ラナークエスト   作:テンパランス

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#106

 act 44 

 

 急に現れた敵。正体不明ながらも比較的、落ち着いた佇まいでカズマ達を見据える白髪の男性。

 カズマの印象ではとても不味い。いや、ヤバイ敵であった。

 ある程度の攻撃が無効化されている時点で逃げ出したいところだった。

 魔王軍ならば言葉巧みに躱すことも可能かもしれないが、どうしたものかと首を傾げる。

 街の被害を避けるなら広い場所に移動した方がいい。

 あるいは誰かに助けを求めるか。

 周りに子供たちが居ても平然としている相手だ。助っ人は絶望的と言える。

 

「この場所が不味いなら移動してもいいよ。別に今すぐ戦闘しなければならない理由は無い」

「……じゃ、じゃあ、広い通りに出てもらっていいですか?」

 

 ダメもとで言ってみると龍緋は普通に頷いた。

 

「君たちが戦いやすい場所で構わないよ」

「……つまり……、出会った今は逃げられないと……」

「私を倒さないと困るよっていう話しだ。私を倒せれば元の世界に戻れる、とすれば頑張ってもらうしか無いけれど……」

 

 元の世界に戻れる。と言われて素直に喜べないカズマ。しかし、アクア達は笑顔になった。

 あまり物事を考えないメンバーにしてみれば龍緋の言葉はとても魅力的だ。

 それが本当に真実か。というよりは嘘くさくて信じるに値しない。

 倒せば戻れるなんて普通の人間は信じない、とカズマは強く思う。

 疑問や苦悩がカズマの中で渦巻くが非力を自覚している自分に何が出来るのか、目一杯に思考を働かせる。

 お約束に従うなら倒す方にメリットはある。

 

「本当に戻れる保証はあるんですかね」

 

 悔し紛れっぽく言ってみた。

 白髪の龍緋(りゅうひ)はその言葉に対して苦笑を浮かべた。

 至極真っ当な意見に対し、答えを提示する事が出来ない。

 それらの回答は兎伽桜(とがおう)が握っている。

 

「神様が嘘吐きでなければ……、君たちの疑問は解消される。少なくともこの世界に閉じ込める気は無いと思うよ」

「ちょっとちょっと~。女神たるアクア様にもどうにも出来ない事を得体の知れない神様とやらに出来るわけ?」

 

 平然と龍緋に突っかかる自称女神アクア。

 何度か龍緋の胸を人差し指で突く姿はカズマの目から見て光り輝く勇者のように見えた。

 能天気さゆえの行動は時に驚かされる。

 

「……貴方には……仲間が居るのだな」

 

 ダクネスの言葉に苦笑いの龍緋。

 仲間について龍緋は事細かに話す気は無いが質問されたからには色々と答えてやらなければならない気持ちはあった。

 何処まで話してよいのかは自分の匙加減というところだが。

 

「小難しい話しよりは拳で解決した方が早いと思うが……。君達は話し合いの方がいいのか?」

 

 カズマとしては平和的な解決が望ましい。しかし、武闘派が数人居るので最悪の結果になる予感はしている。特にめぐみん

 ケガ人の立花(たちばな)は鍛錬以外はいきなり殴りかかるようなことは無く、カズマと同じく平和主義者だった。なので心配はしていない。

 キャロルとターニャも同様に。

 

「……結局倒さなきゃ駄目ってことなら話し合いは無意味か……」

「神様は話し合いよりは戦闘がお好みのようでね。平和的な解決では不機嫌になると思う」

 

 戦闘行為に持ち込ませるのは結構だが、少なくとも龍緋は誰にも負ける気は無い。

 家族の為に戦ってきた強い兄である事を誇りとしてきた。それを今回は利用された形ではあるけれど、カズマ達には気の毒な事だと思っている。

 

          

 

 何度かため息を突きつつ場所移動を提案する。

 話し合いはいつでも出来るし、今回で全ての戦いが決着するわけでもない。

 場合によれば日を改めてもいいと思っている。

 

