ラナークエスト   作:テンパランス

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#124

 act 62 

 

 瑠珈が居ると邪魔なので一階の居間に引き下がってもらった。

 現場に残されたのは得体の知れない少女型自動人形(オートマトン)金髪碧眼巨乳のレーヴァテイルの二人だけ。

 

「増強に興味は無いかい?」

「戦闘には興味が無いわ」

 

 凛々しい声。それは確かに手に入れたくなる。けれども自分が使う機会はおそらく無い。

 少し勿体なさを感じつつも彼女のステータスを確認しておく。

 見慣れない種族名と職業(クラス)

 この世界の秘密の一つに『世界に定義されたステータスは共用できる』がある。

 それはつまり神様すらもステータスさえ定義されれば手に入れる事が可能となる。

 その秘密を解き明かした時は嬉しさ半分、勿体なさ半分だった。

 残念な点はこの世界がゲームの世界ではないからだ。使い道が無い。

 興味本位で消化されてしまう。

 

「……あの影の国の女王(スカアハ)のステータスも既に我が手にある」

 

 もちろん例外もある。

 定義できなかったステータスはどうしようもない、というものだ。

 当たり前のようで難しい問題でもある。

 定義できない条件がまだ解明出来ていないから。

 現在分かっている定義未詳は『星の守護者(ヘレティック・フェイタリティ)』達だ。

 どうやって身を守っているのか、未だに答えが出ない。

 

「平均寿命が二十歳とはまた……」

 

 短命だなと胸の内で言う。

 どういう世界から来たのか気になる。

 『(ヒュムノス)魔法』を『(うた)』ためだけに生み出されたレーヴァテイルという生命体。

 試しに一節を要望してみた。

 

Was yea ra(ワス イェ ラ) chs hymmnos mea(チス ヒュムノス ミーア).」

 

 文字通り歌うように『』を紡ぐクローシェ。

 独特の発声法により、本来の声質とは違った音色が聞こえてきた。

 

「もっと短いものではhYAmmrA(ヒャンムラ)/.になります」

「……いい歌声だね」

 

 クローシェが謳ったのは『私は詩になる』と『力いっぱい謳います』という意味があるそうだ。

 この詩魔法はレーヴァテイルならだいたい歌えるが普通の人間は相当な努力をしなければ無理だという。それと詩魔法と言われているけれど、先ほどの(ヒュムノス)で何かが起きることは無い。

 本当の意味で魔法のような効果を現すには専用の詩魔法としての歌詞が必要になる。その特定の詩魔法はクリスタル状のアイテムに歌詞を封じ込めて、レーヴァテイルの身体のどこかにある『インストールポイント』という部分から『ダウンロード』する。そうする事によってほぼ自動的に彼女達は特定の(うた)を謳い上げる事が出来る。

 聞いていると機械的だが、彼女達は生命体であって無機物ではない。

 

「増強に興味が無いのは残念だが……。念のためにこちらの指示には従ってもらうよ」

「分かりました」

 

 のんびりと調べたいところだが今日はとにかく忙しい。

 聖王国の連中が原因なのだが。

 

          

 

 小一時間後にクローシェを解放する。

 珍しい種族と職業(クラス)の資料が手に入ったので、これはこれで満足する結果だ。

 二人共十代なので若返りするとしても限界がある。

 無尽蔵に出来てしまうと胎児となってそのまま死ぬかもしれない。

 さすがにそういう機能は無かったが、老衰で死なせる事が可能な分、魔法というのは油断ならない。

 報酬は後回しにして次の客人を招く。

 

「猫耳獣人の……レオンミシェリさん」

 

 こちらも凛々しい顔つきだが人間の部分が多い。

 もう少し毛深い方が種族としては違和感が無いのだが、文句を言っても仕方がない。

 

「君の場合は……、モンスター退治に抵抗を感じたと……」

 

 武器を持っているのに残念な事だ。

 

「どうもな。わしは殺し合いが苦手のようだ」

 

 そもそもレオンミシェリ達の世界の戦争というものは『興行』であって、双方の国民が楽しく(おこな)える行事のようなものだ。

 憎しみで戦うような物騒なものではない。

 

