ラナークエスト   作:テンパランス

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#111

 act 49 

 

 街中で爆裂魔法を放つこと事態既にとんでもないことなのだが、それにもまして魔法を拳で押し戻す不可解な人物に遠目から興味深く観察する人々が多く居た。

 龍緋が負ければ甚大な被害が生まれる。けれども結果は誰もが気になって仕方がない。

 命の危機よりも。

 中には手を合わせて祈る人の姿もあった。

 

「……うん。この辺りか……」

 

 天に向かって拳を突き上げる姿勢で固まる龍緋。

 上から降り注ぐ爆裂魔法を今のところ押し留めている。

 普通ならば当たれば爆発するような魔法である。それがどういうわけか効果を発揮していない。

 

「……まさか、無効化しているから!?」

「いや、どう考えてもおかしいだろう!」

 

 どういう物理法則や力の入れ方で魔法を止められるというのか。

 カズマも避難しつつ抗議の声を上げる。

 

「……こうしてみると本当に兄ちゃんは……。何なんだ?」

 

 とんでもないキャラクターなのは様々な知識を得るごとに知っていく。けれども現実を見せられると夢でも見ているような気分させてくれる。

 赤龍と龍美は改めて神崎龍緋という人間の偉大さよりハチャメチャさを目の当たりにする。

 普通に獅皇手懐(てなず)けても不思議は無いなと納得した。

 真下に向かってくる指向性のエネルギーを龍緋は一呼吸の後、軽い動作で拳を引き、再度打ち上げる。

 少しひねりを加えて。

 魔法という神秘を物理で強引に回転を加え、押し返す。

 つまり爆裂魔法を上回る指向性をもってすれば天へと帰す事が可能となる。

 もちろん、普通に考えて無茶苦茶もいい所だ。

 その不可逆な現象を可能にするのが龍緋が装備している幻龍斬戟の凄さだ。

 

「逆回転による指向性の……」

 

 それはまるで『孤立波(ソリトン)』と呼ばれる現象に酷似している。

 外部から強制的に螺旋運動を新たに加えられた爆裂魔法はその波の力に影響されて自ら回転を始め、時間が巻き戻るように天へと登っていく。

 

 魔法を物理で押し返す。

 

 しかしながら、それこそが神が望むもの。

 もちろん、そんな非現実的な現象を普通の人間に起こせるわけがない。

 

「……そもそも魔法も非現実的だが……」

 

 独自の摂理を持って世界に干渉できる学問ならば同じく非現実的な龍緋の実力が当然の如く存在していてもおかしくはない。

 

「……それはいかなる概念兵器だというのか……」

 

 歌を力に変える兵器が存在する。

 

「しいて言うなら……。怨念かな?」

 

 キャロルの疑問に龍緋は簡単に答える。

 幻龍斬戟を構成するものは古びた木だ。それ自体はどこにでもある、と言える。

 もちろん、木に特別な力など元より無い。いや、元々は神木(しんぼく)という話しだった事をすぐに思い出して苦笑する。

 

「魔法を素手で押し返せ、と言われれば私でも無理だと思う。けれども、これは色々と便利でね」

 

 勢いが緩んだところを下から殴りつける。

 爆裂魔法は更なる回転を加えられ、数十メートルもの上空へと飛ばされる。

 

「上と下から加えられた魔法も結局は何処かで発散する。きっとあれは花火の如く……」

 

 という龍緋の言葉の後で天に昇った爆裂魔法は内部に溜めたエネルギーを外部へと放出する。

 それは見事な花火のように。

 派手に爆散した。

 

          

 

 元々が魔力の塊なので破片などは無いのだが火種のようなものが降り注いできた。

 それらはアクアの水魔法によってすぐに消火されていく。

 

「わわ、私の爆裂魔法を……。なんてことしてくれるんですかっ!

 

 と、既に前のめりに倒れていためぐみんが抗議の声を上げる。

 一度魔法を放つとしばらく身動きが取れなくなる。

 

「勝負だから仕方が無い。なかなかの威力は感じたよ。連発されれば街への被害も出ていたかもしれない」

 

 煙を上げていたがガントレットを取ると酷く焼け焦げた拳が現れる。

 無傷とはいかなかったのは魔法の属性によるものだと龍緋は思った。そこへ赤龍がバットで手を殴りつけてきた。

 ガンという音共に痛みで顔を顰める龍緋。

 

「……いって……」

「おっ、今の攻撃でも折れないか……。兄ちゃん、どんだけ丈夫な骨してんだよ」

 

 無痛とはいかず、何度も手を振る龍緋。

 

「……(せき)くん。……今のは酷いと思う」

「兄ちゃんに対して容赦してたら勝てないよ」

「……魔法を押し返した感動が台無しじゃない。……地味に酷いわね、その攻撃……」

 

 うんうんと横で見ていた龍美も頷いていた。

 彼女は攻撃する意志は見せていなかった。

 

「ハンデとして幻龍斬戟を十本、こっちによこしてくれない? 兄ちゃんは一本でも脅威なんだし」

「お前、随分と容赦ない事を言うな」

 

 口を尖らせて不満の意を表す超越者(オーバーロード)

 つい一分前まで魔法を押し返していた人物とは思えない子供っぽさだ。しかし、とんでもない存在なのはカズマ達も理解した。けれども、そんな人物をこれから自分達は倒さなければならない。それを忘れてはいけない。

 魔法が通用しない。

 現行戦力ではとても厳しいことも。

 

「魔法が無理なら物理しか無いですよね」

 

 立花は改めて龍緋に向き直る。

 今の自分に出来る事は相手を知る事だ。

 龍緋は十本の幻龍斬戟を赤龍に渡してから立花に顔を向ける。

 

「随分と戦力がダウンした。しかし、それでもまだ私の方が優位だ」

「……それはよく分かりません」

 

 赤龍は龍緋から奪った棒をベアトリーチェに渡す。気が付けば彼女は既に顔を黒い布で覆っていた。

 

「今日のところは勝負は抜きにしてかかってきなさい。私からいきなり君達を打倒しようとは思っていない。それは約束してあげよう」

 

 その言葉に立花はただ頷き、構える。

 それから言葉無く淡々とした打撃練習が始まる。

 


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