「魔法が通用しない相手に勝てる算段はあるのか?」

 

 歩きつつダクネスはカズマに尋ねた。

 勝てる算段などあるわけがない。というより相手の能力は未知数だ。

 拳を主体としそうな雰囲気だがどのくらい強いのか全く分からない。

 武器を取り上げれば何とかなる相手なら勝機はある。だが、武器らしい物が見当たらない。

 何度か唸っていると割りと広めの場所にたどり着く。

 

「おっ、兄ちゃ~ん!」

 

 と、バカデカイ声の後で何者かが走りより、龍緋の頭を黒い棒で殴りつける。

 

 ガァン!

 

 手加減なしの一撃。

 それは確実に頭蓋骨を粉砕するレベルの音に聞こえた。

 

「………」

 

 口を開けて呆然とするカズマ達。

 周りに居た人々も突然の凶行に言葉をなくしていた。

 

「うりゃあ!」

 

 と、もう一人駆け寄ってきて腹部に黒い棒、というかバットでフルスイングによる一撃が加えられる。

 

 ズドム!

 

 鈍く大きな打撃音。

 それは本当に手加減無しの一撃だ。そうとしか聞こえない。

 それにもまして二回も攻撃を受けたのに龍緋は棒立ちのまま。

 

「おーおー、無事だわ。すげーなこれ」

「いや~、持ってきて良かったわ。耐久テストにはもってこいだね」

 

 暢気に会話を交わすのは赤黒い髪の毛の男女。

 歳はカズマに近く、健康的という言葉が似合いそうな笑顔をお互いに見せ合っている。

 手に持つバットは共に黒く、地面に置く時、ゴンっと音がしたので結構な重量があるように見えた。

 

「……どうだい兄ちゃん。さすがに今の一撃は効いたろ?」

「……痛いな……。何なんだ、それは?」

 

 頭と腹部を押さえつつ龍緋は尋ねた。

 見れば後頭部が赤く染まりだした。

 白髪なので赤い血はかなり目立つ。

 

チタン合金よりも硬い特殊合金製バット

「金庫などに使われる中の最高峰だよ。ちなみにお値段は一本二千万円」

「……すげー重いんだけど……、これなら兄ちゃんにも曲げられまい」

「……そんなものを持ってきたのか……。確かに今のは効いた」

 

 魔法は通用しなかったが確かに物理攻撃は通じている。

 デグレチャフは自分の推測が間違っていなかった事を再確認した。しかしながら非力な自分は演算宝珠頼み。とても戦力になるとは思えない。

 ここは分析に勤める事にした。

 

「……あ~、う~。は~……」

 

 本当に今の攻撃が痛かったらしく、龍緋は唸り続けていた。

 怯んでいる今がチャンスとばかりに謎の襲撃者はバットを構えなおす。

 

「今度こそ息の根を止めてやる」

「こらこら。お兄ちゃん、お帰り~」

 

 と、二人が襲い掛かったところ、痛む頭を庇いつつ二人の攻撃を腕一本で防ぐ。

 鈍い音がした。それに構わず龍緋は男性の胸倉を掴んで地面に倒す。

 

「おわっ」

 

 とても簡単にやってのけたのだが実際はそんなに簡単に人間を地面に引き倒す事は出来ない。

 更に龍緋は女性の方も地面に叩きつける。それも鮮やかな手並みでカズマ達は呆気に取られてしまった。

 

「わうぅ」

「まずは二人か……。武器は良くても中身は変わらないな」

「ええ~。そんなに簡単に倒さないでよ~」

 

 引き倒した二人を放置し、地面に転がるバットを拾う龍緋。

 試しに持ち手と先端を掴んで曲げようとする。

 

「確かに硬い金属で出来ているようだな」

「それが曲がるようなら……兄ちゃんに勝てる金属は無いかもしれないな」

 

 最高の硬度を持つ金属とてレーザーなどで加工する。そうでなければバットの形には出来ない。

 加工する技術があるという事はちゃんと金属にも弱点がある。

 


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