みんなで薔薇を生けた後、私達は奥へ歩みだした。
奥は二つの通路に分かれていて、どちらもその先に部屋があるようだ。紫色の扉があった。
片方は鍵がかかっていたので、迂回してもう一方の部屋に入った。
その間には、『嫉妬深き花』という絵画。しかし、花というわりには何も描かれていな
い。
ガチャ……
扉を開けると、青い人形が数個壁際に並んでいた。奥には、その人形の絵がある。
「…ったく、この部屋といい絵といい、なんでこんなに気色悪いのよ!」
「……そうかな、かわいいと思うけど」
私は拳を握りしめた。
(また………馬鹿にした)
私は怒りを必死で抑えて、
「イブは、どう思う?」
と訊ねた。イブは少し悩んだあと、こう答えた。
「…撫でたい」
「……イブ…好きなの?こういうの」
ギャリーは怪訝そうな目で見たが、特に何も言わず、
「アタシは無理だわ…とにかく、さっさと調べて出ましょう。この部屋、見られてるみたいで落ち着かないわ」
イブは少し首を傾げた後、近くの本を取り出し開いた。
その本をみんなで除きこむ。
「心壊…あまりに精神が疲弊するとそのうち幻覚が見え始め…最後は壊れてしまうだろう?」
ギャリーがその本を読んだ瞬間、ハッとしてイブを見た。その瞬間、
パリンッ!
人形が床に倒れた。中から小さな鍵のような物が見え、私とイブは駆け寄った。
「そして厄介なことに…自身が“壊れて”いることを自覚することは出来ない……なるほどね」
ギャリーは本を元の場所に戻すと、私達のほうへ向き直った。
「イブ、メアリー。あなたたち、この人形と絵が何に見えるのかしら?」
「!」
私はみんなに聞こえないように小さく舌打ちした。そうか、ギャリーは気づいてしまったんだ。
この部屋は『心壊』の部屋。精神が疲弊しているか確める部屋。その証拠に、イブはこう答えた。
「………?うさぎだけど…」
ああ、イブはもうだめだ。青い人形がうさぎに見えるのは、幻覚が見えている証拠。私が、イブを支えてあげるの。私はイブのお姉さんになりたいの。
「………!イブ、落ち着いて聞いて」
(言わないで)
「この部屋にある人形たちはね」
(ここで自覚してしまったら)
「うさぎじゃなくて、」
(もう二度と)
「……青い、人形よ」
「……ッ、イブ!」
私が声をかけたのと、イブが持っていた人形を落としたのはほぼ同時だった。
「ひっ………」
イブは幻覚ではなく、真実が見えたらしい。飛び散った破片から後退りすると、壁にぶつかる。ぶつかった壁にかかった、青い人形の絵を見た瞬間、
「………イブ、イブ!」
糸が切れたように、気を失ってしまった。壁にもたれかかったイブに、ギャリーが駆け寄る。
「っ……イブ…!」
「……なのに」
私は感情が抑えきれなかった。
「ギャリーのせいなのに、気安くイブに声をかけないでよ」
「メアリー…?」
「ギャリーなんて、大っ嫌い。私の友達に気色悪いって言った」
ギャリーは私を睨む。
「友達って……アンタまさか…」
「ずっと、ここに居ればいいの!」
私は部屋を飛び出し、外から鍵をかけ隣の部屋へ逃げだした。