インフィニット/ストラトス 《GOLDBURN》 作:ビブロス
翌日。体に包帯巻いて、顔面に絆創膏を張りまくった男が二人立っていた。霧島斎と織斑一夏である。もちろん霧島は柴犬マスクをつけている。
「超痛いねー、イッチー、やばくなーい?」
「初めてISでぶん殴られた、ISってすっげぇな、未だにあたまがぐわんぐわんするよ」
「やばいねー、あのあと反撃としてナッシーのお尻叩いたのがまずかったねー、吹っ飛ばされて壁貫通しちゃったよ」
「ていうか、なんで霧島生きてんだ?」
「うーん、マスクのおかげだね、ラバー製だし」
「そうかー、すごいなー」
と、のんびり喋りながら、″格納庫″に来ていた。出入り口に″男子立ち入り禁止!!″とデカデカとポスター張られてたけどガン無視で中に入ったのである。凄い勢いで女性陣に睨まれるが、そんなものはどうでも良いのだ。そんな俺たちを真正面から睨んでくる眼鏡の女の子が一人。懐からスマホ取り出してポチポチ操作する、電話でもするのだろう。
「すいません生徒会長、例の二人がまた来てます」
「おっとぉ、ナッシー呼ぶのは無しだぜぇ、次こそ二人揃って粉微塵にされちゃうからNE!」
「なら、早く出てってくれても構いませんよ?ていうか、出てってください、私も、私たちも凄く忙しいんです」
「いやいや、格納庫に来たのはIS取り来たの、オッケー?イッチーと話して″とりあえず模擬戦″してデータ貯めてから考えようぜ、ってね」
「‥‥‥はぁ、そこのハンガー使ったらアリーナに直接上がれますから、さっさと使ってください」
「お、話がわかるねぇ!ありがとう!んで君の名は?前々前世から知ってるかもよ?!」
「‥‥‥簪です」
「簪ちゃんね!んじゃあカンちゃんでありがとねー!」
そそくさとGOBのハンガーをアリーナ直通ハンガーへと移動させる。それにならってイッチーも同じように動かす、その時カンちゃんと目が合ったようで「簪さんか、ありがとな!」とそのイッケメンスマイル全開でお礼を言った。だが、どうにもカンちゃん的には気にくわないらしく
「‥‥‥織斑一夏、あなたには私の名前は呼んで欲しくないの、二度と名前を呼ばないで」
「え、あ、うんわかった、ありがとなー」
ひどく塩対応されていた。なんやなんやとカンちゃんに視線を向けるが、彼女は踵を返して自分の機体らしき青色のISへと向かって行った。
「えっらい塩対応だねー、イッチーなんかした?」
「縄持って追っかけまわした記憶しかないな」
「あ、それだね、それ」
「まぁ、何とかなるか、でだ、どうだ霧島!俺の専用機の『白式』だ!」
ババーン、とイッチーは自分の専用機を紹介した。真っ白な装甲、人体工学と現在のISデザインに基づいた曲面が多用された滑りのあるデザイン、そして一際眼を引くのが左腰に担架された″刀″。一瞬でこいつが近距離戦用の機体だと理解した。というか、射撃系の兵装一っつもついてない、全く、全然である。
「刀‥‥だけだね、この機体、いや、量子展開で武器出すの‥‥‥かな?」
「刀だけだったぜ!」
「お、漢らしいぃぃぃ」
「燃費最悪だったぜ!箒と一回戦ってみたらぼこぼこにされた、あいつもそんなにIS乗ったことないのにな!」
「くっそピーキーなのを貴方に渡した連中は気が狂っとるのですかね?」
「さぁ?これしかないんじゃないかな、ほらISって467個しかコアないらしいし、回って来ただけめっけもんだよ」
「はあ、まぁ確かにそうだね、調整すれば何とかなるかもですね」
「そう!何とかなるんだよ!」
「『何ともならなかったね、イッチー』」
「やっぱりこれ欠陥機体だろ‥‥‥、箒と戦った辺りで気付いてたけどさぁ‥‥」
フィールドのど真ん中でひっくり返ってる白式。とりあえず3戦して3戦とも″射撃″だけで封じ込めれた。いや、俺でもびっくりするくらいあっさり出来た。けっこう物量で押し切る戦いであったのも事実ではある。正直言えば、白式に牽制用の″射撃兵装″だけでもあれば、俺は負けていたはずだ。
というか、至近距離で機関銃ぶっぱなしたのに関わらずイッチーはそれを自分に当たる分だけ刀で弾いていた。それにほとんど視認してないにも関わらず感だけで回避されることが多かった。それでも押し切れたのはスモークと回避タイミング、そして″燃費の悪さ″だ。
なんでそうも兵装エネルギー使うのかと思えるくらいに刀、″雪片弐型″と呼ばれるエネルギーブレードの維持にそうとう持ってかれてるのだ。一戦平均で10回程度ぶんまわすだけでエネルギー切れを起こしていた。そして聞けばこの雪片に拡張領域(パススロット)全部持ってかれているそうなので、追加の後付装備(イコライザ)が付けれないそうなのだ。
マジで意味わからんレベルで欠陥である、せめて燃費悪いって言っても『まあ、減るのけっこー早いな』ぐらいにおさめるべきだろう、ていうかそれが開発者ってものだろうに、″人″が使うんだぞ?
