ラナークエスト   作:テンパランス

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#114

 act 52 

 

 地上世界の遥か上空。からも少し距離が離れた場所に巨大な天体が存在していた。

 月よりは小さく、衛星並みの球体は『太歳星君(プロメテウス)』と呼ばれている。

 この天体の存在はイビルアイと魔導王アインズ・ウール・ゴウンとその関係者しか知らない。

 太歳星君(プロメテウス)は外観は既に完成しているが内部は今も工事が盛んな未完成の存在だ。

 

「……マイマスター。……アインズ様よりお手紙が届きました」

 

 施設の中のとある場所。

 巨大なガラス窓から見えるのは月と今まで自分たちが冒険していた星が映っていた。

 この施設の(あるじ)と思われる人物はベッドに寝そべりながら景色を眺めていた。

 側に付き従うのは(おびただ)しい数が存在している自動人形(オートマトン)の一体。

 シズ・デルタシリーズの姉妹機だ。

 形式番号で呼び合うのだがマイマスターと呼ばれる者からは『シズ』とだけ呼称される。

 多くの同型機が居ても側に仕えられるのは一体だけ。交換されても同じ呼称が使われる。

 仕事の命令を多くの自動人形(オートマトン)に与える時は専用の呼び方がある。

 

「……また催促か……」

 

 シズから紙の手紙を受け取り、中身を確認する。

 作業の自動化によってマイマスターと呼ばれる者は大半を寝て過ごしている。

 向こう数年間は予定が無く、身体の維持管理を任せて無駄な労働は控えていた。

 

「……顔見せに来い、か……。気軽に言ってくれる……」

 

 都合がいい時だけ呼び、追い返すくせに、と。

 だが、イビルアイを(ねぎら)う為ならば多少の無茶は安いものだ。

 今回の手紙には地上に残した『マグヌム・オプス』がフル稼動しているらしい事も書かれていた。

 

「朽ちかけた身体では具合が悪かろう……。予定を前倒しにするか……」

「準備は出来ております」

「うむ。……今回は……シズ型に挑戦するかな」

「……おそれながら。……シズ型だと様々なペナルティを考慮しますと……、旅には不向きかと……」

「単なる様子見だ。それくらいで丁度いい。供は影の国の魔法戦士(オイフェ)を……。あれは今も稼動に問題は無いな?」

「はい」

 

 シズは即座に答えていく。

 性能的にはオリジナルを何世代も上回っているが、総じてオリジナルを敬っている。

 それはそういう風に教え込んだものだが。

 シズにとってアインズが至高の御方であるのと同じくらい太歳星君(プロメテウス)に居るシズ型にとってオリジナルは至高の存在、または神だ。

 

「久しぶりの下界か……。……廃墟は勘弁願いたいな……」

 

 時を忘れてこの施設にこもり随分と時が流れた。

 それでもまだ自分の存在を覚えていてくれる()()()()の頼みを断るわけにはいかない。

 長くなった髪の毛が時代を物語る。

 

          

 

 たくさんのシズ達が準備を整えているころ、窓を遮光モードに切り替えて室内を魔法の明かりで満たす。

 星からかなり離れても未だに魔法の効果は持続していた。しかし、室内環境が全く変わった影響で精神的な磨耗が激しく、このところ寝たきり状態となってしまった。

 だが、それはそういう風に設定しているので(あるじ)的には何の問題も無い。むしろ、そうでなければ困る。

 

「擬似オンラインゲームみたいになってきたな」

「……転送の用意。……義体の用意。それぞれ滞りなく……」

「そうそう。金貨の補充を忘れていた。……イビルアイに随分と苦労をかけているような気がするな」

「換金用のアイテムの用意。それぞれ完了しました」

 

 複数のシズ達が様々なアイテムや書類を持参してくる。

 彼女たちの性格はほぼ統一している。

 本来ならば別個に個性を与えてもいいと思うのだが、数が多すぎる為に諦めた。

 現行で活動しているシズの総体はおよそ五百万体。それでも作業人数としては少ない。

 つまり太歳星君(プロメテウス)の規模は本当に巨大であるといえる。

 月よりは小さいといっても巨大な建造物ゆえに近隣の星に引力、重力などの影響が及ばないように様々な対策を取る必要がある。だからこそ膨大な作業員が必要になっていた。

 それと天体内部を端から端に移動するだけで普通の人間なら一ヶ月はかかるのではないかと。

 

「後は現地調達か……。では、しばし、ゲームを楽しむとしよう」

「……お休みなさいませ、マイマスター」

 

 眠らせる魔法を主にかけて様々な機械を持ち込んで作業を始める自動人形(オートマトン)達。

 それから数分後に持ち込んでいた主の仮の身体となる自動人形(オートマトン)が目蓋を開く。

 

「……意識同期クリア。……動作環境チェック……クリア。……ステータスチェック、クリア」

「機体呼称はいかがいたしましょう?」

「あっ、あっ、あー。……うん。音声、動作申し分ない。呼称は……、どうしようかな」

 

 シズの本来の声で喋り始める主。

 本当なら()()()()がいいのだが見た目とのギャップで混乱する可能性が高くなる。かといって都合のいい声は思いつかない。

 魔力系第三位階人形憑依(マリオネット・ポゼッション)』は自身の魂を相手に憑衣させる魔法だ。

 術者のステータスはほぼ維持されるが相手側の能力を使う事は出来ない。

 効果範囲が存在し、その範囲内であれば憑依先が殺されても魂が戻るだけだが範囲外だと術者諸共に死んでしまうデメリットがある。

 今回は効果時間を永続させる。この魔法は様々な解呪魔法で破る事が出来る。

 憑依している間の自身の肉体は死んだように眠る。

 

「……機械の身体だと内臓とかの感触が……」

 

 相手方の肉体的感覚はもちろん感じている。

 中には精神だけ乗り移って覗き見するだけの魔法もある。

 肉体というよりガチガチうるさい石が体内で騒いでいるような気持ち悪さがあった。

 自動人形(オートマトン)だから仕方が無いけれど。

 

「全く違う体内構造なので違和感があると思います。それらの調整に少しばかりのお時間を貰います」

「降りていきなり即死は勘弁願いたいものだ」

「その為の護衛です。……戦闘行為は出来るだけ避けるように……」

「分かったよ。その前に運動だ」

 

 身体の慣らし運転は必須。

 軽く拳を作り、前方に突き出す。足を曲げたり、背後に向かって背筋を曲げる。

 身体から様々な音が鳴るが異常は発生しない事を確認していく。

 

「本体もそろそろ……」

 

 時を忘れると老衰しそうで心配になる。

 不老不死の異形種では無いので。かといって自動人形(オートマトン)なら安全かといえば老朽化という問題が気になってしまう。

 絶対、ということはない。何らかの不具合はあって当たり前という意識を常に持って行動している。

 

「起動に問題は無いな。では、そちらは若返りの処置を忘れずにな」

「現場の様子はこちらでモニター致します。向こうに赴かれましたら、マグヌム・オプスの戸締りだけは忘れなきように……」

 

 と、重要事項を伝えてそれぞれ行動する。

 一方は別室へ。

 シズ型となった主は供を連れて下界への旅に。

 


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