仕事中、刑事部長に呼ばれた魚住は警備部からひとりやってくる旨を告げられた。
聞けば連続強盗事件の捜査のために刑事部長直々に警備部へ要請していたらしい。そしてその要請が通り、国賓の来日予定のないこの時期の応援となった。
刑事部長との話を終えた魚住は一課へ戻るべく廊下を歩く。
警備部警護課から応援に来るのはM001だ。連続強盗事件の容疑者を捕らえるのに彼は大きな力になってくれるだろう。そう刑事部長は期待していたが、魚住もそれは同じ考えだった。
一課に戻り自分のデスクで仕事をしていると受付から内線電話がかかってくる。電話対応をした魚住はすぐに行くと告げて電話を切った。
「有栖川、少し出てくる」
部下に声をかけると部署を離れて警視庁の一階へ向かう。すると受付近くに光秀が立っていた。
魚住が買ってやった黒のジャケットを着た光秀は険しい顔で行き交う人を眺めている。
「どうした? 急用か?」
「警察に来いって言われたから来てやったんだよ」
笑顔はないが、それでも問いかけると光秀はすぐに返してくれる。そんな光秀を見つめたまま魚住はどういうことなのかと首をかしげた。
「誰に呼ばれたんだ?」
「買い物行ってたらヒッタクリってのがいたから捕まえてやったんだ。そしたら話が聞きたいから来いって」
「それは捕まえた管轄の警察署だな」
三日前に玄関の施錠を教えたため、光秀が外を出歩くくらいおかしくない。しかしまさか犯罪と出くわして犯人を捕らえるとは想定していなかった。そこに驚きながらも答えてやると、強気そうな光秀の眉が困ったように垂れる。
「魚住じゃダメなのか」
「担当の警察官がいるからな。それで、おまえはなんでそんな顔をしてるんだ?」
光秀の間違いを訂正した後に表情のおかしさを問いかける。すると光秀は再び眉間に皺寄せて周囲に目を向けた。
「ここのヤツらみんなこんな顔してるからな。これが正解だろ」
「おまえは警察官じゃないから、そんな顔はしなくていい」
確かに光秀の言うとおり、警視庁のロビーを歩く人間は皆いかつい。もちろんここにいるのはほば警察官なのだからそれは仕方ないことだ。だがだからと光秀がそれを真似る必要はない。
そう告げるとやっと光秀の笑顔が見られた。
「魚住も一緒にショカツ行こうぜ」
「俺は仕事中だ」
「マジか…来てくんねぇとショカツ行けねぇ」
笑顔から一転して肩を落とす。そんな光秀に魚住はため息を吐き出した。
「どこの所轄なんだ? ひったくり犯を捕まえたのはマンションの近くか?」
「マンションを出て752歩進んだ商店街の入り口」
「……近くの商店街だな」
なぜ歩数を数えたのか。そんな疑問をぐっと飲み込み魚住は所轄の場所を説明する。真剣な顔でそれを聞いた光秀は最後にひとつうなずいた。
「わかった」
「何がわかったんだい?」
唐突に横合いから声をかけられふたりが振り向く。すると見知らぬ若者がにこやかな顔で立っていた。緩やかにはねる金髪と青褐色の瞳の若者は魚住たちよりも少し視線が低い。
そして警視庁のロビーにいるには笑顔の明るすぎる男だった。