とりあえず楽しんで頂ければ幸いです。
ヒードランは激怒した。
必ずこの洞窟を傷付けた者を懲らしめなければならない。報いを受けさせ二度とそんな気が起きないようにしてやるのだ。
目が覚めた後の見回りで彼は気付いた。知らぬ間に洞窟の床が、壁が、天井が、歪んでいる。覚えのない傷が、以前は無かった筈の傷が明らかに増えている。
これは外敵の仕業に違いない。
元々赤い胴が怒りで赤熱する。きっとその外敵は彼に見つかったら最後、二度と朝日を拝むことは出来ないだろう。その外敵が見つかったら、そもそもそんな者が居たら、の話だが。
残念ながら、彼の怒りの対象である外敵は存在していないのだ。洞窟を傷付けた犯人は他ならぬヒードラン自身であった。
彼は洞窟内を縦横無尽に動き回る。しかしながら彼の足には何ら特別な機能は備わっていない。壁を上るのも天井を歩くのも、全ては彼の爪が洞窟の壁に食い込み、体重を支えているからに他ならないのだ。
更に、彼の主食は鉱石、穴掘りと切っても切れない。食事を終えれば穴を埋めるとはいえ、綺麗に元通りとはいかない。そもそも元の状態を彼は覚えていない。
今回、洞窟の傷に気付いたのは、大きく削れていた部分に爪が引っ掛かり転んでしまったからだ。頭から床に激突し、それで更に地面が削れた。普段の見回りで転ぶことはない。だからこそ彼は洞窟に異変が起こったと考えたのだ。
さて、件の存在しない外敵を探して早くも三時間が経過した。以前話したことであるが、この洞窟は一通り見回るのに3分42秒、丁寧に見回っても精々一周あたり8分程度である。つまり、ヒードランは敵を探して約22周この洞窟を探し回ったのだ。
10周を越えた辺りで飽きてきて、止めてしまおうかとも思った。しかしその誘惑にも屈することなく彼は洞窟を駆けた。
全ては洞窟の安寧の為。そして自らの平和な生活の為。
この洞窟で暮らす上で他者は不要なのだ。まして洞窟を傷付けるような輩は論外である。
そうして駆けている間にも壁、床、天井の傷は増えていたのだが。
何にせよ、三時間という時間が経ち、流石のヒードランもこの状況はおかしいということに気付く。勿論ヒードラン自身に三時間という概念は無い。疲れて立ち止まった時に気付いただけだ。
これだけ探して居ないということは、きっと敵は隠れているのだ。
敵など存在しないということに気付いた訳では無かった。ヒードランとて馬鹿ではない。ただ発想の転換が出来ないだけだ。
隠れた敵を見つけ出す手段として彼が選択したのは、頭突き。成る程、この洞窟において隠れられるのは壁や天井や床の中。穴を掘れる者であればそうする方が合理的である。
三時間探して居ないということは逃げたか、隠れたか。彼には確信があった。逃げる筈がない。自分からこの洞窟を奪うために、隙を伺い、息を潜めているに違いないのだ。
洞窟は所詮洞窟でしかないのだが、彼にとっては大事な場所なのだ。彼が居る他に何もない洞窟であっても、彼にとっては完全にして至高の世界なのだ。
他者から見て無価値な洞窟であるということに彼が気付くことはない。
ガツンガツンと洞窟内に金属の打撃音が響く。洞窟の端から端まで余すことなく頭をぶつける。
例えば壁に潜り込んで隠れているかもしれない。あるいは体色を変えて壁に張り付いているかもしれない。
頭突きによって、その衝撃、あるいは音、若しくは直接的なダメージでそいつを炙り出すのだ。
百回を越えて尚、ヒードランの頭突きは止まることを知らない。勢い余って意識を失うこともあったが、そんなことは彼は気にしない。
頭突きで炙り出す作戦も上手くいかなかった。ということは、敵は逃げ出したのだ。
彼の中で敵がいるという前提は覆ることはない。
逃げたならば構わない。などと思う彼ではない。侵入者は許さない。逃げたなら追いかけるまで。
爪が壁を抉る。穴を掘り、敵を追いかけるためだ。
手掛かりはない。だが彼の本能がこの先に敵がいると告げていた。
この先に逃げたと言うのであれば穴が残っていたり、穴を掘った痕跡があっても良い筈だが彼は気にしない。逃げた痕跡を消すとは狡猾な奴だと思うだけだ。
彼は掘り進める。壁を掴むために進化した彼の爪は、土を掘るのにも便利であった。途中で見つけた燃石炭を咀嚼しつつ、彼は先を急いだ。
不幸とは、不運とは、突然やってくるものだ。予測ができないからこそ、それに翻弄されれば嘆くしかない。
そのウロコトルは仲間達の中でも一際好奇心が強かった。ある時は大型モンスターにちょっかいをかけ、またある時は鉱石を掘りに来たハンターに喧嘩を売ったりした。それでも尚、生きている辺り、このウロコトルは運が良かった。
そうして運よく生き延びる内に、ウロコトルの行動範囲はどんどん拡大していった。
きっと今回も何とか生き延びられる。それまでが上手くいっていただけに、ウロコトルの行動を阻害する要因は何もなかった。リスクが気にならない以上、好奇心はとどまることを知らない。
その日は、地中のどこまで潜れるか試してみよう、という思い付きから始まった。行けるところまで行ったら何か新しい発見があるかもしれない。
潜る潜る潜る。細長い体で土を掻き分け進む。案外何ともないものだ。ウロコトルは油断しきっていた。
その出会いは偶然であった。が、片方にとっては不運としか言いようが無い。何も今日でなければ、後数分遅ければ。今となっては遅い話だ。
ガン、と穴の中で音が響く。
ヒードランの頭に何かがぶつかったのだ。ヒードランが見上げると、そこには黄色い嘴を持った赤く細長い生物がいた。
ウロコトルだ。
ヒードランにとってその生物がウロコトルという名前だなどと知る由も無いしそんなことはどうでもいい。
彼が今ここにいる理由は何か。
逃げた敵を探しに来た。
ヒードランの中でどんな思考がされたかは考えるまでもない。
ウロコトルがその後どうなったかも語るまでもない。
侵入者には思い知らせてやった。彼は仕事をしっかりこなしたのだ。
洞窟に帰ったヒードランは誇らしげな様子で眠りにつくのだった。
彼は洞窟を守り勇ましく戦う夢を見ていた。
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楽しんで頂けたなら幸いです。
ネタが無い訳じゃないけど時間がない今日この頃。
FGOのイベントを回すので忙しいんです。