「君たちは一体何をやっているんだ!」
インゲニウムの声が響き渡る。
崩土達が逃走した後、3人はインゲニウムに呼ばれ、現在に至るまでの経緯をすべて話していた。話し終えるとインゲニウムは(フルフェイスのためよく分からないが)怒気を含ませながら3人をその場に座らせた。そして現在に至る。
「公共での個性の無断使用は法律に反する。どんな理由があろうとも君たちは法律を破ってしまったんだ。厳正な処分が下されてもおかしくないんだぞ!」
実際には、インゲニウムの元に氷を操るサイドキックと筋力増強系の個性を持つサイドキックがいたため、すべてをインゲニウム達の行動とすることで3人の行為をなかったことにした。
「しかも相手は敵。一歩間違えれば君たちも死ぬところだったんだ。その事を君らは分かってるのかい⁉︎」
『……すいません』
「………まぁ、君らのやったことは決して褒められたことではない。ただ、その行動力はヒーローになるためには必要だよ。これからも頑張ってね」
「はい!ありがとうございます!」
インゲニウムからの説教が終わり、その場を去ろうとする3人に、インゲニウムはふと思い出したように呼び止める。
「あ、そういえば君たちって私立聡明中学校の一年生だよね」
「はい、そうですが」
「ならさ、1つお願いがあるんだけどいいかな?」
3人と向き合ったインゲニウムは先ほどとは違う柔和な雰囲気で話しかける。フルフェイスでも感情を読み取れるあたり、流石はヒーローだと思う。
「実はね、俺の弟が君らと同じ学年でヒーロー志望なんだ。飯田天哉っていうんだけど、知ってるかな?」
3人は首を縦にふる。というのも、飯田天哉は3人とはまた違った意味でよく知られていた。話と共に手がせわしなく動く、ロボットみたいな男だという噂がある。成績も一桁に名を連ねるほどであったので、名は聞いたことがあったのだった。
「あいつはさ、すごく真面目ですごく熱血なんだ。ただ、考えがぶれない分変な事をやらかすこともあると思う。だから、もし変な事をあいつがしているのを見かけたら、止めてやってくれないか?」
インゲニウムの話を操司達は黙って聞いていた。
(インゲニウムって弟思いなんだな。やっぱいい人だ、この人)
そう思いつつ操司は答える。
「大丈夫です。インゲニウムの弟さんだったら絶対変なことなんてしないと思いますし、いざとなれば僕たちもお手伝いをします。僕らは同級生ですから」
操司の言葉に続いて2人も頷く。その姿を見てインゲニウムはホッとしたようだ。
「あぁ、ありがとう。宜しく頼む」
『はい!』
こうして3人とインゲニウムの邂逅は終わった。
「さて、帰ろっか。遅くなっちゃったしね」
操司の言葉に反応した珱九郎は時計を見てハッと気づく。
「あっ!………
なぁ、優姫。今日は師匠との鍛錬の日だったよな」
「あっ………」
途端、2人が目に見えて落ち込んでいた。操司は状況を把握できず尋ねる。
「どうしたの?なんか予約してたことあった?」
「やばいよ、クロ君!どうしよう!」
「これは殺されるな……
ばっくれるか」
「え、私だけ置いてかないでよ!死なば諸共って言葉知らないの⁉︎」
「俺はまだ死にたくないんだ!」
操司の言葉があたかも聞こえないかのようにふたりはあせっていた。いや、実際聞こえていなかったのかもしれない。
「だから、2人とも!師匠って誰!」
ハッと気付いた2人が操司に答える。
「…俺たちの個性や戦闘の指導をしてくれてる人なんだが、端的に言えば…」
「理不尽の塊」
本来ならば操司がツッコミに回るところだが、2人の深刻な表情に操司はそんな気も起こらない。
「理不尽の塊?」
「ああ、そうだ。問答無用で投げ飛ばされるし、殴られるし、蹴られる」
「しかも本人は愛の鞭とかいって力を緩める気ないし。本当ゴリラみたいな人」
「ほーう、誰がゴリラだって?」
「だから私たちの師匠がに決まってるじゃ……」
背後から聞こえた声に優姫が答えるが途中で違和感に気付く。ちらりと珱九郎を見ると彼は真っ青な顔でこちらを見ていた。ギギギ、と音が聞こえそうなほどに鈍い動きで後ろを振り返ると、そこには
「へぇ、ゴリラ、ねぇ。タチが悪い、ねぇ。理不尽の塊、ねぇ。」
