ラナークエスト   作:テンパランス

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#120

 act 58 

 

 勝負と言ってもウルベルトは破格の能力を持つ至高のメンバーの中ではかなり上位の実力者だ。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)の彼が扱う魔法は軒並み第十位階並みの高出力になってしまう職業(クラス)世界天災(ワールドディザスター)』を持つ。

 ご大層な強さがあるように思われるが意外としょぼい弱点がある。

 

「……しょぼい……。それは……仕方ないな」

「……うんうん」

 

 対策を取られるとあっさり敗北する。だが、それでもやり過ごす実力が無ければ意味が無い。

 ウルベルトは自分の弱点を把握していないような初心者ではない。

 

「……普通に考えれば魔法無しで戦うんだろうな……」

「それで充分なところがあるよね」

 

 戦う前から分析を始めるペロロンチーノ達。既に勝負の結果が浮かんでいた。

 どうあってもレメディオスに勝ち目は無い。たとえ必殺技があろうとも現地の人間の強さは把握されている。

 

「さっさとかかって来い、人間。私が直々に相手をしてやる」

 

 様々なポーズを取りながら気障(きざ)ったらしいセリフを言う。

 いわゆる『厨二病』的な発言をウルベルトは好むので、現地の人間には大層効果的だ。

 挑発されたとてレメディオスは腐っても最強の聖騎士と言われる人物だ。迂闊に突進したりはしない。

 

「施設を壊したら許さないぞ」

「わ、分かっている! そこは充分に気をつける」

 

 オメガデルタの言葉に唸りつつ返答するウルベルト。

 そのやり取りで至高のメンバー達が苦笑する。

 これがユグドラシルゲームであれば笑って済ませられた。だが、ここは全くの異世界。

 異世界というか地球ではない摩訶不思議な概念が支配するところだ。

 一般的に魔法は結局のところ、空想の産物だ。それがここでは現実の概念として機能している。

 それも古くからの文化として。

 

「悪よ、滅びたまえっ!」

 

 威勢よく剣を振るうレメディオスと迎え撃とうとしているウルベルトの間に何者かが転移で出現し、咄嗟にレメディオス側の武器を受け止める。

 

「むっ!?」

「んっ?」

 

 レメディオスとウルベルト双方が驚き、一歩後退する。

 突如現れた存在は赤い全身鎧(フルプレート)をまとっていた。

 背中に白い鳥の翼のようなものがあり、兜の中は色白の肌を持つ女性の顔がのぞく。

 

「どういうつもりだ、シャルティア

「至高の御方に仇なす輩から御身を守りたく……」

 

 現れたのはナザリック地下大墳墓階層守護者の一人『シャルティア・ブラッドフォールン』だった。

 彼女の主であるペロロンチーノが慌てて駆け寄る。

 

「折角の勝負に水を差してはいけないよ。こっちに来なさい」

「……しかし」

 

 鳥人間により、折角救援に来たシャルティアは現場から引き剥がされていく。

 突然の来訪者にレメディオスは驚いたがウルベルトも驚いた。

 

          

 

 戦闘意欲が減退した為に興味をなくしたウルベルトはため息を吐いた後、引き下がって行った。レメディオスに対し、何も言葉はかけない。

 意外な登場で戦闘が台無しになったが、それはそれで良かったのかもしれない。

 調子に乗ったウルベルトによって施設が破壊されては多くの者が迷惑するので。

 

「……残念だったね、ウルちゃん」

「……少し大人気なかった。それだけだ」

「素直じゃないんだから」

「と、とにかく、現場が大混乱しなくて良かったのかもな。……ナイス、シャルティア」

 

 と、小声で自分の部下であるシャルティアの頭を撫でるペロロンチーノ。

 ぶくぶく茶釜も誉めていた。

 

「戦闘で確かめる前に死なれては困りますので、まずは落ち着いて下さい」

 

 と、言いながらイビルアイの側に向かうオメガデルタ。

 様々な人間が居るので改めて客人達の素行を聞いておく必要があると思った。

 ウルベルトに刃を向けたレメディオスをナーベラルは敵という認識で睨みつけていたので、レイナースが彼女をなだめる。

 仲間として言葉はある程度通じるようなので、不満を口にするナーベラルの愚痴を聞くことで場を収めていく。

 

「それぞれ経験値を獲て、今は休憩中という認識で良いのか?」

聖王国は先日終わった。今日はそれぞれの底上げ状況の確認だったのだ」

 

 書類を片手にオメガデルタは現場に居るほぼ女性陣たち一人ひとりを眺めていく。

 男性は付き添いの兵士くらいでメインはほぼ女性。それは別に性別に偏らせたわけではなく、結果論としてそうなっただけだ。

 男子禁制という規則は無い。

 

「そちらは……、ゆきねくりすさん?」

「んっ? ああ、そうだが」

 

