俺達に鏡をくれ   作:ハナのTV

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二人のお仕事

「で、行先は?」

「コレよ」

 

小さなロギ結晶の入ったランタンで照らされる中、ラーナは手渡された写真付きの資料を手に取って、一分ほど眺めた後、可憐な顔に微妙な表情を浮かべて曖昧に笑う。

 

「オイ」

 

エッカートの呼びかけを無視し、マグカップの中の波紋を立てているコーヒーを一口すするが、冷めていて、口に合わなかったので中身をそのまま床に捨てた。

 

「オイ」

 

彼女はようやく反応を示して、黙ってエッカートに書類をぶちまけた。紙の束が散らばってバサバサとうるさく音を立てる。エッカートはこの事態を予測していたのか、肩をすくめて相棒の無学さを嘆く。

 

「ムズイ単語で書きやがって。行先がヘソで女の子だかを連れてくるぐらいしか分かんないよ」

「勉強やってる? ラーナちゃん」

 

エッカートのおどけた口調に彼女は鼻を一つならして、顔を背けた。

 

「教科書ならアタシの糧になったよ」

 

お腹をさするラーナにエッカートは大きくため息を吐いた。

「また売ったな? オズさそりの蒸し焼きでも食ったろう このバカ」

「オイシカッター」

 

大体の内容は理解できるほどにはなったことを彼は祝福した。それはラーナにしては上々の結果で、意味を理解すると言う時点で拍手を置くしたいほどである。あまり安くはない市販の教科書を中途半端にやった後で食い物にしてしまうラーナをどつき回してやるか考えたが、今は仕事を優先することにした。

 

「お叱りは後だな。仕事はお前の言う通りだ。四日前にヘソとオズの国境付近で魔女を見たと報告があった。正確には、少女が箒に乗っていたのを見た“らしい”。それがこの写真」

 

エッカートは写真をラーナに見せた。白黒の写真で兵士姿のホギーの遥か先に、豆粒ほどの様な小ささで箒にまたがる魔女らしき物体が写っていた。極小のシルエットを見て、ラーナは呆れる以外の感想を持ちえない。

 

実は大佐の悪戯で、自分たちに嫌がらせをさせているのではないか。こんな被写体を見て、本気で喜んだとしたなら、いよいよ大佐も精神病棟へ連れて行くべきだろう。

 

「で、こいつを捕えてオズに連れてくるのがお仕事だと。質問は?」

「曖昧過ぎない?」

 

ラーナは目を凝らして写真に写る物体を凝視した。。これがカメラに偶然それらしく映った飛竜か虫だと言われれば、信じてしまうだろう。少し前に流行った幻獣探しの番組の真似事をやらされるのは正直、ご遠慮したいところだった。

 

「そう、非常に曖昧だ。まるで雲のようにフワフワしているね。だけど、俺達向きの仕事だろ?」

「そうね」

 

二人の言う通り、これは彼ら向きの仕事であった。曖昧な情報に動く軍隊はいない――軍は国家の最高の暴力装置であるのだから、集団で様々な思惑の中、練りに練られた計画に従い、始めて動く。妄想や楽観論を徹底的に排除する軍の主義で言えば、こんな情報では兵隊はおろか、スプーン一本だって出すわけがない。

 

「大人って何でもかんでも許可とか命令とかメンドイよね」

「子供も普通はそうだろ。親の許可がなきゃ、お泊り一つできないんだ。そう言うカタい手続きなしで動けるのが俺達の利点だ」

「自由な子供って最高ね!」

「全くな」

 

だが、私兵ならば話は別だ。判断を下すのは大佐本人、故に気楽に動かすことが出来る。まさに個人の暴力装置と言え、その意味で彼らは手軽な拳銃に似ている。もしくは呼べば誰にでも股を開くアバズレと言うべきかもしれない。

 

