「航空戦艦…だと」
日向の呟きを受け、提督は大きく頷いた。コーヒーカップをソーサーに置き、机の上に両肘をついて組んだ指の上に顎を乗せた。
「そ、戦艦の装甲と火力、空母の制圧力を兼ね備えた新時代の軍艦ってわけ」
日向もぐっと肩を突き出して提督に顔を突きつける。お互いの息が吹きかかるような距離で、視線を合わせ睨み合った。
「私に空母の真似事をしろと」
「実際に航空戦も賄ってもらうわ」
提督がにっこりとほほ笑んで顔を離した。足を抱えながらソファーによりかかり、ソファーの横のサイドテーブルに手を伸ばす。手に取った紙を日向の方へ指で弾いた。日向はふわふわと漂うそれを、器用に空中でキャッチした。
受け取った方眼紙には戦艦の全容の俯瞰のスケッチが描かれていた。描かれている艦は、戦艦の船体後部に大きな五角形の甲板が貼り付けられている。
「以前事故を起こした5番6番主砲を取っ払って、そこに飛行甲板と新型のカタパルトを搭載する。艦載機を収容するスペースが必要だから副砲も削って場所を作る事になるわ」
「火力を落とすのか?」
日向の顔が露骨に曇る。提督は小さくため息をついた。手のひらを天井に向け、肩をすくめた。
「多少のパワーダウンは仕方ないわね。そのかわり航空隊の編成と対空砲撃の強化を行う。失った火力は航空戦力で補うのよ」
「発艦はいい、だがこんな小さな滑走路では着艦はできまい。飛び立った機はどこに帰る?」
それに今度は提督が顔をしかめる番だった。日向から視線を外し、顎を触って口元を隠した。
「…それはおいおい。現状では特定艦種、例えば空母とかを随伴艦につけて任務完了後はそちらの甲板に着艦する事になる」
「と言うことは随伴の空母は艦載機を満載しないということか」
「それは…」
言い淀む提督の様子に、日向はおおよその事情を察していた。
「話にならんな」
受け取った設計図を、日向は受け取った時と同じように指先で弾いて返した。提督はそれを受け取らず、紙は風に乗ってゆっくりと床の上に落ちた。
「解体はしないが実験台になれという事か」
苛立ちを含む日向の声、提督は気にする事も無く再度コーヒーのカップに手を伸ばした。
「戦艦の新時代の為よ。テストは必要と思っているわ」
「ならせめて私を納得させる口説き文句を考えてから出直すんだな」
腰を上げる日向を提督は黙って見送った。コーヒーカップに口をつけたまま、おたおたと動揺する初霜に目で促す。
「ご、ご馳走様でした!」
扉の閉まる音を聞きながら、提督は角砂糖を一つかじった。