インフィニット/ストラトス 《GOLDBURN》 作:ビブロス
「ISに男だと?!一夏と霧島だけではないのか!?それに試合会場のバリアは機能していたはずだ!」
「先程の攻撃でバリア発生装置がオーバーロードしたみたいです!再展開不可能です!生徒の避難を!」
「非常用の通路のロック解除!三年で出られる奴を出せ!」
千冬の声が観戦室の一室に響く。それに続いて山田が制御端末で指示の通り操作する。基本的に試合会場のバリアはIS同士の戦闘による余波を完全にシャットアウトする為に儲けられた物である。それが貫通されたとなると襲撃した男のISには強力な光学系兵装が搭載されている。千冬の知っている中でもそれほどの威力を出せる物は一つしかなかった。
「荷電粒子兵器‥‥‥!」
「千冬先生!ロックは解除出来ましたが、三年のISを格納してるハッチをさっきの攻撃で破壊されてます!出せません!」
「格納庫側からぶち破れ!」
「それとですね‥‥‥」
「なんだ!?」
「一夏君が突っ込んでます、あのISに」
「なにぃ!?」
「だりゃああああ!!!」
光の雨を突っ切り、スラスターの出力を上げ、強引に上昇する。スラスターの噴出が可視化するほどの熱量。ISのスラスターは基本的にエネルギースラスターだ、これほどの出力で使用すれば発振器部分は交換必須だろう、すげぇ怒られそう。
一抹の不安を抱えながら、弐式を肩に抱えつつ目の前のISに振り下ろす。ガギィン!と火花を散らしながら″大きな腕″に刃先は停止させられていた。″装甲″だけで止めた?どれだけ硬い?
「レディ‥‥、いやジェントルマン、一夏君だね!ワンサマーと呼ぼうか!君の攻撃には筋肉が足りないなぁ!筋肉だ!その程度では私のIS『マスクールオンスロート(猛攻する筋肉)』には効かないぞぉ!」
「筋肉!?マシンですよ?!」
「ISは人機一体!鎧の延長!ならば筋肉を使う!そう筋肉!故にパワー!」
「う‥‥‥!わぁっ!」
弐式を掴まれ、大きな腕だけで真下にぶん投げられた。緊急用のバランサーが起動、スラスターが展開し姿勢制御が実行される。真上を見上げると光の粒子が男のISに収束していた。HUDに表示、″荷電粒子砲″。最初のISである白騎士に搭載されていた兵装。
当たったら″死ぬ″。絶対防御が発動してもエネルギー切れで直撃して″死ぬ″、死ぬ!死ぬ!!
「だぁ、あっあっあああああああありゃぁあああああ!!!!」
回避!回避!!切羽詰まる思考を読み取り、機体はスラスターのリミッターを一部解除。驚異的なイグニッションブーストを″真横に″繰り出し、一夏を光の渦の中から這い出させた。
「逃げるのはいけないなぁ、ワンサマぁ」
目の前に男。詰められた!?と驚嘆する。しかし、イグニッションブーストはISであれば可能な高速移動技。技術があるIS搭乗者であれば使えるのだ。″男″が一夏の目の前にいるのは少しもおかしくはなかった。
振り上げられる大腕。回避しようにも先程のイグニッションブーストでエネルギーチャンバー内は空っぽ。防御しようにも弐式で防げるかわからない。
「無理か!」
「『そこから踏み込んで!!』」
誰かの声。身体と意識が反応、地面を蹴り飛ばし、男の懐へと飛び込む。大腕が掠める。肝が一気に冷える感覚。
それと同時に″男″へと真横から鉄の塊=霧島のGOBが体当たりをかました。大型機体同士の衝突はあたり一面に腹の底にくるような金属音を響かせた。
「無粋‥‥‥!!」
「『そちらが先に無粋を働いておいて‥‥‥っ!!!』」
GOBの脚部が展開し男の腹部へとパイルバンカーを突き立て、吹き飛ばす。男は地面を二度ほどバウンドしたあと壁に激突した。
「『ぬけぬけと言えたものだな!大丈夫ですか一夏!?』」
「なんとかな、それより″あれ″でやれたか」
「『まだ、ですね、腕で防がれました』」
「そのとおり!!!!」
ドゴーン!と瓦礫を中に舞わせながら男は再び現れる。しかもその背中からは4対の腕が生えていた。全部で10本腕である。10本腕!
