立ち上る雲―航空戦艦物語―   作:しらこ0040

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【拾参】潜水奴隷

   

『きまったー!戦艦ビスマルクの主砲が直撃!旗艦ローマが大破!ドイツVSイタリアはドイツ艦隊の圧勝!』

 

 ラジオから流れる声に眉を顰めながら、丁嵐誠一は置きラジオのつまみを回してボリュームを絞った。甲高い解説の声は、悩みの絶えない頭に頭痛の如く響く。窓の外では公開演習が始まり、祭りの盛り上がりは最高潮に達していた。

 深く椅子に腰掛けたまま頭を抱える。

 

「松崎の様子はどう?」

 

 顔を上げずに、窓から外を眺めている少女へ問いかける。少女はサッシに肘を乗せ、ぶらぶらと足を遊ばせていた。腕を伸ばして、後ろ手で水着の食い込みを直す。少女は鎮守府指定の対ショック性スクール水着に身を包んでいた。

 絢爛な部屋の中に、動く影は丁嵐と少女の二人だけであった。

 

「あのねー」「あのね…」

 

 少女の口が動く。小さな唇から2重に声が聞こえてきた。

 

「生きてるよー」「死んだよ…」

 

「どっちなのよ」

 

 眉間のしわを深め、丁嵐が問い詰める。少女は気にする様子も無く外を眺めていた。

 

「どっちかなー」「どっちかな…」

 

 曖昧な答えが、やはり重なって聞こえる。この芝居がかった喋り方が、丁嵐は昔から苦手であった。ラジオを完全に止め立ち上がる。

 

「はぐらかさないでっ!嘘をついてるのは「どっち」!?」

 

 握り拳を机の上に叩きつけた。散らばった書類やペンが宙を舞う。

 

「やだなーセイイチったら、ピリピリすると皺が増えるよー?」

 

「誰のせいだと思ってんのよ…」

 

 本格的に熱を持ち始めた額を軽くなでる。手を動かしながら、頭の中を一つづつ整理していった。

 

「そもそもアンタ「達」には古鷹の監視を任せてたはずでしょ?どうして古鷹の暴走を止められなかったのよ!?」

 

 目の前の一人の少女への問いかけ。しかし、丁嵐の言葉は常に複数の対象へ向けられていた。少女の方も、それに疑問を抱く事は無い。

 

「でも…、フルタカがいなかったら殺されてたのはセイイチの方だよ…」

 

 少女の声。しかし、その唇は動いていない(・・・・・・)

 

「御託はいいのよ!アタシは職務を全うしろって言ってるのよ!聞いてるの?【伊13号・14号】!」

 

「クスクス」「ウフフ…」

 

 少女が窓枠から顔を上げ、その全身を露わにした。

 潜水艦と思しき少女は、真っ黒なショートボブの上に魚雷発射管を模した船首型の帽子をかぶっている。長い前髪の間から、やや切れ長の瞳が淡く輝いていた。

 

「だってヒトミが、「松崎(あいつ)が欲しい」って言うから。フルタカなら殺せるかと思ってー」

 

 可愛らしく唇を尖らせる。もちろん、そんな愛らしい仕草に騙されるような丁嵐では無い。

 

「…欲しい?」

 

 伊14号(イヨ)の言葉に眉を潜めると共に、嫌な予感が頭痛に追い打ちをかける。

 窓枠に手をかける伊14の「背後」から、「全く同じ顔をした」もう一人の少女が丁嵐の前に躍り出た。

 双子の姉である伊13号通称「ヒトミ」は、立てた指を濡れた唇の前へ置き、艶めかしい上目使いで丁嵐を見上げた。

 

「ヒトミね、松崎(あのひと)のおちんちん欲しいな…」

 

「はぁ!?」

 

 丁嵐は目を丸くする。

 

「ヒトミ!アンタこの前、整備のイケメン君を「奴隷」にしてやったばっかりじゃない!あのコ、壊しちゃったの!?二か月は「もたせろ」ってアタシ言ったわよね!?」

 

 伊13はとぼけたように首をかしげている。

 

「壊してないよ…。元気に工廠で働いてるよ…。だけどね、二人で休まず二週間くらいずっと「シコシコ」してたから、おちんちんの蛇口が馬鹿になっちゃったみたいなの…」

 

 本当に心配しているのか不安そうに表情を曇らせる伊13に対し、丁嵐は机の上に肘をついてがっくりとうなだれた。

 

「仕事中でも会議中でも街中でもね、ヒトミが「ぴゅっぴゅして」って耳元で言ってあげれば、触らなくてもいーっぱいおもらしできるようになったのよ…。でもぴゅっぴゅ途中で止めたい時でも、おちんちん「くちゅくちゅ」しても「ぺろぺろ」しても全然止まらないの…。いつも泣きながらびぐびぐ痙攣して失神しちゃうから、チトセがもう遊んじゃダメだって…」

 

「だからー、もっと頑丈なのがほしいよー」

 

 伊14が同調する。丁嵐はもうどこから咎めればいいのかわからなくなっていた。

 

松崎(あいつ)はやめときなさい。火傷じゃすまない、全身焼け爛れるわよ…」

 

 とりあえず釘を指し、大きく息を吐く。

 潜水艦として優秀な二人を維持するために、新たな玩具を調達しなければ。丁嵐の頭痛はますますその重みを増していった。

   




【どうでもいいこと】
ヒトミちゃんほしい
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