信仰とヘソの地、ラーナは暗い意識の中で過去へ帰っていた。彼女に大人たちはこぞって言った。「この地に訪れた異端者を倒し、大地を取り戻そう。コレは聖戦で、殉じれば魔女と龍様は天の上で私達が天国に来るのを待っている」 彼女はそれを言い聞かせる大人に唾を吐く。
何が天国なモノか。天国へ行きたがっている癖に、大人達はこの地上で旨い飯をたらふく食って、戦利品の女を抱いていたではないか、と。
聖戦で死ねば天国に行けると言うのに、何故この地上で快楽にふけり、人生を謳歌するのか。その答えに幼い時のラーナは中々気づけなかった。振り返ってみると大人たちがどれだけ卑怯なのかを再認識する。
天国へ行きたい、だけど死にたくない。これは普通の思考だが、彼らの場合は天国が無いことを知りつつ、他人にその信仰を強制し、死なせるのだ。
ラーナはイストを撃った者達を執拗に殺した。榴弾で吹き飛ばされた身体に自らの軌跡を叩きこんで心臓と筋肉を働かせ、三つ巴で消耗していたところをひたすらに殺して回った。
マルディ小銃は過剰な連射と殴打に使われ、ストックは折れて銃身はひん曲がり、杖は先が黒々と焼け落ち、ガントレットは最早何であったかのか分からない程に変形して、ナイフは持ち歩いていた五本の内四本は血と脂で刃を鈍らせ、遂には切れ味の悪いノコギリのようになっていた。
満身創痍。その言葉の通りで元気よく動く狼の耳も動かず、艶のある肌は黒と赤でサイケデリックに染められた。
グラグラと揺れる頭で急所を正確に突くことは出来ず、何度も突き刺した愛刀に感謝の接吻をして放り投げた。不思議と悔いはなく、薄笑いを浮かべて森を彷徨よえば、過去を忘れることが出来そうな気がする。
痛い。汚い。憎い。全ては我が高ぶりを静めるため。魔女は戦場を駆け巡っては、血の雨に浴する。
最後の一本を握りしめ、歩いている内にラーナはすう、と血液が頭から下がるのを感じ、意識を失った。
それが一番新しい記憶。だが、ラーナは確信が持てなかった。過去と過去が混ざり合ったと言うべきか、時系列を無視した小説のように五分前と何年も前の記憶の判別がつかない。
「皆天国を信じているのに、死なない。死にたくないと言う」
自分の言い放った言葉だったが、いつ言ったのかラーナには分からなくなっていた。それが不快感へ変わり、怒りへと変貌すれば、心臓を火で炙られ、体に熱い血が流れて燃えるようだった。鋭い歯をむき出しに内側の熱に耐えようとするが、火は更に強く、そして今度は身体そのものが薪になったかのように燃えだした時、彼女は跳びあがった。
蒼い炎熱地獄と化した地上を一望しつつ。
「思い出させるな! 畜生!」
腹の底から怒鳴って起き上がると、熱は消えていた。その突然の変化に一瞬頭がついて行かなかったが、何事もない身体を見て夢から現実へと戻る。大きく息を吸って吐きだすたびに不快感は薄くなっていく。少しひんやりとした風が何とも心地よい。
ふと、ラーナは気付いた。手のひらに伝わる感触が柔らかい。粗末だがマットレスで毛布まで敷かれていた。周りを見渡せば、そこはラーナのいた場所とは違うものだった。
豆電球がぶら下がった天井に画面が割れたモニター、薄汚れてはいるが白を基調とした室内に合わない、古い木材で作られた簡単な机とベッド、それにハンモック。
生活感に溢れた空間は落ち着きやすく思えたが、先客の存在に驚くこととなった。
傍らには機械兵士が無造作に置かれていた。ラーナは一瞬身構えたが、無残にも胸をこじ開けられた上に左足と頭がもぎ取られている。ネジなどの細かいパーツが床に散らばっていて、誰かが分解したことが分かった。
骸をそのまま放置するとはラーナは感心しなかった。もしこれが部屋を飾るインテリアの一つだとしたら、その美的感覚を疑うことだろう。
「悪趣味」
「お褒め頂き恐縮だ」
知らない男の声に反応し、腰に手が伸びたがそこには何もなかった。舌打ちして声のした方向を睨むと眼前に湯気の立つスープ缶が現れる。琥珀色のそれはラーナの鼻孔を通して胃袋を刺激した。
「食わんのか?」