「ヘカトンケイルシステムによる多腕操作!自身の身体にフィードバックするこの感覚はまさに己の肉体!!このドクターマッスォにこれを使わせるとはまさに強敵!」
「『あれ、会話出来る類いじゃありませんね』」
「する気あったのか?」
「『無いですね』」
「無視はいけないなぁ!無視は!!!」
男=ドクターと名乗った人物はその10本腕の一つ一つから閃光を放った。HUDには荷電粒子兵器と表示される。俺は真横にスラスターを噴かし、回避することは出来た。しかし霧島は避けずに思い切り直撃することになった。まぁ、効く訳がないのだが。
「なに!?」
ドクターが驚くのも無理はない。荷電粒子の光が霧島の目の前で尽く逸れていくのだ。両肩のスモークディスチャージャーを取っ払って搭載した電磁シールド発生装置。荷電粒子に作用してその指向を歪めているのだ。
「『ふははは!防御がクソのGOBが真正面からこんな攻撃を防げるとか!やっばいな!はははははは!!!!』」
「元々は電磁装甲にしようとして無理で仕方なくシールドにしたんだけどな」
「『電磁装甲にもしますから!絶対!』」
「不敵ですねぇ!ならば!!」
ドクターはさっさと荷電粒子による攻撃を止め、脚部と腰部のスラスターを展開しこちらへと突撃してくる。霧島は即座に電磁シールドを停止させ、脚部のパイルバンカーを地面に打ち込む。真正面から相手をするためだ。
「『しゃあ!こいやぁあああああ!!!』」
「面白いですっ‥‥‥ねぇ!」
ドクターによる真正面からの機体の重量を乗せた右ストレート。霧島は脚部のショックアブソーバーを全開にし、脚部の関節トルクを衝撃と同時に強めるように設定。
しかし
「『あっ』」
ゴンッッ!!とあっさりとも言える勢いで霧島はドクターに吹っ飛ばされた。10tトラックが時速400キロでぶつかっても大丈夫なぐらいだったのだが。いとも簡単に吹っ飛ばされていた。
「うおっ!マジ‥‥‥っ!?!」
「よそ見はダメですよ」
飛んでいった霧島を見ていたら、思い切り良いのを真正面からもらってしまう。軋むフレーム、飛び散る装甲、激減するSE、警告音が頭にガンガン響きながらアリーナの壁面へと叩きつけられた。
霧島としては、壁役として踏ん張り、一夏に攻撃してもらう算段だったのだが。予想以上に相手がパワフル過ぎだった。壁にめり込みながらそんなことを考える。どうにももう少し″戦力″がいるようだ。一夏も思い切り吹っ飛ばされてるので、それは明白だろう、このままではじり貧だ。
「『セッシー!援護ぉ!』」
『わかってますわ!!ちょっと待っててください!うわ!ちょっとあなた!ハナシナサイヨ!ドコモッテンノアンタァー!オトナシクナサイ!キャー!ガショーン!!』
セシリアからの通信が飛んでくる。ISの損傷が激しい鈴音を戦闘領域から出すよう頼んでおいたのだが、大丈夫だろうか?何か向こうでドッタンバッタンしてそうな音が聞こえたが‥‥、まぁ良いな、多分。
めり込んだ瓦礫を吹き飛ばしつつ、テールコンテナユニットから武器を取り出す。『GAU-8/C(アベンジャーコンパクト)』A10という戦闘機に搭載されている機関砲をぶっこ抜いてIS用に改造したものだ。弾丸はそのまま使用しているがGOBの積載重量を加味して通常の数の半分も持てていない。まぁ、普通に戦車は貫通するので弾数はさほど関係ないのだが。
腰のワイヤーアンカーと脚部のパイルバンカーを地面に突き刺す。反動制御に全神経を集中する。
「『SEを削りきる!』」
引き金。モーターが銃身を回転させてから一秒、閃光と白煙が視界を埋め尽くす。コンパクト化によるバレル縮小によりマズルフラッシュと燃焼不足による煙がえらいことになってるが、威力のことを考えると些細なことだ。
「むゥッッ!!!」
ドクターは一対の大腕をクロスして防御体勢に入る。直後に着弾。つんざくような金属音が響き、弾けた弾丸が地面を焼き菓子のように砕いていく。このまま撃ち続ければ地面が無くなり地下のフレームが出てきそうだが、如何せん装弾数は普通の半分なのでだいたい700発。毎分3900発で撃てば10秒いくかいかないかですっからかんである。
まあ、全部撃ち込むのだが。
「『やれたか?』」
「この程度ではやれんなぁ!この私を!」
舞い上がる土煙を吹き飛ばし現れるドクター。機体には一切傷がついていなかった。流石に厚いだけの装甲ではあり得ないことである。堂々と出てきた所を見るとSEを使わせた雰囲気は皆無。
「『相転移装甲‥‥‥?!』」
「ご明察!我がマスクールオンスロートは陣地防衛の為に建造された迎撃に特化した機体!防御力には自信があるのだよ!筋肉だけに!」
「『それは″母さん″の技術のはずだ!!』」
「君の″母さん″の″後輩″、私の″先生″がこれを作った、良いだろう?霧島玲香の″最高傑作″である君ほどではないがなぁっっ!!」
ドクターは真正面から突っ込んでくる。テールコンテナごとアベンジャーコンパクトを廃棄、腕のM2をドクターに向けてぶっ放す。カンカンと弾かれる様が見てとれる、相転移装甲に対して実弾が効くことはない、物質の変態を強制的に凄まじい速度で復元するのだ、破壊するには一瞬で大規模に破壊する必要がある。
とはいえ、そんな一撃必殺系の兵器は積んでない。足のパイルバンカーだってあいつには効いてないのだ。破壊するにはどこまでの大火力をぶつければいいんだ?
