ラナークエスト   作:テンパランス

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#102

 act 40 

 

 まず、王都からもう少し後退してもらうように龍美に頼み、街への被害は食い止められた。

 小さな人間の命令を聞く様子は素直に驚いた。

 その後で他のメンバーも弐式炎雷の元に集まる。

 

「……見事な活躍だったな、るし★ふぁー」

「だが、お前の出番はここで終わりかもしれないぞ」

 

 タブラと植物モンスターのぷにっと萌えに言われる猫型モンスター。

 

「急に呼ばれたし、別に悔しくないもん」

 

 失った体力は既に取り戻し、いつでも戦闘が出来るようになっていた。

 それにしても普通に大ダメージを与えてくるところから今までのモンスターとは格が違う事はるし★ふぁーでも理解した。

 

 こいつは本気でヤバイモンスターだ。

 

 実力は未知数だが戦闘になれば一人で相手をするのは悪手だと身体が訴えている。

 そんな事を思いつつ腕を組んで獅皇を見つめるるし★ふぁー。

 それとは別に身体の大きさや攻撃力から『世界級(ワールド)エネミー』かよ、と胸の内で不満を漏らす。

 それはありえないと思うのだが、新種という事でなら納得せざるを得ないのかもしれない。

 

「それで……、お嬢さん。このモンスターは召喚モンスターですか?」

「しょうかん? さくらはさくらとしか……。身体は大きいけれど大人しい子ですよ」

「……その大人しい子に吹き飛ばされた俺が居ますよ」

 

 と、るし★ふぁーが言うと龍美は深々と頭を下げた。

 元飼い主という立場での謝罪だ。

 

「……そういえば、俺達のような化け物は平気? いやに落ち着いているけど」

「着ぐるみ……」

「着ぐるみじゃないよ」

 

 言うと思ったので即座に言い返す。

 身体的なステータスが高いので耳に届く言葉に対してタブラ達の思考速度は常人の数倍は速くなっている。だからこそ出来る芸当だ。

 いわゆる相対速度というものだ。

 喋る速度も上がっていなければ矛盾するのだが、龍美の会話の速度に合わせようという気持ちが湧いて、自然と補正されている、のかもしれない。

 一般人と会話する機会もあるのでギルドメンバーの喋り方は自然と世界に合ってきたともいえる。

 

「……そんな後付の設定が通用するとでも?」

「……通用しないと我々と会話なんか出来ないだろう」

 

 という会話が龍美の耳では早送りの奇妙な音に聞こえている。

 本来は人間に聞き取れるはずがない。まさにア●ヴ語ナメ●ク語のように。

 

「ちゃんと聞き取れてますよ」

「それは良かった。相手によって言葉の速度が自動調整されているなら、問題は無いけれど……。我々自身はその辺りが分かりにくくてね」

 

 理解の早い人間でタブラ達としては安心する材料だ。それと着ぐるみではない、と言ったのに未だに平然としているのは他にもモンスター類と出会った経験でもあるのか、とタブラは疑問に思った。

 だが、まず話しを聞く為に移動した方がいいと判断する。

 

          

 

 獅皇は現場に置いても問題ない。その証拠として龍美は基本的なことをタブラ達に伝える。

 この巨大生物が何を食べて、どんな事が好きなのか。

 

「……という事を一言もまだ言ってませんよ」

「……そこはご都合主義でなんとか出来ませんか?」

「しょうがないな……。って、このセリフ要ります?」

 

 ノリの良い人間はタブラ達も大好きであり、大好物だった。

 

「……お約束という事で」

「見た目は酷いけど……、中身は面白い人なんだね」

 

 にこやかな笑顔を向ける龍美。

 得体の知れない海洋生物で気持ち悪い、と言われることを懸念していたが、会話中は目を逸らさなかったところは逆にたじろいだものだ。

 この女性は中々に侮れない。

 会話しながら龍美は王都の中に入り、事前に簡易的なテント小屋を作らせていたので、そこに案内する。

 初めての街の様子は龍美にとって意外ではあったが、人々は恐怖に(おのの)いていた。

 巨大生物の脅威は去ったわけではないので。

 

