操司の個性は【物質操作】手で触れたものを操ることができる個性である。操る物の重量や複雑さに応じて糖分を必要とし、足りなくなると激しい頭痛に襲われる。
ここまでは医師と和眞によって伝えられたことだった。しかし、操司は常にある疑問を抱いていた。それは、
〈いったいどういう仕組みで思い通りに物体を動かしているのだろうか〉
ということだ。
我々は物を動かす際、必ずエネルギーを消費する。例えば何か物をを転がす際、我々は力をエネルギーに変換する。力によるエネルギーは運動エネルギーへと変換され、摩擦力がない限りはそのエネルギーが保存され物体は動き続ける。例えば、電池というのは化学反応によって化学的エネルギーを電気エネルギーに変換させる。例えば、お湯を沸かしたいと我々が思う時、空気の燃焼という化学反応で化学エネルギーを熱エネルギーに変換する。
このように、全ての人為的行為はエネルギーというものを介する必要がある。これは自然界における大原則のひとつである。
しかし、操司の個性にはエネルギーを変換させる等ということは起こっていない。いや、起こり得ない。我々の目に見える事象が起こるだけのエネルギーが自然に発生するなどということはあり得ないからだ。もしそのようなことがあるならば、我々は日常のふとした時に身体が燃えることだってあるだろう。
操司の個性はそんな自然の大原則を無視したものなのだろうか。
答えは"否"である。
ならば、操司の個性、つまり、物体操作を行うにはどのような仕組みが起こっているのか。
それには操司の、いや、天野総司の研究内容が深く関わる。
天野の研究で発見されたもの。それは『並行世界』ともう1つ、
『アマノオトムラ指数』(以降、AOと略記する)
である。この新物質を利用することで天野は『並行世界』へと故意的に干渉し、現在を操作することが可能となっていた。さらに言えば、天野が操司となっているのはこのAOの操作を誤ったことが原因である。
さて、察しのいい方であればもう気づいたであろう。
操司はこのAOを自由に操作できる。それこそが操司の本来の個性なのであった。
その物に触る、という条件を用いることでそれのAO含有率を上げ、干渉の起こりやすい状態にする。そして、その物質に含まれるAOを操作することでどの世界とどのくらい干渉させるかを調整し、傍から見ればあたかも物質が勝手に動いているように見えたのである。
操司がこのことに気づいたのは、優姫と珱九郎が敵と戦っている最中。自分に刺さっているナイフをどうにかできないかと思い、触ってみると、急にナイフがきえ、あたかも元から刺さっていなかったかのように傷口が消滅した。操司はこのことを分析する。そして今までの行動と照らし合わせる。その結果以上の結論にまで行き着いたのであった。
(だとすれば、このナイフは全部抜けるし、傷も残らない!)
操司がナイフを取り除こうとすると、
「操司君‼︎」
頭上から瓦礫が落ちてきた。
*****************
操司の真上にピンポイントで起きた天井の崩壊が終わる。
聞こえる音はパラパラと小石や砂が転がる音、そして優姫の嗚咽の混じった啜り泣きのみであった。
目の前で人が死ぬ。しかも赤の他人ではなく、自身にとって大切な人が。
優姫、そして珱九郎にとって初めての体験であった。受け入れがたい事実を突きつけられ呆然とする珱九郎。彼の背後にはまだ異部器が立ちはだかっている。
「てめぇらも、終わりだ!」
襲いかかる異部器に対応できず、腹這いの状態に倒される珱九郎。
「(くそっ、こんな時に)」
早く抜け出し操司を助けに行こうともがくが抜け出せる気配はない。
「なぁ、俺の個性はだいたいわかってんだろ。お前の言ってたことはあってるよ。ただな、1つだけお前がまだわかってないことがある。それはな、俺は自身の体内のものの配置を自由に変えられるんだよ。だから、こうやってお前のことを潰すために一点に集中させることだって、な!」
途端に重さを増す異部器に対し珱九郎は苦しそうにもがく。
それにハッと気づいた優姫は
「クロ君‼︎」
助けに行こうとするが
「お前の相手は俺だ!」
崩土に隙を突かれ押さえつけられる。
「離して!」
「そう言われて離す馬鹿はいねぇよ。
お前は仲間が殺されるところを見てろよ。あと少しであいつの内臓はぺっちゃんこだ」
離れようとする優姫を完全に抑え込む崩土。実戦ではまだ崩土の方が上手であり、優姫に勝ち目はない。
「よし、潰せ、異部器」