「でも、場所がヘソってのがイヤね」

「嫌な思い出でも?」

「そりゃもう。 てかアンタもでしょ?」

「それもそうだが、断る理由もない上に、報酬は弾むんだ。二か月は遊んで暮らせる」

 

表面上は対等である彼ら二人にも拒否権はあるが二人は拒否しなかった。それが二人の性なのか、あるいは嗜好なのかは置いておくとして、彼らはヘソの地で仕事をすることを引き受けた。

 

そのために、二人は中央のテーブルにお互いの獲物が入ったキャリアケースを少々乱雑に置いて鍵を解除し、中を開ける。

 

「整備はしっかりしておけよ。お前の魔術はコイツ程便利じゃないからな」

「便利なら良かったのにね。荷物も減るし、弾代も請求しなくていいし」

「恨むなら、不便な魔術を作った魔女の婆様だ。きっと、俺達がこういう物を作るのを見越して手抜きしたんだ。面倒な部分は魔女の試練だとか、修業が足りないとか言って誤魔化したに違いない」

「俗な創造主さまだねえ」

 

二人のケースの中には武骨なライフルとリボルバーが一丁ずつ仕舞われていた。頑丈なアース鋼の削り出しのレシーバーが売りの突撃銃マルディ85。20発の連装マガジンにサイクロプスの皮膚を貫く大口径の徹甲皮弾が使用できる非常に強力な一丁である。

 

「まだコレかよ。いい加減最新のくれればいいのに」

「ラーナちゃん。それなら壊さないでくれよ」

 

旧式だが未だに現役の軍用銃であり、その信頼性は非常に高い。得物を手にし、その状態をエッカートは確認する。同じようにラーナも短いカービンモデルを握って、その感触を確かめる。

 

ラーナの白く細長い指は一見して銃を持つに似つかわしくないが、指も手のひらも固く、慣れた手つきで簡単な点検を行う。花より銃に触れて来た少女の手に愛銃は良く馴染んだ。白い指がグリースで汚れる。

 

「魔女がいなければ、ただのピクニックなんだけどな」

 

一人愚痴るエッカートはキャンティーンやマグポーチをベルトにつけていると、ラーナは口笛で陽気そうな曲を披露した。

 

「さあ、エッカート。サケの燻製に白パンと林檎のジュースが入った瓶をバスケットに入れて。世界の中心まで緑の香りと新鮮な空気をたっぷり吸って、歌いましょう」

「お日様は君と一緒に! 貴方のピクニックをもっと楽しく。オズの森バターをよろしく! オズの森バターは世界一! 塗って食べれば婆さんも腰ぬかす!……アホらしい」

 

ラジオでよく聞くバターのコマーシャルを歌って、エッカートが吐き捨てるように言った事にラーナは不満を抱いた。ノリの悪い相方に舌打ちをして、ごちった。

 

「いいじゃない、ノってもさ」

「お前はラジオより教科書とか本をもっと読むべきだよ。おバカな事ばかり覚えてもしかたないだろうに」

「今度、テレビを買ってくれたら考えるよ」

「買って三日で壊したお前にやるモンなんてない」

 

エッカートは背嚢の中身を確認しながら思い出していた。せっかく買った旧型の結晶テレビにソーダの瓶を投げてぶち壊した彼女の事を。しかも、壊した理由が見たいと言ったクイズ番組の問題に一問も正解しなかったことのみで、である。

 

画面の向うの白い歯を見せて微笑む司会者に投げたつもりだったが、瓶は司会者にあたることなく、TV画面と中の結晶を破壊し、翌日には粗大ごみの仲間入りを果たしたのだ。バカに機械は与えてはいけない。すぐ壊すし、ロクな事をしない――それがエッカートの教訓で、高い授業料を払った以上、二の舞は御免だった。

 

「ライフルはいくらでも買ってくれるくせに」

「買うのは大佐だ。だが警察用の横流し品を折り畳み銃床にしてやってるのを俺だって事忘れず、ソイツを大事にしろよ」

「ま、これもあるしね」

 

