『並行世界』へと赴く   作:舞茸の都市

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第7話

「さて、今回のMVPは!冬野少女だ!」

 

オールマイトの言葉に皆が納得する。

 

「轟と飯田もカッコよかったけど、優姫は一番漢らしかったしな!」

 

「いや、私女だから」

 

「冬野ちゃん。天井に張り付いていたのはどうやっていたのかしら?」

 

蛙吹の問いに冬野は答える。

 

「あれはね、ただ天井に指突っ込んだだけ。元々私は力はあるからさ、壁に穴開けるくらいならできるんだ」

 

「女版ハルクみたいだな」

 

「いや、ハルクなら壁壊しちゃうし!」

 

盛り上がる生徒達をオールマイトは静める。

 

「HIHIHI皆そこまでだ。よく講評を聞くのも大切だぞ」

 

皆が静かになったところでオールマイトが講評を続ける。

 

「まず、飯田少年と轟少年の連携は見事だった!機動力を生かしつつも効率の良い動きが出来ていてとてもすばらしいと思う」

 

実際2人の連携が取れていたからこそあのスピード勝負で飯田の力が遺憾無く発揮されたと言える。優姫が1回目に捕らえられなかった事もあの連携が関係する事も考慮すれば、あれがいい判断だったのだろう。

 

「しかし、だ!私はあれをいい動きだとは言えても、ベストな動きだとは言えないな。

さあみんな、どうしてだとおもう?」

 

皆が考える中真っ先に手を挙げたのは他ならぬ飯田であった。

 

「はい、オールマイト先生。それは、今回の作戦に冬野君を捕らえるということを考慮していなかったからです。我々2人は機動力で冬野君を振り切って、葉隠君を捕らえることに重点を置きました。冬野君を捕らえる策を熟考できなかったのが我々の課題です」

 

「んー、いいね!よく考えられている。でも、それだけじゃないぞ!」

 

皆は頭を悩ませるが理由は出てこない。頃合いを見てオールマイトは答えを出す。

 

「それはな、皆。飯田少年と轟少年は、相手が核をきっと目に見える所に置いているだろうと仮定して動いてしまったことだ。相手が何らかの策を講じて核を隠すなんて事を考慮しなかった。あのままだとせっかくの機動力が無駄になることもあったわけだ!そこが君たちの課題だな!まぁ、素晴らしい動きもあったから精進していこう!!」

 

「はい!」

 

「…はい」

 

オールマイトの講評に飯田はいつも通りの返事をするが、轟はその言葉を素直に受け止められなかった。

 

「(俺が、負けたのか)」

 

彼はNo.2ヒーロー『エンデヴァー』の息子であり、エンデヴァーに最高傑作、上位互換とまで言わしめる男であった。それもそのはず、エンデヴァーは彼のような個性を故意に生み出すために相手の個性のみを目的とした結婚、いわゆる個性婚をしたのである。そのこともあり、轟はエンデヴァーから、死に物狂いの特訓を受けていた。とある事をきっかけとして生まれたエンデヴァーに対する憎悪は「戦闘で左側、つまり炎熱を使わない」という決意を生み出す結果となり、今までも氷結の個性のみで鍛錬してきた。

そんな彼は、「氷結の個性のみでプロヒーローに、そしてNo.1ヒーローへと登りつめること」を誓い今までやってきていたのだ。

その矢先にこの敗北である。轟の自信は失われつつあった。

 

「(氷結の個性だけでは冬野のような俺よりも扱いに長けた奴がいる。俺はそんな奴と争ってNo.1ヒーローになれるのか?)」

 

オールマイトが講評を続けている間、自問自答している轟に気づいていたのは、誰もいなかった。

 

 

 

*****************

 

 

 

 

こうして一部波乱な展開はありながらも、操司達を除く5試合は順調に行われた。

 

 

 

「それでは、最後の対戦だ!

Kグループvs2-Aグループ!ヒーロー組となるのは!」

 

そう言ってオールマイトはどこからかコインを取り出し、コイントスをする。出たのは、裏。

 

「2-Aグループだ!よってKグループはヴィラン組となる!

