しかし、それは飽くまでそれが自分の意思でなんの対価もなしに発動出来て、且つ、思い通りの時間まで戻せると仮定した場合の話ですよね?
いいですか?現実はそんなに甘くありません…まあ、そんな能力でも、欲しい人には喉から手が出るほど欲しいのでしょうけど、ね。
「私…どうしたらいいんだろう…」
私に与えられた部屋と、猛竜の使っている部屋の間の廊下の壁に背を預け、座り込んでいた。
まったく…私は何もできない。無知で無能な駄目人間だ…それに加え、誰かを傷付ける人でなしだ。
心の中で無力な自分を責める。どんなに悔やんでも悔やみきれない。まさか、あの人たちにそんな過去があったなんて…
…こんなことをいつまでも考えていても仕方ない。今日は寝てしまおう。落ち着いたら、明日謝ればいい。
そう思い、立ち上がろうとしたときだった。
「た、大変だ!!」
焦った男の大声が廊下に響き渡る。すぐに人が集まり、戦闘の準備が始まる。どうせ、私なんかが行っても足手まといになるだけ…
「猛竜が…やられた…」
え?今なんて言ったの…?
「例のヤツに出くわしたらしい!!この目ではっきりと見たんだ!!」
「まったく…あの大馬鹿ヤロウが…だからあれほど…」
何を…言っているの…?だってさっき飛び出して行ったばかりじゃない!!
「私のせいだ…」
私があんなことを言ったから、私がここに来たから、私がいるから…みんな不幸になる
「おい、友喜!?どうした!!おい!!」
私は倒れてしまったようで、記憶は曖昧だ。
「…ったく、こんなときだってのによぉ!!」
「おい、お前はこいつを頼む!!」
「なんで私が…猛竜がやられたんでしょ!?」
「お前はまだ出られないだろ?」
「私だって、出たい気持ちは同じ…!!」
「…まだお前は死ぬべきじゃない」
「くっ!!分かり…ました」
……………嫌な夢…だったな。妙にリアルで、でも現実味がなくて…意外とこのベッドも寝心地がいいのね。家のベッドでないと寝られないかと思っていたけど…ぐっすり眠っちゃった。
そんなことを思いながら、部屋を見渡すと、部屋の隅でレイピアを向けてきたあの少女がいた。しかし、目の周りは赤く腫れ、暗くクマもできていた。
「あなたは…どうしてここに…?」
「………起きたのね。さ、行きましょ…」
おもむろにドアノブに手を掛けた彼女に思わず聞いてしまった。
「え…行くってどこに…?あ、いや」
彼女がゆっくりと振り向いたとき、彼女の顔が鬼の形相に変わっていたことに気付いた。その豹変ぶりに背筋が凍った。
「決まってるでしょ………地獄によ!!」
狭い部屋だったため、一気に間合いを詰められ、彼女のレイピアの切っ先が私の首元に迫る。私は逃げるどころか、動くことすらままならなかった。
「随分と素直に自分の死を受け入れるのねぇ!!」
「………い…………や」
自分の意志とは関係なく、そんな言葉が漏れた。ああ、ここで私も終わりか…短かったなぁ…そんなことを考えていたからこそ、次の彼女の言葉に耳を疑った。
「…冗談よ…アンタなんか殺したって…」
すると、唐突に彼女は語り始めた。
「猛竜さんはね、とっても中の良かった私の友達のお兄さんだったの…」
どうして私にそんな話をするの…?そんなことを思っていると、彼女はさらに続けた。
「昔はね、猛竜さんは…とっても優しくて、格好良くて、憧れのお兄さんだった…でも、家族を亡くして…復讐だけに突き動かされてる…そんな猛竜さんが見てられなくて、でも、私にもその気持ちが痛いほど分かるから…」
そう言うと彼女は目尻いっぱいに溜まった涙を拭うと、部屋から足早に出て行ってしまった。
「なんなのよ…今日は朝から…でも、あの子…泣いてたよね…?」
着替えてしばらくして、部屋を出ると、そこには彼女が壁にもたれ掛かって待っていた。
「こっちよ…早くしなさい、って、何よ、その格好は」
「え、何って…何が?」
至って普通の格好だと思うのだが…どこか変だろうか?
「今日はお葬式なのよ!?どうしてそんなに無神経なの!?」
え…?お葬式…?誰の…?
「そんなこと…誰にも聞いてない…」
「昨日のこと…覚えてないわけ…?呆れたわ…」
「え…でもその時、あなた…いなかった…よね?それに、そのことと今日のお葬式になんの関係が…」
「はぁ?何言ってんの…?昨日、猛竜さんが死んじゃったのよ!!」
そんな…あれは夢のはず…それに…あの猛竜が死ぬはず…ないじゃない…!!
「どうして…」
私の疑問に答えたのは、彼女ではなく、ゆっくりと歩いてきた支部長だった。
「…最近覚醒したA級の魔人にやられたんだ…ったく、ルール破ってまで死にやがって…」
いやだ…本当に死んでしまったなんて…いや!!
…私の体は自由に動かせず、その口は無意識に言葉を紡いでいた。あ、また…私…
「我ハ認メナイ…我ハ全テヲ変エル………」
「アンタ、何言ってんの…?」
「我ハ全テノ運命ヲ手繰ル者。既ニ有ッタ無ヲ突キ進ム者。」
「ショックでイカれちまったのか…?」
「…全テヲ狂ワセ、受ケ容イレラレヌ時ヲ遡ル者ナリ。」
…ふと、目を覚ますと、ベッドの上で眠っていた。これは…私の家のベッドだ…
「…またやってしまったのか…まあ、悪い夢…になったな…」
そう、私の能力は…心に異常な負荷がかかると自分の意志に関係なく発動し、その時間よりも過去に戻るというもの。しかも一部の記憶をなくすという厄介なオマケつき…
正直、この能力は好きになれなかった。自分が自分でなくなるようで…ただ、最近は、夢と割り切ることで、いくらか気持ちは和らいでいる。
「さて、とやることは一つ…携帯は…ないね、よし、次は…ベッドから下りて身長のチェック…よ…っと、おぉ!?」
体が軽い、いや、軽すぎる!?それに目線が低い!!いや、低すぎる!!それに…私の部屋ってこんなにピンクだったっけ…?
「というか…こ、これは!?…プリ○ュアの光る変身パジャマ!!」
そして、何よりここで心配になるのは…
「この身長で兵器を振り回せるかどうか…よね…」
空間に穴を開け、そこから兵器を慎重に取り出すと…
「お、重っ…!!…と、思ったけど、長いだけでそんなに重くはないわね…ただ刃を下に向けないように注意しないとね、次からは。」
床には弧を描くように大きな傷ができてしまった。
「ま、まあ、カーペットでも買ってきて隠せばなんとか…」
果たしてこの体でカーペットを運べるだろうか…?そもそも、このときの私にそんな財力があっただろうか…?そんな考えが友喜の頭に過ぎった。
「………どうせこの部屋には私しか入らないし…大丈夫!!うん、多分、大丈夫!!はぁ…」
この年で既にこの先が思いやられる友喜であった。