ヒューマノイドと警察官 二章   作:とましの

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15話

三時間半をかけたメンテナンスとプログラムの修正は無事に終わる。そしてその時点で石黒は徳川の認識を完全に改めたらしい。

「フランス帰りで距離感のおかしい生意気なだけの新人だと思っていました」

「正当な評価をされていない、ということか?」

やや気落ちした顔でつぶやいた石黒の隣に立ったまま魚住が問いかける。そんなふたりの目の前では三時間前から変わらず徳川がキーボードを打ち続けていた。ただ現在は修正などの作業は終わっているらしい。

「……そうですね。月城所長が引き抜いたらしいとは聞いていますが、噂の域を抜けられませんでした。ここ数ヵ月雑用以外の事をしている姿を見ていなかったので」

フランスの施設から所長が引き抜いてきた人材を雑用として飼い殺している。それは管理職としてどうなのかと魚住は素直な疑念を抱いた。そしておそらく石黒も同じ事を考えているのだろう。納得のいかなそうな顔で腕を組んだ。

「管理職の視野が狭いと困りますね」

「下の人間にとっちゃ最大の不幸だよな」

ふたりが言葉を交わす間に徳川の手が止まる。立ち上がった徳川は寝台に近付き、光秀に声をかけた。

「003、気分は?」

徳川が声をかけるそばで光秀がゆっくりと起き上がる。

「システムがクリーンになった。記憶回路が全部繋がってる」

「削除されていた部分も復元したからな。問題があったら言ってくれ」

「ない」

問題はないと光秀が告げれば徳川は腰に指していたコネクタを抜いた。

 

 

石黒たちと別れて帰路に就いても光秀の口数は少ないままだった。石黒と一緒にいる時に静かなのはわかるが、ふたりきりになっても変わらないのはおかしい。

やがて帰宅した魚住は玄関を施錠しながらリビングに向かう光秀を見る。その後を追いリビングに入ると、暗い室内で光秀は何やら視線を走らせていた。

「何をしてるんだ?」

「……感情プログラムが動いている」

「何?」

「俺は自分を廃棄しようとしたんだ」

魚住に背中を向けたままとりとめのない言葉を吐き出す。そんな光秀に魚住は首をかしげながら近付いた。

リビング内は暗く、廊下の証明も光秀までは届かない。そんな暗がりで唐突に振り返った光秀は魚住に抱き付いた。

「感情プログラムが止まらない。止まらなくて…」

魚住の肩に頭を落とした光秀はすがり付くように背中をつかんでいた。その肩に暖かさを感じた魚住は、光秀が涙をこぼしているのだと気づく。

「今は止めなくて良い。つらければつらいで良いんだ」

包み込むように光秀の背中に腕をまわした魚住は後頭部を撫でながら告げた。すると魚住の背中をつかむ手に力がこもり光秀が声を上げて泣き始める。

 

 

記憶を復元するということは、今まで失っていた部分を思い出すということに繋がる。だとしたら光秀は何を思い出して泣くのか。

そう考えた魚住は自然と光秀を開発した教授たちの死へ行き着いた。

生まれて間もないヒューマノイドが親を失った。普通の子供であれば、それはどれほど苦しいことだろうか。しかし今までの光秀はそれを理解できていないような平然とした態度を見せていた。だがもしそれが、親との思い出を消された結果だとしたら。

 

出会った時の光秀は、自分は不必要だから廃棄するのだと言っている。それも持ち主がいないからという理由に繋がっていた。そのため魚住は光秀の持ち主になることで、光秀が廃棄される事を回避している。それも言い換えれば、親を失った子供が親を追い死ぬことを選んだと言えるだろう。

だとしたら緋田という男は、それを阻むために光秀から記憶を削除したのかもしれない。そう考えると、光秀の記憶を消した事も本当は正しかったのではと思えた。

 

 

それでもと、魚住は自然と光秀の頬に手を添えていた。顔を上へ向かせるとうっすら暗い中で光秀の泣き顔を見ることができる。

「俺は、おまえのそばからいなくなったりしない」

光秀の目は大量の水分で揺れているようだった。その目を見つめながらそっとささやき口付ける。

するとなぜか光秀はふてくされたような顔を見せた。

 

 

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