それではそれぞれの位置へと集まってくれ!」

 

そうしてこの日のヒーロー基礎学最後の対戦が行われようとしていた。

 

 

 

*****************

 

 

 

操司達は話をしていた。

 

「先輩とか…大変そうだね」

 

「でもうちらだって個性把握テスト1位と2位がいるんだ。負けないよ、きっと」

 

「それ俺らにプレッシャー与えてないか?」

 

相手の個性が分からない。実際に社会に出て敵と戦うことになればいくらでもあり得る事だ。まったく情報のない相手と戦える、そういった点では操司達は良い経験を積めるのだろう。

 

「取り敢えず、分担しようか。僕は攻めよりもここでトラップ作ってたほうが良いよね」

 

「だな。俺は攻めるぞ。響香はどうする?」

 

「うちは…」

 

耳郎の個性は【イヤホンジャック】

耳たぶが長いコード状になっている。左右それぞれ6mまで伸ばすことができ、最大の直径は12m。

また、コードの先端のプラグを挿す事で微細な音を探知できる。分厚い壁があろうと彼女には筒抜けである。

特製スピーカーブーツを通じて自身の心音を爆音衝撃破として放つこともできる。

 

「守り、かな。攻めに行ってもついていけないだろうし」

 

「そっか。んじゃ、頑張ろう」

 

「てか、この会話も聞かれてる可能性あるんだよな」

 

あ、そうか、と2人は考える。相手の個性が何か分からないだけでここまで不利になるとは思ってもいなかったようだ。

 

「まあ、聞かれてたらしょうがないって事で。んじゃ、作戦に移りますか」

 

「うち、2人の個性を聞いて1つ策を思いついたんだけどさ…」

 

 

耳郎の策に2人はニヤリと笑う。

 

「良いね、それ。それに少し着色しよっか」

 

「俺はオールマイトに伝えてくるぞ。許可取らないと」

 

 

3人は行動に移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****************

 

 

 

『それでは最終試合、スタート!!』

 

 

オールマイトからの合図により、試合が始まる。

入り口側、2-Aの2人はゆっくりと、そして堂々と歩いてきた。

 

「さて、行きましょ、鉤くん」

 

「俺の個性は掃討戦のほうが使えるんだけどな」

 

「文句言わないの。やるよ。私は左ね」

 

そう言って玲実はメモ帳をポケットから取り出し、何かを書き始める。

 

「『apagados』」

 

書いたのは、演奏記号。

玲実は全く音を立てずに歩いて行った。

 

 

玲実の個性は【譜面実現化】楽譜に書いてある事を実際の行動として自動的に動かせる。例えば、『apagados』は『消音で』という意味を持ち、それによって足音を無音にできる。

操作のためには操作したいものに書く必要があるが、自身を操作したい時には予め持っている紙に書くとよい。書いたものは一種のプログラミングのようなものとして、遂行するまで終わらない。

 

 

 

 

「はぁ、俺も行くか」

 

そう言って糸引も歩き出した。

 

 

 

 

 

*****************

 

 

 

 

 

 

『珱九郎、右に1人きた。もう1人は感知できてないから、外で待ってるか、そいつが背負ってるか何かだと思う』

 

「了解。んじゃ、俺は右のやつを止める。外の奴が行くかもしれんが、その時は頼んだ」

 

『任せて』

 

耳郎との通信を終えた珱九郎は階段を降りる。右手には背中にかけてあった錫杖が握られている。

「(人相手なら切るのはご法度か。棒術は剣術より苦手なんだけどな。

さて、俺の相手はどっちだ。男のほうが強そうだったからそっちが良いがその時は果たして捕らえられるのかが問題になるな)」

 

などと考えつつ動くと、廊下の奥に1人の影が。

 

 

 

「よう、俺の相手はお前か。楽しくやろう」

 

先に声を発したのは糸引。2人は15mほど離れたところからお互いにゆっくりと歩みを止める。

 

「俺は糸引鉤だ。お前は?」

 

「烏丸珱九郎。胸を借りますよ、先輩」

 

先に仕掛けたのは珱九郎。大地を思い切り蹴り上げ、スピードに乗って糸引に錫杖を突き立てる。

 

「(速いな!)」

 

そう考えた糸引は身体を反らせそれを避ける。と、その錫杖が地面に向かって叩きつけられた。

 

 

ドォン

 

 

錫杖が床に当たり、床板を砕いた。珱九郎の持つ錫杖はサポート会社特製の錫杖で、優姫がもし振り回したとしても壊れないよう頑強にできている。

 

その攻撃に対し、糸引は手足をフルに使って横に避けていた。

 

 

「凄いな、俺らが1年の頃は相手の咽喉元に突きをかますようなクレイジーな奴いなかったぞ」

 

「そうですか?俺は今のを避けた先輩に人外という言葉をプレゼントしたいです、ね」

 

お互いに賞賛(?)しあいながらも、珱九郎が攻撃し糸引が避ける、という構図は変わらなかった。

 

 

しかし、初めと変わっているものはある。

 

 

それは、2人の表情だ。

2人は戦いを進めれば進めるほどに笑みを浮かべるようになっていた。

 

