とある日の夜、日本の冬木市にあるとある民家で惨劇が起きていた。その民家に住んでいた住人が1人を除いてナイフを持って押し入ってきた男性に殺されたのだ。そして残された住人である少年はリビングの中央に男性が置いた椅子に縄で縛りつけられていた。
男性が何か言っているが少年の耳から耳に抜けていくように頭に入っていかない。少年は男性が民家に押し入ってくるまで今日もいつも通りに終わると思っていたのだ。それがこのありさま。目の前の現実にショックを受けて呆然自失に陥っていてもしかたがないのだろう。
そんな少年の状態をまったく気にせず口から一般人には理解不能な思考を口走りながら男性はリビングの床に少年の両親だったであろう物体から出る液体、血で何かを描いていく。それは図形であった。魔法陣とよばれる裏の人間ではない者でも知っているものである。そして懐から取りだしたボロボロの古い本を開いて何かを唱えだした。
それまで無風だったリビングに窓や扉も空いていないのに男性が唱えだしたときから少したってから風が吹き始め、床に描かれた陣が輝きだす。まるで男性の唱えている言葉に呼応しているように光が増し、唱え終わった瞬間直視できないほどの光が陣からあふれ出した。
「聖杯戦争? サーヴァント? 英霊? 私は、私たちはそんなたいそうなものではないのですが」
光がおさまった時、陣の中央には女性がいた。シスター服を着て胸元に十字架のロザリオを身につけている。右手には十字架を模した緑色の杖を持ち、左手に書物を抱えている。髪は金髪で腰まで伸ばしている。瞳は碧眼で優しい目つきをしている。そして10人中8人が美しいというだろう顔つきをしている彼女は頭に流れ込んでくる知識に困惑しながらも目の前にいる男性の手からナイフを杖で叩き落として喉笛を杖で突いた。
「がっ!」
「とりあえず状況は把握しました。マスターは私が、私たちがまもります」
女性は倒れた男性の心臓に叩き落としたナイフを突き刺した。それにより男性は死亡した。そのことを確認した女性は縛られている少年の方に向き直る。少年は目の前で行われた女性の所業を見て自分も殺されるのではないのだろうかとびくびくしていた。
「なぜそんな顔を? 私は、私たちはマスターを害しはしません」
「マスター?」
「はい。右手の甲にある紋様がその証拠です」
女性はそういいながら少年を縛っている縄をナイフで切り少年の右手を少年が手の甲を見やすいように持ち上げた。そこには3つに分かれている紅い紋様がいつの間にか浮かび上がっていた。
「ちなみにマスターは聖杯戦争というものを知っていますか?」
「せいはいせんそう?」
「その反応・・・・・・どうやら知らないようですね。まあそれはおいおい説明しましょう。まずは部屋を片付けてしまいましょう」
女性はそう言い左手に抱えている書物を開きなにごとか唱える。するとリビングがみるみる綺麗になっていき、最終的には男性が押し入ってくる前の状態まで戻った。今の様子からここで先ほどの惨劇が起きた場所だとわかる人はいないだろう。
「マスター、もう寝ましょう。良い子は寝る時間ですから」
「わかった」
その様子をみて驚いていた少年に女性は声をかける。少年はそれに素直に応じ自分の寝室に向かう。先ほどの惨劇を一刻も早く忘れたい。そうだ、寝てしまえば一時とはいえ忘れられるだろう。そんな風に思いながら少年は眠りにつく。女性はそんな様子を静かに見守っていた。これから起きるだろうたたかいから目を逸らそうとしながら。