俺達に鏡をくれ   作:ハナのTV

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おとぎ話の始まり

三つの月が同時に新月となる闇夜。うっそうとした森に南条もの光が降る。花火の様なキラキラと光って、一定の高度にたどり着くと強烈な光球となって大地を照らし、火花を大地へと降り注ぐ。

 

そして、そこに人影が見えた時、容赦なく曳光弾が混じった弾丸が飛来し、その咢で身体を食い破る。絶え間なく響く銃声に、砲声。そして人とヒト、竜たちが吠えて森は騒騒しい戦場となる。

 

『クソ! クソ! 土人共め! これで12回目の攻撃だぞ!』

『無駄口叩いている暇あったら――』

 

人間の兵士。塹壕から機関銃を撃ち続けていた二人の片割れが突然、頭頂部を吹き飛ばされて倒れ込む。もう一人が狼狽していると、彼の頭上から何かが降りて来た。誰だ!と叫ぶ前にその姿が照明弾に照らされて、兵士は慌てて拳銃を引き抜く。

 

それは人間の敵、敵の兵士だった。虎の横縞模様の迷彩をつけ、同じ柄のベレー帽をかぶった兵士であったが、決定的に人間とは違う。身の丈は人間の兵士のソレを頭二つ分ほど超え、よく発達した体格、なにより全身を毛でおおわれ、狼の頭を持つ“兵士”など人間にいようはずがない。

 

血に飢えた獣の目を前にして、人間は過呼吸気味になりヒューヒューと喉を鳴らす。神話やおとぎ話の化け物が迷彩服を装備して襲い掛かる。彼は冗談の様な現実を拒絶するために引き金を引く。

 

『く、来るな! 化け物が!』

 

人間は45口径オートマチック拳銃を引き抜いて狂ったように乱射する。銃口が反動で跳ね上がるのを必死に抑え、腕を十字にクロスして防ぐ狼男に12発中に6発撃ち込む。弾切れした拳銃を未だに引き金を引く。殺さなくてはならない。生存のためにはこの化け物を今すぐ此処で。

 

「豆鉄砲が」

 

兵士の顔が真っ白と、死者のそれに近くなる。何の効果もない。腕にめり込んだ45口径弾がポロポロと零れ落ちる。ひしゃげた弾頭を踏みしめながら、狼男は兵士の体を持ち上げ、左右に引っ張った。

 

兵士の体が悲鳴を上げ、やがて限界に達し、半分に割られた。血のシャワーを浴びて吠える狼男の兵士は勝利の雄たけびを上げ、血を顔に塗った後に兵士の機関銃と弾を分捕り、後からやって来た仲間達に銃器を配る。

 

「ロクスウェル少佐! お一人で行かれるな!」

「そうも言ってはられまい。今はヒトの手が足りん。さあ、諸君。足りない銃器を補充して進むぞ。目標まであと少しなのだからな」

 

駆け寄って来たロクスウェルの部下や同胞たちもまた個性的であった。猪頭の兵士に一つ目の巨人。人間とそう変わらない褐色の女性に、入れ墨の様な痣を持つ者。彼らは同じ装備を装着し、泥と埃に塗れた銃器を手に、指揮官に従う。

 

「しかし、損耗は激しく、負傷していない者はいません!クルップの突撃歩兵隊やメイズリーの竜騎士師団の連中もまた……」

「だから何かね? 我々は敵の中枢まで来れたのだ。あと一歩。そうだな。あと百名ほどの犠牲で敵陣を突破できる。何を臆するのかね?」

 

滅茶苦茶だ。この場にいる全員がそう思うが、どの道後がない。退路無し、捕虜になる道も無し。人間は彼らヒト達の捕虜など取らないのはこの場の常識であった。100万を超える同盟国の全戦力を投入し、敵陣を幾度も突破して、中枢へ送り込むことに成功した彼らには前へ進むしか道はない。しかし、当初歩兵3000、飛竜45、這竜20は居た決死隊の数は今や600名の兵士と竜が8匹のみにまで減少している。

 

この12回目の突撃で弾薬は底を尽き、一人30発入りのマガジン二本のみという有様だ。だが、敵はそんな事情は知ったことではない。猛烈な弾雨で頭を上げようものなら、ライフル弾で頭を粉みじんにされるのだ。

 

「増援だ! 機械兵士!」

 

一つ目の巨人が叫び、仲間の銃器の何倍も大きい両腕の機関砲を向けて発砲。4連装の機関砲からワインボトル大の薬きょうが排莢され、熱い薬きょうが仲間たちの上に降り注いで、彼らは一斉に悪態を吐きつつも遮蔽物に身をひそめる。

 

敵は人間の主力兵器、機械兵士。完全に自立し戦闘を行う死を恐れぬ完ぺきな兵士を前に精鋭たちは果敢にも抵抗するが、手足をもごうとも前進する機械兵士相手には分が悪い。

 