ラーナは左手に古風なガントレットを装備してほほ笑む。野戦服に自動小銃を装備している中であまりに場違いな装備であり、表面に龍と魔女の彫刻が彫られた金属の杖が装着されたソレにエッカートは小さくため息を吐吐く。

 

魔女と呼ばれるのを嫌がる癖に、魔女の象徴である杖を持つ。それは大きな矛盾であり、またラーナの魔女であって魔女でないと言う主張を表していた。

 

「お前はいいなぁ」

「そうでもないよ」

 

その時、ガタンと大きく音が鳴って、彼らの足元が大きく揺れた。バランスを保とうとしたがふらついたラーナをエッカートが後ろから支える。

 

「ありがとエッカー」

「どういたしまして……着いたようだ」

 

壁越しに感じるエンジン音と振動が遠ざかっていく。ラーナが感覚で2分ほど経ったのを確認すると二人は重いコンテナの扉を開けた。金属製の錆びついた扉は開けるのにひと手間だったが、完全に開くと二人を夜のヘソの地が出迎えた。

 

「変わらないねぇ」

 

エッカートが小さくつぶやく。そこはヘソの大地と空を一望できた。小高い丘からは緑豊かな森と湖の夜景を見渡せられた。穏やかな湖面には三つの月が、三日月、満月、半月と映り、その青々とした光が森を満たしている。

 

森は湖の青と結晶化した老樹の緑が互いに溶け合って、丘から見ると煌びやかな王冠のようで、大地から天への捧げもののように思える。更に目を凝らせば、地平線には砂漠の砂嵐が渦巻いていた。

 

荒々しい砂塵はいかなる生命すら拒む暴風雨のようだが、不思議と森や湖を侵すことなく、その威容を誇っているだけだ。故に、山の頂を見れば雪が降り積もっており、その白化粧は大変に美しく、砂の暴君すら怯む勇壮な純白の姫君の相を見せていた。

 

ほう、と圧倒されていると今度は鳥たちの鳴き声に二人ははっとさせられた。

 

大小さまざまな渡り鳥たちが森から飛び立っていて。赤や青、白と言った本来同じ場所にいるはずのない鳥たちが大空へ優雅に羽ばたく。奇妙でそれでいて魅せる光景。彼らの行先を二人は目で追い、ヘソの空へと視線を移す。

 

空は水面のように揺らいでおり、うっすらと地上を鏡のように反射していて、薄い蜃気楼のような大地の向うで星々が輝いている。手を伸ばせば、天上の全てに手が触れることが出来そうで、二人は赤子のように意味もなく空に手を伸ばす。

 

清浄な夜空に浮かぶ星の河は反射された大地の河と重なって、星々の舞踏会となっている。星々がこの幻想の地を見守っているようだった。

 

まさに神聖にして不可侵のヘソの地。全ては”魔女と龍”にのみ許された大自然の、荘厳にして華麗な魔宮と言った所だろう。

 

この世界の中心ではあらゆる常識が通用しない。ここでは少し足を伸ばせば、砂漠や雪原に草原、森と、それぞれの異なった気候と環境が隣接している。その境界線に行けば、砂漠と森が綺麗に分かれている。そして、生ける全ての者が一つの例外なく共存しているのだ。

 

ここは触れ得ざる神域と言ったが、その言葉通り神、創造主たる「魔女と龍」が最初に作った地であるとされ、かつては恐れと畏敬の念を以って、この地は長きにわたって踏み入られることがなかったと言われている。

 

とは言え、時代が変われば、あっさりと神や信仰を忘れられ、いつの間にかヒトも住むようになって、数百年は経つ。その子孫である二人は遠い先祖を敬うことはしなかった。むしろ、神の地に住めば、自分達も神になれると信じた浅はかなヒトを創造主は嗤ったろう、と信じて疑わなかった。

