魔法少女リリカルなのは 異能の武器を使う者(更新停止) 作:文房具
悠斗SIDE
「明後日から温泉に行くから」
「「「「はーい」」」」
脈絡のない士郎さんの声に、俺、なのは、すずか、アリサが返事をする。
なんでこんなに理解が早いかというと、毎年恒例行事だからだそうだ。
うちとすずかの家族にアリサを加えたメンバーは、毎年この時期の連休になると2泊3日の温泉旅行にでかけているらしい。
俺は初めてだけど、事前になのはに教えてもらっていた。
さてと、早く準備しないとな。
そして、当日。
「見てみて、すっごい緑」
「うん、まあ、そうだな」
車に乗ってから約1時間半。
森の中に入ったのか緑が多くなってきた。
三人娘は窓の外を見て騒いでいるが、何がそんなに面白いんだろう。
もしかして、この面白さを理解できるのは子供だけで、俺は結構おじさん?
いやいや、それはない………よな。
それにしても、今のなのはは色々と背負い込んでいるよな。
ジュエルシードのこと、そして何よりあの金髪の女の子のこと。
俺はまたしも、本当の意味で小学3年生のなのはにはきついだろうな。
この前のお茶会と時はダメだったけど、今回の温泉旅行の間くらいは忘れていてほしいけどな。
「あ~っと、着いた~」
車から出て、一回背伸びをする。
和室の部屋に荷物をおいて、さっそく温泉に行きますか。
「ユーノ君、おいで」
「キュ、キュキュー」
温泉の暖簾の前で、何だかユーノとなのはが騒いでる。
「どうした、なのは?」
「ユーノ君が女湯に入りたくないって………ねぇ、一緒に入ろうよ」
ああ、なるほどね。
まだ小学3年生だし、羞恥心とかはあんまりないんだろうな。
まあ、ユーノも一人称が『僕』だから男なんだろうし、一緒に入るのは恥ずかしいんだろう。
「いいよ、ユーノ、こっちに来い」
「キュー」
ユーノは素早く俺の方に乗り、そっと耳打ちしてくる。
「ありがとうケン。助かったよ」
「え~、一緒に入ろうよ~」
まだ未練があるらしいなのはを置いて、士郎さんとユーノと一緒にお風呂に入る。
カポ~ン
という音が、聞こえてきそうである。
「いや~、気持ちいいな」
「本当にそうですね~ユーノはどうだ~」
「キュク~」
鳴き声だけだがユーノも気持ちよさそうだ。
ていうか、今更だけど、ここの温泉に動物入れてもよかったのかな。
たぶん、士郎さんが何も言わないってことは、いいんだろうけど。
始めて見た士郎さんの全身は、傷跡だらけだった。
なんで、喫茶店のマスターがこんなに傷だらけなんだろう。
昔何かやってたのかな。
「士郎さんって、昔は何をしていたんですか?」
「んー? 人を守る仕事をちょっとね………」
「人を守る? 警察官とかSPとかそんな感じですか?」
「うん、まあ、そんなようなものだよ」
その言葉を最後にお互い無言になった。
「ところで悠斗」
「はい?」
いい感じに気持ちよくなってきたところで士郎さんが俺に声をかける。
「最近、何をしているんだい」
俺の心拍数が跳ね上がった。
「何、とは?」
出来るだけ平静を装って声を出したつもりだが、実際にはかなり声は震えていると思う。
「そうだな………危ないこと、かな」
………そりゃ気づくよな。
父親である士郎さんが気付かないはずがない。
これは誤魔化すのは無理かな。
「あー………まあ。ちょびっとばかし」
「そうか………」
士郎さんは何かを考え込むようなしぐさをする。
「………やっぱり、心配ですよね」
「もちろんだ。………特に悠斗の事がね」
「俺、ですか…………」
「そうだ。………君が来てからの半年間、君と一緒に暮らしてみて、少しは君のことを分かったつもりだからね。君は自分から前にはいこうとしない。せっせと誰かのサポートをする性格だろう」
確かに当ってるかも。
でも、それがどうして俺を特に心配する理由になるんだろう。
普通なら、前に行こうとする人を心配するんじゃないか?
「サッカーなんかの大会だと、選手よりもむしろ、大会の準備をする役員の方が大変なんだ。大会役員のしごとはあまり表に出ないけど、これがなくなれば大会を行うことができない。そういう意味では大会において、大会役員は選手よりも大事な存在なんだ。たぶん、今君がやっている危ないことでも、君はそういうポジジョンにいるんだろうからね。だから君の負担はとても大きい。そして、君は、いなくなってはいけない存在だ。………これからも、その危ないことを続けるつもりなら、このことを常に考えてほしい。………もちろん、その危ないことが犯罪ではないことを祈っているが………」
「大丈夫ですよ。犯罪じゃありませんから」
深いな、士郎さんの言うことは。
これは自分では分からなかったことだな。
士郎さんはそういう俺の性格に気付いて言ってくれたのだろうか。
「………心に留めておきます」
「うん、そうしてくれ」
それっきり俺は2人が温泉の中でしゃべることはなかった。
「すっごい気持ちよかったね~」
「温泉で汗流したところで卓球しない?」
卓球か。
あんまりやったことないな。
「私………卓球はちょっと」
そりゃなのはは嫌だろうね。
絶望的な運動音痴だしな。
「こんにちは~、お嬢ちゃんたち~」
俺は声のしたほうに顔を向け………目を細める。
そこには先日俺を蹴り飛ばした赤髪の女性(犬耳はない)がいた。
なのはの前で立ち止まる。
「ふーん、ふんふんふん………」
何をするきだ?
俺は、すぐにでも動き出せるように構える。
「強そうでもなければ賢そうでもなし、早さも無さそうだし………ただのガキンチョに見えるんだけどねぇ」
その言葉にアリサが前にでようとしたが、それを制して俺が前にでる。
「すみません、もしかしたら人違いでは? 俺を含めて、ここにいる皆はあなたのことを知らないようですが」
キョトンとした後、
「あーら、ごっめんねー。なんか知り合いに似てたから勘違いしちゃったよ~」
「可愛いフェレットだねぇ、よしよーし」
ユーノを撫でながら顔を寄せてくる。
そして小声で、
「今のところは、挨拶だけね。忠告しとくよ、子供はいい子にして、おうちで遊んでなさいね。お痛がすぎるとガブッといくよ」
言ってくれるね。
さっき士郎さんは俺に、あまり前に出ないと言ったが、俺も男の子である。
「へぇ、そうですか。ご忠告痛み入ります。でも、余計な忠告は身を滅ぼしますよ。犬耳つけてたお姉さん」
「よく言うよ。あんなに弱いくせにね」
「そう思うなら、今ここでやりますか?」
「へぇ~、いい度胸じゃないか」
俺と、犬耳お姉さんは睨み合う。
実際、俺は負ける気はしなかった。
あのときは、ウェザードーパントと戦闘した後で、さらにオーズのコンボを使い、かなり疲労していた。
しかし、今は体調バッチリ。
この前とは、まったく状況が違う。
少しでもつつけば破裂しそうな空気が、俺たちを包む。
「ほら、行くわよユウ」
俺の腕を引っ張って、犬耳お姉さんの横をアリサが通り過ぎる。
「どうしたの、あんなに睨むなんてユウ君らしくないよ」
後ろにいるすずかも、顔に困惑の色を浮かべて訪ねてくる。
「あー………いや、気にしないでくれ」
振り向いて答えるついでに後ろを見ると、犬耳お姉さんは、非常に厳しいお顔でこちらを見ていた。