二度目のシステムエラーを起こした光秀だが、やはり翌朝には元に戻っていた。昨夜の事もやはり覚えていないらしく『なぜか強制終了した』としか言わない。
そのため魚住は自分の事を好きだと言った光秀に何も返すことができなかった。
ただやはりエラーが頻発する事を不安に思い、魚住は石黒に連絡を取ることにした。そして休みとなった日曜日、魚住は光秀を連れて研究所を訪れる。
月城国際ヒューマノイド研究所は日曜ということもあり表向きは休みとなっていた。しかし研究員の中には休まずに研究を続ける者も多く、石黒もそのひとりだった。
初対面の時と同じく白衣姿で現れた石黒はそばにいる守衛に会釈をする。
そして魚住たちをうながして施設内に向かった。
「それで…エラーが頻繁するとの事ですが、どのような状態なんですか?」
白い壁に囲まれた廊下を進みながら石黒が早速と質問を向けてきた。そのため魚住は言いにくそうな顔で視線をそらす。
「出会った当日と昨日、あやまって果糖の入った物を飲ませた。そして二度ともシステムエラーを起こしている」
「当日……活動限界を迎えてシステムがダウンした時の話ですね。果糖摂取によるシステム異常はこちらも把握していますが」
「その直前に例の機能が発動した…んだと思う」
「あなたはまだ何か隠し立てをしているんですか?」
「したくてしてるわけじゃねぇ。言いにくいだけだ」
気恥ずかしさを誤魔化すように強い口調で言い放つ。そんな魚住を冷めた目で眺めていた石黒はややあってため息を吐き出した。
「あれから俺は教授の屋敷に行ったんですよ」
「サポートをしていたという男と会ったのか?」
「ええ、相変わらず不遜で性格に難のある人でした」
性格の良し悪しを言うのなら石黒も他人を非難できるほど良くはない。そう思いはしたが、魚住はそれを口にすることなく真面目な目を石黒に向けていた。
「そして彼はやはり普通ではありませんでした。ご子息への恋心も、ご子息へ向けられたものではなく才能へ向けられていたそうですからね」
「才能に恋をした? なんだそれは」
「わかりませんよ。彼はご子息を見ながら、その奥に潜む才能を見ていたそうです。ただご子息がその才能を歪ませていたことも理解していたと…」
言葉を途中で途切らせた石黒は顔に嫌悪感を表している。しかし目的の部屋に到着したため足を止めてパネルに番号を打ち込み扉を開かせた。
通されたのは談話室ではなく、テレビドラマで見かける手術室のようだった。部屋の中央に寝台があり、その周囲を大型の装置が取り囲んでいる。
「この部屋は?」
「彼の状態を見るにはこれくらいの装置が必要なんですよ」
魚住の問いかけに返しながら石黒は光秀に目を向ける。
「今回はあなたのバックアップとデバッグ処理も兼ねています。頑張ってくださいね」
「…あいつはいないよな?」
少し柔らかい口調を向けた石黒とは対照的に光秀の声は固かった。そんな光秀に石黒はいませんよと返す。
「緋田は天才のいない場所に興味はないと言っていましたから」
見知らぬ名前が出たことで魚住は石黒に目を向ける。
「誰だ?」
「彼の開発サポートをしていた男です。その才能を無駄にして、今も屋敷に引きこもっている変わり者ですね。しかし教授が組み上げたプログラムに介入して彼の記憶をいじるなど、緋田以外にはできません」
そう言い放った石黒はやはり嫌悪感を露にしたまま光秀へ台へあがるよううながした。