「……わー、恐れられてる~……」

 

 普通に考えても巨大生物が街に向かって手を伸ばせば友好的な仕草だと誰が思うのか。

 明らかに襲撃しに来たとしか思われない。

 警備兵と思われる人達も武器を握り、塀の上を警戒している。

 タブラは兵士に伝言し、ぷにっと萌え達はそれぞれ席につく。

 

「あれ? 赤龍~! おい、こらバカ兄~!

 

 周りに向かって双子の兄の名前を叫ぶ。

 赤龍を兄と呼称しているが実際はほぼ同時期に生まれたので、弟でも構わないのだが長姉の方針で男性を立てる事にしていた。

 神崎家は少なからず男性優位の家柄だ。

 同じように妹も居る。

 正確には双子ではなく三つ子だ。

 

「まず最初に聞くけど……。あの獣は君の言う事を聞くんだね?」

 

 全身が植物で出来たモンスターの言葉に龍美は頷いた。

 

「私達の声に反応したので、もう大丈夫だと思います。ああいうのが他にも居るとは考えられません」

「……相当の自信がおありのようだ」

 

 もし違ってたらどうするつもりだったのか。というのは今はしない方がいい。

 何だか怖い結果しか出ない気がしたので。

 兵士に伝え終わったタブラが戻り、会談の席は整った。

 それは一種異様な景色に映る。

 腕を組んで椅子に座る人間の龍美を除けば化け物しか居ない。もちろん、テントの中だけだが。

 街には逆に多くの人間が居て、タブラ達のような特殊な存在の姿は見当たらなかった。

 

「お連れさんは……、後で探しておきましょう」

 

 自分で頼んだ弐式炎雷はルプスレギナを呼びつけて指示を下す。

 

「まず……。あの獣は温厚なのですか?」

「はい。星を守護する獣で温厚な生物と聞いています。もちろん、敵が居たら攻撃すると思いますけど……」

「食べられるのかな?」

 

 もちろん、食べる攻撃の意味で尋ねた。

 

「さくらは……。あの獣の名前だけど、あの子はあれくらいの大きさになると内臓が消失して何も食べなくてもいい存在になるんだそうです」

「へー」

「……人間は食べないんだな」

 

 だが、とタブラは疑問に思う。

 生物であり、口がある。

 無用な器官は基本的に退化するのが基本だ。

 声を出す必要があり、呼吸を必要するから残っているのか、と次々と脳内に考察を重ねる。

 叫び声が必要な事もある、という事で一つ納得していく。

 

「手を入れていたのは?」

「猫らしくじゃれていたのでは? 珍しい建物がある、とかで」

 

 じゃれるには規模が大きすぎるけれど、とぷにっと萌え達が苦笑する。その中でるし★ふぁーは大人しくしていた。

 先ほど獅皇に吹き飛ばされたせいで気持ち的に面白くないようだ。

 何度か荒く鼻息を出す。

 そこへ青年騎士クライムがテントの中に入ってきた。

 

「失礼します。塀の警備は終了しましたが……。避難はいかがいたしましょう?」

 

 話しつつ龍美を見かけて一礼するクライム。

 つられて龍美も返礼する。

 

「獣が見えた地域の人以外は戻ってもいい。それ以外は念のために奥に下がってもらってほしい。ほんの数時間といったところだ」

「了解しました」

「人間は食べないそうです」

「もうすぐお姉ちゃんも来るので、そうすればさくらもさすがに跳ね回ったりはしないと思います」

『……はっ?』

 

 という龍美の言葉にクライムはおろか、タブラ達が唖然とした声を出す。

 それは見事なハーモニーとなって重なった程だ。

 

          

 

