ラナークエスト 作:テンパランス
金貨といっても変換されるのは『ユグドラシル』の金貨だ。
現地の人間にこの硬貨は通用しない筈だし、そもそも流通する事は出来ない。
出来ないというか、してはいけないものだ。
それが何故、存在しているのか。
世界の謎を解明する時に現れた問題だ。
「……この世界の魔法文化にコストとして消費される。それはゲームの中での問題だったものが現実に影響を及ぼす、という事だ」
正直的に考えれば荒唐無稽。空想が現実になるわけがない。だが、現実として存在している。
この世界がまだゲームの世界であるかのように。
確かにユグドラシルのゲームではないし、続編でもない。
類似の別のゲームという線もあった。
だが、
自分たちが居た世界こそがゲームだった。
などという結末も少しは浮かんだが、それも違う。
いや、
別に二次創作だから、という理由ではない。
それが事実だとするとこの世界もゲームでなければ魔法の存在が否定されてしまう。
星から飛び出して見て来た真実。
「……もし、世界に壁があるのならば……。きっとそこまでが自分の限界だ」
オメガデルタは持ってきたアイテムを取り出す。
布に包まれた
それを何のためらいもなくエクスチェンジ・ボックスに放り込む。そして、オメガデルタはラナー達のところに退散する。
変化はすぐに現れた。
「……少し遠いですが……、見えますか?」
「なにやら異音が聞こえてきましたが……」
と、疑問に思うのも一瞬。
次の瞬間には小さな箱に過ぎない場所から下に向かって噴き出すように黄色いものが出て来た。見ようによってはおしっこのようだ。
「おおっ!」
「なんだ、あれは……」
あれは、というよりは見たことがない噴き出し方にそれぞれ驚いていく。
通常はチャリンチャリンと数枚程度落ちて行くものだ。それが今は蛇口から水が溢れるように黄色いもの、つまり金貨が落下している。
水のように周りに広がる黄金。我慢した小便に本当にソックリだ。
「宝物庫はやはり金貨が山になっていないと様になりませんよね」
「い、いや、出すぎだろう! 何なんだ、あれは!」
と、白い髪の少女が驚いていた。
表現も小便に類似している。聞いているオメガデルタは内心では苦笑を浮かべていた。
見慣れている者以外は驚いても仕方が無い。
「ああいう出方をするのですね。……綺麗ですわ」
『小便がか?』と、つい言い返したい気持ちになったが我慢した。
落下していく金貨はどんどん部屋の四方に拡散していく。その勢いは凄まじいものだった。
事前に落下による衝撃を軽減する対策を整えているから無茶が出来る。そうでなければ金貨の重量や圧力に部屋が耐えられず、崩壊を起こしてしまうおそれがある。
この『マグヌム・オプス』は現地の人間によって造られた施設だ。魔法や奇跡は介在しない。
† ● †
感嘆の吐息だけが満たしている頃、金貨は
永遠かと思われるが終わりは存在する。
「これだけの財を持ってすれば国が買えるのでは?」
聖王国の人間の一人が言った。
その手の疑問に対し、王国と帝国、竜王国は承知しているので国を買う事は出来ないと理解している。
そもそもアイテムの生産や魔法のコストなどに使われる金貨だ。流通させる案も当初はあった。
けれども限られた資源とは違い、増産できる事実を知ってしまうと貨幣価値は一気に下がる。
だからこそ魔導国は自国通貨にしなかった。というか出来なかった、が正確か。
現地の人間より高い位階魔法を扱うのだから必然的に使用される金貨の量は莫大なものになる。
流通させる余裕が無い。
自分達の世界に合わせるか、相手方の常識に合わせるか。
この選択で一先ず後者をアインズは選んだ。
いきなり常識破りしては後々、問題が大きくなった時に対処できる自信が無かった。
堅実なゲームプレイこそアインズのスタイルともいえる。
確実な勝利を得る。それはそれで間違ってはいない。
仲間内からはそこまで勝ちに拘っては息苦しい、という意見が出たけれど。大失敗は嫌だな、という意見もあった。
最初の数年間は様子見でその後で少しずつ無茶な部分を出していけばいい。
魔導国の中でそんな事が話し合われたかは不明だが。
少なくとも魔導国ですらやらない無茶を『マグヌム・オプス』の主は平然と
それはそういう
「魔法を使う時に自動で消費されては財務担当が困惑すると思います」
オメガデルタの意見にラナーは真っ先に頷き、イビルアイも頷いた。
だが、聖王国の面々は小首を傾げた。
竜王国のドラウディロンも遅れて頷いた。
「資産に狂いが生じるから……」
「はい」
カルカは何度か頷きつつ金貨の奔流を眺めた。
話し半分に黄金の輝きの方に今は意識が向いている。けれども大事な話しは忘れていない。
しばし無言になり、床一面が埋まったのは五分ほどの速さ。そこから
「魔法コストとはいえ、金貨にも重量はあります。飛び込めばすぐ埋まって押し潰されますので」
「飛び込みたくなりますよね」
「気持ちは分からないでもない」
あえて金貨の奔流を見せるのは施設防衛の一環だ。
それと国から認められれば盗掘の問題も少しは軽減されるかもしれない。迂闊に手を出して国が焼けるより、最大限利用する方がデメリットが少なく済む。
例えば人知れず、大量の金貨を帝国に渡し、帝国魔法学院の生徒の役に立っていたり。
リイジー達の研究に使われ、冒険者に必要なアイテムの値段が少し下がったり。
魔導国が興味を持っているので国同士の争いに歯止めがかかっていたり。
「……人に見せる事で防衛しているところもあったり、無かったり、と……」
打算ではあるけれど、博打でもある。
欲望全開の国であれば軍を上げて接収しようとする筈だ。