ライダーたちに連れられてキャスターは商店街を練り歩いた。ライダーはそんなキャスターの様子を横目に見ながら酒屋で酒を樽ごと購入したりいろいろな店に並ぶ商品を検分したりしていた。ライダーのマスターはその様子を呆れた眼で見ながらキャスターを警戒していた。
「私を、私たちを警戒しても無駄ですよ」
「どっどういう意味だ」
「貴方はすでに私の間合いに入っています」
キャスターはそういいながら指を地面に向ける。ライダーのマスターはキャスターの指さす地面を見て驚く。なにせそこにはキャスターの影から出てきた手のようなものがいたからだ。それは不気味で生理的嫌悪を隠せないものだった。
「なんだよこれ!?」
「私の魔術です。虚数属性の魔術なのですが知っていますか?」
「これが?」
ライダーのマスターは珍しい属性である虚数の魔術を見て驚いていた。虚数の魔術属性を持つ者は現代にはほとんどおらずもし持っていたら間違いなくホルマリン漬けにされることになる。よっぽどの魔術の大家に生まれたのでなければだが。
「影の触手。これに掴まれたものは虚数空間に呑まれる。これを応用して私は呑まれた者の能力を得ることができるのです」
「すごいじゃないか」
「ええ。ただ、欠点もあります。対魔力持ちの3騎士には通用しないのですし大質量を一気に呑みこむことができませんのでライダーにも有効打を与えることができないのです」
「なるほど」
キャスターの魔術の話にライダーのマスターは一定の理解を示した。ただ、このような弱点があるので通用しないとキャスターは説明しているがこれは嘘の説明である。確かに対魔力持ちには通用しないが大質量を一気に呑みこむことはできるのだ。ライダーを呑みこむことも時間があれば可能だ。
ならなぜそのことを言わないのか。ここでそれを言ってしまうとライダーのマスターに警戒されてしまうからだ。今も警戒しているようだがこれ以上警戒されると周りの人間に違和感を与えてしまう。それは避けなければならなかった。
「・・・・・・それは本当のことかのう?」
「本当ですよ。多分貴方なら貴方を呑みこむ前に脱出できるでしょう」
「確かにのう」
ライダーはキャスターの言を肯定した。ライダーの乗り物である神牛に牽かせた戦車であればキャスターの魔術から逃れることは簡単なことなのであろう。見た感じそこまで神秘が高いわけではないし質量もあまり多く感じない。
「それでライダー。これから何をするのですか?」
「うん? これまでの行動でわからなかったかのう」
「ええ」
「そうだ、ライダー。今度は何をする気だ! もしろくでもないことだったら・・・・・・」
ライダーのマスターはライダーを睨みながら令呪が刻まれている手を向ける。それを見てライダーはきょとんとした顔をした後豪快に笑いだした。
「ガハハハ! いや、なに。セイバーのやつと今夜一献杯をかわそうと思っておるのよ」
「酒宴ということですか?」
「うむ。酒を飲み聖杯にかける願いを語り合う。そうすれば自ずとその者たちの格がわかるというものよ」
「格が低いと判断されたほうは相手に聖杯を譲るということですか」
「ついでに配下になってくれるとなおいいんじゃがのう」
「セイバーを従えるのは無理だと思いますが」
キャスター使い魔越しに見たセイバーの様子からライダーの勧誘がうまくいかないと判断した。高潔そうで自分の決めた道しか進めなさそうな人だった。生前の何かを背負いすぎているような印象を見ていてえた。ああいう人間はライダーには合わない。
「まだ諦めていなかったのかよ」
「ガハハハ! もちろんじゃ! セイバーもランサーもアーチャーも。むろんお主も余は諦めたわけではないぞ?」
「私も、私たちも?」
ライダーのマスターの愚痴にライダーは豪快に笑って返した。それこそが己の道だと。征服した地域の文化と己の持つ文化を融合させていった傑物であるライダーは死後も変わらない。いや、死後だからこそ変わらないのだろう。相手を呑みこみ己のものにする。その有様をキャスターは少し羨ましく思った。
「宴の準備はこんなものでいいかのう。後は場所じゃが・・・・・・」
「どこに行っても歓迎されないでしょう」
「そうじゃろうのう」
ライダーは首をひねり少し考えた後人気がないことを確認して目の前に神牛が引く戦車を召喚した。そこにキャスターとライダーのマスターを強引に乗せると上空に上昇していく。ライダーの突然の行為にキャスターとライダーのマスターは抵抗することもできず戦車に碌な抵抗もできずに乗せられた。
「どこへ向かうのですか?」
「確かアインツベルンという所は城を拠点にしておったはずじゃ。そこに乗りこむ」
「アインツベルン?」
「確か始まりの御三家の一つで聖杯の器の所有者であるところだよな」
「うむ」
「どの陣営のことですか?」
「セイバーの陣営じゃな」
「なるほど」
ライダーの発言で納得したのかキャスターはそれ以上何も聞くことなく前方を見る。ライダーのマスターはその横顔を見て思わず見とれてしまった。それほどキャスターは美しかったのだ。それまで普通に話せていたのが嘘か夢だったかのようにライダーのマスターは顔を真っ赤にして何も言えなくなってしまった。その様子をライダーは興味深そうに眺めながら戦車を走らせた。目指すは郊外のアインツベルンの城だ。