ラナークエスト   作:テンパランス

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#122

 act 60 

 

 自己責任と一言で突き放つのは簡単だ。

 国を思う心が時には身を滅ぼす。それでもいいと覚悟している者に手を差し伸べないのは主義に反する。

 ()()()書き留めた職業(クラス)大全の書類を引っ張り出し、彼女の望みに合う構成を選んでいく。

 足りなければ積み重ねればいい。

 

「………。書類を眺めるだけで強くなるのか?」

「ならない。あくまでも目安です」

 

 黙っているのが耐えられないのか、それとも何が起きるのか不安なのか。

 レメディオスはモジモジしながら彼、というか彼女(オメガデルタ)の様子を窺う。しかしながらオメガデルタは真剣に能力を吟味していた為に彼女の様子には気がついていない。

 声をかければ返事を返す程度の反応は見せる。

 そうして長い時間が経過したように思えるが実際には十分程度のものだ。

 

「今段階ではこんなところか。では、必要な特技、魔法の希望を書いて下さい」

 

 と、用意した紙を手渡す。

 

「あ、ああ……」

 

 受け取った紙には様々な文字が呪文のように並べられていた。その中から自分が欲しいものを選ぶ。要らないものは選ばなくていいし、保留しても良い事になっていた。

 分からない事はどんどん質問し、オメガデルタは意地悪せず真剣に応えてきた。

 地下に居た時とは違う真剣な様子にただただレメディオスは驚く。

 それと見た目が女性なのに男声も少し違和感を感じ始めた。それは今更変更しろとは言えないので作業に意識を向ける。

 

          

 

 出来上がった書類を数度確認し、別室に移動する。

 通された部屋は簡素な佇まいとなっており、中央に椅子が一脚置いてあるだけ。

 

「貴女をここに通しても意味が無かった……。向こうで大人しく待っていてください……、じゃなかった。……久しぶりなので色々と忘れているな」

 

 あれこれ言葉を間違えつつオメガデルタはまずレメディオスに宣誓を命令する。それはあくまで言うだけのもの。

 施設の主の言葉にレメディオスは素直に従った。

 異常に大きな声で言わなければならない決まりは無く、ただ発声だけはっきりしていればいいとのこと。

 それから執務室で待つ事になり、数分後に今度は卒業の文言を言わされた。

 

「今回はこんなところです。徐々に身体に違和感を感じると思います。それと希望の魔法とかも使えるようになっていると思いますよ」

「はっ?」

「全体的に微増といったところですが、色々と特殊技術(スキル)が使えるようになっていると思います。アルシェさんに確認してもらってください」

「そ、そうなのか。気分的には……、まだ何とも言えないが……。確認はしてこよう」

「報酬はおっぱいを触らせてもらう……、でいいですか?」

「………。こんな胸でよければどうぞ」

 

 事前に聞いていたのか、オメガデルタの条件に全く動じないローブル聖王国聖騎士団長

 只者(ただもの)ではない、という雰囲気は感じた。

 仁王立ちで遠慮するな、という立ち居振る舞いにオメガデルタが()()()()()()

 むしろ大喜びである。

 まず鎧を外さなければならない所が面倒臭い。

 後が(つか)えているので暢気に胸など揉んでいる場合ではないが、彼女の言葉で実は満足していた。

 鎧が無ければ()()()()鷲掴みしている。

 名残惜しいが次の人材を優先する事に渋々した。それはもう血涙を流さんばかり。

 エロこそパワーと大声で叫びたいところだ。

 さすがにタグを追加するようなバカな真似は出来ないが。

 

「次の人は妹さんですか?」

 

 自分で連れて来ておいて疑問を抱くのはおかしいが、少し名残惜しい影響が残っているようだ。

 しかし今は仕事に集中しなければならない。

 

 レメディオスの次に連れて来たのはケラルト・カストディオという女性。

 姉にそっくりな風貌だが騎士ではなく魔法詠唱者(マジック・キャスター)

 

「よろしくお願いします」

 

 落ち着いた物腰に柔和な表情。

 取り立てて気になるような人間には見えないので、さっさと作業を始める。

 多少、雑さ加減は否めないが。

 

「……書類と意見交換しかしないもんな……」

 

 慣れてしまうと男連中はもっと雑になる。

 ゆっくりと世間話している場合でもない、というのも問題だ。

 せっかくゆっくり寝ていたのにいきなり重労働を課せられるとは。

 うちはいつからブラック企業に成り下がった、と疑問を覚える。

 質疑応答の後は微調整。そんな事を繰り返すだけだが聖王国は今まで経験値を稼がなかったのか、他の人も成長が微増ばかり。

 自分が本気を出すにはまだ数日ほど時間が欲しいところだが、何度も唸るオメガデルタ。

 

「……ネイア・バラハ……」

「は、はい」

 

 目つきの鋭い弓使いの少女。

 緊張しているのか、先ほどから挙動不審だ。

 今までの騎士達よりもひ弱なのは理解した。だから帰れ、とは言わない。

 経験値はごく僅か。あの変態(ペロロンチーノ)が手ほどきしたわりに、これはどうしたことか。

 それ以前にどんなモンスターを用意したのか。

 今まで寝ていた自分にイビルアイ達を責められはしないけれど。

 

「短期間での成長はやはり無茶だった……、ということだな。数日かけてこの程度か……」

「……やはり我々の増強は無茶なんですか?」

 

 目つきを除けば実に素直な女の子。

 性格的にも嫌いではない。

 

「……ならばとっておきの卑怯な手法を取ればいいだけだ」

「……ひぃ」

 

 彼らが(おこな)っていた真っ当なパワーレベリングというもので成長が著しく増えた者は皆無に近い。ステータスから見ても時間がかかって当然と言える。

 それでもまだ増強を求めるならば覚悟はどうしても必要になる。

 イビルアイはとても嫌がるだろうけれど。

 だからこそ、それこそが増強を格段にアップできる方法とも言われる。

 オメガデルタはネイアの頬をツンツンとつつきつつ不敵な笑みを浮かべる。

 

「折角来たのに死の騎士(デス・ナイト)も倒せないのでは意味が無い。全員やり直しということで」

「や、やり直し?」

 

 魔法で時間を巻き戻す事は危険である。

 いや、そういう事ではない。

 聖王国の時間が許す限り、オメガデルタ自らが()()()パワーレベリングというものを体験させようではないか、という事だ。

 拒否した場合は全員全裸の刑に処す所存。

 


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