 どう見ても人間にしか見えない龍美。その姉とてやはり人間のはず。

 タブラは驚き、ぷにっと萌えは好奇心が刺激された。

 武人建御雷と弐式炎雷もガタっと体勢を崩しかけた。

 

「……あの獣……さくらっていうのか……」

「あなたのお姉さんはとんでもなく強いとか、特殊な能力者かなにかなのか?」

「能力かどうかは分からないけど強い人です。それ以外は……、普通の公務員ですよ」

「……それだけで人物像は想像出来ない……」

 

 驚かれている事はなんとなく理解した龍美は苦笑を滲ませる。

 自分の姉とはいえ表現に困るのは自覚している。更に兄というか長男はもはや化け物級だ。

 言葉で表すことを脳が拒否しそうなほどに。

 

「さくらはお姉ちゃんに逆らいませんよ、きっと……。獣は誰が強者か本能で知ると言いますから」

「いや……。小さい人間だと知ったら……」

「家で飼ってた時も大きな図体でしたが……」

「はあ!? あれを自宅で飼ってた!?」

 

 武人建御雷が思わず叫び、クライムも驚いた。

 

「飼うことになったので……。その時は二メートルくらいの小柄な大きさでした」

 

 二メートルでも充分大型猛獣だが、とタブラは呟いた。

 そもそも二メートルから五十メートルはどういう育ち方をしたんだ、と不思議に思った。

 自分の知らない生物なのは確かだ。

 

「三十メートルほどの動像(ゴーレム)を飼っている、と思えば一緒か……」

ガルガンチュアはペットかよ。……、まあ、似たようなものだな、確かに……」

 

 安易に否定できないところが憎たらしい。

 例外として『黒い仔山羊(ダーク・ヤング)』もペットと言えば納得しそうになる。

 後は(ドラゴン)類も追加すれば、それほど荒唐無稽でもない。

 この世界に限って言えば、だが。

 大型の猛獣は今のところ大人しくしているので、目の前の女性の言葉を信じる事にする。疑ってばかりでは前に進まない。

 

「……大人しいのはいいんだが……」

 

 どう扱えばいいのか全く分からない。

 召喚ならば元の世界に戻さなければならないのだが、図体が大きすぎる。というか、タブラ達でも良い案が浮かばない問題だ。

 度々何かが起きている事は報告で知っている。ついに大ボスの登場かと期待したのだが、解決したのが目の前の女性というのは意外だ。

 

「……これが本当の『ギャップ萌え』という奴か……」

 

 どこに萌え要素があるんだと言われそうだが。

 何度も唸るタブラに横に控えていたぷにっと萌えは少しうるさいな、と思いつつ話しや状況を分析する。

 危機は今のところ去った。では、次に何をすべきなのか。

 目の前の女性の事を事細かく聞くのは不純な匂いがするので少し抵抗を感じる。

 自己紹介から、とも思ったのだがいちいち出会う人間に自分達の名前を告げるのはお約束ではあるけれど普通はしないよな、と冷静なツッコミが脳内に木霊(こだま)する。

 

 お前は王国の人間全ての名前を記憶しているのか。

 

 と聞かれれば否と答える。

 ここは女性で統一しよう。そう思えば少し楽なってきた。

 

「凶暴性が無ければ引き続き大人しくしていてもらいたいものだ」

「分かりました」

 

 と、素直に応えた龍美(たつみ)

 姿勢良く、話しをまじめに聞いているし、素行も悪くないような気がした。

 久しく見ない『地球人』の良い面を体現しているとも言える。

 自分達が失った良き時代の地球という意味で。

 るし★ふぁー以外が急に黙ったので青年騎士クライムは首をかしげた。

 

「ど、どうかされたのですか?」

「……郷愁を感じてた」

「……右に同じでござる」

 

 うんうんとそれぞれ頷いていく。

 化け物に囲まれている龍美としては質問が無ければ街を散策したいし、赤龍(せきりゅう)達と合流もしたい。

 姉たちはのんびり来る予定になっているので明日にならないと全員揃わない。

 

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