マスコミの侵入騒動が収まり教室に戻る。午後は各種委員会活動やクラス係などを決めた。その際、緑谷が、自身は委員長を降り、飯田が新たに学級委員長に就任することを提案した。どうやら飯田は騒動を収めるのに貢献したらしい。皆も賛同したため、飯田が新たに学級委員長に、八百万が副委員長に就任した。その際優姫が
「良いんじゃない?天哉くん、眼鏡だし」
と言い皆に突っ込まれていたが、若干数名は大きく頷いていたという。
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次の日の昼も3人は2-Aに通った。この日は珱九郎と糸引の手合わせはなかった様で、3人揃って玲実の書いた書類を読んでいた。と言ってもただ読んでいただけではない。読みながらも身体を動かし、実際に動きを模倣していた。
ここで、操司がある部分に目をつける。
「玲実先輩。これって普通じゃなかなか経験出来ないことですよね。なんかあったんですか?」
操司が指していたのは29冊目の3ページ目、タイトルは「多対1、1対多での動き方part1」だった。相手が1人の時、または自分が1人の時にどう立ち振る舞うのかがベストなのかについて書かれている。
「うん、そうだね。訓練ではそんな事しないよ。だからこそ考えておかないと」
そもそもこれらを書く目的というのは自身の考えや経験を言語化することでどう動くかを明確化し頭に染み込ませること。訓練外の事であっても例外ではなかった。
「なんだ。てっきり先輩が誰か相手に無双したのかと」
「そんなことできるほどの実力はないよ」
ははは、と談笑する5人であった。
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午後の授業はヒーロー基礎学。今回はオールマイトではなく相澤が教室に入ってきた。
「さて、今回は俺とオールマイト、後もう1人の3人体制となった。更に、君らはもう関わったことはあると思うが、2-Aの2人にも同行してもらうことになっている」
相澤の言葉に何か引っかかる操司だったが、周りは何も気にしていない様だったため無視して話を聞いていた。
「せんせー、今回は何をやるんですか?」
「今回は、水難・災害なんでもござれの『救助訓練』だ」
相澤の返答に皆が嬉しそうに騒めく。それは当然のことだろう。と言うのも、一部の武闘派ヒーローを除けばトップヒーローというのは皆救助という点で目覚ましい活躍を遂げているからだ。
オールマイトは動画でよく取り上げられているが、大災害から多くの人を救った事がネット上に大々的に取り上げられ、それからトップヒーローとしての道を歩んでいたし、No.4ヒーローのベストジーニストも新人ヒーローに救助の大切さを教えている。ヒーローとして代表される仕事について教わる事は誰であっても嬉しいことであろう。
「少し離れたところにあるため移動はバスで行う。着替えを済ませて5分後に校門前集合だ」
『はい!』
相澤が教室を出たのを皮切りに皆が準備を整え、直ぐにバスへと乗り込んだ。バス内では皆の個性について盛り上がることもあり、楽しいひと時となった。
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一行は目的の場所に到着する。
バスを降りると、そこには1人のヒーローが待っていた。
「ようこそ皆さん」
「わぁぁ!スペースヒーロー13号だ!!」
スペースヒーローの13号である。彼は【ブラックホール】という、指の先にブラックホールを創り出しなんでも吸い込んでチリにしてしまう個性であらゆる災害から人々を救い出しており、紳士的なヒーローとして名高い。
13号に案内され、一行は会場の中に入ると、操司達の目の前に広がってるのは遊園地の様な光景だった。誰かが、
「USJみたい!」
と言っているくらいである。
「水難、火災、土砂災害、暴風、etc.あらゆる災害を想定して僕がつくった演習場。名付けて、
本当にUSJであった。訴えられる事はないのだろうか……
そんな話をしながら、操司は周りを見渡すが、来ると言っていたはずのオールマイトの姿が見えない。
(相澤と13号が何やら話をしているあたり、トラブルがあったのかもしれない)
などと操司が考えていると、13号が演習を始める前に心構えについて話を始めた。曰く、個性をどう使うか、何のために使うかよく意識してほしい、とのことだ。
最後まで丁寧に話をする13号の言葉に感動し、拍手喝采を浴びせる1-Aの生徒達。そんな事もそこそこにして、相澤が皆に呼びかけた。
「それじゃ、これから君らに……」
とその時、
"バチィ"
通電の音が鳴り、演習場を照らしていたライトが消えてしまう。
(なんだ?電気系統の故障か?)