「コイツ等!」

 

猪頭の兵が迫撃砲を水平に構え発射した。強力な榴弾が一団のど真ん中で炸裂し、機械兵士をいくらか排除したかに見えたが、怯みもせず、正確な射撃にハチの巣にされた。青い銃火が視界を覆い尽くし、鼻は死臭と硝煙で利かなくなる。

 

仲間の死への感情すら麻痺した彼らは死体から弾薬など武器を拝借し、前線へと戻るのだ。正気など捨てろ。感情はゴミだ。悲しむのは後にしろ。全ては殺害と自身の生存の為の供物として捧げられ、鉄火の嵐を抜けるのだ。

 

「通信兵!」

 

背中に氷の剣をバックパックから飛び出させている兵士が近づき、ロクスウェルに受話器を手渡す。結晶技術によって生み出された通信機にロクスウェルは大声で叫ぶように伝える。

 

「飛竜 ナズルー公とドノウィ公に支援を要請したい!」

【了解だ少佐。しかし、対空砲火が激しい。我々の翼も鱗も最早限界だ。今後の支援は期待しないでくれ】

「馬鹿が! 落ちるなら敵陣に落ちて、一人や二人巻き込んで死ね。戦で死ぬは竜の誉れであろうが」

【……支援を実施する】

 

空を振動させる竜の咆哮。それが聞こえ、月明かりもない夜に対空砲火が火線を伸ばす。炎色反応で照らされた巨大な翼を持つ二体の飛竜が急降下する。砲火をかいくぐり、赤い目で獲物を捉えた彼らは口に炎を溜めこみ、空を切る。

 

「やっちまえ!」

 

兵士達の要望に応えるかのように竜たちは大口を開けて、息吹を敵に見舞った。高温の炎は瞬時に一条の光線となり、圧倒的な暴力の顕現である竜の破壊力を存分に見せつけた。

大気を焦がし、一切合財を粉砕して、闇夜を破壊の美学が照らす。

 

地獄では生ぬるい。悪魔めいた光景の下では何もかもが灰すら残さずに消失し、あまりの熱に雷が地上で踊っている程である。二体が高度を上げて、勝利の旋回をしようとするが、一体が地上から放たれた砲弾を直撃され、撃墜された。

 

「堕ちたぞ!」

「ありゃ、ナズルー公だ!」

 

竜が堕ちて行く。片翼がちぎれ飛び、胴体をも貫通されたのか、自らの炎に浴することとなり、遥か遠くで墜落して火柱を上げた。

 

「クソ! クソ! 最後の飛竜がやられちまった!」

「少佐殿!」

 

機械兵士を薙ぎ払う光条が一閃。巨大な大木ごと焼き切られた。ロクスウェルが声がした方を見れば、同盟国となったメイズリーの竜騎士師団の女隊長ノルド中尉とクルップ帝国突撃歩兵大隊のボーゼ上級大尉が部下と共に駆け付けた。

 

ようやく合流した。白い髪に褐色の美女のノルドがこの際勝利の女神にすら思えたが、来たのは60名と這竜1匹ほど。彼らの隊もまた損耗したことが分かり、これで残存は300名以下になったことを示していた。

 

「大尉! 時間が惜しい。どうにか中枢にまでたどり着き、敵の大本を叩かなくてはならない! 貴官の這竜は?!」

「ロイシュナーだけだ! 他はセンシャを道連れにして戦死した! だが、これで付近のセンシャ隊は排除したはずだ! まだ勝機はある!」

「その通りだ大尉」

 

豊かな髯を蓄えたボーゼが呼応し、長大な小銃の先に銃剣をつける。彼の突撃歩兵たちもそれに倣い、次々と着剣していく。金の刺繍が入った灰の制服と鈍い銀色の刃が彼らの不屈の精神を表しているようで、突撃隊の角笛手が笛を構え、歩兵の一人が小銃にクルップの三つ首山羊の描いた国旗を掲げる。

 

最後の突撃。煤に塗れた男達は覚悟を決め、どの兵団よりも前へと進む。

 

「我々は突き進まなくてはならない。皇帝陛下より賜った小銃に誓い、我らは最後の一兵になるまで、目的を果たさなくてはならない」

「当然だが、私はオズ革命軍だ。諸君らの忠義には付き合えんぞ」

 

ロクスウェルがボーゼに応えるが、ボーゼは首を横に振った。

 

「付き添いは不要。帝国軍人の意地は帝国軍人のみのものです。我らが先を行き、その隙に貴官達は進むのだ。どうか勝利し、生きて我らの最期を皇帝陛下にお伝えしていただけますよう。それでは」

 