 

「……何でこんな所に住もうと思ったのかな? 私達のご先祖様は」

「俺達のように天に手を伸ばしたかったのかもな」

 

ラーナは此処が自分の故郷であることを信じられなかった。そしてエッカートは自分の答えに自嘲じみた笑いを含めた。

 

「まるで子供だな。高い所に住んだところで、何の意味があったのやら。空気が薄くなって馬鹿になったに違いない。どうしようもない先祖様だよ」

「アタシ達も同じかも。アタシ、此処から見える景色は好き。本当に手を伸ばせば星の海にすら手が付けそう。もしかしたらあの海を泳げる気がするんだ」

「……世の中お前の様な奴ばかりなら良かったのに、な」

 

そう毒吐くエッカートだが別の解釈もしていた。子供が大人になると、いつしか星に手を伸ばすことを止める。それはより身近な現実しか見なくなるからで、夢を忘れる事と言える。

 

先祖は夢を持ってこの地に来たが、その子孫がそれを忘れ、手近な物にしか興味を持たなくなったからではないだろうか。詰まらない大人しかいなくなったのかもしれない。

 

空に伸ばした手を下ろして、ライフルを握った。

 

「さあ、行こうか。魔女探しに」

「うん」

 

丘を下り暗い森へと彼らは入っていく。ラーナはもう一度呼ばれるまでしばらく空を見ていた。天に自分達の姿が映るのではないか、と期待しながら。

 

 

 

 

 

ヘソの地は様々な環境が混在している。彼らが足を踏み入れた場所は森林であった。オズに最も近い位置にある此処は昼でも背の高い木々の葉で太陽光をさえぎって、薄暗い。踏みしめる土にはコケと小さなクリスタルが生えていて、上も下も緑一色であった。

 

「涼しいねえ」

「ああ、五感で感じる大自然だな」

 

遠くに耳を澄ませば川のせせらぎが聞こえ、鼻を土と植物の香りがくすぐる。ラーナは深呼吸をして新鮮な空気を味わう。身体が内も外も洗われるようで爽快だったが、装備品が興を削いでしまった。

 

「ああ、せっかくのピクニックが」

「仕事だっての。全く、野戦服もだらしなく着やがって」

 

エッカートはラーナの服装を見て咎めた。野戦服の前を開け、黒いインナーが丸見えで彼女の豊か胸を強調させている。無駄な脂肪には彼も同情するが、それ以上に彼女の緊張感のなさには毎回呆れるしかない。

 

加えてラーナはライフルのマガジンをテープで二つ上下逆さまにくっつけていて、エッカートは弾丸に埃がつくと注意しているのに未だに止めていないのも目についた。

 

「アンタこそ。職業軍人じゃあるまいし、ハットまでご丁寧に被っちゃってまあまあ……いっそ士官学校でも受ければ? もっと礼儀正しくなれるし、多少性根も真っ直ぐになるでしょ」

「入れれば、こんな汚い仕事しないさ。それにお前一人になるのも可哀想だしね。お前の為にお喋りの相手になってやってるんだ。感謝しろ」

「アリガトウゴザイマスー」

 

全く感謝を感じないラーナの言いざまにエッカートは肩をすくめる。いつものことだ、気にするな、と頭に言い聞かせるのが彼の常である。

 

「で、魔女は感じた?」

 

ラーナがぶっきらぼうに聞くとエッカートは首を横に振った。

 

「何も。ヒトの気配すら感じないな」

「ホント。アタシらの魔術って便利だか、不便なんだか……」

「魔女なら」

 

エッカートは枝を払って進む。

 

「多分、お前と似たように感じると思うんだけどね。他のヒトとか竜より曖昧な感じなんだ。形が定まっていない雲みたいに」

 

エッカートは自分の感じ方をそう表現した。彼の力は確かだとラーナは知っていた。彼の勘は誰かを見つけるには最高の能力だ。そして、彼が言うにはどんなヒトであるのかも知ることが出来る、と言う。