ラーナが顔を見上げれば、男が一人。身の丈は大佐より高く、薄茶色のマントを個人装備の上に着ていた。顔は髯に覆われ、髪の毛も脂ぎって不潔だったが装備はオズの物より洗練されていて、コンパクトにボデイーアーマーとマグポーチやラジオポーチを纏めてあった。微かに香る消毒液に似た匂いからラーナに男の正体を教えた。
「ニンゲン? アンタさ」
「ご明察だな。本当に匂いで分かるんだな。言葉だって君らのアクセントを真似たのに」
「アンタ達は消毒液の匂いがするんだよ。医者とは違う、嫌な匂いがね。随分コッチの言葉がお上手じゃない」
「君らの言葉はスペイン語によく似ている。だが、コイツはどうかな?」
ニンゲンの男は再びラーナにスープ缶を差し出す。ラーナは今すぐにでもありつきたいところだったが、警戒心がそれを抑えた。見知らぬ者からの食い物程、怪しいものはない。特にこの様な状況なら尚更だった。
「いい匂いだけど。アンタがくれるもんだとね……何ならアンタから飲んでよ」
「そうしよう。俺も腹が減っている」
男はハンモックに座り、スープ缶をスプーンですくって食べだした。奇妙な雰囲気だった。明らかに敵同士だと言うのに、男は乱暴の一つもしない。スープを啜ると、何とも幸せそうに顔をほころばせる男にラーナは首を傾げる。
こちらなど眼中になく、ただ目の前の食い物に集中している様は不可解であった。
「言い忘れたが、俺の名はストレンジャーと言う。皆そう呼んだんだ。君もそう呼んでくれ」
「変な名前ね。まるで犬みたい。それに敵に名乗る? 普通」
「敵とは誰の事だ。俺にはもう敵も味方もいない。いるのは子供一人も捕まえられんガラクタ共だけだ。それも、もう品切れだがね」
スープを半分ほど飲んでストレンジャーはラーナの座るベッドに缶を置き、ストレンジャーは一息ついてラーナに向かいあった。
「アンタがイストを追っていた一人ってことね」
「如何にも。ちょっとやりたいことがあってね」
「やりたいこと?」
「それを話すには長くなるが、まあ聞け。俺には魔女が必要なんだ。おっと勘違いして欲しくないが愛玩用にじゃない、力を借りたいのだ」
ラーナは頬杖をついてストレンジャーを見る。特に目や表情を重点的に見ることで、彼が狂った頭の持ち主か否かを判断しようとした。魔女を欲しがるニンゲンなど聞いたことも無かったし、ニンゲンにしては友好的すぎる。
相いれない種相手に一体何を頼もうと言うのか。
「いいか。コレを見てくれ」
ストレンジャーが懐から取り出したのは空のボトル。底の方に茶色く変色した何かがあり、そこにウジが湧いていたのでラーナは顔をしかめた。
「害虫駆除なら余所にあたりなよ」
「違ぁう!」
ストレンジャーは大声を上げて、地団太を踏んだ。ラーナは突然の咆哮に驚き肩をすくめ、ストレンジャーはラーナの両肩を掴んで瓶に張ってある何かを指さした。
「ケチャップだ。 読めるか? ケ・チャ・ッ・プなんだ。 いいか、コイツは世の中で最も尊い調味料だ。 取り出せば、どこでもトマトの甘みと酸味をひねり出せる優れものだ」
「あ、ああ」
「で、コイツがこともあろうに切れたんだ。 信じられるか? カラになったこいつは俺に塩だけのジャガイモを食えって言うんだ。 一年前はコイツに困ることなんて無かったんだ。それこそ浴びる程ケチャップがあったのに。気が付けば何もないんだ……トマトの味がないんだ。 食卓の赤が消えてしまったんだ」
血走った目は赤い調味料ケチャップのようで、ラーナはがくがくと身体を揺さぶられて、返答出来なかった。正確には何と言っていいか分からなかった。ラーナにとってケチャップなどと言うのは未知の調味料でしかなく、トマトソースの瓶詰くらいしか知らない。
調味料で此処まで騒ぐ男と言うのはついぞ見たことがなかった。とにかく、それが魔女に関係する重要な物であることは頭に入れたが、果たしてどこまで本気で言っているのかラーナには判断がまるでつかなかった。
「……ああ、つまりそれがどう重要なの?」
「バカか?」
「ハイ?」
「貴様、 こいつがどこにあると思う?」
