「そんなバカな話があるかっ!」
日向の怒声が司令室中に響き渡る。丁嵐は「きゃっ」と小さく悲鳴を上げて肩を縮めた。
解体だと?解体とは武装解除を強要させられ、正式に軍属を離れる事。そんな事納得できるか!
「私は何の為にこんな体になったんだっ!」
日向の怒声が司令室中に響き渡る。日向の言葉は実に最もな話であった。
日向が航空戦艦に改装されて、まだ3ヶ月と経っていない。いくら目立った戦果が上がっていないとは言え、航空戦艦という選択肢全てを切り捨てるにはあまりにも早すぎる決断だ。
机に歩み寄り、丁嵐の襟元をぐいと掴みあげる。丁嵐の長身がいとも簡単に持ち上がった。
「知ってる事、洗いざらい全て話せ!」
今にも喰らい付かんとする日向の圧を受け、さすがの丁嵐も引きつったように口元を歪める。机の上に強引に体を引き寄せられ、積み重なった書類が一斉に周囲に散らばった。日向は怒りに任せて、ぎりぎりと丁嵐の首を締め上げた。
丁嵐の体が宙に浮く瞬間。突如掴んだ腕に衝撃が走った。電流を流し込まれたかのような鋭い痛みに思わず手を放すと、続けざまにわき腹と胸に重い拳が突き刺さった。
「ゲッ、ア…」
内臓がひっくり返るかのような痛みと不快感。胸を抑え込みながら懐を見やると、腰をかがめた黒い影が今にも日向のわき腹に肘を打ち込まんとする瞬間だった。
息を吸った瞬間に腹の中に肘が食い込んだ。全身に広がる痛みと嘔吐感に、思考をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。
「それ以上の狼藉を見逃す訳にはいきません。航空戦艦」
「ふ、ふる…クソが…」
脇腹を抑えながら、崩れ落ちるように膝をつく。髪をつかまれ無理矢理顔を上げさせられると、だらしなく開いた口からヒューヒューと乾いたそよ風が漏れ出した。自分を見下ろす左の瞳だけが煌々と輝いていた。
「やめなさい、古鷹っ!」
珍しい丁嵐の怒声に、髪をつかんでいた古鷹の手が離れる。はらりと前髪が解け、重力に従い日向の巨体が膝から崩れ落ちた。
秘書艦「古鷹」。横須賀の「殺し屋」。
珍しく姿が見えないと思ったらこれだ。
椅子から立ち上がった丁嵐は、古鷹を下がらせて日向のそばで立ち止まった。膝をついて悶える日向には、そろえた足の先だけが視界の端にちらつく。
「アンタは自分が見捨てられたと思ってるかもしれないけど、上は航空戦艦を切り捨てた訳じゃない。むしろ逆よ。上は一日でも早い航空戦艦の「実用化」を望んでる」
乱れた襟元を調えながら丁嵐が続ける。
「航空戦艦のテストケースであるアンタをうちの鎮守府でくすぶらせておくわけにはいかないのよ」
テストケース。
確か丁嵐が始めて航空戦艦の話を持ち出してきた時も、彼はそう言っていた気がする。
「目立った戦果があるのならともかく、今のアンタは所謂2軍。でもね、本部の研究者達は喉から手が出るほどアンタを欲しがってる。どんな強引な手を使ってでも、アンタを
馬鹿げてる。
私の命を何だと思ってるんだ、コイツは。
「フザけやがって…」
「フザケけていられないのはアンタの方よ日向。榛名達はとっくに調整に入ってる。観艦式まで時間が無いのよ」
突如振って湧いたその名前に、日向は全てを察した。
拳を地面に打ち付けて、四つんばいになるように上半身を持ち上げる。
「相手は榛名か」
「金剛もよ」
「……クッ!」
持ち上げた拳をそのまま床に叩き付ける。
金剛と榛名、鎮守府のツートップを相手に立ち回れというのか。
「それだけじゃないわ。相手の6隻は完璧な「最強」を揃えてる。アタシも上からお達しを受けてるのよ。『日向には絶対に勝たせるな』ってね」
「お前は、私に死んでほしいのか」
「本当に価値があるのが何なのかって話よ。お望み通り戦艦の新時代の礎になれるのよ、少しは喜びなさい」
丁嵐が日向に背を向ける。
まるで「話はここまで」とでも言いたげなその背中に、日向は震える声をぶつけた。
「わ、私は解体されるのか?」
「さあね、そこまでは聞いていないわ。ただ一つ言えるのは…」
一瞬の沈黙。
振り返った丁嵐の顔は、きっと聖母のように温かで慈愛に満ちているだろう。
「負ければ、もう二度と海に出る事はない。今までお疲れ様、日向」
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