 

「ホントにそこはムカつくね。生き残ってこれたのはいいけど、もっと肝心な所で役に立たないんだから」

「そうだな。軌跡が暖房やら明りの代わりになればいいのにならないのと同じさ。所詮は銃と同じ。殺しの道具さ」

「……感謝はしているよ」

「生存に関しては、だろ?」

 

そんなエッカートと共にいたお陰で、彼女は生き残って来たのだから、ラーナはエッカートを決して疑わなかった。。

 

だが、故にラーナはそれに可笑しさを感じずにいられなかった。雲のような存在なら、空を自由に飛べたっていいだろう、と不満を覚える一方で、なら自分が何なのか分からないと言うのは滑稽であった。

 

――アンタが分からないなら誰に聞けばいいの?

 

ラーナはそんな想いを胸にしまいこんで目の前の相棒を追う。

 

「大佐もそう言う所知っているからアタシらに頼んだんだねぇ。得体の知れないとか言うくせに実は一番アタシ達の事を把握しているんじゃないの?」

「多分、軍人やらないで学者の方が向いてるな」

「あの顔に白衣は似合わないけどね」

「言えてる」

 

一瞬、沈んだ空気が再び湧いた。白衣の狼頭のいかつい学者様を想像して、笑わずにはいられなかった。

 

だが、笑いはそう長くは続かなかった。

 

「ラナ!」

 

エッカートが彼女の名前を短く呼んだ。二人は大木に背を預け、中腰の姿勢を取る。

 

「何かいたの?」

「固いのだ」

 

その呼称にラーナはライフルのセレクターをフルオートの位置に回した。初弾を薬室に叩き込み、ガントレットから金属製の杖を突きだす。完全に戦闘態勢へと移行した彼女はおしゃべりな口を閉じ、八重歯を強く噛みしめた。

 

エッカートが手でとラーナを制し彼女の瞳を射すように睨むと、瞬時にラーナの頭に稲妻が奔った。ビクリ、と身体を一瞬揺らしたかと思うと、彼女は跳ね跳ね、身の丈の五倍はある巨木を上り終えていた。

 

疾風――音もなく大木に張り付き飛び移っていく彼女はそう表現する他なない。下から見えるのは狼の眼光を灯すヒトの影のみで、死神のランタンがゆらり、ゆらりと揺れているようだ。

 

やがて一匹の獣は地を這う敵を発見し、その胸目がけて急降下した。

 

「バウ!」

 

木の葉を抜けて急降下する少女に物体は何も気づかなかった。いや、ラーナを少女と形容するのは相応しくなかった。蒼い雷光をまとった一匹の狼が真上から口を開いてやってきたのだ。

 

ガントレットの杖の先を蒼炎が纏い、突き刺す。周囲と完全に同化していた光学迷彩をかけていたヒト型の機械は胸から脇腹まで抉られ、衝撃で宙へと浮いた。砕けたレンズが万華鏡のようにラーナを反射したが、それに意味はない。カメラアイは突然上から降りて来た獣を捕えることなく沈黙し、一個の機械兵士は役目を終えようとした。

 

「もう1機ィ!」

 

だが、休む間もなく役目は彼女によって与えられた。残骸を強引に蹴飛ばし、射撃姿勢を取った二機目にぶつけ、下敷きになったところにラーナは

腰だめに構えて、全弾ぶち込んだ。

 

激烈な反動が腕を揺らし、断続した破裂音が鼓膜を叩く。砕けるレンズに装甲。銃口から火花を散らして赤く照らせば、破壊が起こるのは自然の摂理と言えよう。ライフル弾が金属を貫通し、ドラム代わりにリズムを刻めば、二機目が踊る様に跳ねる。頭部と胸から上をずたずたに引き裂かれ、錆びついた装甲と基盤をそこら中に飛び散らせた。