ラーナはその答えを導き出すために頭を回した。調味料と言えば、大抵はキッチンにあるもので、なくなれば食料品店に行けばいい。だが、相手はニンゲンであることを思い出し、その上で考え直す。ニンゲンが簡単にケチャップを手に入れることができる場所、それはすなわちニンゲンで溢れた場所に他ならない。
「……どこよ?」
「なんてことだ」
だがラーナには想像力が足りず、結局たどり着かなかった。ストレンジャーは出来の悪い娘を見るように、ため息を吐いて肩をすくめた。ついでに首を左右に振って見せ、無言のままラーナを馬鹿にする。
ラーナはその態度に露骨に舌打ちして返した。ついでに舌を出して、小ばかにしたがストレンジャーは哀れむような目をするだけであった。
「なんと発想が貧困なんだ君は。君、何でもかんでも答えを他人に聞いたり、すぐ電話で調べる奴だろう? 全く以て知性に欠けるな。コレだから若い奴は」
「ケチャップに恋する奴に言われたくないね」
「味覚の頂点を侮辱するとは、文明性にも欠けていると見える」
どっちがだ、とラーナは思いついた30種類の罵倒と共に飲み込んだ。目の前の自称知性溢れる文明人が次に何を言いだすのか、という関心と答えをいち早く知りたい欲求が勝ったので黙ってうなずいた。
「つまりだな。俺は向うへ、故郷へ戻りたいのだ」
「……故郷ってアンタの世界の話かい?」
「その通りだ」
ラーナは失笑した。その目的と魔女がどうして結びつくのか、全く見当もつかない。そもそもケチャップとやらのために戻りたいと言うストレンジャーの言葉もコメディアンの話同然にしか思えないし、それも出来の悪いを通り越して、意味不明の冗句の類に分類された。
「そのケチャップって薬漬けなんじゃないの? アンタ頭がどうかしてるよ。調味料の為に魔女を拉致ってご帰宅? なんかの謎かけなの?」
「俺はいたって真面目だ」
ストレンジャーは濁りのない目で言った。
「俺の頭がおかしいって奴は大勢いたさ。脳みそがシャーベットになっているなんて事も言われたよ。俺の脳がジャリジャリのアイスクリームだってよ。笑えるよな?」
「でしょうね」
自分の頭を指さすストレンジャーにラーナはためらいなく肯定した。だが、ストレンジャーは自分の意見に肯定したと勘違いしたらしく、「そう思うよな」と笑って言いのけた。
「でも皆は俺の言うことが現実になって慌てだしたんだ。俺が君らは手ごわい、俺達は負けたって言っても信じなかったせいでね。俺は預言者でリアリストなのさ。実際、ケチャップを手に入れる為に一度世界に戻らなくちゃいけないのは事実なんだ」
「へえ、どうして?」
ラーナはいい加減にうんざりしていた。頭を掻いて右足をみっともなく貧乏ゆすりした。早い所、此処から、この男から遠ざかりたい。それも半秒ともしない内に。
「一つ、俺達は貧乏になった。昔は物で溢れていたのに今じゃ、歯磨き粉を手に入れるのすら一苦労だ。二つ、向うに戻るのに凄まじいパワー、力が必要なんだ。三つ、俺は俺達が負けた時の記憶をはっきり覚えている」
「……と言うと?」
「あの日、俺は」
その時、ラーナは身体を硬直させた。目と口が笑うのを止め、目の前の物狂いを脅威的な敵として見た。そんなラーナに気付いているか、いないのか。ストレンジャーは嬉々として語った。
「ソイツは地上にいたんだ。いや、そいつ等だ。一匹の狼に似たドラゴンと髪の美しい魔女を俺は見た。最初はただのトカゲくらいにしか思ってなかったさ。だが、ソイツはおrが見たドラゴンをトカゲにしちまったんだ。アイツは魔女の杖の射す方向に向かって……」
「見たんだね」
「正直見たくなかったね。あの魔女様はあまりに綺麗で……哀れそうだった」
ラーナは奥歯を激しく噛みしめた。歯が互いに摩擦し合って、手のひらに雷が起きた時、彼女は激発した。起こされた撃鉄が雷管を叩き、銃弾を弾きだすようにラーナはストレンジャーに飛びかかった。
「魔女が好きか?」
「黙りな」
喉を狙ったラーナの稲妻迸る右手をストレンジャーは自分のマントで覆った。いや、巻きつかせてその自由を奪った。マントごとラーナを引っ張り上げたが、ラーナはスープをストレンジャーの顔にかけて視界を奪った。