「施設の主としては物足りないかも知れんが……の……」

 

 猫耳と尻尾を器用に動かす十代の領主。

 歳若い娘だが一国の主。宿舎に居るミルヒオーレクーベルも国の代表者ということだ。

 そんな事より貴重な人材が何の成長も見せないままでは勿体ない。

 オメガデルタはとても残念に思った。

 

「……私が不満を漏らしても仕方がない」

 

 忘れてはいけないのは彼女たちを最高レベルにして放り出した()だ。

 元の世界に戻った後、世界に混乱を撒き散らすか自暴自棄になるかするかもしれない。

 過剰戦力はどうしても世界に齟齬を(もたら)す。

 オメガデルタ達は最高レベルに慣れているから平気でいられる。けれども、パワーレベリングの概念を知らない者には猛毒にも匹敵する。

 それを安全(おこな)う、または確認する方法があるにはある。

 その前に折角の女性体を利用して猫耳や尻尾を触らせてもらう。

 どうせならおっぱいを揉みながらの話し合いも、とうっすらとは思ったがタグとかに抵触する、かもしれない。

 おそらくおっぱい程度なら揉んでも問題はなさそうだが、今回は過度のエロは厳禁になっている。どうしてかはオメガデルタには()()()()()

 

          

 

 歳若いからか、耳と尻尾は見た目よりも柔らかい。無理に引っ張ると千切れそうでついつい優しく扱ってしまう。

 

「尻尾は珍しいか?」

 

 彼女の国ではありふれているのかもしれない。

 この国にも見た目は強暴だが猫科の獣人(ビーストマン)()()()()居る。

 

「人間に比べれば珍しいでしょうね。特に特定部分だけ獣というのも……」

 

 極端に毛深くないのがまた何者かの意思を感じる。

 手足に肉球がないのが不満点だ。るし★ふぁーですらあるのに。

 連れの者たちも同じような人種だから、今以上の発見は無いようだ。全く面白くない。

 

「無闇に強くなっても困りますか」

「魅力的なのじゃが、モンスター討伐という方法がな……。いや、言いたい事は分かる」

 

 実際に実践して恐ろしさを知った、と。

 無理強いする気は無い。けれどもオメガデルタが満足しない場合は結局のところ()()()は一緒だ。

 貴重な存在を逃がす気はオメガデルタには全く無い。

 とはいえ、いきなりは怖いだろうから話しだけ聞いて戻ってもらう。

 調査はしっかりすること、と死獣天朱雀やぷにっと萌えに言われている。

 危険地帯に容赦なく突っ込むタイプのオメガデルタでも躊躇う時がある。

 

 欲しいものが目の前にある場合などだ。

 

 それはそれとして次は見た目は人間だが変身する少女に来てもらった。

 目つきが鋭い女の人が多くて胸が熱くなる。

 今回は女性が多いが男性もウエルカムである。

 

「話しだけ聞いているそうだが、何もしないのか?」

「おっぱいを揉んで良いなら遠慮なく揉みたいところですよ」

「……大真面目に言っているのか? ……なんかそういう人だとは聞いてたけど……」

 

 本気で本物の変態じゃねーか、と白銀の髪の雪音クリスは腕を組んで呆れた。

 足を組んで椅子にふんぞり返って座る様は少女に似つかわしくない。けれども、それもまた良し、とオメガデルタは喜んだ。

 変身に関しては常に歌う必要があるとの事。

 黙っている間、歌ってばかりではうるさくて気が散る。

 

「変身しなければ普通の女の子か……」

 

 それはそれでつまらんな、と思わないでもない。

 変身といっても不思議な武装が付くだけで、肉体的な変化は外見では分からないらしい。

 変身生物なら期待してしまうところだ。

「悪かったな普通の女の子で」

 胸に掲げるペンダントを取り上げても意味が無いようだし。

 アイテム類の恩恵なら無理に取り上げたりはしない。

 しかし、変身後のステータスに変化が生じるなら色々と調査したい気持ちがある。

 時間の都合もあるから一旦保留する。

 


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