フルクトースは果糖とも言われる糖分の一種である。そして果糖は、ヒューマノイドの持つある機能を発動させるスイッチでもある。
光秀と知り合った当初にヒューマノイドの研究を手掛ける石黒からそう教えられた。しかしスポーツドリンク程度では、かなりの量を飲まなければ発動しないらしい。
食物として摂取する場合、果糖だけでなく水や他の栄養素も含まれる。そのため果糖が薄まり機能の発動に至らないというのが石黒の見解だったはずだ。
甘くとろけた紫色の瞳が近付きゆっくりと口付けられる。普段では絶対に見られない色香や積極性は機能が発動した証拠なのだろう。
床に座っていた魚住の足の上に乗った光秀は首に腕をからめてキスを続けていた。もちろん魚住はそれが機能のひとつで、行動もプログラムだとわかっている。それでも光秀を止めることも拒むこともしなかった。
「んぅ…」
キスの仕返しに脇腹を撫でてやると光秀が声を漏らす。水溶液に潤んだ紫の目を揺らしながら、光秀は首を横に振った。
「そのした…」
「ここか?」
光秀に指摘されるままズボンに手を差し込み腰に指をはわせる。差し込み口を見つけてぐるりと縁を指でなぞるとそれだけで光秀の身体が震えた。
「…っ、おれ……ヘン…えらー起きる」
人間なら涙と言えるだろうものをこぼしながら光秀が魚住を見つめる。
「魚住、うおずみ…俺おかし……しょりできな…」
「落ち着け。すぐに活動限界か強制終了になって、エラーも消える」
強制終了とともに眠りにつけばシステムエラーは消える。そして翌日にはまた普段通りの活動ができるのだから怖がらなくても良い。そう言おうとした魚住の目の前で光秀が切羽詰まった顔で首を振る。
「いやだ…いや、これ消え…いや、だ」
「この状態でいたいのか?」
「きえたらいや、だ……ばっくあっぷ…して、うおずみが……」
「俺が?」
光秀の言動は既にまともではなくなっていて、理解するのも難しかった。しかしラブドール機能というのはこんなにもエラーの多いものなのだろうか。確かこの機能は世間に出回るヒューマノイドのほとんどに搭載されていると聞く。それがこんなエラーを繰り返していてはリコール騒ぎが起きそうだ。
「うおずみ…すきなの……消え…ない、いやだ」
小さくか細い声色でつぶやいたのを最後に光秀は沈黙してしまう。その背中をたたいて呼び掛けても、光秀は沈黙したまま動かない。
そうしてひとり残された魚住は眉をひそめたまま天井を見つめていた。
今の告白はシステムエラーなのか、それとも感情プログラムというものなのか。そしてこれは本気にしても良いものなのか。そこにつまずいた魚住はぐるぐると悩んだまま動けないでいた。