ラナークエスト   作:テンパランス

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#100

 act 38 

 

 獣皇の脅威が沈静化して数分。数十分と経過していく。それでも外から大きな顔は出て来ない。

 近くに居る事は見張りの兵士達が確認しているが何をしているのかまでは遠くて分からなかった。

 

「報告します。現在、巨大モンスターは都市の外で(くつろ)いでいる模様です」

 

 王宮の会議室に報告が漏らされる。

 暴れる、というものではなかったので少しだけ安心する。しかし、脅威が消えたわけではない。

 

「調査隊はどうしている?」

「外延部にて監視中であります」

「どうやら女性が説得に当たっているようで、かのモンスターはとても大人しくしているという事です」

魔獣使い(ビーストテイマー)か?」

 

 そうだとすれば相当な実力者であり、王国にとって脅威だ、という意見が出される。

 普通ならば当たり前の意見だが、迂闊に出向く事は危険なので更なる情報を待つ。

 

魔獣使い(ビーストテイマー)だとしてもあれほどのモンスターを使役できますか? 見た事も聞いた事もない」

魔導国とてそうだったのだから、あり得ないと断じる事は出来ない」

「話題に出る魔導国からは何も言ってこないのか?」

「は、はあ。それが……、我が国の防衛任務に当たっているようです」

 

 報告する兵士の言葉に貴族達が感嘆の吐息を漏らす。

 敵と思われる組織が王国を守護する。それはもちろん何らかの意図があってのこと、と思われるが真意はこの会議で出る事はないと誰もが思っていた。

 何にしても守ってくれるのならばありがたい、と今は思うことにする。

 

「後ほど魔導国の使者がいらっしゃるそうですが……。お通しいたしますか?」

「拒否する理由は無い。こちらとしても願ったりだ」

 

 勝手な防衛に対し、法外な請求を魔導国(おこな)った事はない。だが相手は異形種だ。そして、我が国の領土を奪い取った敵でもある。

 貴族側としては領土交渉をしたいところだが強く言えない事情があるので、今は我慢の日々を送っている。

 人の世の法を遵守する賢い化け物達だ。下手な事をしても見抜かれる確率はとても高いと予想されていた。

 

          

 

 事態が更に落ち着く頃に国王の居る玉座の間魔導国の使者としてタブラ・スマラグディナと全身が植物で出来たような『ぷにっと萌え』が訪れた。

 一方は死体じみた色合いの海洋生物。もう片方は植物系のモンスターにしか見えない。

 ぷにっと萌えは『死の蔦(ヴァイン・デス)』という種族の異形種で戦略を担当している。

 敵を一気に壊滅させる事にかけてはギルド随一と言われている。

 

「お目通りを許していただき、恐悦至極でございます」

 

 使者として現れたタブラとぷにっと萌えは形式的な挨拶と礼を尽くす。

 周りは見知った者は平然としていたが、そうでないものは緊張から武器に手をかけたまま硬直していた。

 その彼ら(タブラ達)の背後には白銀の青年騎士クライムが片膝を付いて控えていた。

 

「まず最初に……。こちらの言い分からで申し訳ないが、あのモンスターは我々がけしかけたものでも逃げ出したものでもありません」

「……了解した」

 

 タブラの言葉に王は静かに頷く。

 これは仮にけしかけた事が真実だとしても交渉の時は否定する。王国側であったとしても自分達は無関係だと言う。

 これがもし『宣戦布告』であればもう少し形式的なやり取りを交わすのが通例だ。だからこそ、王も貴族達もタブラの言葉に意外性は持たなかった。

 

「この度の騒動でケガを負った国民の皆様に手厚い加護を与えてくださいますよう……。もし、そちらが良ければ我々もお手伝い致したく存じます」

「ありがたい言葉だが……。今のところ軽傷で済んでいると報告がある。建物の被害も無いので、細々とした事は王国側で解決する」

「はっ。了解いたしました」

 

 物静かに会話が進んでいくが魔導国側は姿が奇異なせいか、表情を読み取る事が出来ない。

 声の雰囲気では事務的なもののように感じる。

 

「さて……。あの巨大なモンスターは我々にも窺い知れないもの……。そして、それを使役する人間らしき存在……。残念ながら我らにも詳細な情報は持ち合わせておりません」

魔導国の者でも分からぬ存在か……」

「分からないからこそ探求するのです。……問題はあのモンスターが他にも居るのか、というところです」

「目立つ姿なので他にも居れば色々と情報が手に入ると思いますが……。今のところは魔導国とてお手上げ状態です」

 

 肩をすくめるような仕草をぷにっと萌えはした。

 どことなく人間的な反応する彼らはクライムにとっても不思議だなと思っていた。

 元が人間であれば納得する。だからとて彼らの持つ実力が幻影ではない事は今までの経験で知っている。

 ここで剣を抜き放ったとしても彼らには傷一つ付けられない。いや、付けたら最後、王国が崩壊する事態になる、かもしれない。

 それに強大な力を持っているなら今すぐ王を(しい)する事も容易い筈だ。だが、彼らはあくまで平和的な会談を好んでいる節がある。

 

          

 

 数十分ほどの会談を終え、それぞれが部屋を退出する。

 報告を終えたタブラ達の後をクライムが追従する。

 

「聞きそびれていたが……、ラナー王女は不在なのか?」

 

 ふいに声をかけられたがどちらが声を出したのか、見た目では分からないので交互に顔を向けてしまった。

 

