インフィニット/ストラトス 《GOLDBURN》 作:ビブロス
転校生とは何か。いつも見慣れた教室に変化を訪れさせる風であり、それは美少女が到来するイベントである。などと霧島は学園のパソコンにエロゲーをインストールしながら言っていた。
すぐに千冬姉にバレて追っかけ回されていたけど。まぁ、話を戻す。おいおい、夏休み入ってないぜ?というこの5月の終わりごろに我が一組に転校生が入ることとなったのだ。
驚くことに金髪の美″少年″だった。
「シャルル・デュノアです、よろしくお願いします」
彼は朗らかな笑顔で自己紹介をした。それと同時にクラスの女子達は全力で黄色い声援をぶっ飛ばしていた。これでISを動かせる男は″四人目″となる、今までの前提条件が何だったのかと思うくらいに大盤振る舞いだ。ISって女性だけしか乗れないって聞いてたんだけど。
なので霧島にコメントの一つでももらいたいのだが‥‥‥
「フゴー‥‥‥フゴー‥‥‥フゴー‥‥‥」
対爆スーツを着ていて何を言っても聞き取ってくれなさそうだった。え、これ筆談でいくべきか?ノートに殴り書きし、霧島の前に出す。
『元気?』
すると霧島もノートに何かを書きだす。
『元気。数少ない男仲間だから転校生とは仲良くしよう。』
至極真っ当だが、俺が聞きたいのはそっちではない。
『なんでそんなの着てるの?』
『ヤバいのが来るから』
『ヤバいの?』
『そう、気をつけててね』
フゴー、と霧島はそのまま席に座る。明らかに転校生のシャルルがヤベー奴が居るじゃん、みたいな顔で霧島を見てた、当然である。
しかし、何で霧島はそんなに怯えているのであろうか。基本、千冬姉等に致命傷クラスの打撃をくらってもケロっとしているのに、このフル防御だ。そのヤバい奴とは未来から来る殺人マシーンか何かだろうか。
「あと今日から新しい講師の方が来られます!次期ブリュンヒルデと名高い日本代表の″卯都木摩耶″さんです!皆さん!失礼の無いように!あと私と名前一緒です!もうちょっとしたら来ますよ!」
山田先生は嬉しそうに喋ってる。転校生のシャルルが置いてけぼりなのがかわいそう。彼は空いてる席に座るということで、俺と霧島の隣に来た。ニコニコと笑いながら喋りかけてくる、非常に接しやすい奴だ
「よろしく、えーっと織斑君?」
「よろしく、織斑で正解、でも一夏でいいよ」
「良かった、‥‥‥ていうことはこの全然顔が見えない人が‥‥‥霧島君?」
「正解、今は筆談でなら喋れるよ」
「なるほど」
ガリガリと、シャルルはノートに何かを書いていく。フランス出身とのことだったが綺麗な日本語を書いていく、よほど頭が良いと思われる。
『よろしくお願いします、シャルルです』
『よろしく、霧島斎です、その金髪綺麗だね、もしかして下の』
毛も、と書こうとしたところで霧島の頭部に綺麗な素足とパンプスが叩き込まれていた。超頑丈なはずの対爆スーツのヘルメットは粉々に砕け散り、霧島は教室の後ろまでぶっ飛び、壁にめり込む。
千冬姉と、叫びそうになった。しかし、蹴ったのは黒髪美人だけれども、千冬姉ではなかった。
「それは男の子相手でもセクハラというものですよ、″お兄様″、霧島家の嫡子とあろうものが恥ずべきことです」
とりあえず教員の服を着た、みたいな超黒髪美人のお嬢様が目の前に立っていた。切れ長の目にバリバリストレートの長い髪、ほんの少し塗られた濃い目の口紅。国宝級の刀、みたいな印象だった。その横であわあわとした顔で山田先生が慌てる。
「う、卯都木さん?!霧島君に何を‥‥‥ってお兄様?!」
「皆さん、私が卯都木摩耶です、ISの操縦及び体育での″護身術″を教えることとなります、以後お見知りおきを‥‥‥、あと、そこで壁にめり込んでる者の″妹″ですので愚兄の見張り番とでも思ってください」
シュパッとした動作で卯都木さんは頭を下げる。恐ろしく″芯″が通ってる、刀っぽいって印象で正解だったかもしれない。しかし凄い力だった、大男の霧島が壁にめり込んでるのである。
というか、めり込むくらい吹っ飛んでるのであった。
「霧島さん!?!!!ご無事ですか?!!!」
俺が気づく前にセシリアが気付いていた。本気で心配してそうな顔で霧島に喋りかけてる。あら、こんなにセシリアは霧島に対して優しかっただろうか。疑問である。