 

ここでようやく、三機目が動いた。僚機を失って復讐に燃えるかのように素早くサブマシンガンをラーナに向ける。完ぺきにロックオンし、対象の排除にそう時間はかからないことは明白だ。引き金を引くべく、AIは指先へと電気信号を送る。

 

「見えてるよ」

 

魔女の囁きを聞いた時、機械兵士はその意味を理解できただろうか。

 

信号は届くことは無かった。サブマシンガンに強烈な衝撃が走り、指ごとはじけ飛び、続いて、側頭部、脇と胸郭を徹甲弾が貫徹し三機目はその場で回転し、破壊された。

 

奇襲と狙撃。敵の反撃を一切許さず、電撃的な攻撃で叩きつぶす。まだ少年少女の歳である彼らの殺戮は完ぺきに行われた。

 

普通ならありえない光景だろう。先ほど撃破した機械人形はニンゲンの尖兵であり、この世界を脅かした兵器の一つである。その性能はベテランの兵士ですら手を焼く。

 

だが彼らは素人ではなく、十年近く戦った歴戦の少年少女であったのだ。恐ろしいまでの手際で敵を粉砕し、生存競争に勝ち残った魔女の年少兵相手には機械兵士は脆すぎた。

 

「見た? 見た!? 飛びかかり空の一突き! 鷹の様に突き刺して、流れるようにマルディのフルオートで穴ぼこにしてやったのをさ! 大佐の早技なんて目じゃないね!」

 

ラーナはマガジンを交換し、功を誇った。幼子のようにはしゃぐラーナをエッカートは「そう、はしゃぐな」と言って諌めたが吐息は荒く、自分の頬が自然と緩んでいた事に気付いていない。

 

銃は最高の殺しの道具である。同じ銃ならば、誰が使っても殺傷能力に差異がでない。差異が出るとすれば、それは熟練した腕前と言った所であり、ラーナは勿論、エッカートも殺したと言う結果に満足していた。

 

戦いは生の充足を与えてくれる。あらゆる事が些末事になり、全ての苦悩から解き放たれる! 死をつかさどることは即ち、生を掌の中に収めるのと同意義だ!

 

「この指がコイツを仕留めた!コレ! 人差し指一本でさ!」

 

人差し指を突き出すラーナは戦闘の熱に酔っていた。エッカートは遠くから見て、自分のライフルに感謝のキスをする。銃を持ち、魔術を駆使すればあの恐るべき侵略者も簡単に倒すことができる。そんな万能感に浸り、こんな事が出来るのは自分たちだけだと二人は叫ぶ。

 

それが自分達の才能であり、個性であると、エッカートとラーナは心躍らせる。テストの点数を誇るガキとは格が違う。エッカートは自分の倒した得物を近くで見ようと近づき、クルクル回って踊るラーナをよそに得物の目を覗き込んだ。

 

「……何も見えないな」

 

無機質なカメラアイに映った自分を見ようとした彼だったが、ひび割れたレンズには何も映らず、そのせいで熱もどこかへと消えた。いや、映らない方がいいのかもしれない。何が見えるか、と思うとエッカートは胸が締め付けられた。

 

「行こうか」

「何で? まだ少し」

「こんなの倒しても、仕事は続くし、何の証明にもならないさ……ただのガキの真似事だよ。お前、こんな事で何をそんなにはしゃぐんだ?」

 

エッカートの皮肉が訊いた言葉にラーナは大きく舌打ちした。乱暴にカービンをスリングを利用して背中に回した。

 

「それもそうね。 こんなことで自分がスゴイってなるわけもないね。殺しももっと上手くやる奴なんていくらでもいるしね! ああ、弾の無駄をしちゃった! ついでに体力の浪費ね、全く!」

「ああ、そうだ。だが仕事に関しては無駄じゃない」

「何よ?」

 