「お前……!」
「ごちそうさま!」
ストレンジャーが右手ですぐに視界を覆ったスープを拭うために顔に手を持っていったのを見計らってラーナは姿勢を低くして回り込み、後ろ首に必殺の一撃を加えようと両手両足全てを跳躍に利用して、跳んだ。
「死ね!」
電光石火で迫ったラーナが掴んだのは首ではなくストレンジャーの右腕だった。それでもラーナは構わなかった。死ぬまで軌跡を流せば、結果には変わらない。ただ死が数秒延長するだけで何も問題はない。
「どうかな?」
その時、ラーナが掴んだ右腕が力なく下がった。正確には腕がストレンジャーの体から外れたのだ。ラーナが勢い余って宙へと身を晒した時、ストレンジャーの強烈な肘鉄が柔らかい脇腹に直撃し、ラーナを吹き飛ばした。
「スープを台無しにしたな?」
咳き込むラーナにストレンジャーは右腕を掴んでラーナに向けた。義手であろうソレは一瞬で変形し銃身が二本、中から飛び出して水平二連のショットガンとなる。丸腰だと思った相手は最初から銃をその身に携帯していたことにラーナは舌打ちし、その場に座りこんで両手を上げた。
強い。ストレンジャーの技術はラーナのそれを凌駕しており、ラーナはグッと生唾を飲み込んだ。
「悪いが、おかわりはないぞ魔女よ」
「そのようね。殺す?」
「それはしない。しかし君とて協力はしてくれないのだろう?」
「モチロンだよ」
ラーナは血の混じった唾を吐き捨てた。ストレンジャーの一撃は鉛の塊で殴られるようだった。大佐の拳とどちらが強いだろうか、と他人事のように考えるのも束の間、ラーナはストレンジャーの申し出を拒否した。
「仮にできたとして何? アンタがケチャップとやらを取りに行くだけで終わるわけないでしょ。どうせ、またロクでもないニンゲンが大勢やって来るに決まってる。強盗が扉の前にいるのに誰が開けるかっての」
「俺以外ならそうするだろう。だが俺はストレンジャーだ。俺はこの味をもう一度取り戻したいだけなのだ」
ストレンジャーは乾いた笑いと共に散弾銃を下ろし、自分に装着した。すると散弾銃は腕の内側に隠され、つなぎ目も一切見えない生身の腕へと姿を変えたではないか。指を動かして感触を確かめ、ストレンジャーはラーナにその腕の精巧さを子供のように見せびらかす。
ラーナはそれを高い玩具のようにまじまじと見つめてしまっていた。
「ニンゲンにはソウルフードと言う言葉があってな。身に沁みついた味と言う物があるのだ。こいつを捨て去ることは即ちニンゲンであることを忘れることだ。俺はそれだけが望みなのに、君も信じてはくれないのか。石頭め。何故、分からんのだ」
「アンタがアホだってことしか……大体どうやって魔女を使うっての? 生贄の儀式に使う気?」
「まさか」
ストレンジャーは薄ら笑いを止めなかった。ラーナは彼の正気がどれ程残っているか、とふと頭をよぎった。ストレンジャーは今まで見かけたどのタイプにも属さない種類のニンゲンであった。
高い戦闘力と特殊な仕掛け付きの義手から見て、高度な訓練を受けた兵士であることは間違いない。しかし、その言動は明らかに精神のバランスを欠いているとしか見ることが出来ない。
ラーナは乏しい想像力を働かせて、眼前の男にどんな過去があったのかを見抜こうとした。
魔女と龍を見て狂ったのか。それとも長い戦場生活の硝煙と腐臭がストレンジャーの脳を侵してしまったのか。吊り上がった目でラーナがストレンジャーを凝視すると、ストレンジャーはその目に気付き、芝居じみた口調で何を求めるかを述べた。
「俺の古巣をぶっ壊してもらう。完全に、徹底的にだ。元同僚も大勢いるが、仕方ない犠牲だ。いいだろ? ニンゲン殺し……仇討ちができるぞ」
「アンタ本気か?」
口笛を吹いて、独り拍手するストレンジャーは濃いブラウンの瞳でラーナを凝視する。何を思ったか顔を両手で優しく包み、引き寄せた。あまりの事にラーナは長い脚でストレンジャーの股間に蹴りを入れたが、右足に走った痛みに絶句する羽目になったのみだ。
「俺のソコはチタン製だ。ちょっとやそっとじゃナッツ砕きもできない……話を聞けよ」