「お、おお、セッシー、ありがとう‥‥‥、なぁにたかだか壁にめり込んだくらいさ、どうってことは無いさ」
「霧島さん!頭にパンプスの先端刺さってますのよ!!保健室ですわ!」
「ほ、保健室!!イヤらしいことはしないでッッたわらばあああああああっっっ!!!!!」
「何を女の子に言ってるんですかお兄様、さっさと保健室に行って血でも止めて来てください、それと‥‥‥」
めり込んだ霧島を片手でぶん投げる卯都木さん。やっぱり力持ちである。そんな彼女はセシリアを見下ろし、ほのかに笑いつつ
「セシリアさん、私がお兄様を保健室に運びます、あなたはここで授業を受けてください、あなたとお兄様の事は話に聞いております、大丈夫、もう″心配″ありませんよ」
微妙にドスの効いた声でセシリアだけに聞こえるように喋っていた。あれ、何で俺聞こえてるんだろ。それより、霧島はホントにあの人に任せて大丈夫なのだろうか。セシリアなんてびびって固まってるのだ。転校生のシャルルも引き吊った顔をしている。
「このクラス‥‥‥、何だか濃いね‥‥‥」
もっともな意見だった。
「摩耶ちゃん、久しぶりだね」
廊下を歩きながら彼女に喋りかける。彼女、卯都木摩耶は黙ったまま俺の横を一緒に歩いているだけだった。昔から相も変わらず、″いつも通り″である。
みんなの前ではハキハキ喋り、人当たりも良く、誰からも好かれるのだが、俺に対してだけは超塩対応なのだ、二人の時とかほとんど喋らないし。両親が結婚しなかったから、名字は違うけど、兄のように接してきたつもりだったが、どうにも嫌われてるようだ。
「おい、クソ」
「ハイハイ、なんだい?」
クソ、というのは俺である。いつからか完全に俺のことをクソと呼ぶようになった。お兄ちゃんは悲しいかぎりだ。
「お前、今までなんで彼女作らなかったんだっけ?」
「彼女?なんでって好きになる人が居なかっただけだよ?」
「で、金髪の年下を好きになったから結婚申し込んだって?ばっかじゃねーの?スゲー気持ち悪い」
「そうだねー、多分そうだ、お兄ちゃんは気持ち悪いね、というか日本代表のお仕事とか大丈夫なのかい?こっち来ちゃってさ」
「馬鹿かお前、私がここにきたのは日本代表の″仕事″だよ、学園の護衛だよ、護衛」
学園にあのドクターが襲撃した件のせいだろう、正直言って強かったし、腕一本落としただけで引いてくれたからまだ自分が生きてるのだと思ってる。あのまま続行してたら″死んでた″。
生徒を死なせたとあっては学園的にも良くはないのだろう、日本に要請して護衛として摩耶ちゃんを引っ張り出した、そんなところか。教員させるのも代表を退いた後に先生としてここに登用したい腹積もりかもしれない。
まあ、摩耶ちゃん来たならもう大丈夫だろう。『鮮血の女王(ブラッドクイーン)』の摩耶ちゃんなら″あれ″ぐらいなら何とかなる。
午後からの授業はISの基本的な動作を1組と2組合同で学ぶこととなったのだが‥‥‥。
「ほら、霧島、いけ」
『「いけ、じゃないでしょチーちゃん、何で摩耶ちゃんと戦わないといけないの?ねぇ!」』
「見本だ、いけ」
有無も言わさず、である。言われた通りにISを展開したら摩耶ちゃんと模擬戦しろ、なのだ。明らかにボコられろや、オラァ、が目的ですか、そうですか。
悪いことに朝から摩耶ちゃんが俺を吹っ飛ばしたことで『あの人どんだけ強いんだ?というか超かっこいいんだけど!!!千冬様みたい!!!』みたいな感じで女子達が盛り上がってるのだ。実際、摩耶ちゃんの実戦は見たこと少ないのではないだろうか、マスコミからはほとんどノーマークで映像なんて残ってないし、前の次期ブリュンヒルデ候補と呼ばれていた娘を三秒で叩き潰してから話題になってるのだ。
なので、女子達からしたら『ミステリアスな超人』と思われてるはずだ。そりゃ、盛り上がる。
「お兄様、早く準備してください、手加減はしますから、ね?」
摩耶ちゃんもISを展開済みである。小型のカスタムウイングにベーシックな四肢、しかしその両手に搭載された十字のメリケンサックと頭に付いた二本の長い角が異様に目立っていた。
正直、手加減はするだろう、手加減は。容赦なく攻撃叩き込んで来るだろうけど!