2人は戦いに悦びを見出している者、つまりは〈戦闘狂(バトルジャンキー)〉である。ヒーローとしての振舞いはありつつも、心の底では強敵との接戦を夢見ている。彼らにとってこの戦闘は夢のようなひと時であろう。

 

 

 

 

 

 

 

珱九郎は戦いを愉しむ一方である違和感を抱いていた。

 

「(こいつ、まだ個性を使ってない。なのに俺の攻撃を避けてる)」

 

 

焦り始めた珱九郎が錫杖を横に薙ぎはらい、糸引は距離をとる。

 

 

「珱九郎。お前、強いな」

 

糸引からの声掛けに不思議に思いつつも珱九郎は耳を傾ける。

 

「だから、俺も今から個性を使うよ。

 

 

頼むからさ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"死ぬなよ"」

 

 

そう言って糸引は両手に手袋をはめる。糸引が右手を一度横にふるうと

 

 

 

 

 

"壁に5本の亀裂が入った"

 

いや、亀裂というには余りにもまっすぐで、余りにも細い。あたかもそこに線を引いたかのような痕が残る。

 

 

「(どんな個性だかは知らんが、遠距離からの攻撃のようだな。早めに攻めた方がいいか)」

 

 

珱九郎はもう一度大地を蹴る。最初の攻撃はスピード特化の直線なのに対し、今回は壁、天井、さらには急な方向転換も加え、相手に捕らえさせない事を重視した動きをする。

 

「(神足通!)」

 

珱九郎は糸引の背後へとまわり、錫杖を突き立てる。

 

 

 

 

その時、

 

「甘い」

 

糸引は左に避け、右手を錫杖の下から上へとくるりと回す。すると、

 

 

 

 

パキン

 

 

 

錫杖が真っ二つになった。

 

糸引はそのことに目もくれず今度は左手を珱九郎の顔面に向けて振り下ろす。

 

「(この手は、ヤバイ!)」

 

珱九郎が神足通を使い元いた場所へと戻るが、仮面は目元から上が切り落とされていた。

 

「なぁ、珱九郎。俺の個性、分かったか?」

 

糸引の問いに珱九郎は答える。

 

「はぁ、はぁ、大体は。

その指先から何本か硬い糸を出してますね。でも、それだけで俺の錫杖を真っ二つにするなんて、考えられない」

 

珱九郎の答えに糸引はニヤリと笑う。

 

「惜しいな。糸を使ってるって所はいい。でも、その錫杖を切ったのはただの糸だぞ」

 

そう、糸引鉤の個性は糸の生成ではない。物質の【硬化・鋭利化】が個性だ。糸自体は手袋に仕込んでおり、それを鋭利化させることで、壁の亀裂や錫杖の破壊をしていた。

 

「それで俺の錫杖を切ったんですか。嫌な個性ですね」

 

「それは褒め言葉として受け取っておくぞ」

 

「実際褒め言葉ですよ」

 

軽口を叩いてはいるが、珱九郎は必死に打開策を考えていた。

 

(あの糸を避ける事は至難の技だ。そもそも糸が透明なのかよく見えん。せめてあの糸が見えるなら……

ん?可視化か)

 

珱九郎が何かを閃く。通信機で何か指示しているようだ。

 

「んじゃ、珱九郎。俺が言われてんのは索敵必殺(search and destroy)なもんでな。そろそろ行くぞ!」

 

 

「(くそ、耐えられるか)」

 

 

2人の戦いは激化する。

 

 

 

 

 

 

*****************

 

 

 

 

一方操司と耳郎の2人は罠を仕掛け終え核の前で待っていた。

 

 

「さて、あっちは珱ちゃんに任せて、こっちも気を引き締めていきますか」

 

 

「ねぇ、向こうのうち2人目の動きが全くないのはなんでだろ」

 

「探知できないように動いてるんじゃない?足音聞こえなければ一緒でしょ」

 

 

操司の考えは合っていた。実際に今尚玲実は動き回り、核を探している。

 

「なるほど」

 

「だから、僕の予想では、まもなく来ると思うんだけど…」

 

と、話している途中で操司が何かを感じ取り、ドアの方を睨む。

 

 

 

 

「解除」

 

女性の声とともに、

 

コツン、コツン、

 

という靴の音が聞こえる。

 

「ほら来た。響香さんは後ろで構えてて。いざとなれば僕ごとやっていいから」

 

「わかった」

 

2人がドアの方を見て構えていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

床を突き破って操司の足が掴まれた

 

「うぉっ」

 

なす術なく下半身をずり落とされる操司。耳郎はプラグを既にコスチュームに刺しており、後は鳴らすだけにしている。

 