「えっ? あ、はい。冒険者の仲間と共に鍛錬されているかと……」

「ああ、まだあそこ(マグヌム・オプス)に行ってるんだ……」

「非力な王女様が強くなったらどうなるんだろうね。それはいろんな意味で興味があるけど……」

「……ただ、女性陣が多いので……」

「うんうん。桃色の園に男がのこのこ行けば返り討ちか、蟻地獄にはまるか、だよね~」

 

 特にクライムは追い返されない気がする、とタブラは思った。

 こういう会話の時は魔導国の重鎮というイメージが崩れ、普通の人間と会話しているように聞こえてしまう。

 実際、普通の人なのかもしれない。ただ単に強大な力で本質を見失っているだけ、ともいえる。

 本当の彼らは人と仲良くできる化け物、だといいなとクライムは思った。だが、ふいに見せる非道さは未だに身震いするほどなので完全に心を許す事は、まだ出来そうにないけれど。

 城の出口まで案内を務めたクライムタブラ・スマラグディナ達に一礼して(きびす)を返す。

 タブラ達はすぐさま転移し、王都の外延部で待機している仲間の下に向かった。

 転移を使わない現地の人間とは違い、移動が一瞬で済むアインズ・ウール・ゴウン魔導国の面々は実に素早い行動が取れる。

 

「状況は?」

 

 タブラは声をかけるが、その顔に変化は生まれない。

 元々人間的な顔ではないから細かい動きに対応できないのかもしれない。その点は少し残念な思いがある。

 感情を表現できないと独り言や喜怒哀楽が相手に伝えられないので。

 

「今んとこ大人しくしている」

 

 見た目は凶悪な面構えの鬼としか言いようがないが、武人建御雷としては真剣な眼差しで現場を注視していた。

 (武人建御雷)の種族は『半魔巨人(ネフィリム)』という。

 今のところ同じ種族の現地モンスターには出会った事がない。

 

「異形種は何かと疑われるが……。種族単位で見ればいい迷惑だ」

「亜人だってそうだろうさ。細かい情報があれば対応が変わるかもしれないよ」

 

 他人に文句を言っている自分達もわりと一緒くたにする傾向があるので、大きな事は言えないけれど、とタブラは思う。

 現地のモンスターは単独行動はあまりせず、種類ごとにまとまって行動する傾向にある。その延長線上に異形種という括りが出来ているのかもしれない。

 すぐには解決できない問題にそれぞれが唸っていると新たな人物、というか異形が現場に現れる。

 それは猫科の動物に酷似し、タブラ達とはまた毛色(けしょく)の違った装備を身にまとっていた。

 それは言わば『エジプト神話』系とでもいうのか。

 二足歩行する猫科の動物で亜人種と大差ない姿だった。背中には鳥の翼が生えている。

 

「……俺の出番、終わり!?」

「残念だったな。見せ場が出来る前にあそこの女性が瞬殺してしまったようで……」

 

 心底残念そうに頭を抱える猫科の生物。

 ようやくにして姿を見せたというのに活躍の機会を失ってしまった。

 至高のメンバーの一人で『るし★ふぁー』という。

 動像(ゴーレム)製作を趣味とする創造(クラフト)プレイヤーだ。

 通称『アインズ・ウール・ゴウンのお調子者』または悪戯者と言われる。

 ナザリック地下大墳墓の罠などのギミック製作において定評はあるがギルドマスター(アインズ・ウール・ゴウン)に嫌われている節がある。もちろん、性格的に。

 

「やだな~。俺は趣味に全力を注ぐタイプなだけですよ~」

「味方にまで被害を及ぼすギミックをよく作るからだろ。お前のせいじゃないか? モモ……、アインズさんが疑心暗鬼になっている原因は」

「人のせいにしないで下さい」

 

 人間であれば口を尖らせて抗議するところだが、るし★ふぁーの場合は最初から口が尖っているので判断するのが難しい。

 顔がそもそも猫だ。

 種族は『再生の獅子(シェセプ・アンク)』で、後方支援型。

 手の肉球で『ぷにぷにしちゃうぞ』と言おうものならメンバーの袋叩きに遭う可哀想な一面があるのは秘密だ。

 

「……原作で本当にそれ採用されたら怖いじゃん……」

「でも、二次創作とはいえセリフあり、種族あり、しかも今回はだいぶ活躍できるとあっては羨ましい限りじゃないか」

「原作で姿が公開されている人に言われても嬉しくありません」

 

 肉体は獅子。翼は(はやぶさ)。頭部は種類によってさまざま、というのがスフィンクス系モンスターの特徴といわれ、その中には人間も含まれる。

 ギルドメンバー全員が異形種で統一されているので、るし★ふぁーも人間離れした姿で固定し、職業(クラス)にレベルを割いている。

 

「これで原作が全く違う種族を提示しようものなら、修正が大変になるけどね」

 

 既に姿が公開されている者は物凄い安定感があり、羨ましいと凄く思う。

 種族談議している場合ではないと気持ちをすぐに切り替えるるし★ふぁー。しかし、名前に入っている記号が緊張感を台無しにしている。

 

「……それを言ったらたっちさんはどうするんだろう……」

「とりあえず、行ってこい。見せ場を作る権利を譲ってやるよ」

「丸投げっすか!?」

「そうしないとお前の出番はここで終わるかもしれないぞ」

 

 周りのメンバー達がるし★ふぁーに顔を向けてくる。

 表情は窺い知れないが睨んでいるような気配を感じたるし★ふぁーはしぶしぶ外壁から飛び降りる。

 背中の翼の器用に動かして大型モンスターのところに向かう。

 


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