ラナークエスト   作:テンパランス

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#116

 act 54 

 

 特に誰からも指摘されぬまま目的地の六の宝物庫(ユーノー)への扉を開ける。

 現在位置としては地下二階層。

 六の宝物庫(ユーノー)の地下二階は羊皮紙生産工場だった。現在は停止中につき、無人となっている、筈だった。

 しかしながら今は様相が変わっていた。

 大浴場に人間を入れている、という事はモンスター増産を別の場所で(おこな)わなければならない。

 床一面が血まみれの部屋がオメガデルタを出迎える。

 所々に手足が転がっていて、施設に置いておいたメイド達が片付けている最中だった。

 何とも懐かしい風景が目の前にあった。

 恐れたりするよりも感慨深げな気持ちが先に湧いた。

 作業の邪魔をしてはいけないので上の階へ向かう。

 散らばっている血は専用の容器に流し込み粘体(スライム)や浄化する魔法によって綺麗にする。

 肉片は専用のゴミ箱(エクスチェンジ・ボックス)に投棄。

 それらを横目に見ながら地下一階層目に上がれば見知らぬ人間達の姿が()()あった。

 大浴場を使っていた片割れの集団かもしれない。

 

「誰か来たぞ」

 

 と、茶髪で白銀の鎧をまとう人間が言った。

 大勢の人間を見て来たオメガデルタも相手が何者なのか知らないが見覚えがあるような気がした。

 昔、手当たり次第に人間を襲っていた事があるので一人ひとりの細かい情報は把握していない。だが、その中の誰かではあると思われる。

 

「シズ殿か? それにしては……」

 

 シズ・デルタが複数人、下の階段から上がってきたのだから不思議に思うのは仕方が無い。

 その後で影の国の魔法戦士(オイフェ)が姿を現す。

 

「お、お前っ! 今までどこに行っていた」

 

 と言いながら詰め寄るのは黒いローブを頭から被る小柄な体型の人物。

 顔は白い仮面で塞がっていたが金色の髪の毛が隙間から覗いていた。

 服装も黒く、手袋に靴も黒で統一されていた。

 この施設を管理する代行人『イビルアイ』だった。

 

「………」

 

 声をかけられた影の国の魔法戦士(オイフェ)は首を傾げるのみ。

 どこへ行っていたかを答える権限は与えていない。あと、それは秘匿情報なので何度も声をかけられても彼女(オイフェ)は決して答えない。

 

          

 

 イビルアイの他に誰が居るのか視線を移動させてみると『黄金』と名高い第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』と愉快な仲間達の姿があった。

 

「……愉快な仲間達……」

「……ま、まあそうですね」

「………」

 

 ラナーの仲間の一人で武装したメイドは目を瞑ったまま佇んでいた。

 他はオメガデルタの知らない人が多かった。

 白髪で猫耳の女性。こちらは大きな斧を担いでいた。

 同じく白髪の赤い見慣れない鎧のようなものをまとっている女性。

 後はどう表現すれば良いのか分からない。

 

「……こんにちは」

「こんちには」

 

 まず挨拶してみた。

 基本だが素直に返してくれたのは弓を持つ人物だった。その横には黒髪で胸が少し大きくなった快活そうな人物は恐らく竜王国女王か。

 それと鳥人間(変態)が居た。

 

「……なぜ、お前が居る?」

「居て悪いか?」

 

 オメガデルタの言葉に対し、鳥人間は腕を組んだ状態で言い返した。

 普通のやり取りならば何の変哲も無い。けれども今はシズ・デルタが鳥人間に対して不届きな発言をした。それに気づいたものは鳥人間の側に控えていたメイド達くらいではないか。

 一斉に顔を青くして、鳥人間とシズ・デルタの姿を往復するように見つめる。

 

「お前、使用方法を分かって……。というか、いいのか、この変態を入れて?」

 

 ポニーテールのシズ・デルタがイビルアイに問いかける。

 

「んっ? (ペロロンチーノ)彼女(ネイア・バラハ)の教育に熱心で付き合ってくれている。不純な事は起きていないぞ」

「……へー。珍しいこともあるもんだ」

 

 というか変態で名高い鳥人間が何の見返りも要求しないとは考えられない。

 別に立ち入りを禁止しているわけではない。居てもいい。それは分かっているけれど女性に囲まれているのが気になる。

 彼一人ならば別に問題は無い。けれども()が居る状態でここに来るのは何かわけがあるのか、と。だが、その姉の姿は見当たらない。

 少なくとも彼女を出し抜いて施設に来る事は不可能に近いから、どういうつもりがあるのか気になるところだ。

 

「それよりまずは……、こちらの方々は? 初対面の筈だが……。王国帝国の人ではないよね?」

 

