立ち上る雲―航空戦艦物語―   作:しらこ0040

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【おねいちゃんと】―立ち上る雲おまけ―

おまけ【おねいちゃんと】

 

 

「きれいに収まったとこ悪いンだけどさ、ちょっとアタシの耳がおかしい」

 

 桟橋の上で風を感じながら、江風が切り出した。初霜が合流し、全員が共に戦うと誓い合った直後の事だ。

 

「どうしたい江の字?少し風が冷たいか」

 

 振り向く加古。江風は「いんや」と加古を制し、桟橋の先に立つ初霜と日向を指さした。

 

「二人は姉妹。ンで、旦那が姉」

 

 指の先が日向へ向く。指さされた日向は、とんでもないとでも言いたげに首を横に振った。

 

「私が妹だ」

 

「姉は?」

 

「はいっ!」

 

 初霜が大きく手を上げる。ピンと伸びた指の先は日向の顔にもかかっていなかった。

 

「…お前ら身長差いくつ?」

 

日&初「「39cm」」

 

「ハモるな」

 

 頭痛を覚え始めた頭に指の腹をこすり付ける。イヤ、変だと思うのはアタシだけか?マジで?

 わずかに目線を上げて他のメンバーを仰ぎ見る。江風の様に驚きを表出す者はいないが、神通は早くも初霜から一歩距離を取り、隣の名取は顔を真っ青に染め上げている。

 

「二人とも、歳の差は?」

 

 一人平然としている加古がそう問いかける。

 そうだぜ、あの容姿で初霜が年上ってのはありえんだろう。一歳差だと言われても、とてもじゃないが納得はできない。

 

「初霜が2つお姉さんなのです」

 

 ぐらりと頭が揺れる。次元が歪んでいる。何がどうなってやがるンだいったい。ふらつく頭で再度加古の顔が視界に入る。得意げに江風を見下ろすその表情に、江風はさっと血の気が引くのを感じた。

 

「初霜は、鎮守府で同い年は誰だい?」

 

 やめろっ…!その質問は…!

 そう叫びたいが、かすれて声が出ない。

 初霜は聞かれるまま、実に素直な笑顔でそれに答えた。

 

「初霜は、金剛さんの一つ上で…千歳さんと同い年なのです!」

 

 がぐんっと膝から崩れ落ちる。

 驚いた初霜が駆けてきて、江風の手を取った。だらんと力なくうなだれる全身に渾身の力を籠め、かろうじて頭を上げた。

 

「す、すいやせン。は…」

 

 唇が、からからに乾いていた。

 

「『初霜さん』」

 

 全員の見る目が少し変わった、そんな、初霜25才の夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ2【らいうんせんたい】

 

「私達、名前はどうしましょうか?」

 

 食堂で偶然顔を合わせた艦隊一同。せっかくだからテーブルを共にしようと集まった席の真ん中で、神通がそう提案した。全員が顔を合わせる中、最後に席に着いた日向がうんと、頷いた。

 

「部隊名か」

 

 日向、初霜、加古、名取、神通、江風。全員をまとめて一部隊とする場合、演習登録の際に名前が必要になる。水雷戦隊やら航空戦隊やら、要するにそういうやつだ。

 

「相手方は?」

 

 ジュースのストローを咥えながら、江風がもらす。それに日向が答えた。

 

「横須賀第一大戦隊だそうだ。御大層な事だな」

 

 うへ、と加古が舌を出す。

 よく恥ずかしげもなくそんな名前を掲げられるものだ。

 

「『大日向様艦隊』にしましょう!」

 

 全員分のお冷を準備していた初霜が、テーブルの外からぐいと身を乗り出す。テーブルの上にべったりと腹をつけ、うつ伏せに寝転がる。その背中をみんなしてぺちぺちと叩いた。

 

「却下」

 

 初霜の提案はあっけなく破棄される。「さっさと仕事に戻れ」と頭を押され、初霜は不服そうにエプロンの裾を整えた。全員分の水をくみ終えると、そそくさとカウンターへ帰って行く。皆と合流してから、初霜は再び食堂でのウエイトレスの仕事に戻っていた。

 

「航空戦艦隊?」

 

 加古の提案に、江風が唸る。

 

「もう一声欲しいぜ」

 

「じゃあ、航空戦隊」

 

「一航戦か何かかよ?」

 

「瑞雲艦隊」

 

「おい」

 

「採用」

 

「おいぃ!」

 

 自分勝手に話し始める一同を落ち着けるように、神通が「ぱん」とグローブに包まれた手を打った。全員が神通の顔を見たのを確認し、彼女はゆっくりと話し始めた。

 

「では…」

 

 目を開けて、一同を見回す。

 

「『雷雲艦隊』で如何でしょう」

 

 しん、とあたりが静まりかえる。全員が全員、その名前を噛み締め、自分なりの考えを巡らせているようだ。しばしの沈黙の後、名取が手を挙げた。

 

「水雷+瑞雲?」

 

 神通はゆっくりとうなずく。

 

「ですが、それだけではありません。雲を駆り、一撃必殺の水雷を撃ち込む。疾風迅雷を司る雷雲は私たちにふさわしい名前ではないですか?」

 

「異議なーし」

 

 江風が間延びした声を上げる。それに同調するように、全員が頷いた。

 

「決まり…だな」

 

「日向様艦隊はどうなりましたか?」

 

 香ばしいカレーのにおいと共に、再び初霜がテーブルを訪れた。手に持ったトレイには全員分のカレーの皿が敷き詰められている。それを手際よくテーブルの端から並べ始めた。

 

「『雷雲戦隊』だ。身に刻んでおけよ初霜、お前が背負う名だ」

 

「すばらしい、では今日はお祝いですね。我ら雷雲戦隊に」

 

 皿を配り終えると、エプロンを外して自分も席に着く。

 

「おい、初霜。これ…」

 

 全員が配られたカレーを見て訝しげに眼を細める。その中で日向だけが、やれやれとため息をついた。

 

「それは、サービスです」

 

 初霜はそう言いながら、嬉しそうに巨大なちくわ天にかぶりついた。

 

 




明日の更新から横須賀の提督「丁嵐誠一」と、呉の提督「松崎城酔」が登場する、立ち上る雲「外伝」が始まります。
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