操司達はそういった類の事を考えていた。
操司がふと正面の水難ステージの方に目を向けると、
"何もないところから突然黒い歪みが生まれた"
その歪みはじわじわと大きくなっていく。すると、中から1人の男が出てくるのが見えた。
(なんだあいつ、よく分かんないけどやばい気がする!)
「一塊になって動くな!13号、生徒達を守れ!」
相澤の指示が響く。
操司がその様に感じた事は正しい。ただ、もう遅かった。
黒い歪みは抑えていた蓋が取り去られたかの様に急激な拡がりを見せ、中から大勢の男達がぞろぞろと出てくる。中心にいるのは身体中に手の様なものを貼り付けている男を含む3人と、巨大な黒い化け物だった。
「なんだ、ありゃ。入試の時みたいなもう始まってますパターンか?」
思わず間抜けな声を出してしまう切島。ふらりと動く緑谷に対し、
「動くな!」
相澤の鋭い叫びが飛ぶ。
「あれは
「先生!侵入者用センサーは!」
「勿論ありますが……」
「現れたのはここだけか。なんにせよセンサーが反応しねぇって事は向こうにそういうことができる個性のやつがいるってことだな」
と、ここで糸引が何かに気付く。
「相澤先生!!あれ、もしかして獅童じゃないですか⁉︎」
糸引の言葉に玲実と相澤がはっと驚いた様な顔で見る。
「うそ、なんで…」
「……あの馬鹿野郎。そこまで堕ちるか、普通」
くそ、と相澤は悪態を1つ吐き、気持ちを切り替えて指示を出す。
相澤がゴーグルに手をかけると、
「先生、俺にやらせてください」
糸引が申し出た。
「ダメだ。だいぶ力がついた様だがお前も雄英の生徒だ。あいつらと一緒に避難しろ」
「でも!」
相澤は即座に却下するが糸引は食いさがる。
「あいつはおれのせいであそこにいる。俺がケリつけないといけないんです。俺がやんないといけないんです」
相澤は一瞬糸引の目を見る。真っ直ぐに相澤を見る目。それは陰りを見せておらず、しかし覚悟の決まった目。
相澤は知っていた。この目をした人間は何があっても自身の考えを曲げるつもりがないことを。相澤は軽く溜息をつく。
「はぁ、わかった。お前が前に行け。俺がサポートする」
「私もサポートします!」
「……好きにしろ。ただ、死ぬことは許さんぞ」
相澤はそう言って今度こそゴーグルをかける。糸引は手袋をはめ、玲実はペンを取り出した。
中央に糸引を据え、左に相澤、右に玲実。生徒達はこの3人の後ろ姿を見て、なぜかしっくりきたのを感じた。
「……行きます!」
糸引の決意の叫びとともに3人は飛び出していった。
そこから3人は無双とも言える動きを魅せる。糸引により操られる糸は敵をやや強引にまとめあげる。そこを玲実が一思いに叩く。2人を襲おうとする敵は相澤によって無効化、捕獲、無力化され、相澤を抑えようとする異形型の敵達は糸引と玲実が潰している。3人のチームワークは絶妙で、一種の見本とでも言える様であった。
この様子を見ていた緑谷は呟く。
「すごい。これが先輩とヒーローの力。イレイザーヘッドがサポートに入るだけでこんなに動きがスムーズになるのか」
緑谷の分析は若干違う点がある。相澤が2人に合わせているのではなく、相澤に2人が合わせているのだ。相澤の動きはまさしく合理的である、と言える。それに2人が合わせることで、チームワークを乱さない様にしているのだった。
分析する緑谷の隣で立ち止まっている操司。彼の目線の先にいる者はは玲実でも糸引でもない。相澤でもない。その奥で相澤達の奮闘を見つめている3人の男達のうち2人であった。
(あれって、照久、だよな。だとしたら、近くに崩土がいるのか?それにその隣、先輩達が獅童って言ってた男。あれはやっぱり、音村くんだ。どうしてここに……)
照久とは操司達が中学時代に巻き込まれた事件の犯人グループのうちの1人である。崩土という男とともにその場から逃げ出し、行方は分からなくなっていた。