身長170cmない程度の女性が背中に般若でもいるかのようなオーラを撒き散らしつつ笑顔でそびえていた。
「よう、2人とも。あたしのレッスンさぼるたぁ死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁ」
『すいませーん!』
「今日は帰ったら鍛錬いつもの5倍な」
「師匠!俺らは事件に巻き込まれて「問答無用!」っはい!すいません!」
「そもそもあたしのレッスン受けといてなんでたった敵団体の1つや2つ瞬殺できねぇんだよ!戦闘は5秒以内に終わらせろっていつも言ってんだろ!」
そう叱りつつ師匠と呼ばれる女性は2人の首根っこを掴んでずるずると引きずって行ってしまった。
「へ?あの人が、師匠?」
あまりにも速い展開に操司はついていけず、ただその場で呆然としていた。
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「くそっ、あのガキどもめ…」
照久を連れてあの場から離れていた崩土は悪態をつきつつ自身のアジトに戻るべく歩き続けていた。
「照久も気を失ったままじゃ次の行動にも移れやしない。今日は最悪だよ……「なぁそこの君」………あ?」
呼びかけられ振り向くと、そこにはスーツ姿の男が1人で立っていた。
「誰だお前」
「私かい?いや、名乗るほどの者ではないさ」
とは言いつつも、既にもう太陽は沈み、夜は訪れている。この暗闇の中で男が1人立っているのにもかかわらず、何も用がないとは考えにくい。崩土は男を警戒した。
「で、何の用だ」
男が自分を引き留めた理由を探ると、男は優しげに語りかけてくる。
「君は恐らく今日保須市で銀行を襲撃した盗賊団の参謀だね」
「なぜお前がそれを!」
崩土は驚く。
崩土の属する『ヴィラン盗団』は、機密主義を前提として動いている。誰がどう動くかは本人と崩土、それと照久しか知らず、他の者には情報を与えない。そうすることで成り立っていた。つまり、情報が漏れることはあり得ないのであった。
にも関わらずこの男は自分達の行動だけでなく、自分の立場まで全て知っている。崩土による男への警戒度は高まっていた。
「なぜかって?そんなことはどうでもいいさ。僕が話したいのは君の個性のことだ」
「……失せろ。さもなくば殺すぞ」
崩土による警告を無視し、男は話を続ける。
「君の個性、確か【崩し】と言っていたね。とても強力な個性だ。素晴らしいよ。そこで折り入っては相談なんだが」
崩土が相変わらず警戒している
「(こういった相手を先ず褒めてくるような奴に限って何か悪巧みをしている。こいつも例には守れないはずだ。何を求めてくる。金か?協力か?それとも、傘下になれとかか?)」
すると、思いもよらない言葉が返ってきた。
「君の個性を弔のために明け渡してくれないか」
「は?出来るはずないだろ。死ね」
そう言って崩土は男に飛びかかる。
「そうか、残念だ」
prrr. prrr. prrr.
男の携帯が鳴る。
「もしもし、ドクターかい?」
「先生、彼は無事来てくれることになりましたか?」
「いや、残念だけど交渉決裂だ。今ちょうど終わったところさ」
電話の奥でドクターと呼ばれた男は少し残念そうな声を上げる。
「個性はもう奪った。後は死体だけだが、持って行くかい?」
「ふむ…彼の精神力に期待していたんですがの。死体は要りません」
「分かった」
男はそう言って電話を切る。
さてと、と男が帰ろうとすると
「ん、んー」
照久が起き上がってきた。
「あれ、ここは銀行じゃ…って、崩土さん!」
最初は事態を飲み込めていなかったようだが、崩土の死体を見て顔が蒼ざめる。
男は照久へと話しかける。
「ねぇ、君」
ちらりと男の方を向く照久。
「(憎悪の眼。この子は使える)僕と一緒に来ないか?」
悪は繋がり、拡がり、浸透してゆく。
前回の後書きでの「あの人」発言で飯田天哉くんだと思った人、残念。ドクターと先生でした。
てな訳で第11話でした。いつの間にか話数は二桁になってました。こんなに書くとは思ってもいなかったです。楽しみつつ書いていきたいと思いますので、これからもお付き合いお願いします。
ということで、次回もお楽しみに〜
感想、評価の方も是非宜しくお願いします。