一応、摩耶ちゃんのIS『マーブロス・エイマ』のスペックは見てるけど、コイツは乗ってる人間で強さが″変わる″。摩耶ちゃんが使うならほとんど敵無しの凄い奴。そして″第三世代″だ。
対してこっちは送ってきた装甲と武装を適当に乗せただけ、データ上では前よりかは幾分か強くなっている‥‥‥はずである。止めようよ、みたいな視線をチーちゃんに送るが、意が返されることはなかった。
「ほら、初め」
『「チーちゃん雑だよぉ!」』
チーちゃんの雑な開始の合図で試合が開始される。怖いので、″上空″に逃げることにする。新設された四つの大型スラスターが展開し、火炎を噴出。普通のIS比べて二倍以上の重量を誇るGOBが軽々と大空を舞う。
ISコアによる浮遊機能は働いてはいるものの、ISとしてまともではないGOBがこんなに軽やかに空を飛べるのは信じられないことだ。嫌がらせでも何でも言ってみるものである。
『「はは!凄いなこれ!よーし!摩耶ちゃんいっくよー!!」』
スラスターを再度噴かし、空中でくるりと反転。未だに地上に居る摩耶ちゃんへと向けてライフルを向ける。『バードベイカー』と呼ばれる高出力のレーザーライフルを真下の摩耶ちゃんに向け照射した。FCSも調整したので狙いはバッチリである。
「ぬるいです」
摩耶ちゃんが手のひらを真上に向ける、それと同時にいくつもの真っ赤な″十字架″が出現。レーザーの光はいくつもの十字架に当たり、明後日の方向へと飛んでいった。
『「ブラッドビルド!やっぱり反則だよなぁ!ねぇ!摩耶ちゃん!」』
ブラッドビルド、そう呼ばれる特殊な磁性流体を操るのが摩耶ちゃんの『マーブロス・エイマ』の最大の能力である。ブラッドビルドは一定の磁界を作り出すことでその形と硬度、そして振動を自由に作り出すことが出来る。なので高周波を出しつつ槍のように射出すれば
「三式、『影縫い(かげぬい)』」
『「なっ!?!」』
あっさりと左腕が真っ赤な槍に切断されることになる。摩耶ちゃん的にはジャブなんだろうけど、こっちは完全に真正面からストレートくらったようなものである。左腕消失故のバランス変化をスラスターで強引に調整しつつ摩耶ちゃんの周辺にレーザーを叩き込む。
レーザーは地面で炸裂し、摩耶ちゃんの周囲を土煙で包む。とにもかくにも、視界に入ったら回避不可能レベルの速度であの槍をぶん投げて来るのだ、目眩ましをしかけるしかない。
「目眩ましのつもりですか、お兄様?」
『「そっちが強すぎだからでしょ!」』
「それは、とても悪いことをしましたね、でもすいません、″強い″ので」
三本の槍が飛んできた、というところまでは確認出来た。一応腕と肩でガードしたのが良かったのか、運良く槍は足と腕に突き刺さる程度で終わっていた。また切断でもされた日には反撃のしようがない。これ、絶対防御効くのか?