 まして竜王国の兵士とも違う。

 どこの国の人間だったか。

 

「こちらはローブル聖王国の……」

ああっ! 聖王国聖騎士達か。あ~あ、なるほど……。思い出した思い出した」

 

 途中で作業をやめて帰った国だ。

 当時は人数分の容器が無くて大変だった。

 白銀の鎧姿に覚えはある。けれども名前までは知らない。

 

          

 

 聖王国の人間は理解した。では、他の者達は何者なのか。

 特に白い髪で猫耳の女性がとても気になる。

 

「ん~、獣人(ビーストマン)の国には居ないタイプだよね?」

 

 人虎(ジンコ)のメイドは居る。だが、彼女(人虎)は全身が毛深いし、獣に近い姿だ。

 

「わしはレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワである」

 

 聞いた事が無い名前だ。

 

「そうそう、改めて名乗るか……。俺様は……っていう一人称は臭いな……。私でも(わらわ)でもうちでもつまらん……」

 

 素直に『私』にするか、それとも新しい一人称を開発すべきか。

 折角地上に降りたのだから色々と試してみたい気持ちがある。

 

「……素直に私にしろよ、バカたれ」

「……う~」

 

 鳥人間の言葉に口を尖らせるシズ・デルタによく似たポニーテールのシズ・オメガデルタ。

 このやり取りでラナーは胸の前で手を合わせて感嘆の声を上げた。

 どうやら正体に気付いたようだ。

 でだいたい気付きそうなのでオメガデルタにとっては驚きに値しない。けれども感心はした。

 

「……戦闘メイドプレアデス』のシズ・デルタ……、……居る」

 

 と、声真似で名乗ってみた。

 それに対して誰も笑わない。うん、面白くない、とオメガデルタは両手を広げて肩をすくめる。

 

男声でそんなことを言われても……、気持ち悪いだけだ」

「大きなお世話だ、この変態野郎」

「……ブーメラン、ブーメラン。お前も大概だと思うぞ」

 

 と、鳥人間とオメガデルタが言い合う。

 

「……イビルアイ殿。この怪しい人物は何なんだ? 新手のモンスターか?」

 

 眉をVの字にしていぶかしむ聖王国女騎士がオメガデルタを指差してイビルアイに問いかける。

 

「シズ・デルタ殿の筈なのだが……。雰囲気が違うな……。そっちのメイドはこの施設を私と共に管理していた影の国の魔法戦士(オイフェ)だと思うが……。複製かもしれない」

「しばらく会わない内に忘れられるとは……。姿が変わっているから仕方がないが……。改めて……、私は……シズ・オメガデルタ。そう呼称している者だ」

「……どういう事だ?」

 

 イビルアイは首を傾げた。

 格好は違うがシズ・デルタの亜種にしか見えないし、以前に会った覚えはない筈だ。

 複製はたくさん会ったけれど、その全てを覚えているわけがない。

 と、思った時、男声である事に気付く。

 

「俺はすぐ気付いたけどね」

「……ペロロンチーノ様。あの方はもしや……」

「……至高の御方のご友人であらせられる……」

「俺たち六人の古い悪友さ」

 

 そう鳥人間(ペロロンチーノ)が言うとメイド達が口元に手を当てて驚く。

 しばらく前にメイド達は出会っていた存在の姿を思い出す。ただし、その時はシズ・デルタの姿ではなかった。ただ、声には聞き覚えがあった。

 声と姿に整合性が無く、脳内で相手が誰かである、という風に確定させる事が出来なかった。

 

「……よくわかんねーけど、ようはコイツ誰?」

 

 人間のほうの白い髪の女性が周りに尋ねた。

 

「……早い話しがこの施設の正当な管理人さ」

「ということは……ご主人……なのか?」

 

 ペロロンチーノの言葉の後でイビルアイはようやくにして合点がいった。

 そうとしか考えられない。

 その前に姿が違うことを聞かなければならないのか、今まで何をしていたのか聞いた方がいいのか混乱してきた。

 

「こいつが? 雰囲気的には雑魚モンスターと……」

「不敬な!」

 

 すぐさまメイドが怒鳴りつける。それにペロロンチーノは苦笑した。

 

「あっちもこっちも意外な展開で混乱してきたと思うけれど……。じゃあ、話しを整理してみようか」

「私は賑やかで嬉しくなってきた」

「……テメーのせいだよ、バカ」

 

 ペロロンチーノは周りに落ち着くように言ってみたが慌てているのはイビルアイとメイド達くらいで他は誰だ、コイツという風にオメガデルタを見つめているだけだった。

 オメガデルタ自身は程よい混沌は好きな方なので現場を楽しんでいた。

 


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