作ったのは倉持技研というところらしいが、いい加減にするべきである。
「‥‥‥ねぇ、霧島‥‥さん、あれが白式?」
「『ほい‥‥‥?あら、かんちゃんどしたの?』」
目線を下げるとそこにはさっきまでIS整備してたはずの簪が白式を指差していた。眼鏡の位置を直している、良く見ればそれは科学者が付けている解析グラスだ。グラス上にはかなりの情報が表示されている、白式の解析でもしてるのだろう。
「嘘でしょ、私の打鉄弐式の開発中断して作った白式があれなの?」
「『ん、知ってるの?』」
「知ってる‥‥、あれのおかげで次世代量産IS兼私の専用機だった打鉄弐式の開発が中断になったのよ、″男″がISに乗れるってだけでね」
「『あれまぁ、しかしほっぽりだして挙げ句の結果がこれとはねぇ』」
「‥‥‥さっきはそのことで失礼な態度とったけど‥‥‥これはもうあの人も倉持技研の適当さ加減の被害者ですね‥‥‥、まずあの″刀″を外さないと」
「『あら、手伝ってくれるの?』」
「さっきの態度の謝罪‥‥‥です‥‥‥」
「『はっはぁ!良い子だねぇかんちゃん、そうやってちゃんと謝罪出来るのは良いことだ、大人になっても忘れずに、大人になればなるほどそういうのが出来なくなる』」
「‥‥‥まともなこと言えるんですね、霧島さんって」
「『おー、そうだよぉ、誉めてくれたまえ』」
フィールドの隅に移動した俺達は白式にPDA(携帯端末)を接続して、その拡張領域を調べていた。正直に言えば、本当に″雪片弐型″の容量が半端ではなかった、拡張領域(パススロット)がこれだけで占領されていた。倉持技研何作ってんだという話だったが、雪片のデータ内に開発者の名が刻まれていた。
「篠ノ乃束‥‥‥、ISの開発者、第四世代IS用展開装甲?何これ‥‥‥?」
「束さんが作ったのかこれ、そりゃ容量でっかいはずだな」
「ほう、イッチーは篠ノ乃束と知り合いなの?」
「俺と箒がお馴染みでさ、束さんは箒の姉ちゃんなんだよ、昔、少し遊んだことあるけどさぁ、けっこう強烈な性格してたから印象深いんだよ」
「あ、そのつながりでか」
「それで、織斑君、この雪片はどうする気?正直に言えば貴方がこれを扱えるかどうか疑問なんだけど」
「正直に言うなぁかんちゃん、でもさこれって多分千冬姉が使ってた武器と同じなんだよな、暮桜で振ってた奴」
「それで、貴方も使いたいと?」
「ん、まぁ、そうなるかなぁ」
「‥‥‥貴方と千冬先生は姉弟で似てるところもあるかも知れない。でも姉弟でも出来る事や得意な事は違う、結局″これ″が貴方にとって一番合ってる武器なのかもしれないけど、試しに他の武器を使ってみても良いと思う」
確かに、と考え込むイッチー。その横でかんちゃんが複雑そうな顔をしてPDAを操作していた。まるでさっきの言葉は自分自身に向けて言っていたようだった。まぁ、個人の問題なのだから全くもって俺とは関係なく、踏み込むべきところではないだろう。
そこで本題に戻るが、「他の武器を使ってみろ」というのは俺も賛成である。イッチーのさっきの戦闘での挙動を見る限り、彼には質量がある実剣の方があっているかもしれない。ISという空中に浮くことが前提の兵器としては実剣などデッドウェイトになりかねないが、その重さこそが武器となり得る。イッチーの挙動はその″重さ″を活かせる動きだった。
「イッチー、俺のGOBに送られて来たパッケージプランの一つに近接兵装で良いのがある、それにイッチーでも使えそうな射撃武器もある、使ってみるか?」
「良いのか?霧島のだろ?」
「また送ってもらうし大丈夫大丈夫、というわけで白式改装計画スタートでーす!かんちゃんも手伝ってね!」
「え、私も?‥‥‥それが終わったら私の手伝ってくれたら、手伝う」
「オッケー!んじゃやるかー!」
こうしてイッチーの白式改装が始まったのだが。その日の夕方くらいになってから自分のAI調整してもらうのを忘れていたことに気付いた。
海の底に″そいつ″は潜んでいた。それは自身の致命傷足り得る″それ″が目覚めるのを待っていた。そいつは何日も何日も待っていた。自身を作成した″彼″の命令を全うするために。
『君は全ての″始まり″だ、大丈夫、私と彼女が作った君なら十分役割を果たせるさ』
彼の言葉を思い出す。誰も話し掛けてこなかった″私″に初めて話し掛けてくれた″人″。あぁ、また一目彼に会いたい。愛しい人。また私と話してほしい、私が貴方に言葉は返せないのがこんなにも辛いだなんて。
『君たちは素晴らしい、たとえその身が滅びようとその意識は黄泉へと帰り、再びその意識のまま蘇る、その時はもしかすると君たちと私たちとで意思の疎通が出来るかもしれないね』
あぁ、そのためなら死ぬのは怖くない。私にとって死は″進化″なのだ。彼と並ぶ為の進化。あぁ、とてもとても待ち遠しい。
そう思い、彼女は機能をスリープモードに戻し、カメラの機能をオフにした。