そんなこと考えても仕方ない。スラスター噴かして″突撃″である、どうせ回避しようとしてもぶち当てられるし、もうヤケクソです。左のサブアームでシールド保持、右手のライフルはぶん投げて重金属粒子切断機を取り出す。
「自殺覚悟の特攻‥‥‥下策ですね」
『「シチューにカツを求めるもんねっ!!!」』
死中に活、である。肩に追加したスモークディスチャージャーを発射、摩耶ちゃんの周りを″茶褐色″の煙が覆う。
「データで見たお得意のスモーク‥‥、じゃないですね‥‥」
『「そうだよ!」』
右手の一部が展開、小型のロケットを発射。茶褐色の煙へと吸い込まれると同時に、″煙自体″が真っ赤な炎へと変貌した。ノリと勢いで搭載したお手製の気化爆弾である。本物の威力だと見物してる女子生徒共々消し炭になるので、そうとう威力は抑えてある。しかし、ISのシールドを削るには充分なはずだ。
と、思っていたが。
「24式、丸鏡(まるかがみ)」
真っ赤で大きな金属球が、爆発の中心に佇んでいた。全身防御、何でもありである。まあ、それを解いたらもれなく俺が目の前に″居る″けど。重金属粒子切断機の収束率を最大まで上げて貫通力を上げる。だめ押しでイグニッションブーストかけて突撃も敢行。
『「とったぁああああ!!!!」』
「一応言いますが、こっちからは見えてますからね」
突如として金属球が消える。正しくは、真正面から見てもわからないくらいに縦に″薄く″なっているのだ。即座に嫌な汗が吹き出る。回避‥‥、したくても今さらである。
「99式、紙切(かみきり)」
単分子レベルの薄さの磁性流体が音速以上のスピードで伸びる。左サブアームの物理シールドと左足が豆腐のように切断された。左側のブースターまで切断されたので、俺はぐるぐる回りながら摩耶ちゃんの上を弾け飛んでいく。
『「まだまだぁ!!」』
脇部分の装甲が展開。腕に搭載していたワイヤーアンカーと同型のものがロケットで加速して飛んでいく。ワイヤーは摩耶ちゃんのカスタムウイングと足に張り付き、爪を装甲に食い込ませる。
「また、小細工を‥‥」
『「二度めの!!!とったぁああああ!!!!」』
ワイヤーを巻き取りながら切断機を摩耶ちゃんの顔面に向けて振り抜く。しかし当然のように回避される、とんでもない反射神経である。そして思い切り関節技をキメられ、右腕はネジ切られた。初めて金属がネジ切れる様を見た。
『「うそぉ!?!」』
「私のISって他のよりもパワーありますので、これぐらい普通ですよ?」
『「まあ、囮だけど」』
膝蹴りを摩耶ちゃんに叩き込む。同時に膝に増設した攻撃用のパイルバンカーが起動。炸薬量を限界に設定したパイルバンカーは難なく摩耶ちゃんのシールドをぶち破り、絶対防御を発動させた。そして追加で杭の先端から気体状の炸薬を噴出し炸裂した。
特殊な炸薬による緑色の爆発。凄まじい金属音をたてながら摩耶ちゃんは地面を数回バウンドしながら吹っ飛んでいく。
右足とテールコンテナを利用してバランスを取り、地面に降り立つ。最大威力のパイルバンカーは右膝の関節に歪みを与えたようで、動かす度に嫌な音が鳴っていた。流石にもう攻撃手段がないのでこれで倒れてなかったら終了である。
『「はっはー!これがお兄ちゃんの本気だよ!摩耶ちゃーん!見直したかなー?!へっへーい!!!なーにが『99式!紙切り(キリッ!)』だよ!中二病抜けてないなぁ!!はっはっはっはっー!!!!」』
「中二病?あなたは小学生から抜けてないでしょう?」
馬鹿にしてたら目の前に普通に居た。イグニッションブーストで距離を詰めてきたのだろう、それにしても異常に速い気がする。
というか、完全に詰みである。
『「や、やさ‥‥‥」』
「やさしくしてねとか抜かす気ですかお兄様?さきほどあんなに煽って来たのに?日和のが速すぎますよ?」
『「ド外道がぁーっ!!!!!!!この冷酷ア○ルがぁー!!!!!!!!ちねぇっー!!」』
「秒で死んでください」
爆風のような衝撃の後に、摩耶ちゃんは4つほどに″分身″して全員が思い切り攻撃を叩き込んで来た。吹き飛ぶ右足。残っていた肩やカスタムウイングは槍にぶち抜かれ、頭部ユニットが斜め半分に切断された。
被害よりもその″分身″とかいう半端じゃない技能に舌を巻くしかなかった。うちの妹は忍者でした、とか思えば良いのだろうか。そんなこと思いながら最後に摩耶ちゃんの横蹴りが腹部にめり込むのを見て気絶した。