「考え事は今ではないでしょう!!」
「『確かに‥‥!!!』」
大型の腕部ユニットで繰り出されるフック。腕部の出力全開でこちらもフック。拳同士の衝突、歪な金属音を醸し出しながら二の腕付近からフックを放った右腕が吹き飛ぶ。相転移装甲の次くらいに向こうのパワーは半端ではないようだ。
右足のパイルバンカーを炸裂させる。破裂した気球のような音を立てる、その反動でドクターの腹部に膝蹴りを叩き込む。火花、しかしドクターには効いていない。反対の腕で防がれている。
「『無理か‥‥!?!』」
「あきらめるのですか?まだ全部出しきってないのに!」
「『まあ、無理なのは俺だけなんだけどな』」
真横からの閃光。ドクターの大腕に高出力の″レーザー″がぶち当たる。″焦げる臭い″、カメラの一部が焼け付くような光。体勢を崩すドクター。ここぞとばかりにスラスターを全開に噴かし、右肩でショルダータックルをかます。同時に右肩の電磁シールド用の予備ジェネレーターの出力を最大まで上げておき、″サブアーム″を展開する。
「なっ!?」
「『仕切り直しだ!』」
サブアームでドクターを捕縛、続けて右腕ごとパージ。その中には最大稼働状態の予備ジェネレーターとM2用の弾薬がたんまり入っている、炸裂すれば結構なものだ。
「『セッシー!』」
「了解ですわ!!」
真上から俺のパージした右腕に閃光が直撃する。シールドも何も展開していない腕は直撃した箇所から即座に融解し、炸裂する。腹に響く大音量、空気が震えるのを全身で感じる。というか、普通に爆発で吹っ飛ばされた。
爆煙と炎が舞い上がる。その中からドクターは起き上がりもせずに倒れている。炸裂時の爆音で気でも失ったのだろう、行幸である。しかしこちらは高熱で機体の塗装が焼け焦げ、独特な臭いが辺りに漂う。右腕パージのせいでバランスガタガタ。調整用のテールコンテナも無いので根性で立ち上がる。そんな俺の真横にセッシーが降り立つ、いつ見てもムチムチのボディである、エクスタシー。
「何か変な視線を感じますわ!変態!」
「『いやいや、そんなそんな、あ、動かないで録画してるから』」
「ギャー!」
「『ふはははは、呪うが良いその超俺好みのボディをなぁ!あ、鈴ちゃんはちゃんと退避出来た?結構損傷してたでしょ』」
「最低ですわね、というか凰さんならまだ居ますわ、ここに」
「『はい?』」
「ほら、あそこ」
指差す方向を見れば、鈴ちゃんが微妙にのびちゃってる一夏を叩き起こしてるところだった。いやはや幼なじみは献身的だなぁ。俺の幼なじみもあれぐらいだったら良かったのに。
いや、そうじゃないです。
「『ちょっとぉ!鈴ちゃあああん?!』」
「うわ、変態来た、シッシッ!」
「『最低!セッシーがひどいことになるよ!』」ナンデワタシデスノー!?