 白髪というか白銀の髪の女性が腰に手を当てて睨むように返事をした。

 見慣れない職業(クラス)を持つ人物でステータスがとても貧弱だった。

 討伐を終えたとは思えないのだが、これはどういうことなのかとイビルアイに質問する。

 

「彼女は変身する。変身後のステータスはちゃんと伸びている」

 

 ついで白い髪の獣耳の女性であるレオンミシェリに顔を向ける。

 

「あまり活動していないゆえ、それほど強くなってはいない筈だ」

 

 一つ頷いてからラナー達に顔を向ける。

 

聖王国を優先させたばかりに増強は芳しくない」

「私達はのんびり強くなれればいいので。……ナーベラルさんは急務のようですが……。バランス的には今のままの方が……」

 

 ラナーとしては別にナーベラルのレベルについて苦言を呈する気は無い。ようは面白ければいい。

 戦闘メイドたるナーベラルとしては今の弱体化している状況は至高の存在たちが見ている手前、恥ずかしいと思っている。

 強くなくていい。元のレベルに戻せ、と。

 

「せっかくチームに加わったんだろう? レベル補正を受けても仕方がないと思うぞ」

 

 初攻略する敵やダンジョンでは強制的に適正レベルに調整されることがある。

 あまりにもレベルが開きすぎるとゲームとして破綻したり、面白みが無くなるという運営の方針がある。

 そういう概念がこの世界に適応されるとは思えないのだが、悪質なモノローグとやらはゲームを理解していると見て間違いない。

 それはつまり未だ姿を見せない新手の『星の守護者(ヘレティック・フェイタリティ)』とも言える。

 またはモノローグ型世界級(ワールド)エネミー、とでもいうのか。

 

          

 

 オメガデルタはナーベラルを手招きする。すると素直に応じる戦闘メイド

 ラナー達から見れば、そんなに簡単に彼女を扱うのは驚きである。

 ナーベラルはオメガデルタのすぐ近くにたどり着いてから片膝を付く姿勢になった。

 

「チームメンバーとしてナーベラルのレベルは上がった方がいいですか?」

 

 念のために尋ねてみた。

 自分で決めてしまう前の確認作業といったところだ。

 

「彼女が苦しむ姿はもう見飽きた。……別にナーベラル・ガンマが嫌いという話しではない」

「ずっと口を尖らせているのも気の毒といいましょうか……」

「共に旅が出来て私は文句はありませんでしたよ」

 

 と、それぞれナーベラルに対して好意的に受け止められていた。

 とはいえ、ナーベラルが何故、ラナー達のチームに居るのかオメガデルタは知らない。

 アインズの気まぐれなのか。

 少なくともナーベラル自身が率先してラナー達の仲間になろうとは思わない筈だ。少なくともオメガデルタの知る彼女の性格からの判断だが。

 

レベル差があるとチームの獲得経験値に影響が出るか……」

 

 特にレベル50を超えると更に獲得経験値が激減する。

 

「個人で対応する事も検討している」

 

 と、イビルアイの言葉にオメガデルタは頷いた。それならば何の問題も無い。

 ただ時間が物凄くかかるだけだ。特にチーム全体の底上げを目的としているならば。

 一人ひとりに時間を割いていく上で全員同時の方が作業は速く済む。

 

 普通ならば。

 

 効率を上げる上で厄介な問題は経験値の分散である。

 短期間で高レベルのキャラクターを作る事は本来ならば不可能だ。ゲーム的にも補正がかかってしかるべき問題である。

 異世界だから運営の補正だの修正だのの影響を受けない、ということもあるかもしれないが現地の人間の強さの向上具合から(かんが)みて、この世界独自の補正が存在しているとみて間違いない。

 規制されないゆえの抑止力

 それを詳しく説明したところで現地の人間には何故、そんな概念が存在するのか首を傾げる事態だ。

 世の中には知らない方がいい謎の法則が存在している。今はそう思うだけで充分ではないかと思う。

 イビルアイとて強さの秘密を完全に理解しているわけではない。むしろ、より理解不能に陥った。

 自分達の強さが簡単に手に入るのだから納得出来るわけがない。

 ここにはユグドラシルの概念が無い筈なのだから。

 

「……GM(ゲームマスター)権限を発動し、レベルを戻せ。彼女たちのストーリーは既に消化済みだ」

 

 ナーベラルの頭に手を乗せてオメガデルタは呪文を唱えるように言った。だが、その程度では何も起きたりはしない。

 ただの願望だ。

 

「ついでに他の人達も戻すように」

 

 自動人形(オートマトン)の身体とはいえ比較的柔軟に表情は変えられる。

 オメガデルタは(いつく)しむようにナーベラルを見据えながら頭を撫でる。しかし、他の作品での彼女の扱いは酷いものが多い。

 特段、恨みがあるわけではない筈なのだが()()()()()()

 それはさておき、と胸の内でオメガデルタは呟きGM(ゲームマスター)こと世界を管理する()()()に問いかける。

 