二人の士官は何も言わない。止めることはせず、ただ敬意を背中で示す。突撃用意の合図を各指揮官が告げ、兵士達が覚悟を決める。ふと、オズとメイズリーの兵士がクルップの兵隊と目が合った。

 

「天上で会おう」

「ああ、一足先に行ってな。あとで戦果報告してやるからよ」

 

そして、時が来た。ボーゼが腰に提げた曲刀を引き抜き突撃の喊声を角笛と共に上げた・。

 

「皇帝の為、骨の捨て場所はここぞ! 訣別せよ! 突撃ィ!」

 

大昔の戦列歩兵のように大口径の小銃を一斉発射し、角笛と共にボーゼを先頭に四十名の勇者が弾幕の中を突っ切っていく。ヒトであるタフネスさと制服の下につけた竜の鱗の防弾着、そして忠誠と勇気で武装した彼らを這竜が息吹で援護し、残る隊員たちも別方向から突撃を開始し、最後の攻勢に打って出た。

 

榴弾と機銃、果てはガスまで使用されて尚、攻撃するのは彼らの意地と存亡をかけた一戦であるからだ。屍を踏み越え、一人十殺を叫び殺し、死んでいく。ガスと爆風に喉を焼かれようとときの声を止めない。目を潰されようとも、真っ直ぐと進む姿は恐れを知らない愚者か、勇者か。

 

ある者は銃剣で機械兵士を真っ二つにした後に立ったまま死に、ある者は死に際に身に着けた手榴弾を一斉に起爆させ、道を切り開く。ライフル弾をその身に50は超える程受けても走り、銃剣にナイフ、爪まで使い敵を倒す。

 

巨人がロケット弾で頭を吹き飛ばされ、倒されたのをみれば、死体を盾に前進し、機関砲を無理やりにでも使用し、一体でも多くなぎ倒す。

 

小高い丘では手榴弾を投げ合った。様々な形の手榴弾が飛び交ってはヒトも人間もただの血肉の塊と成り果て、それを乗り越えても地雷原に足を吹き飛ばされる。

 

「先陣は私が行く!」

 

這竜が全身を血と脂でまみれた体を引きずって地雷原を踏破する。破片と爆風を乗り越え、死地に活路を作る。

 

「帝国万歳!」

「革命の朝は近いぞ!」

「自由を! 勝利を!」

 

各国の兵士達が各々の国家を表す叫び声を喉が裂けんばかりに張り上げる。

 

砲の支援もなく、飛竜もいない。ただ肉体と精神だけが彼らの全てであった。狼男の兵隊が機械兵士の首を噛み千切り、猪たちが拳で殴り倒す。突破、特攻、玉砕。その三つの行動が彼らを支配していた。

 

死兵となった男達の狙うは敵のこの世界への進入路、ケイブである。それを立たない限り、永遠とも思えるこの戦争は終わらない。そして、勝たなくてはならない。

 

突破し、ロクスウェルたちは遂に機関銃陣地を制圧し、いよいよ目標値まで後少しの所まで走り抜けた。そして、たどり着いた先に見たのは彼らを照らすサーチライトの数々と万を超す大群であった。

 

「クソォ……!」

 

無機質なカメラアイと銃口が満身創痍の彼らを取り囲む。残存戦力32名と一匹。銃身は赤く、熱でひん曲がり、ナイフも銃剣も全て根元から折れた。爪は残らず剥がれ落ち、全身を赤黒く染めたロクスウェルたちはその場で立ちすくんだ。

 

「諸君、此処までのようだな」

「少佐殿……」

「我々の力及ばず、竜と魔女の籠は得られなかったようだ。どうやら先に散った者達に戦果は報告できそうにないな」

 

皆殺しだ。奴らが自分達を生かすわけがない。所詮、奴らからすれば自分達は技術に劣る野蛮な先住民でしかない。ここまで散々殺してきたのなら、尚更許す道理もない。

 

オズ革命軍、メイズリー竜騎士師団、クルップ帝国突撃歩兵。全てが協力しても届かない相手にロクスウェルは一歩前へ出て殺すようにせがんだ。部下たちが引きとめる中、一発の銃声が鳴って、ロクスウェルが一瞬倒れかけた。

 

弾丸が頬の肉をかすめ取り、ロクスウェルの顔をグロテスクな真っ赤な半面にした。だが、ロクスウェルはひるむことなく、額を人差指で叩いて見せた。

 

よく見ろ。落ち着いて狙うがいい。お前が殺す我らヒトの姿を。

 

だが、龍も魔女も彼らを見捨てていなかった。突然人間達の背後に何かが光った。

 

「何だ?!」

 

それは神話の輝き。ヒトの手でも、いや人間でも可能なのか。極太な光が天と地上を繫ぎ、そして光は広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、それは伝説となった。

 

 

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