と、そこに玲実が走り込んで来た。

耳郎が鳴らそうとするが、

 

「響香さん、まだ!」

 

操司の言葉に止まる耳郎。

 

と、玲実がなぜか急に立ち止まり後ろに跳んだ。

 

 

 

「危ない。中々エグいのね、君たち」

 

「勝つためには手段は選ぶなって教えですから」

 

操司は地面に干渉を起こし、即席トラップを仕込んだ。踏めば足元から拳がとんでくる、という簡単なものだが、威力は相当なため、油断していると気絶させられてしまう。

操司は床から抜け出し、玲実に話しかける

 

「てかなんで気づいたんです?」

 

「ん?個性のおかげだと思う?」

 

「質問返しはずるいですよ」

 

とは言いつつも個性の影響だと考えていた。

 

 

実際、玲実が罠に気づいたのは個性のおかげであった。『andachtig(慎重深く、敬虔に)』と予め書いており、そのおかげで周りに対する観察眼が異様に高くなっていたのだった。

 

「そこのイヤホンガールは音を出すタイプかな?指向性はあるのかないのか。

そして、君の個性はなんだ?罠をすぐに張れるような個性なんて中々ないよね。地面のそ…」

 

玲実が話している途中で操司は玲実の懐に潜り下から蹴り上げる。それを玲実は左手で掴んだ。

 

「あっぶな…」

 

操司は玲実の言葉を無視して床に手をつきもう片方の足で横に払う。その姿はまるで某海賊漫画のコックのようであった。操司はコックとは違い女でも容赦ないのだが。

 

 

その蹴りを玲実は右手で抑える。

 

「血気さか…」

 

話そうとする玲実を無視して操司は土に干渉を起こす。するとついてる手の周りからBB弾程度の大きさの土の弾が大量に飛び出す。これは流石に避けようと思ったのか、足から手を放しバックステップしながら手で払おうとする。その途端、操司がその弾への干渉を急に止める。弾は崩れパラパラした砂となり玲実の視界を塞いだ。

操司は土で作った棒で玲実のいた所を横一文字に振るった。

 

 

(手応えはないか)

 

操司は追撃せずに核の近くへと戻る。

土埃が晴れると、そこには誰もいなかった。

 

「操司って、すごいね」

 

「響香さんも鍛えればすぐにできるようになるよ」

 

 

何も動けなかった耳郎は感嘆の声をあげるが操司はまだ油断していなかった。

 

 

「なんか、うちの個性ばれてるっぽいけど」

 

不安げな耳郎に操司は淡々と話す。

 

 

「だとしてもうちの最終兵器は響香さんだから。音を止めれる奴は恐らくいない筈。何があってもいいように構えておいて」

 

「…分かった」

 

そう言って耳郎は再び構える。

 

(接近戦は不利か。あれに対応されるのであれば、多分僕ではかなわない。なら、遠距離で牽制しますか)

 

操司はそう考え、コートの裏にそっと手を伸ばす。

 

 

 

 

コツン、コツンとまた靴の音が聞こえてくると、玲実は今度はゆっくりと中に入ってきた。

 

「あぶないなぁ、もう」

 

「どこ行ってたんです?僕との楽しい遊びを放ったらかして。嫉妬しちゃいますよ」

 

「話す隙も与えてくれないのによくも楽しい遊びって言えるね」

 

「そりゃあ嘘ですから」

 

 

おい、と玲実は苦々しく突っ込む。

 

「まあ良いよ。私は鉤君みたいに

戦闘狂(Battle Junkie)〉じゃないから」

 

ここで、珱九郎から連絡が来る。

 

(今かよ。まぁ、あっちもきつそうだし、しょうがないか)

 

「響香さん!これ持って珱ちゃんの事助けに行って貰える!?至急頼んだ」

 

「分かった‼︎」

 

操司は耳郎にあるものを持って行かせようとする。

 

「あら、私がそんな簡単に通すと思う?」

 

「そのための僕じゃん!」

 

 

そう言って操司はコートを翻すと、コートの裏から大量の白いものが。

 

 

「なにこれ」

 

「僕監修サポート会社オリジナルの拘束&戦闘器具。合計500枚あるから、気をつけて」

 

 

そう告げると同時に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玲実の目の前を白い脅威が覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残り時間3分をきる




てな訳で第7話でした。長くなりすぎたので一旦切ります。戦闘描写はグダグダになりそうで怖いですね。

次回こそ戦闘訓練の終焉です。3人はどんな策を練っているのか、明らかに………なるのか⁉︎(おい)



ということで、次回もお楽しみに〜



感想、評価の方も是非宜しくお願いします。
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