 戻さなければ殺しに行くぞ。

 

 オメガデルタは既に世界に干渉しうるだけの方法を確立している。けれども絶対ではない。

 万能の魔法の一つ『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』が脳裏に過ぎるが不測の事態が起きてはラナー達が危険にさらされる。

 ここはもう一つの可能性を使ってみるか、と懐から一つのアイテムを取り出す。

 それは指輪状の装備品で自分の尻尾を(くわ)えた蛇の意匠となっていた。

 知る者が見れば驚愕もののアイテムである。

 

「これで無理なら地道な努力しかないが……。手っ取り早く解決することにしようか」

 

 試運転もかねて。ナーベラルの頭上から呟かれるオメガデルタの声。

 手っ取り早く、という部分に疑問を抱き、それから少しずつ嫌な予感を感じていく戦闘メイド。

 アイテムの効果は『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』に似ているが干渉する相手は世界ではない。

 この世界の()()()()()()()()()に向けて改めて命令を下す。

 起動には特別な呪文は必要ない。

 ちなみにデメリットとして一度使うと数ヶ月は使用不可となる。乱発の出来ないレアアイテムだ。

 もちろんそれはユグドラシルの仕様であり、この世界の場合は更に酷い。

 十年間使用不可だ。しかもこれは『二十』の一つなので一度使えばボロボロに朽ちて消滅する。

 使用不可の期限は再取得したものにも影響を及ぼす。

 それだけ運営としても使ってほしくない究極アイテムとして設定されていた。

 

「……平行世界みたいなものだから惜しくはない」

 

 いや、惜しい。本当は使いたくない。

 今後の流れで使わざるを得ない事態が起きないとも限らない。

 一般的な感覚ではそう思う。それと同時にあまり便利な力に頼っては何かと悪影響が発生する。今の内に処分することも悪くはないかな、という考えも浮かんだ。

 どちらにせよ自分で退路を断つ行為だ。その選択を後悔してはいけない。

 発動せよ『永劫の蛇の指輪(ウロボロス)』と胸の内で呟く。

 これを消費しても再取得自体は出来るし、使えないだけで保管自体は出来るから気にしないもん、と。

 聞き届けられればアイテムは消失する。無効の場合は特に変化無し。

 ある意味、しょうもない事に使ってしまうのは勿体ないなと思わないでもない。だが、物さえあれば満足する(アインズ)にとっては問題ない事だ、ということにする。

 たかが十年。別に待てなくはない。超位魔法まで使えなくなるわけでもない、と言って納得するかもしれない。

 ただし、そんな事を伝える気は無い。面倒臭いので。

 ペロロンチーノ達が把握していればいいか。どうせ、使う度胸なんか無いだろ、お前ら(ナザリック)

 

          

 

 指輪が消えて現場に何が残ったのかと言えば別段、何も変化はしていない。

 目に見える変化は。

 体感的にレベルアップした、という気分は感じにくい筈だがその辺りはどうなのか少し気になる。

 

「……これで十年はただのアーティファクトだ、と……」

 

 と、ペロロンチーノ達に呟くと事情を把握したメンバーの数人が頷いた。

 ただのアーティファクトだとしても立派なレアアイテムには違いがないし、別に石化するわけではない。

 使う予定があったのならばお気の毒に、と思う程度だ。

 

「さて、大雑把だが……()()()()()()()()()戻ったのではないか?」

 

 君ら、というのがどの程度の範囲なのか失念していた事は内緒だ。

 言った瞬間に気付いたけれど、彼女たちの努力はたった今、無に()した、のかもしれない。

 運が良ければラナー達のチームだけで済んでいる。というご都合主義が働けばいいなと思った。

 下がっていれば(あるじ)自ら増強する。それくらいの度量はある。

 

次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)

 

 と、ナーベラルが呟くと一瞬で姿が掻き消えた。

 この魔法は限界距離はあるが視界内のどこにでも転移する事が出来る。

 今回は壁際だった。

 呪文が機能した事でレベルが戻った事を確信するナーベラル。

 

「……うむ。身体も心なしか軽くなった」

「それは良かった。……後の者は分からないが……、無駄な努力に終わったのならやり直してもらおうか」

「……つまり私のレベルが2に戻ったのでしょうか?」

 

 ラナーのレベルは元々はもう少し高い。

 ステータスを見る事が出来るアルシェが各々(おのおの)を観察していく。

 

「おわっ、ナーベラルさんが凄い事に……」

「そういえば便利な能力を持つ仲間が居たな。一応、手間だが確認してくれ」

 

 レイナースの言葉にアルシェは頷いた。

 それから一通りの確認作業で判明したのはラナーのチームだけレベルが変わった、という事だ。

 残念ながらラナーは上がらず下がっていた。

 どうせ、三つしか上がっていなかったのでまた上げますわ、と悔しそうに言った。

 

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