「一夏がここ居るって言うから助けに来たのよ!悪い?!」
「『そなの?じゃあさっさと撤収!!今あいつ動いてないからね!早く!』」
「逃がしませぇえぇぇぇぇええええええええええん!!!!!!!!」
″炸裂するドクター″。正しくは自分の″真下″に向けて荷電粒子砲を叩き込んだのだ。舞い上がる土煙と熱風。ハイパーセンサーで索敵しようとしても荷電粒子砲のせいで電磁波やら何やらが巻き起こってしっちゃかめっちゃかである。
致命的な反撃が来る。
そんな予感が頭を過った。敵を視認出来ない場合、相手は十中八九逃げるか、こちらを″殺す″算段がついた時だ。左肩の電磁シールドを全開稼働で二人の前に出る。
「『シールド全開にして!来るよ!』」
「ご名答ゥッッッゥゥッ!!!!!」
空気が爆発したような音。瞬時加速(イグニッションブースト)が作動した音。目の前にドクターが大腕を振りかぶる。大振りの右フック、直撃したら吹っ飛ばされる。
「『荷電粒子砲だと思ったのになぁっ!!』」
フックの直撃。ボンッ!と吹き飛ぶ″左肩″。直撃の瞬間に左腕ごと全部パージしたのだ。なので吹っ飛んだのは左腕だけ。両腕ないけど、ギリギリ回避である。
「大丈夫、こちらの狙いは″それ″だよ」
左の大腕で右の肩口を掴まれる。その肘から引き出しのように積層型の放熱板が展開。放熱板が赤熱化し、″稲妻″が走る。腕部に大型の荷電粒子砲を装備しているのだ。こんな至近距離で放たれたら即座にシールドエネルギーが切れて生身に直撃して蒸発である。
「『やっっ‥‥!?!』」
「君が一番厄介だから、一番目に殺そうかね」
閃光。肌を焦がすような熱。絶対防御が働き、直撃した部分から放射状に荷電粒子が撒き散っていく。激減するシールドエネルギー。
「霧島さんッッ!!!!!!」
セッシーによる真上からの援護射撃。高出力レーザーによるピンポイント狙撃は難なくドクターの脳天へと向かうがその大腕が直撃を遮る。火花が舞い散るだけでドクターにはかすり傷すらつかない。
「こっちも居るのよぉ!!!」
飛び出す鈴音。空間圧縮射撃兵装である″竜砲″をドクターの真横から狙う。しかし、その前にドクターの副腕が鈴音に向けて複数″飛び付いた″のだ。まるで投げナイフのように飛んでいく副腕は鈴音を壁に縫い付け、荷電粒子砲を炸裂させた。その爆発で浮遊ユニットは爆散し、竜砲は使い物にならなくなってしまう。
「脳波誘導兵‥‥‥器!?!、せこいわよ‥‥!?!」
「まあ、あまり使いたくないのですけどね、仕方ないですよ、ねぇ?霧島さん?」
閃光と熱で目が覚める。目の前で霧島が燃えている。それが荷電粒子砲を間近で喰らって装甲が融解しているということに気付くのに一瞬かかった。
しかし、それよりも霧島の脇から垂れ下がる″左腕″に目が向いてしまっていた。
それは今まで見たどんなものよりも綺麗な白金で、淡く虹色に輝いている。あれは何なのだろうと思った直後、それは凄い速度で真正面に突き込まれた。
金属が砕けて曲がった時の甲高い音が響く。その音はドクターの大腕から発せられたのだ。
「なぁっに!?!」
ドクターのすっとんきょうな声をよそに、白金の腕は大腕の手のひらを貫通し、内部の骨格フレームをもめちゃくちゃに″押し潰し″、荷電粒子砲の発生機を真っ二つにされていた。そしてそのまま霧島は大腕を″ひねり上げた″。
ぶつぶつと引きちぎれる音、関節に仕込まれた流体式人工筋肉が張りつめ、張力の限界を迎えているのがわかる。とはいえ、今一つ足らないのか、それは崩壊しなかった。
「『一夏!!今です!!!』」
霧島の声、足らないのは″切れ目″か。
今一つ頭の足らない自分だが、織斑一夏史上最高の思い付きだと革新した。だから、思い切り切れ目を入れてやるとする。
スラスターを全開で噴かして真上へと飛び上がる。全身のパワーアシストを最大値に設定、真下へと向けて弐式を振り下ろす。しかしそれでは弾かれる。先ほどほぼ同じ状況で弾かれたからだ。
なら弾かれないようにする。刀が物を切る時に必要なのは何であるかを思い出す。昔千冬姉に教えられたことを反芻する。
対象に切っ先部分を最速で体重を乗せて当てることと、″引く″ことだ。当てるのは問題ない。しかし速度と体重だけはダメだ、スラスター全開でも弾かれる。もっと加速しなければならない。
瞬時加速(イグニッションブースト)だ。
しかしまだ足らない。引かねばならない。そのままの速度で、最速の速度で引かねばならない。
なので、もう考えるの面倒だから、″回転″することにした。
「だぁっ!!りゃああああああああああッッッゥゥッ!!!!!!!!!!!!!」
右肩の真横に弐式を構え、体勢を真横に、そして右のスラスターで最大チャージの瞬時加速(イグニッションブースト)を発動する。
空気が炸裂し、一夏は音速を遥かに上回る速度で回転しつつ弐式を張りつめたそれへと叩きつける。垂直に当たるように重心を調整する弐式、単分子ほどの厚みしかない切っ先は空気摩擦で赤熱化するほど加速し、白式の重量と瞬時加速(イグニッションブースト)がさらに切っ先を加速させた。
それは相転移する素材を豆腐のように一直線に切断した。
弾けるような金属音。地面へと半分埋まるように着地する一夏。大腕を切断されたドクターは吹き飛ぶ。
それは紛れもなく彼等の勝利だった。