何か別の理由があるのかはわからないが、隼鷹の顔は少し赤かった。目がトロンとして眠そうだ。俺におんぶされて歩く必要が無くなったからか、うつらうつらして無防備な顔をさらけ出してやがった。

 

「ていとく……」

「んー?」

「……あたしでよかったの?」

「いいもクソも、お前が最初に名乗り出てくれたんだろ?」

「そうじゃ……なくて……」

「んー?」

「あたし……は……」

 

 別に考えてる様でもないが言葉がとぎれとぎれになり、そしてついに途絶えた。ラーメン屋でビールと餃子をかっくらう淑女は、ついに夢の世界にログインしてしまったらしい。

 

「おやすみ隼鷹」

「スー……スー……」

 

 その後約一時間かけて、おれは歩いて鎮守府にたどり着いた。

 

「あ、提督おかえり」

「おかえりだクマー」

 

 もう深夜だというのに、執務室には明かりがついていた。飛鷹と球磨が俺と隼鷹の帰りを待っていたらしい。

 

「なんだお前ら。寝てないのか」

「迷ったけどね。でも待ってて正解だったわ」

「おみやげはないクマ?」

「飲んだくれて眠りこけた淑女なら持ち帰ってきたぞ」

「残念。食べ物が欲しかったクマ……」

 

 隼鷹を背中におんぶしたまま、つい3人で立ち話に興じてしまう。隼鷹は……

 

「スー……スー……」

 

 よかった。起きてはいない。無防備な顔を晒して気持ちよさそうに寝てやがる。

 

 飛鷹が俺のそばまでやってきた。

 

「……」

「スー……スー……」

 

 そしておれが背負っている隼鷹の髪を撫で、俺達が出発するときに見せていた、小春日和のような温かく優しい笑みを浮かべ、隼鷹に優しく語りかけていた。

 

「楽しんできたみたいね。……よかったわね隼鷹」

 

 その顔は、ドレスを着た姿ではじめて俺の前に姿を見せた時の隼鷹と、驚くほどよく似ていた。

 

「……あなたは?」

「ん?」

 

 でも、俺の耳には星がこぼれる音は聞こえなかった。

 

「あなたは晩餐会、楽しめた?」

「ああ。お前が言ったとおりだった。隼鷹が完璧にフォローしてくれてな」

「でしょ?」

「おまけに陸軍の人とも仲良くなれた。とても楽しい晩餐会だった」

「……」

 

 飛鷹は一度うつむき少しだけ間を置いたあと……

 

「……」

「?」

「よかったわ」

 

 顔を上げて俺をまっすぐ見つめながら、満面の笑顔でそう言った。

 

「隼鷹、綺麗だクマー……」

 

 そしてその時の飛鷹の目は……なぜか先程よりも、少しだけキラキラと光っているように見えた。

 

 

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