そして、音村獅童。彼は天野総司とともにノーベル物理学賞を受賞した男である。しかし、操司の知る音村は自身のことを慕ってくれるよく出来た助手であり、性格も明るい。決して敵になってしまう様なタイプの男ではなかったはずだった。
「甘野君、緑谷君!分析してる場合じゃないぞ!早く避難するんだ!」
飯田の声が聞こえ、操司は一旦思考を止めた。
「ごめん、今行く」
そう言って緑谷に話しかける。
「行くよ?出久君」
「え、あ、うん。ごめん甘野くん」
2人は走って皆の方に向かう。
入ってきたときは短く感じた入り口までの通路がとても長く感じた。無事に避難しようと思っていたその時、
「させませんよ」
黒い靄が目の前を塞いだ。そこから声が聞こえるところから、どうやら靄はこの男の個性らしい。
「雄英高校のみなさん、初めまして。私達は『
口調は13号と同じく丁寧だが、誰も13号と同じ様なイメージを持てたものはいない。それほどにその口調の裏には殺気、狂気が含まれていた。靄の男は続ける。
「この度、僭越ながらこの雄英高校に入らせていただきましたのは、平和の象徴であるオールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」
誰もが一瞬「は?」という顔をする。
「はて、本来ならばオールマイトがこの場にいらっしゃる筈なのですが…何か変更でもあったのでしょうか」
動揺したり警戒したりしている生徒達をよそに、靄の男は思案する様な声を出す。
「まぁ、それとは関係なしに、私の役目はこれ」
そう言って構える靄の男を警戒し、個性の準備をする13号だったが、
「オラァ!」
「オリャァァァ!!」
爆豪と切島が男に飛びかかった。それを境に轟が叫ぶ。
「甘野!烏丸!29冊目、3ページ目の5行目だ!」
3人にしか通じないその言葉はこれからの行動を大きく変える。
そんな事もつゆ知らず、切島は得意げに告げる。
「その前に俺たちにやられる事は考えてなかったのか!」
13号が何かに気付く。
「ダメだ、退きなさい、2人とも!」
「ふぅ、危ない危ない。流石は雄英ヒーロー科。優秀な金の卵」
男は靄を全体に広げた。
「私の役割は、
貴方達をちらして!」
そう言いつつ靄で生徒達の周りを覆う。
「嬲りころ…………!!」
とそこで
パキン
男の目の前が氷で覆われた。
「ナイス焦凍くん!」
「甘野もな」
男と生徒達の間にあるのは、氷の壁、そして土の壁だった。
「ありがとよ、珱九郎、助かった!」
「まずはあいつから逃げるぞ」
切島は珱九郎に感謝の言葉を告げる。
29冊目、3ページ目の5行目
「多人数で1人から奇襲を受けたらまずは距離を取れ。相手は混乱のうちに片付けたい筈。まずは落ち着く時間を確保すること。目の前を塞ぐ等で時間稼ぎをするのも可」
奇しくもそこはこの日の昼に読んだところであった。
「3人とも、よく動きました。あとは僕が足止めするから、みなさんは逃げて下さい」
「そう簡単にはいきませんよ」
13号の後ろから声が聞こえる。靄の男だ。皆は警戒しながらもじりじりと後ろへ下がる。
「正直私はあなた方のことを少し舐めていましたね。改めましょう。そして、今度こそ終わりです」
もう一度男の靄が拡がるが、
「させません!」
13号は今度こそ個性を使用し、靄を吸い込む。
「天哉!行くぞ、皆を誘導してくれ!」
「あぁ、わかった!みんな、こっちだ!」
飯田が氷と土の壁の脇を通り、入り口に向かおうとすると、
ドォン!
壁が粉々に壊れる。
「やぁ、久しぶりだね。復讐しに来たよ」
奥から現れたのは、源氏照久であった。
遂に生徒達は悪と対峙する
というわけで第2話でした。
彼らの運命はじわじわと変わっていきます。その様子がうまく伝わる様頑張ります!
ということで、次回もお楽しみに〜
感想、評価の方も是非宜しくお願いします。