エッカートは一拍置いて言った。

 

「こんな所にニンゲンの機械がいたってことだよ」

「斥候じゃないの?」

「補給もない。生き残るのに必死な奴がわざわざ足がつくようなマネをするとは考えにくいね。コイツらは貴重な戦力だ。偵察にしてもラジコンヘリでいいと思うね」

 

冷静さを取り戻したエッカートは仕事に関してその頭脳を働かせ、そう結論づけた。ラーナはその推察を考える。確かにエッカートの考察にも一理あった。ニンゲン達の兵器の中であの空飛ぶラジコンがこちらを偵察し、知らない内に包囲されていたことも珍しくなかった。

 

その玩具は記憶が正しければ、銃器を搭載したことは一度も無かった。積めないのだろう。つまり、自分達のような敵を警戒するにしても、それらで警戒網を作るなりすればいい。見つけて攻撃するも逃げるも自由だ。ヒト型を使えば、敵に自らの存在をアピールするだけでなく、余計な警戒や更なる戦力を呼び寄せてしまう。

 

なら、わざわざヒト型を使う理由は何か。発想を変えて、ヒト型でなくてはならない理由を考えるべきだろう。戦いの興奮を冷ましてラーナは頭を捻る。エッカートはその間にヒト型をくまなく調べて、「お」と声を漏らした。

 

「何かあった? エッカー君。 魔女の知恵を貸してあげるから見せなさい」

「知恵があるのは俺の方だろ? ホラ」

 

エッカートはそれをラーナの方に向けた。彼女が首を傾げて覗き込んだ。

 

筒状の物から大きな破裂音がしたかと思うと彼女は何かに絡まれた上に後ろに大きく吹き飛ばされた。

 

「何しやがる!」

「おお、スゲぇ。 北のメイズリー国の捕獲ランチャーだ。こんな小さいのにしっかりと捕まえられるんだな」

「バカヤロー! アタシに傷がついたらどうすんだ! ラーナ様の珠の肌だぞ!」

「それに捕まえた姿もなんだかHだね。お前だと野良犬みたいだけど」

「エッカー!」

 

ネットに絡まってギャンギャン吠えるラーナを楽しみつつ、エッカートの疑念は益々深まった。もしかすると奴らも魔女を探しているのか、と。光学迷彩に捕獲ランチャー、考えれば武器も比較的殺傷能力の低いサブマシンガンなど拳銃弾を使っていた。

 

ジャングルでは小型な武器が好まれるが、戦中の記憶を辿っても機械兵士の殆どは空中で炸裂するグレネードランチャーを装着したカービン銃を所持するのが普通だった。複雑なヘソの地では近距離戦以外は不得手なサブマシンガンはあまり好まれない。何より、ニンゲンの拳銃弾は意外なタフさを発揮するヒトに有効な手段とするには頼りなかった。

 

「カービンが無いのか? そんな奴が機械を使える余裕あるか?」

 

独りつぶやき、顎に手を当てる。

獣狩りならライフルを使えばいいが、魔女狩りには威力が過剰過ぎると考えたからではないか。しかし、ならば何故、ニンゲンが魔女に興味なんか引くのか。とち狂った大佐でもあるまいし、自分達より科学が発達した連中が魔術に何を見出したのか――エッカートの思考は加速し、一つ一つ事実をピースのようにはめ込んでいく。

 

「奴らが魔女を欲しがるって? そんな事があり得るのか?」

「エッカート様! この哀れな雌犬様にお情けでも何でもいいから、早く解け!」

「ハイハイ」

 

ラーナを解放しつつ、エッカートは思考を次なるステージへと移行させる必要を感じた。この仕事はどうも一筋縄ではいかないことを確信した。太陽が雲に隠れ、一瞬暗くなった空の下で彼らは再び歩き出した。

 

 

 

 




まだまだ知識不足な部分が多いかもしれませんが、頑張って完結させたいですね。

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