「イエッサー」
思わず珱九郎から目を背け、ぎゅっと目を瞑る優姫。
「(クロ君、操司君。死なないで!)」
ドォン
「ぐわぁぁ!」
異部器が吹き飛ばされる。
「ぼくは死なないよ。優姫との約束は守らないとね」
操司が無傷で珱九郎の側に佇んでいた。
この場の誰もが唖然とする中、操司は言葉を発する。
「あれ、みんな僕が死んだこと前提にしてた?」
何とも締まらない男、それが操司であった。
「操司君‼︎」
「おまえ、生きてたのか⁉︎」
「うん、何とかね」
操司は珱九郎の顔を見て無事なことを確認し、今度は崩土の方に向き直す。
「いやぁ、ひどいなぁ切屑さん。あんなことされたら僕死んじゃうじゃん」
へらへらと笑う操司に対し、対照的に崩土は怒りと悔しさで顔が歪んでいた。
「お前、どうやって…」
「んー、教えてもいいけど、理解できないと思うからやめておく。それより、優姫を離してくれるかな」
操司の言葉と同時に
ボン
と音がして、崩土は腹部に強い衝撃を感じる。
「(意識が…飛びそうだ………)」
そのまま崩土は数m飛ばされる。
今操司がAOを与えたのは、空気にである。もともとあった筈の空気を並行世界と干渉させることで崩土の腹部の周りに集める。操作をやめれば、過密化した空気が一気に散乱し、崩土の腹部を襲ったのであった。
自由になった優姫と珱九郎は操司の側へと駆け寄る。
「操司君‼︎」
いや、優姫は駆け寄るでは済まなかった。操司の元へ抱きつく。
操司は優姫の行動に驚きよろけるが何とか踏みとどまり倒れるのを避けた。
「良かった…生きてる操司君だ…」
「………なぁ、優姫、その辺にしとけ。操司の顔が卓球のラケットみたいになってる」
操司は顔を真っ赤にしたままピクリとも動かない。髪の毛が黒い分益々色の差が激しく見えていた。
「あ、ごめん」
「………はっ、いや、大丈夫だよ。心配かけてごめんね。結構早く来れるよう頑張ったんだけど」
「…どういうことだ?」
操司は瓦礫に衝突する直前、自分自身のAOを高めていた。そして並行世界とこ干渉により瞬時に瓦礫の真上に移動していた。本来であれば。しかし、まだ操司は自身の個性の秘密に気づいたばかり。また、一刻を争う場面だったのもあり、誤ってAOを余計に高めすぎていた。その結果、過干渉が起こり、思い通りに移動することができなかったのであった。
「まぁ、詳しいことは後で。まずは、あいつを捕まえよう」
そう言って操司達が崩土の方を向くと、崩土は照久の側に立っていた。入り口側は操司達のほう。崩土が逃げるにはどうしても戦わなければいけなかった。
「(くそっ、ガキ共め)」
心の中で崩土が悪態をついていると、
「大丈夫か、君たち⁉︎」
インゲニウムがサイドキックを5、6人ほど連れて現れた。
「あ、インゲニウム」
「こっちは平気です。後はあいつを捕まえるだけです!」
「分かった!後は私たちに任せて君たちは安全なところへ!」
ふと操司が崩土の方を見ると、崩土の眼の色が明らかに先ほどとは違っていた。
「………インゲニウム。ヒーロー。社会のゴミ、いや、社会を食い潰す病原菌どもめ‼︎」
崩土の髪が逆立つ。怒りが現実に現れているかのようだった。
操司はそれを見て鳥肌が立つ。
「(なんか、やばい!)みんな、何かくるよ!」
操司の言葉と共に天井が、いや、建物が吹き抜けになるかのように屋根までが崩れ去る。
「伏せろ!」
その言葉と同時にインゲニウムが、そしてインゲニウムのサイドキック達が人質と操司達をかばう。
ドドドドドドドドドドドドドドドド
土埃が舞い、前が全く見えない。
「そっちはどうだ!」
「無事に保護しました!」
間一髪市民の安全は守られたが、敵の様子は分からない。
「次に遭ったら殺すからな、インゲニウム、そして、ガキども‼︎」
瓦礫の崩壊によってかき消されたその言葉は珱九郎のみに聞こえた。
煙が晴れると、元々崩土がいた筈の場所の奥に穴が開いており、崩土と照久の姿だけが見えなかった。
崩土達ヴィラン盗団による保須市銀行襲撃事件は、ヴィラン盗団の構成員4名を捕らえるだけに留まった。
というわけで、第10話でした。
1つの区切りです。もう少し続けようかとも迷ったのですが、ダラダラ書きすぎても飽きると思い、ここまでにしました。
操司君はチートになりましたね‼︎タグを「恐らくチート」から「チート(確定)」に変えようかなと思案中。
次回は遂にあの人が出てくる、のかな?
てなことで、お楽しみに〜
感想、評価の方も是非宜しくお願いします。