「最初から言えよ……チタンだかチンだか知らないけどさ。ああもう、話聞いてやるから、アタシに触れないでくれよ」
「分かったよ。イイから聞いてくれ。俺には故郷があったんだ」
「アンタも故郷の話か?」
唐突にラーナは此処に来るまでに故郷の事ばかり話すイストを思い出したが、ストレンジャーは「何の話だ?」と首を傾げた。
「忘れて」
「そうか。では続きまして、俺の故郷は奴らとは違ってな。それはそれは美しい所だったんだ。焼き立てのパンの匂いで起きて、黄金の波の様なブドウ畑を駆けまわった。俺達は女の子と手をつないで小鳥の群れのように歌っていたんだ。ところが帰れなくなった。俺は抗議したね、それはもう」
その代償がこれさ、とストレンジャーは義手を叩く。ラーナはこの男が随分過激な抗議活動をしたことに苦笑を漏らした。ついでに金属製の下腹部もそのせいなのか、と冗談めかして聞こうとすら思ったが、沽券に関わりそうだ、と遠慮してやった。
「よく言うだろ? 個人より国家って。俺は利己的で、臆病なんだとさ。だから、国家とやらに俺は実力を以って抗議しなくてはならない。アンタを利用して考えを改めさせたうえで磔にし、ケイブを開いて里帰りしようってのさ」
「臆病じゃないだろうけど、利己的だねぇ。忠誠心とかって言葉は忘れたの?」
「忠誠心は自分にこそ注がれるべきだろう」
「ああそう、アンタが追われる訳ね」
ラーナの毒舌にストレンジャーは大笑した。最も、ラーナも忠誠心を誓う対象もいなければ、それを行うための精神性を持っていなかったので、ストレンジャーの言い分はむしろ爽快にすら感じる。
ラーナにとって重要なのは旨い飯と自分であり、国家や社会やらへの奉仕ではない。ストレンジャーもそんな彼女を知ってか知らずか、より歩み寄ってラーナへの説得を続ける。
「仕事さえ終わればお前さんは自由にするし、コッチの軍は門から出さないよ。最も奴らが出れるかどうかは俺も知らないが。君の事だ。食い扶持さえあれば、国なんぞ知ったことじゃないだろう?」
「確かにね。だけど隣人は大切にしたいの。ウチの近所にはアタシとTVの趣味が同じ奴が多いからさ。それに言っとくけどニンゲンは好きじゃないよ。此処の住人よりかはましだけどね」
「じゃ、俺は?」
「しゃーないから協力はしてあげるよ。ただし」
ストレンジャーはあっさりと承諾したラーナを拍手で叩いて迎え、ラーナは鼻を一つならして不機嫌さを露骨に見せた。ラーナとしては一対一で勝てない相手に喧嘩を売るのはまだ得策ではないと考えた上で機を見て背後から喉笛を噛み千切ることを画策することにしただけであった。
何故なら、ストレンジャーを生かしておく理由などラーナにないからだ。彼はニンゲンで、魔女と龍を見てしまっている。彼の過去と安い調味料に故郷を思う哀れさにほんの少しの同情心を抱くが、それも髪の毛一本程の重さもない軽い物。殺しを躊躇う理由にならない。
そして彼女は死ぬわけにはいかなった。エッカートとイストに合流するためには今は生きていなくてはならない。特にエッカートの元で戦えないことがそうだ。彼の元で彼の為に戦い、血を流すことがラーナにとって相棒に出来る絆の証なのだ。
エッカートが自分を探すことにも疑いない。なら、自分が動けばきっと見つかると踏んだ。悔しいが今はストレンジャーに従うことを選択し、しかるのち首を掻っ切ってしまわなくてはならないだろう。
彼や自分、そして多くの者の為に魔女と龍を知られた以上は死んでもらわなくてはならない。しかし、彼女にはその前に済ませておきたいことがあった。
「まずアタシにスープのお代わりをよこすこと。次に頭には触るな。最後に魔女と龍に関しては喋らないこと。もう一つ、相棒と魔女に手を出したら絶対に殺す。よろしい?」
ストレンジャーは親指と人差し指で丸を作って見せた。
「OKだ」
最後の言葉はストレンジャーの生まれ故郷の言語で、ラーナにはその言葉の意味が分からなかった。
二話同時投稿です。
まだ拙い身ではありますが楽しんでいただければ幸いです。
世界観やキャラ、ストーリーを作るのも中々楽しい物です。